桜ノ森

糸の塊゚

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1章:深悔marine blue.

魔法大会 開催

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 あれから数日が経って魔法大会当日。
 主催しているという学園の研究員達、招待されたという政府の偉い人たちに存命している生徒の親や参加しない生徒達が観覧席に座って擂乃神学園は最高の盛り上がりを見せているそんな様子を何故か魔法大会に出場する事になった俺は、闘技場の様な建物の控え室にあるモニターで眺めていた。
 数日間前に出場する事を決めた勇樹と直季以外にも、同じく出場するらしい尋希と奏もモニター越しに会場の盛り上がりを眺めていて、その様子を見ながら尋希と勇樹が口を開き始める。

 「話を聞いた時にも思いましたけど、わざわざこの魔法大会の為だけにこの闘技場を作るなんてこの学園の理事長ってとんでもなく金持ちですよねー」
 「まぁな。金持ちの考えることはよく分かんねぇよ」
 
 そんな会話を横目に眺めていると、モニター越しに開会式が始まったらしく、会場は更に盛り上がっていた。
 擂乃神学園の学園長による開会宣言の後に学園の女性教師の一人が魔法大会のルールの説明を始める。
 
 その一。魔法大会は予め決まっているチームに別れ、それぞれのチームは五名を二年生から三年生を希望者を優先的に選抜し、試合は一対一で戦う。
 その二。対戦相手は試合が始まる直前にくじ引きにてランダムにて決まる。
 その三。試合に出る生徒は会場に出る前に待機している教師からリボンを受け取り、そのリボンを腕に結ぶこと。
 その四。試合開始後、相手がつけているリボンを先に手に取った者の勝ちとなる。
 その五。魔法大会と銘打っているが、リボンさえ相手から奪うことが出来るなら魔法を使用しなくてもいい。
 その六。骨折などの大きな怪我を相手にさせた場合はその場で怪我をさせた方が失格となる。
 その七。試合開始後、選手達は棄権する権利を持っている。しかしその場合は相手の勝利となる。
 その八。試合形式はトーナメント式であること。
 
 以上が改めて説明された魔法大会のルールで、肝心のチームは全部で四チーム。分け方は単純にクラス順の様で、俺達は赤チームとなっており、最初の対戦チームは青チームとなるだろう、と勇樹が口を開く。
 続けて「どんな奴が相手でもオレが必ず一勝は取ってみせっから、んなに緊張とかすんなよ」と俺達に激励を送った。

 「凄く自信があるんだな」
 「ん。まぁこればっかりはな。オレの数多い長所の一つだぜ」
 「勇樹先輩ってそういや去年も出てたって言ってましたね。残念ながら僕は去年は体調を崩してたので見れてないんですけど」
 「そうなのかい?なら、楽しみにしてると良いよねぇ。勇樹くんの魔法はかっこいいからねぇ」
 「本当ですかぁ?言っときますけど僕ぁ、そういう審美眼は肥えてるんですよねぇ。ね、奏」
 
 尋希が茶化しながらずっと無言でモニターを睨みつけている奏に話しかけるも、奏は心ここにあらずで。
 
 「まぁた無視ですか。無視っていうか聞こえてないか。聞いてくださいよ兄さん、海で溺れて退院してから奏ずっとこんな様子なんですよー。僕嫌われてるんですかねー。脇腹つついたら流石に気づきますかね。どう思います?ほれ~つつきますよ~??」
 
 そう言いながら両手の指ををわきわきと動かしながら奏の脇腹に手を伸ばす尋希に、直季が苦笑いしながら「きっと怒られるから辞めておきなよねぇ」と静止をかけた。
 
 「お前ら、じゃれてねぇでモニターの方に集中しろよ。そろそろくじ引きが始まるぜ」
 
 勇樹に言われて尋希と直季は同時に返事をすると椅子に座り治してモニターに集中する。
 俺もモニターを見てみると、司会の教師が赤い箱と青い箱の中にそれぞれ手を入れて一枚ずつ折りたたまれた紙を手に取った。
 教師はそれを開けてモニターに映るようにカメラの前に広げた。
 そして肝心の紙に書かれている名前は。
 
 「あらら、だねぇ。一番手なんてツイてないよねぇ」
 「逆にツイてんだろ。一番手がお前なんてよ。オレはともかく、尋希と奏は二年で初出場だし、間乃尋に至っては魔法大会初めてだぜ」
 「それもそうかねぇ。でも、勝ちは期待しないでほしいよねぇ」
 
 選ばれた直季はそう言いながら笑顔で控え室から去っていく。
 しばらくすればモニターに見慣れた緑髪の小さい少年が映される。左腕には赤いリボンが結ばれている。
 同時に直季の対戦相手らしき男子生徒も現れる。
 
 『あれ?おれの対戦相手って三年生って聞いてたんだけど。小学生は魔法大会出ちゃいけないんじゃ?』
 
 魔法大会を映し出しているカメラはどうやら音声を完璧に拾えるらしく、対戦相手の少年が若干小馬鹿にしたように言う。
 それに対して直季はいつものにこにことした笑顔で『よろしく、だよねぇ。こんな見た目だけど一応三年生なんだよねぇ』と挨拶をするも、相手は鼻で笑いながら続けた。
 
 『このおれの対戦相手がこんなチビなんて正直がっかりだよ。これなら他の奴もセンパイみたいに大したことなさそうだよね。あーあ、こんなことなら大会に出るなんて言わなきゃ良かった。赤チームの皆さんお疲れ様ー!』
 
 直季はその言葉をにこにこと笑いながら聞いている。しかし何も言わない。
 隣で尋希「なんですかあいつー!」と憤慨し、勇樹が小さく「あぁ……」と何やら憐れんだような視線を直季ではなく対戦相手に向けている。
 それと同時に試合開始の合図であるエアガンが司会の教師によって発砲されて…………数秒もしないうちに試合終了の合図であるブザーが鳴り響いた。
 
 何があったのかと言うと、開始した直後に相手の身体は何やら植物の蔓の様なもので身動きが取れないように縛り付けられ、そのまま蔓が相手のリボンを解いて、直季の手に渡って、終わり。
 
 『な…っ、!?』
 
 驚いて声も出ない相手に直季は歩いて近づいていって相手の前に立つと、一言笑顔でこう言い放った。
 
 『弱い犬ほどよく吠えるって言うよねぇ』
 
 「いや大人気なさすぎません?つーかあれ本当に直季先輩ですか?心なしか笑顔の後ろに黒いオーラ的なのが見えるんですけど」
 「あいつ……まじでやりやがったな……」
 
 心底呆れたようにため息を吐く勇樹に尋希がわなわなと震えながら「相手二年生ですよ!?こういうのって加減とかしないんですか!?」と叫んだ。
 
 「あぁ……あいつ、自分の友人とか親しい奴が悪く言われんの嫌いなんだよ……」
 
 普段と態度からはそうは見えないけど案外短気なんだぜ、あいつ。と勇樹が言うと同時に控え室の扉が勢いよく開く。
 
 「たっだいまー!だよねぇ!」
 「おー、おかえり。お前なぁ……」
 「えへっ。やっちゃった、だよねぇ」
 「やっちゃった、じゃねぇんですよ!どうするんですか!あの人もしかしたらプライドばっきばきに折れて立ち直れないかもですよ!?」
 「別にいいんじゃないんかねぇ。本当なら縛り付けるんじゃなくて持ち上げて思いっきり地面に叩きつけたかったよねぇ。……でもルールだからさ」
 
 確かにルールでは相手に大きな怪我をさせない事が決められている。もしこのルールが無ければ相手は先程直季が言ったように地面に体を叩きつけられていたのだろうか。
 その様子を鮮明に想像したらしい尋希が顔を青くしながら「直季先輩だけは絶対怒らせないようにしよ……」と小さく呟いた。
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