桜ノ森

糸の塊゚

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2章:望執dream truth.

痛む傷

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 あれから二週間ほど経って修学旅行の当日。俺達は学園のグラウンドに集まって、再度修学旅行についてのルールを教師から説明されていた。

 とは言っても多分ほかの学校と違うところなんて、"魔法について"くらいしか無くて、隣の勇樹なんかは眠そうに説明中は船を漕いでいた。
 この二泊三日の修学旅行中は魔法の使用は原則禁止で、基本的に班行動を行い、班のリーダーが"魔封石"を持つように指示され、今回俺達の班のリーダーである直季は先生から魔封石を受け取っていた。

 魔封石はその名の通り、その名の通り魔力を封じる不思議な石の事で、その近くにいる人間は、魔法が使えなくなるらしい。
 そのままでも大抵の人は魔法が使えなくなるその石は、魔封じの力を強くすることも可能で、その方法は先生たちも知らないらしい。
 魔封石は簡単に砕くことが可能で、砕けば魔封じの効果は無くなるので、有事の際は班のリーダーの判断で砕くことが許可されていた。

 「にしても不思議だよねぇ。こうして見ると不思議な色をした、ただのガラス玉に見えるのに、魔力封じる力があるなんてさ」

 朝の点呼を終えて、新幹線に乗り、隣の席で先生から預かった魔封石を覗き込みながらそう言う直季に、俺は割れるといけないからしまった方が良いんじゃないか、と声をかけると、直季は「それもそうだねぇ」と笑いながら持っているリュックサックに魔封石をしまい込んだ。

 「ところで間乃尋くん、さっきから携帯見てるけど、何か調べ物かい?」
 「……うん、まぁ。ちょっと気になることがあってさ。……ほら、前に尋希が言ってた……」
 「イノセンスプラム、だろ?」

 俺とは反対側の直季の隣、窓際の席で眠っていたはずの勇樹はいつの間にか目が覚めていた様で、くぁ、とあくびを漏らしながら話した。

 「うん、そのイノセンスプラムだよ。尋希が言うなら何かあるのかなって思って。それに……」
 「それに?」

 それに、イノセンスプラムという名前はどこかで聞いたことがあった気がした。
 気がするだけで、本当に何か知っているかも分からないから、黙って続きを促す勇樹と直季に、「やっぱりなんでもない」と返す。そしてそのまま俺は続けた。

 「単純にネット検索しただけじゃよく分かんなくてさ。どこも同じような情報ばかりでさ」

 そう言いながら俺は勇樹達に携帯の画面を見せる。

 「ネットによると、イノセンスプラムというのは"裏社会の何でも屋"みたいなものらしい」

 記事の一つにイノセンスプラムに迫ったものがあり、それにはイノセンスプラムは、依頼があれば、それがどんな内容であっても承って、遂行し、そして証拠を何一つ残さず霧のように消える謎の集団、との事だった。
 世間の未解決事件は殆どがイノセンスプラムが関わっているのでは無いか、という憶測も書かれている。

 「……おい、この"イノセンスプラムが起こしたであろう未解決事件"の一番新しい日付の奴見てみろよ」

 勇樹が指さした事件には、『株式会社○○の代表取締役社長並びにそのボディーガードと思われる惨殺死体が廃ビルにて発見』と書かれている。

 「住所は書かれてねぇけど、添付されてる廃ビルの写真……これ、桜の街の建物だぜ」
 「え?そうなのかい?」
 「間違いねぇよ。この事件が発覚したのはつい二週間ほど前……なのに桜の花びらが写りこんでるだろ。春でもねぇのに桜の花びらが舞うのは桜の街以外にありねぇよ」

 言われてみれば写真の隅の方に桜の花びらが映り込んでいるのが見える。
 尋希はこれを知っていたから俺達にあんな警告をしたのだろうか。しかし。

 「……でも、イノセンスプラムは依頼が無ければ動かない……んだよねぇ。いくら近くに居たからってボクらが狙われる理由なんて無いって思えるけどねぇ。それが裏社会の人達からの依頼なら特にねぇ」

 もしかしたら、二年より前を全て無くしてしまった、俺の記憶の中に、そんな連中に狙われる理由があるのだろうか。
 自ら探してもいないけど、今まで既視感のようなものは感じても一切明るみになることが無い、俺の記憶。
 尋希は何か知っているのだろうか。尋希はその理由を知っているから、俺の記憶を取り戻させたくないのか。本人が何も語らない以上はただの憶測にしか過ぎない。

 「安心しろよ。修学旅行先でんな殺人鬼に出会う確率なんてそんな高くねぇよ。いざとなれば魔封石砕けば逃げる事くらいは出来るだろ」
 「そうだねぇ。間違っても撃退しようなんて考えなければ生き残るくらいはいけるよねぇ」

 横でそう言う勇樹達を他所に俺は記事を見ながら考える。

 ────"イノセンスプラムは依頼さえあればなんでも遂行する。それが殺人であっても。"

 記事にはそう書かれているけど、本当に、そうだっただろうか。だって、あいつは殺人とか命を粗末にする行為は嫌っていたはずで────

 「……あいつって、誰だよ」

 勇樹達には聞こえないように俺は小さく呟く。無意識に右手の爪を立てながら握った左腕が、ずき、と痛んだ気がした。
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