桜ノ森

糸の塊゚

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1章:深悔marine blue.

決着

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 「な……っ、なんだい、それ……!」

 俺の前に立つこの魔法大会の対戦相手が俺が握っているくれないの大鎌を見てそう叫ぶ。……胴体を斬るだけじゃまだ操れるのか聞いたのにそれを無視するなんてと思ったが、すぐにまぁ、動いても斬ればいいやと考えて一歩相手の方へと俺は足を進めた。それにしても、この学園に来てから初めてこの大鎌を出したけど、相変わらずなぜだか俺の手に馴染んでいる気がする。
 一歩ずつ近づいていく俺に、相手は焦ったように次の"人形"を召喚し、俺に向かわせてくる。どうやら五体満足でないものは操れないか、操りにくいかのどちらからしい。
 そんな事を考えながらその"人形"の頭を斬り落とすと、相手は次々と"人形"を召喚する。別に斬ればいいけど数が多いと面倒だしさっきみたいに引き寄せて一気に斬ろうかな、と思ったけど、相手もそれを警戒してか、召喚する人形は一体ずつになっていた。もちろん斬り落とした。

 「……はははっ。容赦ないね。さっきも言わなかったっけ。ぼくのお人形さんはただのお人形さんじゃなくて」
 「本物の死体だろ。さっき聞いたよ」

 今更どうして同じ事を繰り返したんだろう。本物の死体かどうかってそんなに大切な事なんだろうか。そんな事を思いながらもまた近づいてきた"人形"の首を落とした。
 段々と動悸が激しくなって来るのを感じる。人型ヒトガタのそれを斬っていく度に言いようのない高揚感があって、次から次へと現れるそれを斬っていく。

 「────あはっ」

 もっと斬りたい。もっと、もっと斬らないと。
 そう思って向かってくる人型ヒトガタを全て斬り捨てていく。時折俺より体格の良い人型ヒトガタも現れるけど、そんなもの斬ってしまえば関係ない。そうやって表れる人型ヒトガタを斬って行くと、いつの間にか俺は対戦相手の目の前まで来ていた。
 ……そうだった。俺は魔法大会に出てたんだっけ。それを思い出すと、先程まであった高揚感は消え去っていく。
 まぁ、相手の目の前に来たのなら、このままリボンを奪って終わらせようと相手に近づこうと思って脚を踏み出そうとした。

 「あれ」

 踏み出そうとした脚は何故か動かせなくて、足元を見てみると、下半身が地面に埋まっている幼い子どもの形をした"人形"が力強く俺の脚にしがみついていた。

 「ふふふ……ははははっ!これでぼくの勝ちだ!いやねぇ、実はたまにいるんだよね。本物の死体だって知っても容赦ない人はね!だって彼らは所詮物を言わない。だって死んでるんだからね!何をされたって痛がらないし心もない。なら何をしたところで平気って人がね」

 突然勝ち誇ったように笑うそいつに首を傾げていると、相手はまたニッコリと笑って続ける。

 「その子は特別製なんだ。斬れるものなら斬ってごらんよ。────本当に躊躇ちゅうちょなく斬れるなら……ね」
 
 余裕ぶっているそいつを横目に脚にしがみついているその"人形"を他と同じように斬ってしまおうと大鎌を構える。

「……おにい、ちゃん……ぼくもころしちゃうの……?」

 幼い子ども特有の高く、か細い声でその"人形"はそう言った。予想外の事に少し驚いて、振りかざした大鎌をピタリと止めた。それを見て対戦相手はまた笑いながら口を開く。

 「これがぼくのとっておき。その子には感情もあれば痛覚もある。まるで生きていた頃のようにね。まるで本物の幼い子どものようなその子を他の"お人形さん"みたいに斬って捨てるなんて、出来ないだろう?」

 これで僕の勝ちだ!と余裕ぶって笑う相手を横目に俺の脚にしがみついているそれの腕を残った魔力で斬り落とす。途端にそれは「痛い!痛いよ!うわぁぁぁん!」と大きな声で泣き叫び始めた。そのまま泣き叫ぶそれの首元に大鎌の刃を向けて、斬り落とす。……これで邪魔なものは無くなった。
 大鎌はまだ手に握ったまま、自由になった足で対戦相手の前に立つと、相手は何故か腰を抜かしたかのように地面に座っていた。

 「……えっと、大丈夫か?」
 「……それで、ぼくも斬り捨てる気かい?」
 「しないけど。だって斬ったらルール違反だろ」

 俺がそう答えると相手は、小さな声で「小さな子どもは躊躇なく斬れるのに……」と言ったので、俺はまた口を開いた。

 「でもあれは死体じゃないか。感情があろうとなかろうと関係ないよ。もう死んでるんだからそこから斬ろうと何も変わらない。……そもそも子どもかどうかってそんなに大切なことなのか?」

 所詮はヒトの成体か幼体かの違いだ。人間だって害虫だからと言って名前を出すべきでは無いあの黒い物体の幼体を躊躇なく潰したり殺虫剤を掛けたりして殺すじゃないか。
 そう思って首を傾げていると、相手は諦めた様に笑って続けた。

 「ふふ……はははっ!参ったな。ぼくよりどうかしてる人間が対戦相手だなんてね。ツイてないや。……いや、人間だとも思えない所業だ。もっと得体の知れない何かのような……きっと君のことを言うんだろうね。怪物というものは」

 相手はどこか憑き物が取れたかのように笑いながらそう言うと自分の腕に巻かれたリボンを自らの手で解き、試合終了のブザーが会場に鳴り響いた。
 勝敗が決したのを確認してから控え室に戻ろうと踵を返すが、「全く。どういう風に育てられたらそうなるのかな」と言う声が聞こえたので振り返ってからそれに応えた。

 「生憎、どういう風に育てられたかは覚えてないんだ。……でも昔誰かから教えられた気がするんだ」

────戦いを手っ取り早く終わらせるためには、何よりも良心を捨て去って、躊躇ためらいも放り投げて、ただ全てを斬り捨てる事だけを考えておけば良い。

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