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第5話
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イヴェットの文通相手ジャックは大人になってから治療人となった。
今では田舎町に派遣されて働いているが、元々は王都の治療院に所属していた。
その彼が“医術と魔術の天才”と称される治療人を紹介してくれたのだ。
彼の名はアラン・リジェル――人気のあまり紹介状がないと診てもらえないという凄腕の治療人である。
しかしアランと親友だというジャックの紹介状は大きな効力を発揮した。
他の患者を押しのけて、イヴェットは一番乗りで診察室へ入った。
「初めまして、イヴェット・リエイド様。僕はアラン・リジェルと申します。親友ジャックの紹介ですね?」
「ええ……何だか無理を言ったみたいで、すみません……」
アランは驚くほど美しい青年だった。
漆黒の髪と瞳をしているが、右目の虹彩が少々赤い。
彼は端正な顔に笑みを浮かべ、魔力の所為で目が赤いのだと教えてくれた。
「魔力……? 治療に魔術を使うのですか……?」
「ええ、王都ではそうです。貴族の多いここでは高度な治療が必要となるのです」
「そうですか……。私なんかが貴族様を差し置いて……申し訳ないですわ……」
イヴェットががくりと首を垂れる。
彼女は精神的疲労から、かなり参っていた。
するとアランがその心労を察し、慌ててこう言った。
「いいえ、そんなことはありません! ジャックの手紙の内容からして、イヴェット様はかなり大変な状態にあるようですね? 僕としては強く入院をお勧めします」
「入院ですか……? しかしそんなお金は……――」
「大丈夫です。あなたのことは研究対象として無料で受け入れます。母体がストレスに晒された際の状態を把握したいのです。お不快でなければ、ですが」
「不快だなんて、そんな……」
そしてイヴェットの出産までの入院が決まった。
家に帰るのが恐ろしいという彼女のために、看護人が荷物を取りに行く。
やがて面会は完全謝絶となり、彼女の素性を語ることも禁じられた。
最初はかなり怯えていたイヴェットだったが、アランと看護人の優しさに触れ、正常な精神状態を取り戻していったのだった。
今では田舎町に派遣されて働いているが、元々は王都の治療院に所属していた。
その彼が“医術と魔術の天才”と称される治療人を紹介してくれたのだ。
彼の名はアラン・リジェル――人気のあまり紹介状がないと診てもらえないという凄腕の治療人である。
しかしアランと親友だというジャックの紹介状は大きな効力を発揮した。
他の患者を押しのけて、イヴェットは一番乗りで診察室へ入った。
「初めまして、イヴェット・リエイド様。僕はアラン・リジェルと申します。親友ジャックの紹介ですね?」
「ええ……何だか無理を言ったみたいで、すみません……」
アランは驚くほど美しい青年だった。
漆黒の髪と瞳をしているが、右目の虹彩が少々赤い。
彼は端正な顔に笑みを浮かべ、魔力の所為で目が赤いのだと教えてくれた。
「魔力……? 治療に魔術を使うのですか……?」
「ええ、王都ではそうです。貴族の多いここでは高度な治療が必要となるのです」
「そうですか……。私なんかが貴族様を差し置いて……申し訳ないですわ……」
イヴェットががくりと首を垂れる。
彼女は精神的疲労から、かなり参っていた。
するとアランがその心労を察し、慌ててこう言った。
「いいえ、そんなことはありません! ジャックの手紙の内容からして、イヴェット様はかなり大変な状態にあるようですね? 僕としては強く入院をお勧めします」
「入院ですか……? しかしそんなお金は……――」
「大丈夫です。あなたのことは研究対象として無料で受け入れます。母体がストレスに晒された際の状態を把握したいのです。お不快でなければ、ですが」
「不快だなんて、そんな……」
そしてイヴェットの出産までの入院が決まった。
家に帰るのが恐ろしいという彼女のために、看護人が荷物を取りに行く。
やがて面会は完全謝絶となり、彼女の素性を語ることも禁じられた。
最初はかなり怯えていたイヴェットだったが、アランと看護人の優しさに触れ、正常な精神状態を取り戻していったのだった。
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