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第6話
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「ア、アレクシア……? どうしたんだい……?」
エドウィンはうわごとを言うアレクシアの手を握り、問いかける。
すると彼女は嬉しそうに微笑んで、目を閉じたまま涙を流した。
「天使……天使なのね……? 分かりました……全部話します……」
この子は何を言っているのだろうか、まさか天使が訪れている夢でも見ているのか、エドウィンは首を傾げながらその様子を見守る。そうしていると、アレクシアの隠された事実が語られ始めた。
「そうです……テレシアはお義父様とお義母様と一緒に私を虐待していました……。私達は双子の姉妹なのに……テレシアが妹なのに……私だけご飯がもらえずに、こんなにも見た目に差が出ちゃって……。九歳で侯爵家に引き取られた時、テレシアがお義父様に言った言葉、本当に怖かった……。だから、それだけは言えません……」
幼いアレクシアと大人びたテレシア――
二人が双子だという事実にエドウィンは脂汗を垂らす。
一方、アレクシアは苦しそうに何度も首を振っていた。
「はぃ、はぃ……分かりました……辛いけど言います……。お義父様が私達を虐め抜くと脅した後、テレシアはこう言いました……。“お義父様、テレシアはあなたに体を捧げます。だから私は虐待しないで下さい。その代わり、アレクシアを虐めて下さい”そう言ったんです……。それからテレシアはお義父様の愛人になり……私だけが虐待されるようになったんです……。でもテレシアを責めないで……あの子だって可哀想なんです……。貧しい暮らしで体を売るのを覚えたんです……」
アレクシアは涙を零しながら語り続ける。その告白にエドウィンは大きな衝撃を受けた。テレシアは義父から性的虐待を受け、男に媚びることを覚えたのではなかった。自ら体を売ることを覚え、さらには自分だけ助かるように義父へ掛け合っていたのだ。双子の片割れのアレクシアを犠牲にして――
「そう……このお屋敷に来てから、私を傷付けたのはテレシアです……。私だけが可愛がられるからって、二階から落として、首を絞めて……」
エドウィンは震えながら何度も謝罪を口にした。自分が悪かった、自分の間違いの所為だ。テレシアの本性を見抜くことができず、アレクシアを命の危険に晒してしまった。彼がひとり震えていると、アレクシアが驚くべきことを言った。
「でもその時、私の体がお日様みたいに光ったんです……。そしたら、テレシアが吹っ飛んで……――」
「何だって!?」
そこでエドウィンは大声を上げた。
その途端、アレクシアは目を覚ました。
「体が光ったのは本当なのかい!?」
「は、はぃ、エドウィン様……? 天使は……?」
「もしかしたら、君は聖魔法に目覚めたのかもしれない!」
「聖魔法……? 何ですか、それ……?」
エドウィンは目を見開いたまま固まっていた。
聖魔法――それを使えるのは聖女の適性がある者だけだ。
聖女とは聖魔法を駆使することで人々を助ける特別な存在である。
もしかしたらこのアレクシアはその聖女になる才能を有しているかもしれない。
「アレクシア、その光を出せるかい?」
「こう、ですか……?」
アレクシアの両手が光り輝いた。それはエドウィンの目から見ても、聖魔法であると分かる。それほどまでにその光は清浄で、神々しさが溢れていたのであった。
「そ、それを首に持っていき給え……首に光を当てるんだ……」
「はぃ……」
すると首に刻まれた手の跡は一瞬で消えた。顔色も良くなり、熱も下がった様子だ。聖女候補となる少女が現れるのは百年に数人だけで、一瞬で傷を癒すほどの使い手はもう何百年も現れていない。しかしアレクシアはそれをやってのけた――奇跡を目の当たりにしたエドウィンは咽び泣き、ベッドに頭を突っ伏した。
「あぁ……アレクシア……君は……君は……――」
「あ、あのう……エドウィン様……?」
本当に天使が訪れていた――エドウィンは生涯そう信じ続けた。
エドウィンはうわごとを言うアレクシアの手を握り、問いかける。
すると彼女は嬉しそうに微笑んで、目を閉じたまま涙を流した。
「天使……天使なのね……? 分かりました……全部話します……」
この子は何を言っているのだろうか、まさか天使が訪れている夢でも見ているのか、エドウィンは首を傾げながらその様子を見守る。そうしていると、アレクシアの隠された事実が語られ始めた。
「そうです……テレシアはお義父様とお義母様と一緒に私を虐待していました……。私達は双子の姉妹なのに……テレシアが妹なのに……私だけご飯がもらえずに、こんなにも見た目に差が出ちゃって……。九歳で侯爵家に引き取られた時、テレシアがお義父様に言った言葉、本当に怖かった……。だから、それだけは言えません……」
幼いアレクシアと大人びたテレシア――
二人が双子だという事実にエドウィンは脂汗を垂らす。
一方、アレクシアは苦しそうに何度も首を振っていた。
「はぃ、はぃ……分かりました……辛いけど言います……。お義父様が私達を虐め抜くと脅した後、テレシアはこう言いました……。“お義父様、テレシアはあなたに体を捧げます。だから私は虐待しないで下さい。その代わり、アレクシアを虐めて下さい”そう言ったんです……。それからテレシアはお義父様の愛人になり……私だけが虐待されるようになったんです……。でもテレシアを責めないで……あの子だって可哀想なんです……。貧しい暮らしで体を売るのを覚えたんです……」
アレクシアは涙を零しながら語り続ける。その告白にエドウィンは大きな衝撃を受けた。テレシアは義父から性的虐待を受け、男に媚びることを覚えたのではなかった。自ら体を売ることを覚え、さらには自分だけ助かるように義父へ掛け合っていたのだ。双子の片割れのアレクシアを犠牲にして――
「そう……このお屋敷に来てから、私を傷付けたのはテレシアです……。私だけが可愛がられるからって、二階から落として、首を絞めて……」
エドウィンは震えながら何度も謝罪を口にした。自分が悪かった、自分の間違いの所為だ。テレシアの本性を見抜くことができず、アレクシアを命の危険に晒してしまった。彼がひとり震えていると、アレクシアが驚くべきことを言った。
「でもその時、私の体がお日様みたいに光ったんです……。そしたら、テレシアが吹っ飛んで……――」
「何だって!?」
そこでエドウィンは大声を上げた。
その途端、アレクシアは目を覚ました。
「体が光ったのは本当なのかい!?」
「は、はぃ、エドウィン様……? 天使は……?」
「もしかしたら、君は聖魔法に目覚めたのかもしれない!」
「聖魔法……? 何ですか、それ……?」
エドウィンは目を見開いたまま固まっていた。
聖魔法――それを使えるのは聖女の適性がある者だけだ。
聖女とは聖魔法を駆使することで人々を助ける特別な存在である。
もしかしたらこのアレクシアはその聖女になる才能を有しているかもしれない。
「アレクシア、その光を出せるかい?」
「こう、ですか……?」
アレクシアの両手が光り輝いた。それはエドウィンの目から見ても、聖魔法であると分かる。それほどまでにその光は清浄で、神々しさが溢れていたのであった。
「そ、それを首に持っていき給え……首に光を当てるんだ……」
「はぃ……」
すると首に刻まれた手の跡は一瞬で消えた。顔色も良くなり、熱も下がった様子だ。聖女候補となる少女が現れるのは百年に数人だけで、一瞬で傷を癒すほどの使い手はもう何百年も現れていない。しかしアレクシアはそれをやってのけた――奇跡を目の当たりにしたエドウィンは咽び泣き、ベッドに頭を突っ伏した。
「あぁ……アレクシア……君は……君は……――」
「あ、あのう……エドウィン様……?」
本当に天使が訪れていた――エドウィンは生涯そう信じ続けた。
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