12 / 58
1章:深悔marine blue.
魔法大会
しおりを挟む───海で奏が溺れてから丁度一週間後。
いつものメンバーで俺は学園の食堂で昼食をとっていた。
俺の目の前でパスタを食している奏は、あの後勇樹が呼んでいた救急車に運ばれて、病院や学園の研究室で色々と検査を受けたものの、体調に別状は無く、今では普通に夏休みを満喫している。
「いやぁ、でも良かったねぇ。奏くん元気になってさ」
「ん、まぁそうだな。……つってもあんな無茶は勘弁して欲しいけどな」
天丼を食べている直季と、コーヒーだけをすすっている勇樹がそう言うと、奏は手を止めて頭を下げて、「……その節はご迷惑をお掛けしました」と丁寧に言う。
それに対して蕎麦を食べていた尋希が茶化すように口を開いた。
「全くもう、そうですよ!泳げないってんのに無茶はダメなんですからね!」
「言っとくけどオレはお前にも言ってんだからな。人の静止を聞かずに駆け出して行った尋希、お前にもな」
「あ、あれぇ……これが巻き込み事故ってやつですかねぇ……」
「勇樹くんすっごい心配してたからねぇ。まぁ暫くは大人しく怒られておきなよ、だねぇ」
「ひ、ひぇぇ……兄さん助けて下さぁい!」
「えっ、えっと……ごめん 」
俺がそう言うと、尋希は泣き真似をしながら「仲間がどこにも居ない!!」と叫ぶ。
それに対して奏がうるさい尋希、と言うと尋希はすぐに泣き真似を辞めて口を開いた。
「まぁ、そんなに心配しなくたって大丈夫でしたって。水は僕を裏切りませんから」
「んだよ、それ。もしかしてそれがお前の魔法か?」
勇樹にそう問われた尋希はにこりといつも通りの笑顔で「まぁ、似たようなものですよ」と言う。
その尋希の答えに勇樹は何かを考え込む仕草をしたと思ったら不意に直季が、「魔法、と言えばそろそろアレの時期だよねぇ」と言った。
「アレ?」
「ん?あぁ、魔法大会か。そういやそろそろそんな時期だな」
「間乃尋くんは知らないよねぇ?魔法大会って言うのはね……」
直季と勇樹曰く、この擂乃神学園では毎年夏場に開催されるクラスごとにチームを振り分けて、魔法の実力を図るための大会らしい。
「……って言っても、別に魔法を使わなくてもいいんだけどな。怪我さえさせなければ何をしても良いんだよ」
「まぁ、完全な身体能力で、っていうのは無理があるし、魔法に自信がある人しか出ないんだけどねぇ。勇樹くんは去年に続けて今年も出るんでしょ?」
「まぁな。オレが出るって言わなくても結局出る羽目になるだろうし」
「そうだねぇ。ボクも今年最後だし思い出作りに出ようかねぇ」
「お、良いんじゃねぇの?」
そのまま魔法大会について話し合う二人を横目に見ていると、尋希は奏はどうするのか聞いているのが聞こえた。
しかし奏は心ここにあらずの様子で、ぼうっとしながら紅茶をすすっていて、それに尋希が奏の体をゆすりながら「かーなーでー!無視しないで下さいよ!泣きますよ!?」と言う。
「えっ?……あぁ、ごめん。考え事してた」
「もう、本当に大丈夫ですか?最近奏よくそうやってぼうっとしてません?この前なんかスーパーで買い物してる時素麺を買うって言いながらこんにゃくを買ってましたよね。何かあったんです?」
「……別に。お前には関係ないだろ」
奏は尋希にそう冷たく突き放すと、未だ魔法大会について話し合っていた勇樹達に向き直って、「すみません。お先に失礼します」と言って席を立って、そのまま食堂から出て行く。
その様子を尋希はじっと見つめた後、小さくため息を吐いて、いつもの笑顔じゃなく、何の感情も見えない無表情で小さく呟いた。
「ま、確かに僕には関係無い、か 」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる