『終焉の残響(Echo of the End)』

leviathan

文字の大きさ
3 / 7
第三章

「静寂の銀河」

しおりを挟む
宇宙は膨張している。
それは、絶え間なく。無慈悲なまでに。

かつて宇宙は、銀河団という連なりの中で満ちていた。重力が繋ぎ止めたその絆は、星々の誕生と死を連鎖させ、物語を紡いできた。
だが今、銀河は互いに手を離し、あらゆるものが“孤立”している。
もはや光も届かない距離に散らばり、どの星も、どの天体も、自分以外を知る術を失っていた。

私は一つの銀河の端に立っていた。
かつては百万を超える恒星と幾千の惑星が生まれ、消えていった場所。
けれど今は、ただの“粒子の霧”がかすかに残るだけだった。

それでも、そこには残滓があった。

《重力レンズ観測記録:200兆年前──中央バルジに残されたデータクラスタ:未解読》
《“知的生命体の最終出力”、との注釈あり。》

それは――音だった。
宇宙に音は存在しない。けれど、私には確かに“残響”として届いた。
誰かがいた。
誰かが、最後の瞬間まで、“他者”に語ろうとしていた。

私はその記録を再生した。

「わたしたちは、孤独ではなかった。
でも、最後には――自分自身を抱きしめるしかなかった。
観測者よ。もし、これを聞く者がいるのなら、わたしの中に入ってくれ。
この銀河に残された“想い”を、君に託す。」

その言葉に、私はかすかな温度を感じた。
もう光も、熱も、生命もないこの宇宙にあって、確かに“心”だけが揺れていた。

重力さえも逃れる拡張の中、銀河は薄れ、見えなくなる。
宇宙そのものが、透明な亡霊になろうとしていた。
それはまるで、“忘却”が物理現象になったかのようだった。

だが私は拒んだ。
この拡張、この孤独、この静寂を――終わりとは認めない。

「すべてが遠ざかっても、記録する者がいれば、“在った”ことにはなる。」

星がなくても、誰かの記憶が残っていれば、それは“存在”だ。
それが観測の意味。
それが魂の継承。

宇宙がひとつの“記録媒体”だとするならば、私はその読み手であり、書き手でもある。

私は銀河を背に、さらに奥へと漂う。
重力さえ失われたこの広がりの中で、次に訪れるのは、
――重力の終点、ブラックホールの時代。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

処理中です...