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閑話1 闇の魔導師と吸血鬼
しおりを挟む家畜教育施設オルガズムテンペストに一本の電話が入った。
「はい、オルガズムテンペスト…って、何だ、ヨーコじゃないか。久しぶりだな。…あん?何だって?ダンジョンの…闇の魔導師が?…ああ?…うん?撮影をして?…はあ?」
電話の向こうの人物と会話をしながら、バドライクは始終、不思議そうに首を傾げている。
何度か会話を交わし、電話を切る。
「…エログロスの躾」
ポリポリと後頭部をかきながら、バドライクは呟いた。
とあるダンジョンの大家をしているヨーコは、そのダンジョンの借主であるエログロスを連れ、バドライクの家畜教育施設オルガズムテンペストへと足を向けていた。
バドライクとヨーコは年齢が近く、同じ闇の力を持つ存在だ。もはや友人と言っても過言ではない。
そしてこのエログロス。世界最強の闇の魔導士という肩書きを持ち、ダンジョンの管理者をしている推定五百歳の美青年である。
詳しくは『エロトラップダンジョン!!管理者エログロスの楽しみ』を読まれたし。
それはさておき、今日、エログロスは大家のヨーコに厳重に縄で縛られ、バドライクの店へと連れられてきたのだ。
世界最強の闇の魔導師ともなれば、縄の拘束を解くくらい屁でもないと思いきや、何とこの大家のヨーコ、実を言うと、千年以上を生きる、いにしえの大魔女である。
彼女の黒魔術にかかればエログロスなど、赤子の手を捻るようなものである。
つまり、エログロスはヨーコには勝てないということだ。ヨーコの黒魔術により、縄は見えない何かで呪われているため、ちょっとやそっとでは解けない。
バドライクの店に来たヨーコの顔は、何やら少し怒っているようであり、バドライクは恐る恐る尋ねてみた。
「なあ、ヨーコ。電話で言ってたのって、本当にするのか?」
「ええそうです!!これはワタクシからのれっきとした以来ですし、報酬もしっかりと払います!!とにかくこのエログロスさんを、しっかり、しーっかりと躾けてくださいまし!!ついでにその状況を撮影して、DVDに焼いてワタクシにください!!エログロスさん、今度の今度は許しませんから、覚悟してくださいまし!!」
「うううっ、ヨーコさん~っ」
「泣いても叫んでも許しません!!」
かなりヨーコは頭に来ているようで、エログロスは完全に縮こまっている。バドライクは視線を泳がせながらヨーコに言う。
「ええっと、それでだが。躾はいいけどよ、具体的にはどんな感じに躾けたいとかあるか?希望があるなら、出来る限り応えるつもりだが…」
「内容?そんなものはどうでもいいんです!!とにかくエログロスさんのお尻を激しく責め上げて、いっぱい鳴かせて差し上げてくださいまし!!」
「うえええええっ!?そ、そんなっ、ヨーコさぁーんっ」
「お黙りなさい!!」
とにかくヨーコは怒っていた。こうなってしまえば誰の手にも負えない。言う通りにするしかない。腹を決めたバドライクはフウと息を吐き、エログロスを見た。
そして、途方に暮れた様に顔を真っ青にさせたエログロスの体を抱え上げる。
「うひいっ、ちょっ、下ろせっ、おーろーせーっ!!」
「ちょっと黙っとけっ」
ペシンッ
「ぎゃんっ」
余りにも大声で喚くエログロスに、バドライクは面倒くさそうに尻を叩いた。悲鳴を上げて、悔しそうにエログロスはギッとバドライクを睨む。
そんな視線を気にする様子もなく、知らんぷりをしながらバドライクはヨーコに言った。
「依頼は受ける。とりあえず躾けとくから、ヨーコ、おまえ、帰れ」
「むっ、わかりました。ではよろしくお願いしますね」
「ああ…楽しみに待っとけ、DVD」
「うふふふふっ、では、失礼」
ヨーコは、ニコッとバドライクに可憐な笑顔を見せて姿を消した。
取り残されたエログロスはシュンと明らかにしょげた様子で、プクッと頬を膨らませている。
まるで母親に置いてけぼりにされた子供のようで、バドライクは苦笑いしていた。
「おいおい、ムクれてもどうにもならないから諦めろ。ったく、ヨーコを怒らせたらどうなるか、わかってるだろうよ」
「…だってさー、挑戦者が弱すぎるから…」
バドライクはため息を吐きながら、ジロリと抱えたエログロスを横目で見た。
白い肌と長い睫毛、スラリと伸びた長い手足に、赤い唇。
「あ、結構好み」
「は?」
「いやいや、こっちの話だから気にするな」
「…?」
笑いながら含みのある言い方をするバドライクを不振に思い、エログロスはムスッとしたまま俯いた。
実の所、エログロスは美人でスタイルも良い。少し子供っぽい仕草は可愛らしく、かなりバドライクの好みだった。
そこでバドライクは思った。
よし、食おう。
バドライクはエログロスに人の良さそうな顔で、ニカッと笑った。
誰かの叫び声が響いていた。
「僕は帰る!帰るからな!かーえーるーっ!!」
「だから、いい加減観念しろって。お前じゃあ俺には勝てねぇよ」
「煩い!変態!このっ…、燃えろ!!」
「うおっ」
縄を解いて自由にした途端、エログロスはバドライクに攻撃を仕掛けてきた。
エログロスの瞳が光り、バドライクの全身を黒い炎が襲う。そして、黒煙を上げながらバドライクが燃えている。
重ねて攻撃をしようとエログロスの目が光った瞬間、バドライクを覆った炎がパァンッと飛び散り、無傷なままのバドライクが何でもないような顔で目の前にいた。
「俺に勝てるとでも?はははっ、こんな生ぬるい炎、吹けば消えるぞ」
「…っ、くそ…っ!!」
エログロスは慌てて闇の炎を剣の形に変えて斬りかかろうとしたが、一歩遅かった。
ダンッ!!
「うぁ…っ!!」
床に押し倒され、瞬く間にエログロスはアンドレイに取り押さえられてしまった。細身のエログロスでは、アンドレイの体重から逃れることは出来ない。
背中を強かに打ちつけたエログロスは、痛みに顔をしかめながらアンドレイをジロリと見た。
「…このっ、重い!!それに無駄にデカい!!何だよこの筋肉、ミノタウロスかよ、エマんとこの従業員かよ!!」
「エマ?残念ながら俺は牛じゃあない。これでも純粋な吸血鬼だぜ、ヨーコから聞いてなかったか?」
そう言うと、バドライクはエログロスの顎を指で持ち上げ、ツーと唇をなぞった。
身長は2メートルを超え、体重も100kg以上あるバドライクに、エログロスは苛立たしげに舌打ちをした。手を振り上げ、パシッと音を立ててバドライクの手を払った。
そして、鋭い視線を至近距離にいるバドライクに向け、憎しみの込められた声を出す。
「知るか!!…忌々しい吸血鬼め、こうなれば闇の魔道の力で、貴様を払ってやる…!!」
「…おい、それはやけとけよ」
「その硬い肉の内側から、五臓六腑に至るまで全て、全身を焼き尽くしてくれる…」
「おい、聞けって」
ギイイイイイイイン…
バドライクに押し倒されたまま、エログロスは怒りに任せて全身から、黒く禍々しい魔力を滲ませてゆく。目が赤く染まり、血の涙が流れ、全身の血管が浮き上がり始める。
腹の奥底からその強い魔力が溢れ口内へと上り、ドロリと真っ赤な血がエログロスの唇から地面へ落ちる。
怒りでエログロスは全身を黒の魔力で満たし、目の前のバドライクの首にそっと手を伸ばした。血管の浮き出た手に力を込め、バドライクの首を締め上げてゆく。
「殺す」
「…おい、あまりやり過ぎるとお前」
「殺す!!」
「あー、…ったく、おい、エログロス」
バドライクは呆れた様にエログロスを見ると、そのまま顔をエログロスへと近付けた。そして、目から溢れる血をペロリと舐めてしまった。
「!?」
「お、目の色戻った。あんま切れると可愛い顔が台無しだろ、エログロス」
「なっ、何を…っ、やめろっ、…この、やめろって言ってるだろ、うっんんっ!?」
目から溢れる血を舐められ、吃驚したエログロスは、怒りに任せて滲ませていた魔力を消してしまった。
そのままバドライクはエログロスの口から流れる血まで舐め、唇を合わせると、厭らしい音を立てて舌で口内をなぞり始めた。
エログロスは抵抗しようと両手でバドライクの胸を押し上げようとするが、混乱してしまい思うように力が入らない。
「んうううーっ、んううっ、んっ、んっ!!」
ドンドンッ、グッ、グッ
必死に熱い胸板を叩いても、至近距離にいるバドライクには痛くも痒くもない。後頭部に手の平を当てられ、キスは深くなる。厚い舌が自身の舌に絡まり、エログロスは息苦しさで力が抜けてしまう。
クチュ、チュ…
「んっ…、んむうっ…、んんっ、…んー…、ぷはっ!!……はあっ、はあっ、はっ…、なっ、貴様っ、何をっ、何するんだバカーっ!!」
「くはっ、何するも何も、俺は吸血鬼だ。目の前に美味そうな血があったから頂戴したまでのこと」
「だ、だからってっ、舌、舌までっ、入れる必要っ、ないだろバカーっ!!」
「ついでだ、ついで」
「ああああああっ、変態!!バカヤローっ!!」
「照れんなよ」
先程までの怒りとはまた別の怒りで、エログロスの顔は今にも噴火しそうなほど真っ赤になっている。
未だにバドライクはエログロスを押し倒したまま。そのためエログロスは身動きが取れず、ウゴウゴと体を芋虫のように悶えさせ、どうにか抜け出せないかと奮闘している。
しかし、いくら闇の魔導士と言えど、100キロ以上の重りを押し退けるには力が足りない。エログロスはとうとう諦めたのか、体から力を抜いてしまう。顔を横に思い切り逸らし、怒り心頭な様子。
バドライクは苦笑しながらエログロスに言う。
「そんなに怒らなくてもいいだろ?キスなんて挨拶みたいなもんだ」
「はーっ!?あんなのが挨拶だって!?」
「別にいいだろ。それに、結構気持ちよさそうだったぞ」
「どこが!!」
ガルルルッ、と牙を剥きながら起こるエログロスに、バドライクはニッと笑って耳元に唇を寄せる。スルリと手をエログロスの股間に置き、軽く力を入れて囁いた。
「ココも少し感じただろ?少し硬くなってるぜ」
「…っ、やめろ、変態」
パンッとその手を叩き落とされたバドライクは、ニヤリと笑いながらエログロスの上から退くと、素早い動作でエログロスの背中に手を差し入れ、グッと力を入れて立ち上がらせてやった。
タンッと地面を蹴り、距離を取ったエログロスに、バドライクは両手を軽く横に上げ、降参のポーズをしながら口を開いた。
「少し揶揄い過ぎたな、悪かった。今度はもう少し紳士的にしよう」
「今度なんてあるか!!」
「あん?」
「もう二度とこんなとこ来るか!!」
クルッと踵を返し、エログロスは大声で言う。バドライクはククッと笑いながらエログロスを見た。
「おい、忘れてないか?…DVD」
「………あっ…」
「ヨーコが言ってただろ、お前の尻を躾けてやれって」
「ううう、煩いっ」
「じゃあどうすんだよ、DVD」
「うぐぐぐぐっ…っ、うううっ…」
「おいおい、泣くなよ、泣くほどのことかよ」
「うううううっ、泣いてない」
「…はあ、面倒な奴だな…」
バドライクは頭を掻きながら、後ろを向いて泣き出したエログロスを見る。本気で嫌がっている様子に、少しだけ可哀想になり、バドライクは溜め息を吐く。
少し思案するように顎を指で触りながら、上を見上げる。
流石にバドライクもヨーコの依頼を受けたとなれば、やっぱり受けられないと返事を変えるわけにもいかないらしい。
「尻は駄目か?」
「ううう…っ、ううっ…」
「そんなに駄目か?」
「うう…っ、嫌だ…ううううう…っ」
「だから泣くなって。はあ、…駄目かぁー…。うん、仕方ねぇなあ。ヨーコの依頼は俺が適当に見積もって渡しておくから、もう帰れ」
「……本当に?」
「本当に。帰っていいぞ」
そう言ったバドライクに、エログロスはシクシクとべそを掻きながら、チラリと後ろを見た。バドライクの言うことは本当らしく、腕を組んでヨーコに渡すDVDのことを考えているようだ。
目を閉じて唸りながら知恵を振り絞っているらしく、眉間に皺が寄っている。
少し、ほんの少しだけ申し訳ない気になったエログロスは、バドライクを見てションボリとした顔で礼を言った。
「…ありがとう、バドライク。その、…ごめんなさい」
「礼を言われるほどじゃねえから、ほら、とっとと帰れ。もうヨーコを怒らせるんじゃねえぞ」
優しいバドライクの言葉に、エログロスは少し照れたように言う。
「うん、あの、…今度、改めてお礼を言いに来る。兎のみいちゃんでも連れて来るから、撫でてやってくれ。僕の一番可愛がってるペット。多分、アンタも好きな系統だと思う」
「ん?おお、そりゃあ、まあ、楽しみにしてるぜ。可愛いこと言いやがって…」
やけにいじらいいことを言うエログロスに、バドライクは困ったように笑いながら返事をする。ソワソワとポケットの中から一枚の紙を取り出し、エログロスは少し頬を染めてそれをバドライクに見せた。
どうやら写真のようだ。
「みいちゃんの写真、見る?」
「どれどれ…ん?」
バドライクはエログロスの手の平に乗った写真を見るため、スタスタと歩いて近付く。
視線を下げ、写真を見たバドライクの目が少し細まり、ジッと見つめている。バドライクがあまりにも兎のみいちゃんの写真に熱い視線を向けるため、エログロスは嬉しそうに笑った。
「僕の可愛いペット、兎のみいちゃん!!今度一緒に連れて来るな!!それじゃ、またな!!」
「………」
エログロスは大切そうに写真をポケットにしまうと、そのままバドライクの前から去っていった。
残されたバドライクは、ようやく思い出したかのように動き出し、一言。
「あっちの方がミノタウロスだろ」
家畜教育施設オルガズムテンペスト、今日も華麗に元気に、家畜の教育を行っています。
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