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罪科の現出
昏き濁流
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甲板に上がった途端の出来事だった。
黒い物体が宙を飛んで船外に落ち、盛大な水柱を形成する。
顔は見えずとも、分かる。
レベッカだ。
船員が何ごとかを叫び交わしているものの、救助するにしても時間がかかりそうだった。ただでさえ、現在は冬。一刻の猶予もならない。
クロリスは舷側を足場に、海へと跳躍する。
『水床』
六畳ほどの大きさの、水の足場が形成される。
水の床はたわみ、彼を柔らかく受け止めた。
『流動を天へと奉じ給え。思い描かるるままに、我が許へ』
ややあって連れの姿が水面に浮かび、彼の方へと流れてきた。
脇に手を差し入れ、ぐったりとした体を苦労して引き寄せる。
血の気が引き、唇も紫に変色しているが息はある。間に合ったようだ。
ほっとして、暖気の魔法をかけてやる。
ひと息ついたところに、ホースケが袋をぶら下げて飛んできた。礼を言って受け取ったクロリスは、違和感に眉をひそめる。
開いてみると、案の定彼のものではなかった。
「うんうん、分かっているとも」
彼らを見捨てて遠ざかっていく船を見やりながら、
「僕達の間に育まれた、固く深ーい絆の力があれば、どんな重労働も難なく乗り越えられるものね。だから敢えて、僕の荷物を後に回したんだろう?」
とびきりの笑みで、下僕に迫る。
それでもホースケが抗議の意を表明すると、
「そっか~。まあ、僕としても大変な仕事を無理強いするつもりはないよ。ところで」指先に炎を喚ぶ。「君、最近太ってきたんじゃないかなぁ。ここは賢明なる飼い主の務めとして、少々の運動をさせなくちゃあねぇ」
哀れなる僕は身体を細くさせたかと思うや、かつてない素早さで飛び立っていった。
§§§
暗いとも、明るいとも、そもそも寒暖の区別すらつかぬ。
その空間を、ただ、漂う。
体全体が、異様に重い。まるで、我が身が金属にでもなったかのようだ。
指先一本、眉一筋さえ動かすのも億劫で。何かの物になってしまったかのように、自ら動くことを放棄していた。
いや。
きっと、疲れてしまったのだ。
#逃__のが__れえぬ咎の責め苦を受け続けるのも。
彼女を殺そうとする「声」に抗い続けるのも。
もう、いい。
抵抗をやめてしまえば、楽になれる。苦しまずに済む。
レベッカは、静かに瞼を閉じる。限界が、もうすぐそこまで迫っていることを感じながら。
まず視界に闖入したのは彼女を呑み込んでいく水ではなく、木の天井だった。
ぼんやりと定まらぬ頭を振りつつ、身を起こす。
掛け布団を除けて初めて、自分が見知らぬ服をまとっていることに気付く。いや、これは下着か。
と。
閉ざされた戸の向こう側に、人の気配が出現した。
反射的に伸ばした手の先には、もちろん剣はなく。
身構えていると、緩やかに波打つ豊かな黒髪を従えた女性が戸口の隙間から顔をのぞかせた。まだ若い。
「よかった。気がつかれたのですね」にっこりと笑み、背後を向く。「あなた、ベレスフォードさんに報せてさしあげて」
それから視線を再び彼女に戻すと、
「ちょっと、待ってて下さいね」
再度現れたとき、その両手にはお盆があった。
「なにぶん冬場なものですから、こんなものしか用意できませんが」
堅パン二切れが載った皿とスープと水をサイドテーブルに並べていく。
女性の勧めに従って食べ物に手をつける前に、レベッカはここがどこなのかを確認する。
「ここはセルフェツリ。サザイライ=ロヴァールの北方にある村です。あなたは昨日、主人とお連れの方に運び込まれてきたんですよ」
「然うでしたか。御迷惑を御掛け為て仕舞って済みません」
「いいえ。当然のことをしただけですから」女性が柔らかな笑みをたたえる。「さ、どうぞ。冷めないうちに」
レベッカは笑み返して、パンをつかむ。
手の届くところまで辿り着いたのに、魔法書もエリスの行方につながる糸口も失ってしまった。
あの時剣を振り下ろせていれば、少なくとも魔法書は取り戻せたのに……。
行き場のない苛立ちと憤りが、込み上げる。
気付いては、いた。
最近、人を殺せなくなっていることに。
道義的には正しくても、命の奪い合いにおいては、致命的な欠点だ。とりわけ、実力が伯仲している場合において、それは命取りになりかねない――
今回のように。
けれどそれでも、たとえ、自分を殺すことになろうとも、立ち止まるわけにはいかないのだ。マリーとの約束を果たすためにも。妹を救う道を、閉ざしてしまわないためにも。
素性不明の二人に対して、ルビアン夫妻は本当によくしてくれた。
食事と宿だけではない。簡単にこれまでの経緯を話して聞かせたところ、地図と防寒具、衣服まで提供してくれた。というのも、内陸を支配しているクシャヴァフル皇国は、異邦人に対して良い感情を持っていないらしいのだ。もし万一皇国に向かう際に少しでも目を引かなくて済むように、との心遣いだった。
翌朝、二人は夫妻の類いない厚意に改めて厚い謝辞を述べ、セルフェツリを後にした。
監視に付けていたホースケからの報告で、件の男は補給港では降りなかったことが分かった。つまり、当面の指針としては最終到達港であるキリュドルールを目指すことになる。
レベッカたちがキリュドルールに入ったのは、それから半月以上後。日没のことだった。
順調に航海したのならば、男は十日前にはここに着いているはずだ。一刻も早く足取りを追いたいのだが、今日のところは潔く諦めるしかないだろう。
大通りを逸れて、適当に見つくろった宿に入る。
防寒具と荷を置くと、レベッカは一階へと降りた。
時間帯ゆえか、食堂は混んでいた。
喧噪と雑多な匂いの間をかいくぐり、辛うじて空いていた奥の壁際の席に腰掛ける。机が傾いているが、食事に支障をきたすほどではない。この際、目をつぶるべきだろう。
「あの、同席してもよろしいでしょうか?」
ためらいがちなテノールが降ってきたのは、主菜の揚げ魚に切れ込みを入れ始めたときのことだった。
この混雑だ。彼もまた、あぶれてしまったのだろう。特に断る理由もない。
相手は謝して椅子を引くと、
「貴女は……」
驚きの響きを漏らした。
「良かった。ご無事だったのですね」
ナイフを休めて顔を上げると、安堵の笑みが飛び込んできた。
古都で道を教えてくれた、レジナルドであった。
「ずっと心配していたんですよ。奇遇ですね、こんな形で再会するなんて」料理を注文すると、同席者はにこやかに話題を続行する。「そういえば、まだお名前をうかがっていませんでしたね。これも何かの縁です。差し支えなければ、教えていただけますか?」
給仕に碗を下げてもらってから、名乗る。
「皇国のご出身だったのですね。あちらの出で立ちをなさっていたので、分かりませんでした」
レベッカの服に視線を留めて、述べる。
「否。御前は皇国の出なのか?」
レジナルドもまた、彼女と同じ――男性用であるため、いくぶん地味なものの――詰め襟を身にまとっていた。
「いいえ、生まれは違います。最近、こちらに越して来たのですよ」
ふと思い立って、駄目元で例の男について訊いてみる。
レジナルドは淡碧の瞳をしばしさ迷わせると、似たような特徴を持つ人物に皇国首都への行き方を尋ねられたと語った。十日ほど前――船が着いただろう頃とも一致する。よもや、こんなに簡単に有力な情報が得られようとは。この人物とは、よくよく縁があるようだ。
「ご迷惑でなければ」涼やかに申し出る。「わたしが都への道案内を致しますが」
「良いのか?」相手の真意を測る。「其れに見合う丈の金品を払えるかは、分から無いぞ」
「報酬が欲しいわけではないのです」目元をなごませる。「帰るついでですから」
「然うか……」
彼の穏やかな面からは、何も汲むことができない。本人の申告通り、ただの善意なのか。
「では、頼む」
やんわりと差し出された手を、彼女は握った。
出掛けようとしていた相棒をつかまえて簡単な説明を済ませ、明朝改めて案内人を紹介する。
彼は腕組みをして、品定めするようにレジナルドを上から下まで眺めた。気に喰わないようだ。
「よろしくお願いします、ベレスフォードさん。ご高名はかねてより存じております。こうしてご一緒する機会に預かることができて、光栄です」
かけられた賛辞に対しても、
「それは、どうも」
と表情一つ変えずに応じただけだった。
正規の道では追い付くのは難しいだろうからと、レジナルドは早々に街道を外れた経路へと彼女たちを案内した。
あぜ道を通り、身のみが立ち並ぶ寂しい森を往くこと数日。木々が途切れたその先には、湿地がはるかに広がっていた。対岸は、ようやく視認される程度だ。凍り、草の骸を封じたそれは、より一層の沈黙のこだまを投げかけていた。
この日は傍らで野営をし、攻略に乗り出したのは明くる日。
代わり映えのしない景色。
生じては、溶けていく息遣い。
油断なく踏まれる一歩。
狂気の冷気の内で、意識だけが研ぎ澄まされ、やがてはそれすら摩耗する。
こんなことを、幾度も繰り返す。
ようやく大地に見えることができたのは、太陽が二度没してしばらくのことであった。
それから日を経ること、一週間と少し。
三人と一羽はワヤコスクという村に至った。この村を越えればミロウンは目と鼻の先だと、レジナルドが告げた。
どうも変わった風習があるらしい。宿泊可能な場所はないかと尋ねたところ、まずは占い者に診てもらうようにと言われた。
話は伝わっていたようで、教えられた場所へ赴くと事情を説明するまでもなく、すんなりと招き入れられた。
応対した女性によると、村外の者は皆ちょっとした検査を受けることになっているのだという。
最初にクロリスが衝立の奥へと消える。レベッカとホースケ、レジナルドは、玄関においてある椅子に座るように勧められた。
この殺風景な部屋の中にあって、シャンデリア状になっている提灯が一番華やかだった。各提灯から垂れ下がった赤い房飾りが、彩りを添えている。
外からは、用水路を流れる水音。
飾り格子の窓の外に目を向ければ、枝垂れた枝に丁度、細い下弦の三日月が掛かっていた。この分だと、明日にでも新月になるに違いない。
まもなく、相棒と入れ違いに彼女が呼ばれた。
通されたのは、開き戸の先の広い部屋。隙間なく壁にかけられた薬草の芳香と、四隅に焚かれた香の匂いが混じりあって、むせるような香気に包まれていた。気を抜くと、ぼんやりとしてしまいそうだ。
石板や効果の怪しい道具が散見されることから、占い者と言うよりは呪師兼医師といった役どころのように思える。相棒の様子からそう危険なことはないだろうが、それでも心すべきだろう。
老爺の対面に座し、促されるままに机上に腕を乗せる。篭手越しでも構わないらしい。老人はそのまま彼女の両手を握った。
しばしして。
老爺の身体が、不意に震える。
瞠目し、サッと左手に視線を走らせる。
衝立の向こうの気配が、慌てた様子で遠ざかっていった。
「安心せよ。お主は滅多にない素晴らしい気の持ち主だから、歓迎の準備をさせるのだよ」
胡乱なものを感じて眉をひそめる彼女に、取り繕うように声がかけられる。
「其れは喜ばしいな」
愁眉を開き、レベッカは納得したふりを装った。
彼女たちは占い者宅のはす向かい、用水路を挟んだ先にある村長の家へと案内された。
表面上は、占い者の言葉通り、至極歓待された。けれども、どうにも落ち着かない。引っかかるのだ。どこということもなく。
レベッカは念のため、体調不良を訴えて宴を辞した。心配した村長夫人が用意してくれた煎じ薬も、飲む振りをして捨てる。
思い過ごしであれば良いのだが……。
殺戮の鐘が鳴ったのは、深夜を少し回った頃合い。
向けられる、殺意の刃。
迎え撃とうとして柄に掛けた手が、痙攣する。
強烈な嘔吐感。
目眩。
――戦いたくない
いや。
――戦わなければ
忘れてしまいたい――……
消し去らなければ‼
レベッカの内側で、何かが崩れた。
§§§
夜を裂く悲鳴。
泣き声。
怒号。
金属同士がぶつかる音が、その渦中にあって異彩を放つ。
これだけの騒ぎにもかかわらず、隣の寝台で寝ているレジナルドはぴくりとも動かない。
目が覚めていないわけはない。様子うかがい、といったところか。
長靴を履きにかかっていると、ホースケがつま先にとまった。彼を見上げてくる。
ぼんやりと、意思が伝わってきた。
この騒動の根幹は、やはりレベッカのようだ。
請われるままに、慎重に気配を探り、窓を開ける。
僅かな隙間から、鳥が飛び立っていく。閉める間際、母子の死体が視界を掠めた。
危うい均衡を保っていた連れの精神が、遂に毀たれたという事なのだろう。
研究対象の状態が修復可能かどうか。それはもちろん大事なことなのだが、まずは確認しておきたいことがあった。
隣室、村長夫婦の寝室の戸はよく閉まっておらず、触っただけで開いた。
途端、濃くなる血臭に思わず鼻をつまむ。
踏み込んだ先には、恐怖を刻み込んだ仮面が転がっていた。夫人のものだ。窓が開け放たれているから、レベッカはここから外に出て行ったらしい。危ないところだった。
気配を殺して一歩、二歩。
闇を透かす。
村長の姿は、見当たらない。
血溜まりもそうだが、それよりも他のものを踏んでしまわないように祈りつつ、引き返す。
どうやら無事に戻れたクロリスは、村長を求めて手近な戸をくぐる。もっとも、この状況では殺されてしまっている可能性も十分だが。
月の光の射さない、濃密な闇の中。手探りしつつ、壁伝いに歩を進める。
反対側から出ようとして、ふと、ある一点に視線が吸い寄せられた。
絨毯がほんの少し、めくれ上がっている。
ここには死体が転がっていない。争いがあった形跡とは考えづらかった。
絨毯を除けてみる。
一見、どこも変わった点はなさそうだ。が、よくよく調べてみると、巧妙に隠された取っ手と思しき窪みを発見できた。
二か所ある取っ手に手を掛け、力を入れる。
現れたのは、黒に塗りつぶされた空間と梯子。
数段下って元通りに蓋を閉め、代わりに明かりを灯す。
梯子の終着点にあったのは、連絡通路と察せられる細長い廊下。その末には、数段の高みを間に挟んで、仰々しい紋様で飾られた扉が控えていた。
この紋様は、いわゆる邪を封じるときに補助もしくは媒体として使われるものの内でも、とりわけ難儀な代物を相手にする際のものだ。現在では見かけることすら稀な、かなり古式の魔法。しかも、一部間違えていて本来の役目を果たしていない。
面白い。
クロリスの表情が輝く。
胸を躍らせながら踏み込んだ扉の向こう側には、空漠とした広間。それから、村長。
両脇は棚が占拠していて、曇ったガラス瓶が陳列されていた。村長が点けたのだろう提灯は、その中のものまで明るみにしていた――すなわち、漬けられた人間の頭部を。
「リンレンか?」
身体を震わせて、村長が素早く振り向く。が、そこにいるのが招かれざる客であると見て取るや、彼は必死に尊大な態度を繕おうとした。目には怯えが走り、声も戦きを隠せてはいなかったが。
「ふん、魔に魅入られた哀れな虜めが。この儂の命を奪いにきたか」
ジリジリと後退する。
隙をついて、背後の扉へと一息に駆け込むつもりなのだろう。
「君の命になんて、興味はないよ」鼻から短い息を吐く。「僕は話を聞きに来たんだ」
意外だったのだろう。村長が眉をひそめる。
「僕の連れを殺そうとしたね?ここはこうやって余所者と見れば誰彼構わず襲う、盗賊まがいの村なのかい?」
「馬鹿な‼」青筋を立てて、村長。「我々は魔を滅せよとの光神のご下命を、古より忠実に履行しているだけだ!魔でなければ手を下さない。その証拠に、とりあえずは貴様らの命を奪おうとはしなかっただろう」
「ふうん」
光神、という言葉でようやく合点がいった。ついでに、漬けられた頭部のことも。つまりは、古のリネスとダルクトの確執が、形を変えて現在まで引き継がれてきたということか。
(確か、リネスは網の目のように市中に協力者を置いていたらしいし)
「じゃあ彼女が来ることは、事前に分かってたんだ?」
「魔かどうかは、占い者が見分ける。それまでは、分からぬ」
これで、確信できた。この件は魔法書を奪った連中とは、全くの無関係だということが。
(まあ、こうなることを予見して誘導はされたのかもしれないけど)
もうここには用はない。
クロリスは踵を返した。
§§§
身を苛む幻影から逃れたくて。ただひたすらに、ただ闇雲に。剣を、魔法を振るった。
どんなに村を血で染めあげても。
どんなに多くの命を奪っても。
過去は、苦しみは、彼女を捕える手を緩めようとはしなかった。
ふいに。
鼻先を、何かが掠めていった。
見やる。
若い男女だ。彼女とほぼ同い年くらいの。
足は、自然と彼らを追って動きだしていた。
見覚えがある。よく知っている。
懐かしさと胸苦しさが、込み上げてくる。
零れ落ちた涙が、血に塗れた顔を祓い清めていった。
村外れで、彼らは立ち止まった。
距離を置いて、レベッカも足を止める。
恐る恐る、一歩を踏み出す。
二人が振り返る。
その表情は、哀しみではなく。まして、憎しみなどではなく。優しかった。
……優しかったのだ。
伸べられた手を取ろうとして――消し去りたい現実が重なった。
再び目を開けることはなかった、彼。
眠るように逝った、彼女。
音を立てて、世界が割れた。
§§§
ホースケが彼を導いた先は、村外れの岩陰。
どうしたことか。連れはそこで倒れていた。
「ずっと不思議に思っていたのですが」
レジナルドが沈黙を破る。
彼としては、どさくさに紛れて別れてしまいたかったのだが、レベッカを発見していくらも経たないうちに合流してきたのだ。本当に、危ないところだった。
「貴方はどうして、リルガースを離れないのですか?魔法の研究をなさるのでしたら、もっと環境の良い所が有りますよね。国に対する忠義のため、という訳ではない様ですし」
視線を上げると、発言者のそれとぶつかった。
「進むことが、怖いのですか?」
心の底を抉り、見透かすような、澄んだ薄碧の瞳。偽りや誤魔化しなど、たやすく看破されてしまうに違いない。それに、自分の感情から目を背けるのは、屈辱的なことだった。
本を閉じ、軽く息をつく。
「僕は、自分の能力に疑問を感じている。これが、本当に外で通じ得る程度なのか。だから、確信が持てるまで――」
言いかけて、眉根を寄せる。これは、心の裡を正しく言い表してはいない。
「……いや、違うな。やっぱり、怖いんだ。限界を知ってしまう事が」
「では、魅力的な素材を提供できる者がいて、今の貴方の力を十分に評価し、必要としていたら、どうです?共に手を携えてみようとは、思われませんか」
柔和な物腰で、彼に向けて腕を差し伸べる。
「生憎と、僕が進みたい道は一つなんだ」
微笑する。
「そうですか……」あくまで和やかさを崩さぬままに、レジナルド。「残念です」
§§§
飛び起きる。何か、ひどく悪い夢を見ていたようだった。
覚醒するや否や、あごと喉の痛みが克明に意識された。というのも、きわめて原始的なやり方で魔法が封じられていたからだ。体の自由は奪われていないが、結界が張られているので、拘束されているも同然だった。
……無理もない。昨晩、彼女がしでかしたことを鑑みれば。
「やあ、お目覚めかい?」相棒が顔を覗き込んでくる。「……気は、確かなようだね」
結界が解かれ、猿ぐつわがはずされる。
差し出された水筒に、口をつける。久方ぶりの潤いに、少し、むせた。
「……済まない。席を外させて呉れ無いか?」
言い置いて、ほど近いところにある断崖へと。歩を、進める。
返された剣を、鞘から抜く。どうしてか、いつもより重く感じられた。
アンドヴァリの刀身は、昨夜の出来事をそのままに写し取っていた。服も、篭手も、強ついた髪も、異物感を訴える顔も……。
――蝕まれていく。
戦う意志のある者だけではない。衝き動かされるままに、無抵抗の者たちまで手に掛けてしまった。
――背負い切れない、罪。
身震いが、走った。
剣を地に突き立て、すがる。
脂汗が、噴き出す。
――抗わなければ…………抗わなければ。力の限り。
闇の中に、一人。
真っ暗で、何も見えなかった。
ミロウンは朝霧に、もやっていた。普通より高密度のようであるのは、背後の湿地の影響だろう。湿地と山と二つの川に挟まれたこの地は、きっと堅固な守りの砦に違いない。
三人は毛皮の帽子をしまい、今は代わりに頭巾を被るようになっていた。春が深まり、最近はだいぶ過ごしやすくなってきたからだ。
市門に到着した。レジナルドが二人に別れを告げる。レベッカは謝辞を述べ、旅の無事を祈る。一方クロリスはというと、結局最後まで、まともに言葉を交わすことはなかった。
煉瓦で築かれた厚い市壁を越えると、皇宮へと真っ直ぐに伸びる大道。郊外にはテントが多かったのだが、門の内側は一転、漆喰で固められた建物が目立つ。黒い瓦、こげ茶の木材と相まって、街の景観は落ち着いた雰囲気だ。けれども、静かなのは外身だけ。夜が明けてまだそれほど経ってはいないというのに、すごい雑踏だった。呼び込みの声もにぎやかで、声を張らなければ会話困難なほどだ。
頼れる相棒によると、魔法書がこの街にあるのは間違いないらしい。ただ、例によって明確な場所は特定できないので、すぐにどうこうできるものでもない。とりあえずは、拠点を確保しなければ。
レベッカは勧められた宿を探して、通りの数を数える。この街は碁盤目状に整備されており、地図を描くよりもこちらの方が早いからと、レジナルドが教えてくれたのだった。
角を曲がろうとしたところで、彼女は素早く壁に身を寄せた。相棒の肩をつかんで引き戻す。
いぶかしげにしたのは、一瞬。クロリスはすぐに理由を察したようだった。
この魔力。間違いない。
人波を隔てた先には、探し求めていた男がいた。
暗褐色の髪の男を見たのは、一瞬。すぐに姿を見失ってしまったのだが、幸いにして彼女が魔力を探知できる範囲にいてくれていたお陰で、辿ることはできた。
気配はやがて、狭い路地へとレベッカたちを導いた。ここの界隈は、いわゆる貧民街のようだ。建物だけではない。空気そのものが、寂れた感じを醸しだしている気がする。
それにしても、静かすぎはしないか。
ホースケが警告を発するように、短く、鋭く鳴く。しかし、気付いたときには、もう遅かった。
前方の曲がり角から、多数の人影が飛び出してくる。背後からも、複数の足音。
同色で統一された服装。そして、身のこなし――正規の軍人に違いない。
クロリスの招いた雷が兵士たちを打つ。
が、
「なっ!」絶句する。「効かないだって⁉」
兵が彼女らのぐるりを取り囲んだ。
背後は壁。逃げ場はない。
短槍が唸りをあげ――
炎熱が、奔った。クロリスだ。
本能的に、兵たちが顔を覆う。
相棒が彼女の肩を強く引く。
引っ張られるれるままに後退すること、数歩。目の前に、突然壁が現れた。いや、それは正確な表現ではない。壁のように見えた隠し戸を通って、建物の中に入ったのだ。
「こちらへ」
この屋の者と思しき、ひどくやつれた中年女性が促す。
勝手口から外に出て、共同井戸に掛けられていた縄梯子を降りる。井戸の底からは、通路が伸びていた。
レベッカの感覚が正しければ、現在地は湿原近く。街は抜けたと思われる。その推測を裏付けるように、少し前から井戸はパタリとなくなっていた。
長い階段を登りきると、くたびれた戸に行き着いた。ずいぶん放置されているのか、木製のそれは朽ちて隙間から外光が射している。
「何故、わたし達を助けたのですか?」
外に出て。立ち去ろうとしていた女性の背中に、彼女は問い掛けた。
「兵たちが突然人払いを始めて……それが、その雰囲気が、似ているような気がしたんです」
女が応じるまでには、いくらかの時を要した。
「夫と……娘が捕らえられた時と。生きていれば、あなたと同じくらいかしら」哀しい笑みをたたえて、レベッカを見つめる。「夫も娘も、理不尽に捕らわれ殺されました。あなた達がそうなのか、そうでないのか、わたしには分かりません。でも、力になれて、良かった……」
遠ざかっていく女の後ろ姿を、見るともなしに見やりながら、
「で、これからどうするつもり?」
相棒の言葉に、レベッカは考え込む。
魔法書に掛けられている魔法は、微量すぎる。感知できる範囲は、そう広くはない。軍と敵対してしまった以上、街に入ったところで、こちらが相手を発見するよりもあちらがこちらを追いつめる方が早いだろう。しかも、信じられないことに、ここの軍は魔法を無効化する術を持っているのだ。彼女たちが成功するためのハードルは、かなり高い。
「難しいな。良い知恵は有るか?」
「取り敢えず、場所を移そうか。ここも安全じゃあ――」
主人の言葉を、ホースケが遮る。
翼で一点を示した。
まさか。
淡い期待を抱いて、意識を凝らす。
「有るのかい?」
うなずく。
ホースケを労うと、二人は静かに、そして、速やかに気配との距離を詰めていった。
周囲の色彩は緋に染まり、正面の空は、はや藍へと変遷している。そのせいか、もやが立ちこめてきた。
いや――。
発されようとしていた警句は、役目を果たすことはできなかった。
もの凄い勢いで濃密な霧が彼らにぶつかり、取り巻く。むせそうになりながら、霧を追って飛来した手裏剣を何とか弾く。続く攻撃は、クロリスの炎に呑まれて消えた。
同じだ。足下はおろか、手元すら捉えられない。加えて、フロースヴェルグにあったものよりも格段に強力な魔力を帯びている。一刻も早く、けりをつけなければ。
レベッカは襲撃に備えつつ、細心の注意をもって一歩を踏み出す。
矢先。
相棒の苦しげな喘ぎが聞こえてきた。
状況は、確認せずとも予測ができた。なぜなら、急速に弱まりつつある相棒の気がそれを物語っているからだ。相違点は、苦しみが伴っているということ。
早く、早く。
やらなければ……
やらなければ……
頭が、割れるようだった。
剣を持つ手が、いや、全身が小刻みに震える。
唸りにも似た叫びを引き連れ、疾駆する。
頭巾が、はためく。
今や彼女の瞳には、標的の姿がはっきりと視えていた。
尋常ならざるものを感じ取ったのか、男が逃走に転ずる。
しかしその行く手は、漆黒の炎の壁によって遮られた。
苦し紛れに手裏剣を放つも、それはただ、彼女に浅い傷を刻むのみ。
アンドヴァリが、深々と胴を貫く。そのまま、伏した敵に止めを刺そうとした剣は、しかし、頂点で動きを停止した。代わりに、荒々しく足場の木の板に突き立てられる。それを支えに、レベッカはへたり込んだ。
霧のせいだけではない。この短い間にぐっしょりと濡れた面から、汗が滴った。
「妹は……エリスは、何処だ」
まるで、致命傷を負ったのは彼女の方であるかのような、絶え絶えの、掠れた声だった。
聞こえていたのか、いないのか。
男はチラと彼女の後方に目をやると、そのまま息を引き取った。急所は外したつもりだったが、やはり、抑えが利かなかったらしい。ワヤコスクでのことを考えれば、呑まれなかっただけマシというものだが……。
……視界が、霞む…………――――
なけなしの力を振り絞った抵抗も空しく、レベッカの意識は薄れていった。
黒い物体が宙を飛んで船外に落ち、盛大な水柱を形成する。
顔は見えずとも、分かる。
レベッカだ。
船員が何ごとかを叫び交わしているものの、救助するにしても時間がかかりそうだった。ただでさえ、現在は冬。一刻の猶予もならない。
クロリスは舷側を足場に、海へと跳躍する。
『水床』
六畳ほどの大きさの、水の足場が形成される。
水の床はたわみ、彼を柔らかく受け止めた。
『流動を天へと奉じ給え。思い描かるるままに、我が許へ』
ややあって連れの姿が水面に浮かび、彼の方へと流れてきた。
脇に手を差し入れ、ぐったりとした体を苦労して引き寄せる。
血の気が引き、唇も紫に変色しているが息はある。間に合ったようだ。
ほっとして、暖気の魔法をかけてやる。
ひと息ついたところに、ホースケが袋をぶら下げて飛んできた。礼を言って受け取ったクロリスは、違和感に眉をひそめる。
開いてみると、案の定彼のものではなかった。
「うんうん、分かっているとも」
彼らを見捨てて遠ざかっていく船を見やりながら、
「僕達の間に育まれた、固く深ーい絆の力があれば、どんな重労働も難なく乗り越えられるものね。だから敢えて、僕の荷物を後に回したんだろう?」
とびきりの笑みで、下僕に迫る。
それでもホースケが抗議の意を表明すると、
「そっか~。まあ、僕としても大変な仕事を無理強いするつもりはないよ。ところで」指先に炎を喚ぶ。「君、最近太ってきたんじゃないかなぁ。ここは賢明なる飼い主の務めとして、少々の運動をさせなくちゃあねぇ」
哀れなる僕は身体を細くさせたかと思うや、かつてない素早さで飛び立っていった。
§§§
暗いとも、明るいとも、そもそも寒暖の区別すらつかぬ。
その空間を、ただ、漂う。
体全体が、異様に重い。まるで、我が身が金属にでもなったかのようだ。
指先一本、眉一筋さえ動かすのも億劫で。何かの物になってしまったかのように、自ら動くことを放棄していた。
いや。
きっと、疲れてしまったのだ。
#逃__のが__れえぬ咎の責め苦を受け続けるのも。
彼女を殺そうとする「声」に抗い続けるのも。
もう、いい。
抵抗をやめてしまえば、楽になれる。苦しまずに済む。
レベッカは、静かに瞼を閉じる。限界が、もうすぐそこまで迫っていることを感じながら。
まず視界に闖入したのは彼女を呑み込んでいく水ではなく、木の天井だった。
ぼんやりと定まらぬ頭を振りつつ、身を起こす。
掛け布団を除けて初めて、自分が見知らぬ服をまとっていることに気付く。いや、これは下着か。
と。
閉ざされた戸の向こう側に、人の気配が出現した。
反射的に伸ばした手の先には、もちろん剣はなく。
身構えていると、緩やかに波打つ豊かな黒髪を従えた女性が戸口の隙間から顔をのぞかせた。まだ若い。
「よかった。気がつかれたのですね」にっこりと笑み、背後を向く。「あなた、ベレスフォードさんに報せてさしあげて」
それから視線を再び彼女に戻すと、
「ちょっと、待ってて下さいね」
再度現れたとき、その両手にはお盆があった。
「なにぶん冬場なものですから、こんなものしか用意できませんが」
堅パン二切れが載った皿とスープと水をサイドテーブルに並べていく。
女性の勧めに従って食べ物に手をつける前に、レベッカはここがどこなのかを確認する。
「ここはセルフェツリ。サザイライ=ロヴァールの北方にある村です。あなたは昨日、主人とお連れの方に運び込まれてきたんですよ」
「然うでしたか。御迷惑を御掛け為て仕舞って済みません」
「いいえ。当然のことをしただけですから」女性が柔らかな笑みをたたえる。「さ、どうぞ。冷めないうちに」
レベッカは笑み返して、パンをつかむ。
手の届くところまで辿り着いたのに、魔法書もエリスの行方につながる糸口も失ってしまった。
あの時剣を振り下ろせていれば、少なくとも魔法書は取り戻せたのに……。
行き場のない苛立ちと憤りが、込み上げる。
気付いては、いた。
最近、人を殺せなくなっていることに。
道義的には正しくても、命の奪い合いにおいては、致命的な欠点だ。とりわけ、実力が伯仲している場合において、それは命取りになりかねない――
今回のように。
けれどそれでも、たとえ、自分を殺すことになろうとも、立ち止まるわけにはいかないのだ。マリーとの約束を果たすためにも。妹を救う道を、閉ざしてしまわないためにも。
素性不明の二人に対して、ルビアン夫妻は本当によくしてくれた。
食事と宿だけではない。簡単にこれまでの経緯を話して聞かせたところ、地図と防寒具、衣服まで提供してくれた。というのも、内陸を支配しているクシャヴァフル皇国は、異邦人に対して良い感情を持っていないらしいのだ。もし万一皇国に向かう際に少しでも目を引かなくて済むように、との心遣いだった。
翌朝、二人は夫妻の類いない厚意に改めて厚い謝辞を述べ、セルフェツリを後にした。
監視に付けていたホースケからの報告で、件の男は補給港では降りなかったことが分かった。つまり、当面の指針としては最終到達港であるキリュドルールを目指すことになる。
レベッカたちがキリュドルールに入ったのは、それから半月以上後。日没のことだった。
順調に航海したのならば、男は十日前にはここに着いているはずだ。一刻も早く足取りを追いたいのだが、今日のところは潔く諦めるしかないだろう。
大通りを逸れて、適当に見つくろった宿に入る。
防寒具と荷を置くと、レベッカは一階へと降りた。
時間帯ゆえか、食堂は混んでいた。
喧噪と雑多な匂いの間をかいくぐり、辛うじて空いていた奥の壁際の席に腰掛ける。机が傾いているが、食事に支障をきたすほどではない。この際、目をつぶるべきだろう。
「あの、同席してもよろしいでしょうか?」
ためらいがちなテノールが降ってきたのは、主菜の揚げ魚に切れ込みを入れ始めたときのことだった。
この混雑だ。彼もまた、あぶれてしまったのだろう。特に断る理由もない。
相手は謝して椅子を引くと、
「貴女は……」
驚きの響きを漏らした。
「良かった。ご無事だったのですね」
ナイフを休めて顔を上げると、安堵の笑みが飛び込んできた。
古都で道を教えてくれた、レジナルドであった。
「ずっと心配していたんですよ。奇遇ですね、こんな形で再会するなんて」料理を注文すると、同席者はにこやかに話題を続行する。「そういえば、まだお名前をうかがっていませんでしたね。これも何かの縁です。差し支えなければ、教えていただけますか?」
給仕に碗を下げてもらってから、名乗る。
「皇国のご出身だったのですね。あちらの出で立ちをなさっていたので、分かりませんでした」
レベッカの服に視線を留めて、述べる。
「否。御前は皇国の出なのか?」
レジナルドもまた、彼女と同じ――男性用であるため、いくぶん地味なものの――詰め襟を身にまとっていた。
「いいえ、生まれは違います。最近、こちらに越して来たのですよ」
ふと思い立って、駄目元で例の男について訊いてみる。
レジナルドは淡碧の瞳をしばしさ迷わせると、似たような特徴を持つ人物に皇国首都への行き方を尋ねられたと語った。十日ほど前――船が着いただろう頃とも一致する。よもや、こんなに簡単に有力な情報が得られようとは。この人物とは、よくよく縁があるようだ。
「ご迷惑でなければ」涼やかに申し出る。「わたしが都への道案内を致しますが」
「良いのか?」相手の真意を測る。「其れに見合う丈の金品を払えるかは、分から無いぞ」
「報酬が欲しいわけではないのです」目元をなごませる。「帰るついでですから」
「然うか……」
彼の穏やかな面からは、何も汲むことができない。本人の申告通り、ただの善意なのか。
「では、頼む」
やんわりと差し出された手を、彼女は握った。
出掛けようとしていた相棒をつかまえて簡単な説明を済ませ、明朝改めて案内人を紹介する。
彼は腕組みをして、品定めするようにレジナルドを上から下まで眺めた。気に喰わないようだ。
「よろしくお願いします、ベレスフォードさん。ご高名はかねてより存じております。こうしてご一緒する機会に預かることができて、光栄です」
かけられた賛辞に対しても、
「それは、どうも」
と表情一つ変えずに応じただけだった。
正規の道では追い付くのは難しいだろうからと、レジナルドは早々に街道を外れた経路へと彼女たちを案内した。
あぜ道を通り、身のみが立ち並ぶ寂しい森を往くこと数日。木々が途切れたその先には、湿地がはるかに広がっていた。対岸は、ようやく視認される程度だ。凍り、草の骸を封じたそれは、より一層の沈黙のこだまを投げかけていた。
この日は傍らで野営をし、攻略に乗り出したのは明くる日。
代わり映えのしない景色。
生じては、溶けていく息遣い。
油断なく踏まれる一歩。
狂気の冷気の内で、意識だけが研ぎ澄まされ、やがてはそれすら摩耗する。
こんなことを、幾度も繰り返す。
ようやく大地に見えることができたのは、太陽が二度没してしばらくのことであった。
それから日を経ること、一週間と少し。
三人と一羽はワヤコスクという村に至った。この村を越えればミロウンは目と鼻の先だと、レジナルドが告げた。
どうも変わった風習があるらしい。宿泊可能な場所はないかと尋ねたところ、まずは占い者に診てもらうようにと言われた。
話は伝わっていたようで、教えられた場所へ赴くと事情を説明するまでもなく、すんなりと招き入れられた。
応対した女性によると、村外の者は皆ちょっとした検査を受けることになっているのだという。
最初にクロリスが衝立の奥へと消える。レベッカとホースケ、レジナルドは、玄関においてある椅子に座るように勧められた。
この殺風景な部屋の中にあって、シャンデリア状になっている提灯が一番華やかだった。各提灯から垂れ下がった赤い房飾りが、彩りを添えている。
外からは、用水路を流れる水音。
飾り格子の窓の外に目を向ければ、枝垂れた枝に丁度、細い下弦の三日月が掛かっていた。この分だと、明日にでも新月になるに違いない。
まもなく、相棒と入れ違いに彼女が呼ばれた。
通されたのは、開き戸の先の広い部屋。隙間なく壁にかけられた薬草の芳香と、四隅に焚かれた香の匂いが混じりあって、むせるような香気に包まれていた。気を抜くと、ぼんやりとしてしまいそうだ。
石板や効果の怪しい道具が散見されることから、占い者と言うよりは呪師兼医師といった役どころのように思える。相棒の様子からそう危険なことはないだろうが、それでも心すべきだろう。
老爺の対面に座し、促されるままに机上に腕を乗せる。篭手越しでも構わないらしい。老人はそのまま彼女の両手を握った。
しばしして。
老爺の身体が、不意に震える。
瞠目し、サッと左手に視線を走らせる。
衝立の向こうの気配が、慌てた様子で遠ざかっていった。
「安心せよ。お主は滅多にない素晴らしい気の持ち主だから、歓迎の準備をさせるのだよ」
胡乱なものを感じて眉をひそめる彼女に、取り繕うように声がかけられる。
「其れは喜ばしいな」
愁眉を開き、レベッカは納得したふりを装った。
彼女たちは占い者宅のはす向かい、用水路を挟んだ先にある村長の家へと案内された。
表面上は、占い者の言葉通り、至極歓待された。けれども、どうにも落ち着かない。引っかかるのだ。どこということもなく。
レベッカは念のため、体調不良を訴えて宴を辞した。心配した村長夫人が用意してくれた煎じ薬も、飲む振りをして捨てる。
思い過ごしであれば良いのだが……。
殺戮の鐘が鳴ったのは、深夜を少し回った頃合い。
向けられる、殺意の刃。
迎え撃とうとして柄に掛けた手が、痙攣する。
強烈な嘔吐感。
目眩。
――戦いたくない
いや。
――戦わなければ
忘れてしまいたい――……
消し去らなければ‼
レベッカの内側で、何かが崩れた。
§§§
夜を裂く悲鳴。
泣き声。
怒号。
金属同士がぶつかる音が、その渦中にあって異彩を放つ。
これだけの騒ぎにもかかわらず、隣の寝台で寝ているレジナルドはぴくりとも動かない。
目が覚めていないわけはない。様子うかがい、といったところか。
長靴を履きにかかっていると、ホースケがつま先にとまった。彼を見上げてくる。
ぼんやりと、意思が伝わってきた。
この騒動の根幹は、やはりレベッカのようだ。
請われるままに、慎重に気配を探り、窓を開ける。
僅かな隙間から、鳥が飛び立っていく。閉める間際、母子の死体が視界を掠めた。
危うい均衡を保っていた連れの精神が、遂に毀たれたという事なのだろう。
研究対象の状態が修復可能かどうか。それはもちろん大事なことなのだが、まずは確認しておきたいことがあった。
隣室、村長夫婦の寝室の戸はよく閉まっておらず、触っただけで開いた。
途端、濃くなる血臭に思わず鼻をつまむ。
踏み込んだ先には、恐怖を刻み込んだ仮面が転がっていた。夫人のものだ。窓が開け放たれているから、レベッカはここから外に出て行ったらしい。危ないところだった。
気配を殺して一歩、二歩。
闇を透かす。
村長の姿は、見当たらない。
血溜まりもそうだが、それよりも他のものを踏んでしまわないように祈りつつ、引き返す。
どうやら無事に戻れたクロリスは、村長を求めて手近な戸をくぐる。もっとも、この状況では殺されてしまっている可能性も十分だが。
月の光の射さない、濃密な闇の中。手探りしつつ、壁伝いに歩を進める。
反対側から出ようとして、ふと、ある一点に視線が吸い寄せられた。
絨毯がほんの少し、めくれ上がっている。
ここには死体が転がっていない。争いがあった形跡とは考えづらかった。
絨毯を除けてみる。
一見、どこも変わった点はなさそうだ。が、よくよく調べてみると、巧妙に隠された取っ手と思しき窪みを発見できた。
二か所ある取っ手に手を掛け、力を入れる。
現れたのは、黒に塗りつぶされた空間と梯子。
数段下って元通りに蓋を閉め、代わりに明かりを灯す。
梯子の終着点にあったのは、連絡通路と察せられる細長い廊下。その末には、数段の高みを間に挟んで、仰々しい紋様で飾られた扉が控えていた。
この紋様は、いわゆる邪を封じるときに補助もしくは媒体として使われるものの内でも、とりわけ難儀な代物を相手にする際のものだ。現在では見かけることすら稀な、かなり古式の魔法。しかも、一部間違えていて本来の役目を果たしていない。
面白い。
クロリスの表情が輝く。
胸を躍らせながら踏み込んだ扉の向こう側には、空漠とした広間。それから、村長。
両脇は棚が占拠していて、曇ったガラス瓶が陳列されていた。村長が点けたのだろう提灯は、その中のものまで明るみにしていた――すなわち、漬けられた人間の頭部を。
「リンレンか?」
身体を震わせて、村長が素早く振り向く。が、そこにいるのが招かれざる客であると見て取るや、彼は必死に尊大な態度を繕おうとした。目には怯えが走り、声も戦きを隠せてはいなかったが。
「ふん、魔に魅入られた哀れな虜めが。この儂の命を奪いにきたか」
ジリジリと後退する。
隙をついて、背後の扉へと一息に駆け込むつもりなのだろう。
「君の命になんて、興味はないよ」鼻から短い息を吐く。「僕は話を聞きに来たんだ」
意外だったのだろう。村長が眉をひそめる。
「僕の連れを殺そうとしたね?ここはこうやって余所者と見れば誰彼構わず襲う、盗賊まがいの村なのかい?」
「馬鹿な‼」青筋を立てて、村長。「我々は魔を滅せよとの光神のご下命を、古より忠実に履行しているだけだ!魔でなければ手を下さない。その証拠に、とりあえずは貴様らの命を奪おうとはしなかっただろう」
「ふうん」
光神、という言葉でようやく合点がいった。ついでに、漬けられた頭部のことも。つまりは、古のリネスとダルクトの確執が、形を変えて現在まで引き継がれてきたということか。
(確か、リネスは網の目のように市中に協力者を置いていたらしいし)
「じゃあ彼女が来ることは、事前に分かってたんだ?」
「魔かどうかは、占い者が見分ける。それまでは、分からぬ」
これで、確信できた。この件は魔法書を奪った連中とは、全くの無関係だということが。
(まあ、こうなることを予見して誘導はされたのかもしれないけど)
もうここには用はない。
クロリスは踵を返した。
§§§
身を苛む幻影から逃れたくて。ただひたすらに、ただ闇雲に。剣を、魔法を振るった。
どんなに村を血で染めあげても。
どんなに多くの命を奪っても。
過去は、苦しみは、彼女を捕える手を緩めようとはしなかった。
ふいに。
鼻先を、何かが掠めていった。
見やる。
若い男女だ。彼女とほぼ同い年くらいの。
足は、自然と彼らを追って動きだしていた。
見覚えがある。よく知っている。
懐かしさと胸苦しさが、込み上げてくる。
零れ落ちた涙が、血に塗れた顔を祓い清めていった。
村外れで、彼らは立ち止まった。
距離を置いて、レベッカも足を止める。
恐る恐る、一歩を踏み出す。
二人が振り返る。
その表情は、哀しみではなく。まして、憎しみなどではなく。優しかった。
……優しかったのだ。
伸べられた手を取ろうとして――消し去りたい現実が重なった。
再び目を開けることはなかった、彼。
眠るように逝った、彼女。
音を立てて、世界が割れた。
§§§
ホースケが彼を導いた先は、村外れの岩陰。
どうしたことか。連れはそこで倒れていた。
「ずっと不思議に思っていたのですが」
レジナルドが沈黙を破る。
彼としては、どさくさに紛れて別れてしまいたかったのだが、レベッカを発見していくらも経たないうちに合流してきたのだ。本当に、危ないところだった。
「貴方はどうして、リルガースを離れないのですか?魔法の研究をなさるのでしたら、もっと環境の良い所が有りますよね。国に対する忠義のため、という訳ではない様ですし」
視線を上げると、発言者のそれとぶつかった。
「進むことが、怖いのですか?」
心の底を抉り、見透かすような、澄んだ薄碧の瞳。偽りや誤魔化しなど、たやすく看破されてしまうに違いない。それに、自分の感情から目を背けるのは、屈辱的なことだった。
本を閉じ、軽く息をつく。
「僕は、自分の能力に疑問を感じている。これが、本当に外で通じ得る程度なのか。だから、確信が持てるまで――」
言いかけて、眉根を寄せる。これは、心の裡を正しく言い表してはいない。
「……いや、違うな。やっぱり、怖いんだ。限界を知ってしまう事が」
「では、魅力的な素材を提供できる者がいて、今の貴方の力を十分に評価し、必要としていたら、どうです?共に手を携えてみようとは、思われませんか」
柔和な物腰で、彼に向けて腕を差し伸べる。
「生憎と、僕が進みたい道は一つなんだ」
微笑する。
「そうですか……」あくまで和やかさを崩さぬままに、レジナルド。「残念です」
§§§
飛び起きる。何か、ひどく悪い夢を見ていたようだった。
覚醒するや否や、あごと喉の痛みが克明に意識された。というのも、きわめて原始的なやり方で魔法が封じられていたからだ。体の自由は奪われていないが、結界が張られているので、拘束されているも同然だった。
……無理もない。昨晩、彼女がしでかしたことを鑑みれば。
「やあ、お目覚めかい?」相棒が顔を覗き込んでくる。「……気は、確かなようだね」
結界が解かれ、猿ぐつわがはずされる。
差し出された水筒に、口をつける。久方ぶりの潤いに、少し、むせた。
「……済まない。席を外させて呉れ無いか?」
言い置いて、ほど近いところにある断崖へと。歩を、進める。
返された剣を、鞘から抜く。どうしてか、いつもより重く感じられた。
アンドヴァリの刀身は、昨夜の出来事をそのままに写し取っていた。服も、篭手も、強ついた髪も、異物感を訴える顔も……。
――蝕まれていく。
戦う意志のある者だけではない。衝き動かされるままに、無抵抗の者たちまで手に掛けてしまった。
――背負い切れない、罪。
身震いが、走った。
剣を地に突き立て、すがる。
脂汗が、噴き出す。
――抗わなければ…………抗わなければ。力の限り。
闇の中に、一人。
真っ暗で、何も見えなかった。
ミロウンは朝霧に、もやっていた。普通より高密度のようであるのは、背後の湿地の影響だろう。湿地と山と二つの川に挟まれたこの地は、きっと堅固な守りの砦に違いない。
三人は毛皮の帽子をしまい、今は代わりに頭巾を被るようになっていた。春が深まり、最近はだいぶ過ごしやすくなってきたからだ。
市門に到着した。レジナルドが二人に別れを告げる。レベッカは謝辞を述べ、旅の無事を祈る。一方クロリスはというと、結局最後まで、まともに言葉を交わすことはなかった。
煉瓦で築かれた厚い市壁を越えると、皇宮へと真っ直ぐに伸びる大道。郊外にはテントが多かったのだが、門の内側は一転、漆喰で固められた建物が目立つ。黒い瓦、こげ茶の木材と相まって、街の景観は落ち着いた雰囲気だ。けれども、静かなのは外身だけ。夜が明けてまだそれほど経ってはいないというのに、すごい雑踏だった。呼び込みの声もにぎやかで、声を張らなければ会話困難なほどだ。
頼れる相棒によると、魔法書がこの街にあるのは間違いないらしい。ただ、例によって明確な場所は特定できないので、すぐにどうこうできるものでもない。とりあえずは、拠点を確保しなければ。
レベッカは勧められた宿を探して、通りの数を数える。この街は碁盤目状に整備されており、地図を描くよりもこちらの方が早いからと、レジナルドが教えてくれたのだった。
角を曲がろうとしたところで、彼女は素早く壁に身を寄せた。相棒の肩をつかんで引き戻す。
いぶかしげにしたのは、一瞬。クロリスはすぐに理由を察したようだった。
この魔力。間違いない。
人波を隔てた先には、探し求めていた男がいた。
暗褐色の髪の男を見たのは、一瞬。すぐに姿を見失ってしまったのだが、幸いにして彼女が魔力を探知できる範囲にいてくれていたお陰で、辿ることはできた。
気配はやがて、狭い路地へとレベッカたちを導いた。ここの界隈は、いわゆる貧民街のようだ。建物だけではない。空気そのものが、寂れた感じを醸しだしている気がする。
それにしても、静かすぎはしないか。
ホースケが警告を発するように、短く、鋭く鳴く。しかし、気付いたときには、もう遅かった。
前方の曲がり角から、多数の人影が飛び出してくる。背後からも、複数の足音。
同色で統一された服装。そして、身のこなし――正規の軍人に違いない。
クロリスの招いた雷が兵士たちを打つ。
が、
「なっ!」絶句する。「効かないだって⁉」
兵が彼女らのぐるりを取り囲んだ。
背後は壁。逃げ場はない。
短槍が唸りをあげ――
炎熱が、奔った。クロリスだ。
本能的に、兵たちが顔を覆う。
相棒が彼女の肩を強く引く。
引っ張られるれるままに後退すること、数歩。目の前に、突然壁が現れた。いや、それは正確な表現ではない。壁のように見えた隠し戸を通って、建物の中に入ったのだ。
「こちらへ」
この屋の者と思しき、ひどくやつれた中年女性が促す。
勝手口から外に出て、共同井戸に掛けられていた縄梯子を降りる。井戸の底からは、通路が伸びていた。
レベッカの感覚が正しければ、現在地は湿原近く。街は抜けたと思われる。その推測を裏付けるように、少し前から井戸はパタリとなくなっていた。
長い階段を登りきると、くたびれた戸に行き着いた。ずいぶん放置されているのか、木製のそれは朽ちて隙間から外光が射している。
「何故、わたし達を助けたのですか?」
外に出て。立ち去ろうとしていた女性の背中に、彼女は問い掛けた。
「兵たちが突然人払いを始めて……それが、その雰囲気が、似ているような気がしたんです」
女が応じるまでには、いくらかの時を要した。
「夫と……娘が捕らえられた時と。生きていれば、あなたと同じくらいかしら」哀しい笑みをたたえて、レベッカを見つめる。「夫も娘も、理不尽に捕らわれ殺されました。あなた達がそうなのか、そうでないのか、わたしには分かりません。でも、力になれて、良かった……」
遠ざかっていく女の後ろ姿を、見るともなしに見やりながら、
「で、これからどうするつもり?」
相棒の言葉に、レベッカは考え込む。
魔法書に掛けられている魔法は、微量すぎる。感知できる範囲は、そう広くはない。軍と敵対してしまった以上、街に入ったところで、こちらが相手を発見するよりもあちらがこちらを追いつめる方が早いだろう。しかも、信じられないことに、ここの軍は魔法を無効化する術を持っているのだ。彼女たちが成功するためのハードルは、かなり高い。
「難しいな。良い知恵は有るか?」
「取り敢えず、場所を移そうか。ここも安全じゃあ――」
主人の言葉を、ホースケが遮る。
翼で一点を示した。
まさか。
淡い期待を抱いて、意識を凝らす。
「有るのかい?」
うなずく。
ホースケを労うと、二人は静かに、そして、速やかに気配との距離を詰めていった。
周囲の色彩は緋に染まり、正面の空は、はや藍へと変遷している。そのせいか、もやが立ちこめてきた。
いや――。
発されようとしていた警句は、役目を果たすことはできなかった。
もの凄い勢いで濃密な霧が彼らにぶつかり、取り巻く。むせそうになりながら、霧を追って飛来した手裏剣を何とか弾く。続く攻撃は、クロリスの炎に呑まれて消えた。
同じだ。足下はおろか、手元すら捉えられない。加えて、フロースヴェルグにあったものよりも格段に強力な魔力を帯びている。一刻も早く、けりをつけなければ。
レベッカは襲撃に備えつつ、細心の注意をもって一歩を踏み出す。
矢先。
相棒の苦しげな喘ぎが聞こえてきた。
状況は、確認せずとも予測ができた。なぜなら、急速に弱まりつつある相棒の気がそれを物語っているからだ。相違点は、苦しみが伴っているということ。
早く、早く。
やらなければ……
やらなければ……
頭が、割れるようだった。
剣を持つ手が、いや、全身が小刻みに震える。
唸りにも似た叫びを引き連れ、疾駆する。
頭巾が、はためく。
今や彼女の瞳には、標的の姿がはっきりと視えていた。
尋常ならざるものを感じ取ったのか、男が逃走に転ずる。
しかしその行く手は、漆黒の炎の壁によって遮られた。
苦し紛れに手裏剣を放つも、それはただ、彼女に浅い傷を刻むのみ。
アンドヴァリが、深々と胴を貫く。そのまま、伏した敵に止めを刺そうとした剣は、しかし、頂点で動きを停止した。代わりに、荒々しく足場の木の板に突き立てられる。それを支えに、レベッカはへたり込んだ。
霧のせいだけではない。この短い間にぐっしょりと濡れた面から、汗が滴った。
「妹は……エリスは、何処だ」
まるで、致命傷を負ったのは彼女の方であるかのような、絶え絶えの、掠れた声だった。
聞こえていたのか、いないのか。
男はチラと彼女の後方に目をやると、そのまま息を引き取った。急所は外したつもりだったが、やはり、抑えが利かなかったらしい。ワヤコスクでのことを考えれば、呑まれなかっただけマシというものだが……。
……視界が、霞む…………――――
なけなしの力を振り絞った抵抗も空しく、レベッカの意識は薄れていった。
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