不服従のSUBにDOMはかしずく

鳥海あおい

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21.アレクシス

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「よく寝てましたね」

隣の席からアレクシスが声をかけてきた。
その前には機内食が置かれている。
ビジネスだからエコノミーの殺風景な機内食と違い、和食のコースが綺麗なお皿に懐石風にのように盛り付けられて置かれているた。

桐原が微睡みから冷めたのはこれらの準備にキャビンアテンダントが行き来していたからその気配ゆえだろう。
彼の覚醒を見てとりキャビンアテンダントが和食か洋食か聞きにきたが、食欲がない桐原は食事を断り、ミネラルウォーターで喉を者を湿らせるにとどめたた。

「食べないの?ケイは痩せすぎだからもっと食べないと」

「今はお腹がすかなくて」

健啖家らしく、アレクシスはあっというまに食事をデザートまでペロリと食べ尽くしてしまう。
気持ちいいくらいの食べっぷりで、活力に溢れた人間は、全てにおいて貪欲なのかもしれない。
付き合いにおいてもアレクシスはその時々で違う相手を連れていてエネルギッシュさを感じる。
DOMだからということを差し引いても、犬飼だけを相手にしていても面倒さを感じてしまう桐原とは雲泥の差だった。

今回、フライトが一瞬になったのは偶然のことだった。
飛行機に乗る前に立ち寄ったビジネスクラスのラウンジで、アレクシスと遭遇してしまった時、桐原は本当に驚いた。 
夜のサロンでの穏やかな紳士の姿とまた違い、アレクシスは活力に溢れ、かつ傲然としていた。
ひっきりなしに鳴る携帯に数ヵ国語を駆使し、テキパキと対処してゆくのはさすがだと感心する。

「ケイは仕事でアメリカへ?」

「そうです。オンラインミーティングで充分だと思うのですが」

「オンラインは効率的だけれども、やはり直接に勝るものはないよ」

アレクシスがにこやかに会話をふってくるのに答えながら、桐原はノートパソコンを開いた。
羽田空港までまだまだ時間があるため、仕事をしようと思ったのだが、画面を起動させようとした時に、アレクシスがやんわりとそれを遮った。

「ケイ、ちょっとよいかな?」

「なんですか?」

するりと席を隔てるテーブルに身を乗り上げるようにしてアレクシスは身を寄せてきた。

「パートナーを探していると言っていたけど、私のパートナーにならない?」

前置きもなくストレートな申し入れはアレクシスらしいが、この場でというの激しいは抵抗があった。

「その話題は、こんな所では…」

「大丈夫。誰も聞いていないよ」

声をひそめてはいるが、やはりデリケートな話題だけにこの話題をこんなところでと思うが、アレクシスは気にした様子もない。
桐原は思わず周りを見回した。
閑散期なのか、ビジネスクラスの座席にはアレクシスと桐原しかいないことに安堵する。
そもそも隣同士のビジネスカジュアルの二人が話していても普通は仕事の話としか思わないだろう。

アレクシスがパートナならどうだろうか。
プレイの相性はやってみないとわからないが、アレクシスは見た目、人格も立場も申し分ない。仕事の話なども同等にできるだろうし、モテるだろうから解消したいといっても執着されることもないだろう。
願ってもない申し出ではあるはずなのに、いざ言われると桐原は何故か即答できなかった。
桐原はちらついた犬飼の顔を一旦心から締め出した。

「何故俺を?」

「ケイが私の好みとドンピシャだからというのが一番の理由かも。社会的な立場も釣り合い的にまあまあだし、それに理知的で話しもあうし」

なんかビジネスライクな、自分と似たようなことを考えてるなと思い、苦笑する。

「でもあなたにはそういう条件にあう相手はたくさんいるんでしょう?」

「あとは、簡単に従わない精神力を持つSUBと信頼関係を築けたときのほうが、DOMのプレイの満足感は大きい。そしてDOMに耐性が強いSUBはめったにいない。特定のパートナーを持つ主義ではなかったけれど、ケイが私と付きあってくれるなら宗旨変えしてもいいかな」

とつとつと話していた言葉が、急に艶を帯びた。
男としての魅力に溢れたこの男にどんな形であっても選ばれるというのは、桐原の自尊心をくすぐった。
ストレートな物言いは悪い気はしない。
だが、プレイで従わないのは“不服従“のコマンドありきではなかったのではないだろうか。 
思わず思案する。
桐原の知識ではわかりかねた。

「買いかぶりでは?俺があなたを満足させられるのかどうかはわからないけど、あなたと付きあうのはプレイパートナーとして?恋人として」

「もちろん両方。ケイはどういうプレイが好き?」

「…俺はまだOKしてない。もしプレイに体の関係を求めているならお断りします」

アレクシスの伸びてきた手を払う。
いきなり無頓着に心身に強く踏みこまれたので、距離感を示すために桐原ははっきり言った。
断られることなど微塵も思っていなかったのだろう。アレクシスは一瞬驚いたようだが面白そうな顔をした。

「まだ、というのは余地あり?プレイするときにコマンドのやりとりで終わり?今のパートナーともそんな感じにストイックなプレイなの?コマンド使ったプレイセックスはしないの?」

「…しない」

「ふーん、まだケイは本当のSUBの快感を知らないんだね」

いつもの紳士の顔から傲慢なDOMの顔を覗かせるさまは、桐原を苛立たせもするが、その傲慢さも彼の魅力と認めざるを得ない部分もある。
それに普段は猥談などしなそうなアレクシスの口からそういった言葉が出るとやたらと淫猥に感じて、思わずぞわっとする。先程の淫夢の影響もあるかもしれない。

「---知りたくない」

「…嘘だね」

グレアは発していないが、DOMらしい強い視線で、アレクシスは桐原を見た。

「ケイの本能は望んでるはずだ。本当は、その抗いを覆すような強いDOMの支配受け、従いたがっている」

その言葉もコマンドではないのに力強く桐原の胸に刺さった。
だんだんSUBの深淵を見るにつけ、それが全く否定できることなのかわからない気がした。
たしかに、毎回サブスペースに入った時の満ち足りた感じに性的な快楽が加わったら、たまらなく気持ちがよいはずだろう。
桐原も男だから気持ちよいことは嫌いではない。
が、やはりDOMの、というか他人の思い通りになるのが面白くないのだ。

「まあ、ケイがお固いのはわかった。まあ君の流儀に従うのもおもしろそうだから、プレイに関してはas you wishお望みどおりにでいいよ、お姫様」


会話の流れで何だか、なし崩しにプレイするような雰囲気になってしまったと思ったが、桐原はまあなるようになるかと思い直した。

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