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2章:望執dream truth.
真偽夢病
しおりを挟む────勇樹が車に轢かれて意識不明。
そう直季から連絡を貰った俺達はすぐに直季から教えて貰った病院へ駆けつけた。
病院に着くなり誰よりも顔を青くした勇樹の実父……悠仁が受付に走って勇樹の病室を聞き出して、教えて貰った病室に入ると、眠っている勇樹の傍らに座っている直季が、「来たんだねぇ」と笑いながら振り返った。
「先生が言うにはねぇ、運良く怪我は一つも無いみたいで今はただ眠っているだけ、みたいだよねぇ」
一先ず一安心だよねぇ、と直季は笑っていた事で緊張が走っていた空気が落ち着いていくのを感じた。
「なんにせよ無事で良かったですよ。車に轢かれたんですよね?なのに怪我一つ無いなんて勇樹先輩は魔力量だけじゃなく身体もゴリラなんですかね」
いつも通りにそう笑って茶化すのは尋希に、直季が「ほんと、驚きだよねぇ」と笑った。
「ボク、目の前で勇樹くんが轢かれたのを見ちゃったんだけど本当に凄い音だったんだよ。運転手の人も突然勇樹くんが飛び出したから勢い全然落とせなかったみたいなのに、かすり傷ひとつ無いなんてさ」
「えっかすり傷一つ無いんですか!?」
直季の言葉に奏は心底驚愕している。尋希も目を丸くして、「それもはやゴリラってレベルじゃないですよね」と返す。
「びっくりだよねぇ。ボクも最初信じられなかったもん。勇樹くんを追いかけてたら勇樹くん赤信号を突然飛び出すし。……ところで、その人は……」
そう言いながら直季がずっと黙って眠る勇樹を見ている悠仁に声をかけると、未だ顔色の悪いままの悠仁は一言謝ってから口を開いた。
「そういえば君にはまだ紹介していなかったね。花咲悠仁です。知ってると思うけど探偵で……そして勇樹の父です」
「へぇ~勇樹くんのお父さ……お父さん!?エッ!?見えないねぇ!?若すぎない!?」
「あはは……よく言われるよ」
そう言いながら頭を下げる悠仁に直季は驚嘆しながら「はぇ~……?」と悠仁を眺める。少しして奏が「先輩、失礼ですよ」と咎めると、直季はごめんごめん、と笑った。
「いやねぇ、勇樹くんにもちゃんと家族がいたんだぁ……って思ってねぇ。昔から勇樹くんとは学園に来る前の話とかしなかったからねぇ」
「しなかったんですか?」
「うん。……しなかったと言うより出来なかった、の方が正しいかもねぇ」
過去を思い出しているのか、しみじみとした雰囲気で話す直季に、尋希が「できなかった、とは?」と尋ねる。
「そのままの意味だよねぇ。ボクもあんまり話したい事じゃないし、そもそも勇樹くんって学園に来る前の事を一切覚えてないみたいだったからねぇ」
「覚えていなかったのか?」
「うん。全くと言ってねぇ。だから今回の事はボクもかなりびっくりだったんだよねぇ。特に最近は例の発作が頻発しててその分記憶に空白が多かった筈だしねぇ」
「睡眠障害と記憶障害……ってまさか……」
直季の言葉に俺はまさか勇樹も記憶喪失だったとは、と感じていると、尋希は何やら顔色を変えて考え込み始めた。かなり集中しているみたいで、最中に直季や奏が声をかけるも、「いやでも先輩の場合は……」やら「もしかして先輩って……」やらとぶつぶつと呟いている。
そして、最後に「……不老の、名探偵……?」と呟くと、顔を上げて、悠仁を見た。
「そういえば、集会の時に学生時代に事件に巻き込まれて意識不明だったって言ってましたよね」
「う、うん。言ったけど……それがどうかしたのかな?」
戸惑いながら答える悠仁に、尋希はすみません、と一つ謝りながら続ける。
「悠仁さんのご両親、どちらかは僕みたいな朱い目をしていませんでした?」
確信を持って言う尋希に、悠仁は今度は「ごめんね」と言って続けた。
「父は違うってはっきり言えるけど、母は分からないんだ。物心着く前に母は、父に追い出されたらしいから……でも、幼い頃にみた母の写真では朱色だった……かもしれない」
尋希はその答えを聞くと、わかりました、と頷ずく。
「まってまってだよねぇ!わかりましたって何がだい?」
「ちゃんと説明してくれ尋希」
置いてけぼりだった直季と奏が尋希にそう食ってかかると、尋希はまだ、確定したわけじゃありませんが、と言って続ける。
「勇樹先輩のこの所の異変と今なお目覚めない訳がわかった、と思います」
「えっ?勇樹くんはただ眠ってるだけじゃないのかい?」
「それだけなら心底良かったんですけどね。状況はあまり良くない……かもしれません」
「……どういう意味かな」
尋希の真剣な表情でふざけている訳では無い、と分かったらしい直季と奏は動きを止めて静かに尋希の言葉を待っており、悠仁はそう続きを促している。少し拳を強く握ったのが目に入った時、尋希は続けた。
「……僕の故郷に伝わる奇病がありましてね。その奇病は、罹患者に睡眠障害と記憶障害を引き起こします。それが初期症状です」
曰くその奇病は進行すればするほど睡眠障害と記憶障害は酷くなっていき、末期に近づくとそれに加えて精神が不安定になっていくらしい。
「そして、末期になると、罹患者は眠りに落ちます。目覚めるかは本人次第です。目覚めれば無事に完治します」
「目覚めなかったら?」
「目覚めなかった場合、罹患者の存在が世界から消されます」
「世界から消される……?」
「罹患者を眠りに落として罹患者の理想の世界へと導き、現実世界と決別させる奇病……それが真偽夢病です」
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