桜ノ森

糸の塊゚

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1章:深悔marine blue.

深海マリンブルー (Ⅲ)

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 「あっ、おい、尋希!?」
 
 迷いなく海へ飛び込む尋希に手が届かなかった勇樹は、直ぐに思考を切り替えるかのように舌打ちを一度だけ漏らして、また電話を続けた。
 俺はその様子をぼうっと眺めていると、この海水浴場の監視員らしき人を連れ、「監視員さん、連れてきたよねぇ!」と言いながら小走りで直季が戻ってきた。
 勇樹は救急車への連絡を終えたらしく、直季に一言お礼を言うと、先程尋希も後を追った事を監視員に伝える。
 
 「えぇっ、尋希くんも行ったのかい!?」
 「人の静止も聞かずにな」
 「大丈夫なのかい!?尋希くん海は初めてって言ってたよねぇ!?」
 
 心配しているのか顔を青ざめさせる直季に一言、「尋希なら、大丈夫だよ」と言うと、勇樹はいらつきを隠せないまま口を開いた。
 
 「大丈夫ったって、んな保証どこにもねぇだろ。下手すれば奏だけじゃなくて尋希も命の危険があんだよ」
 「……でもさ、俺はなんでか尋希なら大丈夫だって思うんだよ。……確かに保証なんて何も無いけどさ」
 
 俺がそう言うと、勇樹は少しだけじっと俺の目を見たかと思えば、大きくため息を吐いて、そのまま口を閉じた。
 しばらくして海面が揺らめき出して、ばしゃあ、と大きな音を立てながら、片手にぬいぐるみを握った尋希が、奏を肩で支えながら砂浜へ上がってきた。
 海水を少し飲んだのか、げほげほと咳き込む尋希に監視員が駆け寄り、何か話しをして、監視員に奏を渡した。
 
 「尋希、大丈夫か?」
 
 俺がそう言うと、尋希は返事をしようと前を向いて笑顔で口を開こうとして、動きが止まる。
 小さく「ひぇっ」と聞こえて笑顔のまま若干青ざめている尋希の視線の先を見ようと後ろを振り返ると、そこには何やら尋希以上の笑顔で黒いオーラを発する勇樹が腕組みをして立っていた。
 そのまま勇樹は一言尋希、と名前を呼ぶと、当人は恐る恐るとしながら「は、はい……」と返事をした。
 その様子に勇樹は呆れたように一度深くため息を吐いた。
 
 「んで、奏の様子はどうよ 」
 「え、えっと……生きてはいますよ。今は気を失っているだけです」
 「全くもう、無茶はしちゃダメだよねぇ!勇樹くんも間乃尋くんも、もちろんボクもすっごい心配したんだからねぇ!」
 「す、すみません……」
 「悪いと思ってんならんな事もう二度とすんなよ」
 
 勇樹が尋希にそういうと、監視員に任せていた奏が咳き込み始めて、そのまま目を覚ました。
 それに気づいた直ぐに尋希は奏に「奏っ!」と声をかけながら駆け寄る。
 目が覚めたばかりの奏は少しぼんやりとしながら尋希を見た後、何やら慌てたように周りを見渡した。
 何かを探すようなその仕草に尋希が「探しているのはこれですか」とぬいぐるみを手渡した。
 ぬいぐるみを手渡された奏は、ほっとしたように息をついて、また周りを見渡す。
 そして泣いている少女を見つけると、足をもつれさせながらもその少女に駆け寄って目線を合わせるようにしゃがんで、笑った。
 
 「はい、これ。もう離しちゃ駄目だよ」
 
 そう言いながら奏は少女にぬいぐるみを手渡すと、少女は泣きながらも「おにいちゃん、ありがとう」と濡れたぬいぐるみを抱き締めていた。
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