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第7話
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一週間後の早朝、ヴィスチレン公爵家の前に大きな鞄を持った姉妹がいた。にやけ顔をしたテレシアとおどおどするアレクシアである。倒れてからずっと部屋に閉じ込められていたテレシアはようやく外に出られたことを喜んでいた。そして彼女は黙って突っ立っているエドウィンへ向けて、意地悪気に言い放つ。
「はあ、最悪でしたわ! でも旅に連れていってくれるなら、許してあげます!」
監禁のお詫びに国中を旅する――テレシアはそう聞かされていた。
そんな彼女をアレクシアは悲し気な瞳で見詰めていた。
すると馬車が到着し、テレシアは颯爽とその中に乗り込んだ。
「あら? 二人共、乗らないの?」
そうこう言っているうちに扉は閉められた。
テレシアは窓を開けて文句を言う。
「ちょっと! どういうことなの!?」
「テレシア、君は今からギライト伯爵家に行く」
「何ですって!? どうして私が伯爵家に!?」
エドウィンは固い表情のまま彼女に告げる。
「君は可哀想な生い立ちではあるが、あまりに罪を犯し過ぎた。だから厳格なギライト婦人の元で、その性格を矯正してもらう必要があるんだ」
「厳格な婦人ですって……!? 絶対に酷い目に遭うじゃない……!?」
「これは君のためなんだよ、テレシア。必ず手紙を書こう」
「はあっ!? 手紙なんていらないわ! それよりこの馬車を降ろして! 厳格な婦人のところへ行くなんて絶対に嫌あああぁッ!」
しかし馬車は動き出し、テレシアを運んでいく。
やがてそれが見えなくなったころ、もう一台の馬車が到着した。
それは宮廷馬車で、見事な造りをしていた。
「さあ、アレクシア。乗り給え」
「本当に……私が行ってもいいんですか……?」
「ああ、聖女候補は宮廷で暮らすと決まっているんだよ」
「宮廷って……怖いところじゃありませんか……?」
「大丈夫だよ。君は特別な聖女候補として、大切にされるよ」
そしてアレクシアは従者に抱きかかえられ、馬車へ乗せられた。
エドウィンは確信している――彼女がこの国の聖女に選ばれると。
この一週間、アレクシアは宮廷からの使者の審査を受けたのだが、その結果は素晴らしいものだった。彼女の聖魔法は肉体の治癒だけでなく精神にも作用し、祝福と浄化、ステータス上昇効果まであったのだ。使者は驚きのあまり震え、“かつてない聖女の誕生だ……”と呟いていた。聖女候補が聖女に選ばれた暁には第一王子と婚約し、やがては王妃となる運命だ。幸いなことに第一王子の評判は非常に良いので、きっと素晴らしい人生を歩むことができるだろう。
エドウィンとしては妻と共にアレクシアを我が子として大切に育てたかった。しかしこんな途轍もない才能を有していては自分達だけのものにはできない。彼は悲しい別れを受け入れ、彼女を送り出す決意をした。
「アレクシア、君の面倒を最後まで見れなくてごめんね。これから聖女候補として辛いことがあったら、いつでもこの屋敷に帰ってきていいんだよ」
するとアレクシアは頷いて言った。
「はぃ、エドウィン様と奥様の優しさは一生忘れません……。それにもし聖女になれたなら、自分みたいに苦しみを受けた人を助けたいんです……。この国から痛みや苦しみがなくなる……そうなったら、いいなぁ……」
その言葉にエドウィンは涙を堪えた。凡人の自分には聖魔法で祝福することはできない。しかし痛みと苦しみの連続の人生を送った少女――そんな彼女に精一杯の祝福を贈りたかった。やがてエドウィンはその場に跪くと、アレクシアに言った。
「心優しいアレクシア、これからの君の人生は幸せの連続となるだろう。君がこの僕に見せてくれた奇跡は人生最高の宝物だ。ありがとう、小さな聖女様」
「エドウィン様……」
ゆっくりと宮廷馬車は動き出した。
窓から顔を出したアレクシアは泣いていた。
エドウィンも涙を流しながら、いつまでも彼女を見送っていた。
―END―
「はあ、最悪でしたわ! でも旅に連れていってくれるなら、許してあげます!」
監禁のお詫びに国中を旅する――テレシアはそう聞かされていた。
そんな彼女をアレクシアは悲し気な瞳で見詰めていた。
すると馬車が到着し、テレシアは颯爽とその中に乗り込んだ。
「あら? 二人共、乗らないの?」
そうこう言っているうちに扉は閉められた。
テレシアは窓を開けて文句を言う。
「ちょっと! どういうことなの!?」
「テレシア、君は今からギライト伯爵家に行く」
「何ですって!? どうして私が伯爵家に!?」
エドウィンは固い表情のまま彼女に告げる。
「君は可哀想な生い立ちではあるが、あまりに罪を犯し過ぎた。だから厳格なギライト婦人の元で、その性格を矯正してもらう必要があるんだ」
「厳格な婦人ですって……!? 絶対に酷い目に遭うじゃない……!?」
「これは君のためなんだよ、テレシア。必ず手紙を書こう」
「はあっ!? 手紙なんていらないわ! それよりこの馬車を降ろして! 厳格な婦人のところへ行くなんて絶対に嫌あああぁッ!」
しかし馬車は動き出し、テレシアを運んでいく。
やがてそれが見えなくなったころ、もう一台の馬車が到着した。
それは宮廷馬車で、見事な造りをしていた。
「さあ、アレクシア。乗り給え」
「本当に……私が行ってもいいんですか……?」
「ああ、聖女候補は宮廷で暮らすと決まっているんだよ」
「宮廷って……怖いところじゃありませんか……?」
「大丈夫だよ。君は特別な聖女候補として、大切にされるよ」
そしてアレクシアは従者に抱きかかえられ、馬車へ乗せられた。
エドウィンは確信している――彼女がこの国の聖女に選ばれると。
この一週間、アレクシアは宮廷からの使者の審査を受けたのだが、その結果は素晴らしいものだった。彼女の聖魔法は肉体の治癒だけでなく精神にも作用し、祝福と浄化、ステータス上昇効果まであったのだ。使者は驚きのあまり震え、“かつてない聖女の誕生だ……”と呟いていた。聖女候補が聖女に選ばれた暁には第一王子と婚約し、やがては王妃となる運命だ。幸いなことに第一王子の評判は非常に良いので、きっと素晴らしい人生を歩むことができるだろう。
エドウィンとしては妻と共にアレクシアを我が子として大切に育てたかった。しかしこんな途轍もない才能を有していては自分達だけのものにはできない。彼は悲しい別れを受け入れ、彼女を送り出す決意をした。
「アレクシア、君の面倒を最後まで見れなくてごめんね。これから聖女候補として辛いことがあったら、いつでもこの屋敷に帰ってきていいんだよ」
するとアレクシアは頷いて言った。
「はぃ、エドウィン様と奥様の優しさは一生忘れません……。それにもし聖女になれたなら、自分みたいに苦しみを受けた人を助けたいんです……。この国から痛みや苦しみがなくなる……そうなったら、いいなぁ……」
その言葉にエドウィンは涙を堪えた。凡人の自分には聖魔法で祝福することはできない。しかし痛みと苦しみの連続の人生を送った少女――そんな彼女に精一杯の祝福を贈りたかった。やがてエドウィンはその場に跪くと、アレクシアに言った。
「心優しいアレクシア、これからの君の人生は幸せの連続となるだろう。君がこの僕に見せてくれた奇跡は人生最高の宝物だ。ありがとう、小さな聖女様」
「エドウィン様……」
ゆっくりと宮廷馬車は動き出した。
窓から顔を出したアレクシアは泣いていた。
エドウィンも涙を流しながら、いつまでも彼女を見送っていた。
―END―
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