美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん

文字の大きさ
6 / 7

第6話

しおりを挟む
「ア、アレクシア……? どうしたんだい……?」

 エドウィンはうわごとを言うアレクシアの手を握り、問いかける。
 すると彼女は嬉しそうに微笑んで、目を閉じたまま涙を流した。

「天使……天使なのね……? 分かりました……全部話します……」

 この子は何を言っているのだろうか、まさか天使が訪れている夢でも見ているのか、エドウィンは首を傾げながらその様子を見守る。そうしていると、アレクシアの隠された事実が語られ始めた。

「そうです……テレシアはお義父様とお義母様と一緒に私を虐待していました……。私達は双子の姉妹なのに……テレシアが妹なのに……私だけご飯がもらえずに、こんなにも見た目に差が出ちゃって……。九歳で侯爵家に引き取られた時、テレシアがお義父様に言った言葉、本当に怖かった……。だから、それだけは言えません……」

 幼いアレクシアと大人びたテレシア――
 二人が双子だという事実にエドウィンは脂汗を垂らす。
 一方、アレクシアは苦しそうに何度も首を振っていた。

「はぃ、はぃ……分かりました……辛いけど言います……。お義父様が私達を虐め抜くと脅した後、テレシアはこう言いました……。“お義父様、テレシアはあなたに体を捧げます。だから私は虐待しないで下さい。その代わり、アレクシアを虐めて下さい”そう言ったんです……。それからテレシアはお義父様の愛人になり……私だけが虐待されるようになったんです……。でもテレシアを責めないで……あの子だって可哀想なんです……。貧しい暮らしで体を売るのを覚えたんです……」

 アレクシアは涙を零しながら語り続ける。その告白にエドウィンは大きな衝撃を受けた。テレシアは義父から性的虐待を受け、男に媚びることを覚えたのではなかった。自ら体を売ることを覚え、さらには自分だけ助かるように義父へ掛け合っていたのだ。双子の片割れのアレクシアを犠牲にして――

「そう……このお屋敷に来てから、私を傷付けたのはテレシアです……。私だけが可愛がられるからって、二階から落として、首を絞めて……」

 エドウィンは震えながら何度も謝罪を口にした。自分が悪かった、自分の間違いの所為だ。テレシアの本性を見抜くことができず、アレクシアを命の危険に晒してしまった。彼がひとり震えていると、アレクシアが驚くべきことを言った。

「でもその時、私の体がお日様みたいに光ったんです……。そしたら、テレシアが吹っ飛んで……――」
「何だって!?」

 そこでエドウィンは大声を上げた。
 その途端、アレクシアは目を覚ました。

「体が光ったのは本当なのかい!?」
「は、はぃ、エドウィン様……? 天使は……?」
「もしかしたら、君は聖魔法に目覚めたのかもしれない!」
「聖魔法……? 何ですか、それ……?」

 エドウィンは目を見開いたまま固まっていた。
 聖魔法――それを使えるのは聖女の適性がある者だけだ。
 聖女とは聖魔法を駆使することで人々を助ける特別な存在である。
 もしかしたらこのアレクシアはその聖女になる才能を有しているかもしれない。

「アレクシア、その光を出せるかい?」
「こう、ですか……?」

 アレクシアの両手が光り輝いた。それはエドウィンの目から見ても、聖魔法であると分かる。それほどまでにその光は清浄で、神々しさが溢れていたのであった。

「そ、それを首に持っていき給え……首に光を当てるんだ……」
「はぃ……」

 すると首に刻まれた手の跡は一瞬で消えた。顔色も良くなり、熱も下がった様子だ。聖女候補となる少女が現れるのは百年に数人だけで、一瞬で傷を癒すほどの使い手はもう何百年も現れていない。しかしアレクシアはそれをやってのけた――奇跡を目の当たりにしたエドウィンは咽び泣き、ベッドに頭を突っ伏した。

「あぁ……アレクシア……君は……君は……――」
「あ、あのう……エドウィン様……?」

 本当に天使が訪れていた――エドウィンは生涯そう信じ続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

裏切られた氷の聖女は、その後、幸せな夢を見続ける

しげむろ ゆうき
恋愛
2022年4月27日修正 セシリア・シルフィードは氷の聖女として勇者パーティーに入り仲間と共に魔王と戦い勝利する。 だが、帰ってきたセシリアをパーティーメンバーは残酷な仕打で…… 因果応報ストーリー

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

常識的に考えて

章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。 しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...