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2.僕の境遇
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「おい、何をしてる!」
いきなりどなられて僕は内心ビクッとした。
元々気が強いほうではないのに、現在の境遇がさらに僕を内向的にしている。
すぐに返事ができないままでいると、リオンがずかずかとやってきた。
「あ、あの、銀食器を磨いていて…」
「楽な仕事してるんじゃねーよ」
「でも、執事のアルバートさんがこれをやれと…」
「言い訳するな!」
僕の両親も兄もとても穏やかな人たちだった。そんな人達に囲まれて育ったから僕は大きな声をだされるのがとても苦手だ。
それをわかっていて、リオンはわざと大きな声で叱咤してくる。
リオンは僕の父方の従兄弟だ。
両親と兄が亡くなってしまった時、叔父のシドと一緒にロスウェル子爵邸にやってきた。
当時16歳でまだ成人も迎えていない僕は、アカデミーから実家に呼び戻されたものの何をどうしてよいのかわからなかった。
だから叔父が葬式や埋葬などあれこれ采配してくれたのがとても助かったのを覚えている。
だが、葬式が終わると叔父に大切な話があるといって呼ばれ、「身内だし、落ち着くまでは言うのを控えていたが…」と、見せられたのは両親が彼から莫大な借金をしていたという借用書だった。
ロズウェル子爵家は爵位はあるが、名ばかりの貴族といってもいい。収入は所領から納められるそれほど多くもない税くらいだ。
つましく生活するには充分だったが、借金の返済ができるほどの財産もない。結果、借金の対価として爵位や領地を叔父に譲渡することになった。
成年でもなく、お金もない僕はそのまま留まる他はなかった。
そうなると優しかったシドとリオンは態度を急変させ、冷たくなった。
まず彼らがしたことは僕を使用人の部屋の一室に追いやることだった。
せめてアカデミーを卒業していたら家から出て何か職につけたかもしれないが、途中で退学したのでそれもできず、借金が残っていると縛られれば出ていくこともできない。
だから21歳になる現在も、僕はロスウェル家にいて、使用人のように働いている。
いや、使用人のほうが給金をもらえるだけましかもしれない。
5年間、借金の返済分がまだあるということで給料をもらったことがないし、使用人なら支給される衣服ももらえない。
誰かが捨てる寸前の衣服を拾って、それを繕って着ていた。
元々子爵家に使えていた使用人達は僕に同情的で密かに助けてくれていたのだが、彼等は少しずつ解雇されて今は一人もいなくなってしまった。
だから、今いる使用人たちは僕が元子爵家の人間とは知らない。
ただ、シドとリオンが僕に冷たくあたるので、同じように冷たく接するものが多く、そうでないものはかばって自分たちがとばっちりを受けるのを避けるため無視を決め込んでいるようだった。
だが、それでいい。
僕をかばってくれた使用人が叱責され、解雇されてしまうのはもう見たくなかった。
リオンは僕の仕事のあらを探すようにしばしそこで仁王立ちして僕を見ていた。
視線は気になったが、銀食器を磨くのは嫌いではないから僕はいつしかリオンをいるのを忘れて集中していた。
これらは昔から子爵家に伝わっているものだ。あれこれと思い出が浮かぶ。
特別な日にこの銀食器を出して並べたたな、とか、キラキラしてきれいだから勝手に棚から出そうとして父に怒られたっけ、なんて思い出しながら一心不乱に磨いていると、リオンがずかずかと近寄ってきた。
何かされるのではないかと思わず身体をこわばらせたが、リオンの狙いは僕ではなかった。
「おっと」
食器棚から銀食器を出すときに他の食器も出して置いていたのだが、それらをリオンはわざとテーブルから払い落としたのだ。
僕の母が集めて大切に使っていた食器であった。
高くも貴重でもないが、領地の中の工房に行ったときにお花の柄が素敵ね、と言って母が買い集めたものだ。
そんな母の思い出、家族でご飯を食べた思い出もこもっている。
だから、パリン、パリン、とそれらが割れた瞬間、涙が出そうになったが、ぐっと抑える。
リオンはそうやって僕が大切なものを失って感情的になるのを見るのが好きなのだ。もう何年もたつうちに、そんな事もなれてしまい、感情にフタをすることを学んだ。
ものを壊されたり捨てられたとしても、僕の中にある思い出だけは彼らには奪われるわけではないと思う。
「それ、片付けておけよ」
僕が思ったような反応を見せなかったせいか、リオンがつまらなそうな顔をした。そして冷たく言って出て行く。
僕は新たに作られた割れた陶器を片付けるという仕事にとりかかるのだった。
そんな風にその頃の僕の毎日は、辛く、暗く、代わり映えのしないものだった。
時々、あの少年を思い出すことがあった。
フレイ·エメロード。
虐げられていたあの黒髪の少年は今頃どうしているだろうか。
無事にアカデミーを卒業しただろうか。
つらい境遇から脱却できたのだろうか。
元気に生きているだろうか。
そうだといいな、と思い、それから、自分もいつかここから出て自由に生きれたらと思う。
思いだけはいつも自由だから。
いきなりどなられて僕は内心ビクッとした。
元々気が強いほうではないのに、現在の境遇がさらに僕を内向的にしている。
すぐに返事ができないままでいると、リオンがずかずかとやってきた。
「あ、あの、銀食器を磨いていて…」
「楽な仕事してるんじゃねーよ」
「でも、執事のアルバートさんがこれをやれと…」
「言い訳するな!」
僕の両親も兄もとても穏やかな人たちだった。そんな人達に囲まれて育ったから僕は大きな声をだされるのがとても苦手だ。
それをわかっていて、リオンはわざと大きな声で叱咤してくる。
リオンは僕の父方の従兄弟だ。
両親と兄が亡くなってしまった時、叔父のシドと一緒にロスウェル子爵邸にやってきた。
当時16歳でまだ成人も迎えていない僕は、アカデミーから実家に呼び戻されたものの何をどうしてよいのかわからなかった。
だから叔父が葬式や埋葬などあれこれ采配してくれたのがとても助かったのを覚えている。
だが、葬式が終わると叔父に大切な話があるといって呼ばれ、「身内だし、落ち着くまでは言うのを控えていたが…」と、見せられたのは両親が彼から莫大な借金をしていたという借用書だった。
ロズウェル子爵家は爵位はあるが、名ばかりの貴族といってもいい。収入は所領から納められるそれほど多くもない税くらいだ。
つましく生活するには充分だったが、借金の返済ができるほどの財産もない。結果、借金の対価として爵位や領地を叔父に譲渡することになった。
成年でもなく、お金もない僕はそのまま留まる他はなかった。
そうなると優しかったシドとリオンは態度を急変させ、冷たくなった。
まず彼らがしたことは僕を使用人の部屋の一室に追いやることだった。
せめてアカデミーを卒業していたら家から出て何か職につけたかもしれないが、途中で退学したのでそれもできず、借金が残っていると縛られれば出ていくこともできない。
だから21歳になる現在も、僕はロスウェル家にいて、使用人のように働いている。
いや、使用人のほうが給金をもらえるだけましかもしれない。
5年間、借金の返済分がまだあるということで給料をもらったことがないし、使用人なら支給される衣服ももらえない。
誰かが捨てる寸前の衣服を拾って、それを繕って着ていた。
元々子爵家に使えていた使用人達は僕に同情的で密かに助けてくれていたのだが、彼等は少しずつ解雇されて今は一人もいなくなってしまった。
だから、今いる使用人たちは僕が元子爵家の人間とは知らない。
ただ、シドとリオンが僕に冷たくあたるので、同じように冷たく接するものが多く、そうでないものはかばって自分たちがとばっちりを受けるのを避けるため無視を決め込んでいるようだった。
だが、それでいい。
僕をかばってくれた使用人が叱責され、解雇されてしまうのはもう見たくなかった。
リオンは僕の仕事のあらを探すようにしばしそこで仁王立ちして僕を見ていた。
視線は気になったが、銀食器を磨くのは嫌いではないから僕はいつしかリオンをいるのを忘れて集中していた。
これらは昔から子爵家に伝わっているものだ。あれこれと思い出が浮かぶ。
特別な日にこの銀食器を出して並べたたな、とか、キラキラしてきれいだから勝手に棚から出そうとして父に怒られたっけ、なんて思い出しながら一心不乱に磨いていると、リオンがずかずかと近寄ってきた。
何かされるのではないかと思わず身体をこわばらせたが、リオンの狙いは僕ではなかった。
「おっと」
食器棚から銀食器を出すときに他の食器も出して置いていたのだが、それらをリオンはわざとテーブルから払い落としたのだ。
僕の母が集めて大切に使っていた食器であった。
高くも貴重でもないが、領地の中の工房に行ったときにお花の柄が素敵ね、と言って母が買い集めたものだ。
そんな母の思い出、家族でご飯を食べた思い出もこもっている。
だから、パリン、パリン、とそれらが割れた瞬間、涙が出そうになったが、ぐっと抑える。
リオンはそうやって僕が大切なものを失って感情的になるのを見るのが好きなのだ。もう何年もたつうちに、そんな事もなれてしまい、感情にフタをすることを学んだ。
ものを壊されたり捨てられたとしても、僕の中にある思い出だけは彼らには奪われるわけではないと思う。
「それ、片付けておけよ」
僕が思ったような反応を見せなかったせいか、リオンがつまらなそうな顔をした。そして冷たく言って出て行く。
僕は新たに作られた割れた陶器を片付けるという仕事にとりかかるのだった。
そんな風にその頃の僕の毎日は、辛く、暗く、代わり映えのしないものだった。
時々、あの少年を思い出すことがあった。
フレイ·エメロード。
虐げられていたあの黒髪の少年は今頃どうしているだろうか。
無事にアカデミーを卒業しただろうか。
つらい境遇から脱却できたのだろうか。
元気に生きているだろうか。
そうだといいな、と思い、それから、自分もいつかここから出て自由に生きれたらと思う。
思いだけはいつも自由だから。
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