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第1章――3 【 修業の日々/吸血鬼の悦楽 】
第25話 修行開始ッッ!!
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陽刻。僕とリリスはシエルレントから少し離れた、見晴らしのいい草原にいた。
「魔物と実戦形式で経験を積んでいくのは来週から。それまでは私と木刀を交えて少しでも剣士としての動き方を覚えて慣れていきましょう」
「はいっ。よろしくお願いします!」
「ふふ。気合いは十分なようね」
木刀を握り締めながら力強く返事すると、リリスはやる気に満ち溢れている僕を見て微笑を浮かべた。
木剣なら実剣よりも軽い分、十分に振り回せるし動けそうだ。
僕は本格的に始まる修行を前に思わず武者震いしながら、右手に持つ木剣を握り締めるとゆっくりと構えた。
ちなみに僕の修行方法はというと至ってシンプルなものだ。僕と同じく木剣を構えるリリスにひたすら攻撃する――いわゆる模擬戦というやつだ。
「でも、本当に素振りとかしなくていいの?」
「やりたきゃやりなさい。それも剣に慣れるという意味では重要な修行の一つだから。ただ、同じ動作を延々と繰り返す修行なんて私はやっても見てても退屈だからセンリにやらせないだけ。あとあれ疲れるし」
「あはは。最後のがやりたくない一番の理由なんだね」
たしかに素振りとかリリスは苦手そうだ。と僕は思わず苦笑いをこぼす。
「攻撃は基本的にセンリから打ち込んできなさい。私がそれを全部受けるから。あ、先に忠告しておくけど、私が女だからって手加減したら痛い目見るわよ」
「分かった」
「ま、理由は打ち込み合いの中で説明しましょうかね。――はい、好きな時に好きなタイミングで掛かってきてどうぞ」
余裕綽々、といった顔で僕からの攻撃を待ち構えるリリス。挑発とも見て取れるその態度に、僕はやはり一瞬戸惑いながらも、迷いを断ち切るようにぐっ、と柄を握り締め、
「や、やあー!」
「はい全然ダメ」
「ぎゃふん!」
力強く踏み込み、リリスの隙を狙って一撃を入れる――が、振り下ろした剣は容易くリリスに受け止められ、大人が赤子を軽くひねるように押し返された。
そして押し返された勢いでそのまま後ろに吹っ飛ばされて、僕は草原に情けなく倒れ込んだ。
そんな無様な僕をリリスはけらけらと嘲笑いながら、
「センリぃ。貴方、やっぱり手加減したでしょ?」
「いやしてないんだけど……」
「あらそうだったの? あまりに手応えがなかったもんだから女だからって舐められたのかと思っちゃった」
イテテ、と背中をさすりながら、僕は草原から起き上がる。
リリスはそんな僕を見下ろしながら、木刀を肩に乗せて言った。
「どう? これが魔族と人間の差よ」
「たった今痛感させられたよ」
ニタリと笑うリリスに、僕は心の底から感服と畏怖の念を抱く。
これが、魔族の力。
交わしたのはたった一太刀だけ。しかし、それでも僕と彼女の間にある圧倒的な力の差を肌で感じ取った。
――遥か、遥か先だ。リリスが立っている場所は。彼女の隣に立つ、その目標が無謀だと思えてしまうくらい、リリスの底が分からない。
「ほら、これで貴方と私の実力は分かったでしょう」
「――うん」
「今度こそ、本気で掛かって来なさい。でなきゃまた痛い目見るわよ!」
くいくい、と煽るように手をスナップさせるリリスに、僕は厳かに頷いて立ち上がる。
そしてまた、いやさっきよりも強く柄を握り締め、
「やあ!」
「うん。さっきよりはいい。でもそんなじゃまだまだ力不足よ」
「っ⁉」
今度の一撃はより強く踏み込みを入れ、勢いも加えた。故に一撃目よりも速度と威力は上がっているはず、しかし、やはりこの一撃も容易く受け止められ押し返される。
「ほら、休んでる暇なんてないわよ。すぐ打ち込んできなさい」
「くっそ!」
「遅い弱い脆い! スライムの方がまだ力があるわよ!」
打ち込んでは押し返され、打ち込んでは押し返され、そんな攻防が続く。
その間、リリスは息一つ乱れることなく、涼風でも受け止めるかの表情で語った。
「人間と魔族の身体能力と内包する魔力量の差はざっと五倍とされているわ。生まれた時から単純にスペックが違うの。無論、魔族の中でも優秀な者とそうでない者もいるけどね」
「うりゃあ!」
「そして魔族の中でも極めて優秀な種族が三種、龍魔族と魔人族、そして吸血鬼族」
ガチン! と幾度かの攻防へてようやく初めて鍔迫り合いになった。しかし、それがリリスが力を抑えたことは瞬時に理解できた。
「……つまり僕は今、すごく優秀で強い人に教わってるってこと?」
「理解が早くてよろしい」
リリスはにこっと笑って、またまた僕をあっさりと押し返した。
大きく後ろによろめくが、足に踏ん張りを利かせてその場に踏み留まる。
「私は私なりのやり方でセンリを強くしてあげるわ。もちろん、センリが強くなりたいって望むなら、だけどね」
「もちろん。よろしく、お願いします」
「ふふ。その気迫、凄く素敵よ。流石は私のお気に入りね」
額に滲む汗を腕で雑に拭う。湧き上がる高揚感に、思わずニヤリと笑ってしまった僕を見て、リリスは興奮するようにぺろりと舌を舐めずりした。
「うりゃあ!」
「踏み込みがあまーい。もっと相手の動きをよく見て動きなさい」
僕は記憶の中にあるこれまで散々見てきたアニメの剣使いやゲームキャラの刀技を思い出しながら、リリスに果敢に剣撃を打ち込んでいく。
「そりゃ!」
「今のセンリに大振りは無茶よ。動きが単調な分威力を求められる技なのに、貴方ドン引きするくらい腕力ないんだからそんな攻撃迂闊にしちゃダメ」
真正面から振り下ろすように一撃。だがリリスの言う通り僕の腕力がないせいで威力を伴わず、呆気なく防がれて受け流される。
「おりゃっ!」
「態勢を立て直すのが遅い。腕力を鍛える以前にまずは体幹を鍛えた方がいいかもしれないわね。あと息も乱れるが早すぎる。ちゃんと攻撃の間に息継ぎをしなさい」
「わ、わか、った……」
露骨に威力が下がった攻撃はこれまで以上に軽く受け止められた。
「よし。一旦休憩にしましょうか」
「ぜぇ、ぜぇ……だい、じょうぶ……まだ、やれるよ」
「死んだ顔して言っても説得力がない。急いで強くなる必要も今は特にないんだから、無理せず適度に休みながら修行を続けていきましょ。なに、時間はたっぷりあるわ」
「……わ、分かった。それじゃあ、お言葉に甘えて、ちょっと休むね」
「安心しなさい。このリリス先生が、ちゃーんとセンリを強くしてあげるわ」
決め顔で己の胸に手を当てて、堂々とそう約束してくれたリリス。そんな彼女の頼もしさに、逸る気持ちを救われて。
「――うん。これからよろしくお願いします。リリス」
「ふふ。それじゃあ、五分後にまた再開するわよ」
「はいっ!」
こうして、僕の修行の日々が始まった――。
「魔物と実戦形式で経験を積んでいくのは来週から。それまでは私と木刀を交えて少しでも剣士としての動き方を覚えて慣れていきましょう」
「はいっ。よろしくお願いします!」
「ふふ。気合いは十分なようね」
木刀を握り締めながら力強く返事すると、リリスはやる気に満ち溢れている僕を見て微笑を浮かべた。
木剣なら実剣よりも軽い分、十分に振り回せるし動けそうだ。
僕は本格的に始まる修行を前に思わず武者震いしながら、右手に持つ木剣を握り締めるとゆっくりと構えた。
ちなみに僕の修行方法はというと至ってシンプルなものだ。僕と同じく木剣を構えるリリスにひたすら攻撃する――いわゆる模擬戦というやつだ。
「でも、本当に素振りとかしなくていいの?」
「やりたきゃやりなさい。それも剣に慣れるという意味では重要な修行の一つだから。ただ、同じ動作を延々と繰り返す修行なんて私はやっても見てても退屈だからセンリにやらせないだけ。あとあれ疲れるし」
「あはは。最後のがやりたくない一番の理由なんだね」
たしかに素振りとかリリスは苦手そうだ。と僕は思わず苦笑いをこぼす。
「攻撃は基本的にセンリから打ち込んできなさい。私がそれを全部受けるから。あ、先に忠告しておくけど、私が女だからって手加減したら痛い目見るわよ」
「分かった」
「ま、理由は打ち込み合いの中で説明しましょうかね。――はい、好きな時に好きなタイミングで掛かってきてどうぞ」
余裕綽々、といった顔で僕からの攻撃を待ち構えるリリス。挑発とも見て取れるその態度に、僕はやはり一瞬戸惑いながらも、迷いを断ち切るようにぐっ、と柄を握り締め、
「や、やあー!」
「はい全然ダメ」
「ぎゃふん!」
力強く踏み込み、リリスの隙を狙って一撃を入れる――が、振り下ろした剣は容易くリリスに受け止められ、大人が赤子を軽くひねるように押し返された。
そして押し返された勢いでそのまま後ろに吹っ飛ばされて、僕は草原に情けなく倒れ込んだ。
そんな無様な僕をリリスはけらけらと嘲笑いながら、
「センリぃ。貴方、やっぱり手加減したでしょ?」
「いやしてないんだけど……」
「あらそうだったの? あまりに手応えがなかったもんだから女だからって舐められたのかと思っちゃった」
イテテ、と背中をさすりながら、僕は草原から起き上がる。
リリスはそんな僕を見下ろしながら、木刀を肩に乗せて言った。
「どう? これが魔族と人間の差よ」
「たった今痛感させられたよ」
ニタリと笑うリリスに、僕は心の底から感服と畏怖の念を抱く。
これが、魔族の力。
交わしたのはたった一太刀だけ。しかし、それでも僕と彼女の間にある圧倒的な力の差を肌で感じ取った。
――遥か、遥か先だ。リリスが立っている場所は。彼女の隣に立つ、その目標が無謀だと思えてしまうくらい、リリスの底が分からない。
「ほら、これで貴方と私の実力は分かったでしょう」
「――うん」
「今度こそ、本気で掛かって来なさい。でなきゃまた痛い目見るわよ!」
くいくい、と煽るように手をスナップさせるリリスに、僕は厳かに頷いて立ち上がる。
そしてまた、いやさっきよりも強く柄を握り締め、
「やあ!」
「うん。さっきよりはいい。でもそんなじゃまだまだ力不足よ」
「っ⁉」
今度の一撃はより強く踏み込みを入れ、勢いも加えた。故に一撃目よりも速度と威力は上がっているはず、しかし、やはりこの一撃も容易く受け止められ押し返される。
「ほら、休んでる暇なんてないわよ。すぐ打ち込んできなさい」
「くっそ!」
「遅い弱い脆い! スライムの方がまだ力があるわよ!」
打ち込んでは押し返され、打ち込んでは押し返され、そんな攻防が続く。
その間、リリスは息一つ乱れることなく、涼風でも受け止めるかの表情で語った。
「人間と魔族の身体能力と内包する魔力量の差はざっと五倍とされているわ。生まれた時から単純にスペックが違うの。無論、魔族の中でも優秀な者とそうでない者もいるけどね」
「うりゃあ!」
「そして魔族の中でも極めて優秀な種族が三種、龍魔族と魔人族、そして吸血鬼族」
ガチン! と幾度かの攻防へてようやく初めて鍔迫り合いになった。しかし、それがリリスが力を抑えたことは瞬時に理解できた。
「……つまり僕は今、すごく優秀で強い人に教わってるってこと?」
「理解が早くてよろしい」
リリスはにこっと笑って、またまた僕をあっさりと押し返した。
大きく後ろによろめくが、足に踏ん張りを利かせてその場に踏み留まる。
「私は私なりのやり方でセンリを強くしてあげるわ。もちろん、センリが強くなりたいって望むなら、だけどね」
「もちろん。よろしく、お願いします」
「ふふ。その気迫、凄く素敵よ。流石は私のお気に入りね」
額に滲む汗を腕で雑に拭う。湧き上がる高揚感に、思わずニヤリと笑ってしまった僕を見て、リリスは興奮するようにぺろりと舌を舐めずりした。
「うりゃあ!」
「踏み込みがあまーい。もっと相手の動きをよく見て動きなさい」
僕は記憶の中にあるこれまで散々見てきたアニメの剣使いやゲームキャラの刀技を思い出しながら、リリスに果敢に剣撃を打ち込んでいく。
「そりゃ!」
「今のセンリに大振りは無茶よ。動きが単調な分威力を求められる技なのに、貴方ドン引きするくらい腕力ないんだからそんな攻撃迂闊にしちゃダメ」
真正面から振り下ろすように一撃。だがリリスの言う通り僕の腕力がないせいで威力を伴わず、呆気なく防がれて受け流される。
「おりゃっ!」
「態勢を立て直すのが遅い。腕力を鍛える以前にまずは体幹を鍛えた方がいいかもしれないわね。あと息も乱れるが早すぎる。ちゃんと攻撃の間に息継ぎをしなさい」
「わ、わか、った……」
露骨に威力が下がった攻撃はこれまで以上に軽く受け止められた。
「よし。一旦休憩にしましょうか」
「ぜぇ、ぜぇ……だい、じょうぶ……まだ、やれるよ」
「死んだ顔して言っても説得力がない。急いで強くなる必要も今は特にないんだから、無理せず適度に休みながら修行を続けていきましょ。なに、時間はたっぷりあるわ」
「……わ、分かった。それじゃあ、お言葉に甘えて、ちょっと休むね」
「安心しなさい。このリリス先生が、ちゃーんとセンリを強くしてあげるわ」
決め顔で己の胸に手を当てて、堂々とそう約束してくれたリリス。そんな彼女の頼もしさに、逸る気持ちを救われて。
「――うん。これからよろしくお願いします。リリス」
「ふふ。それじゃあ、五分後にまた再開するわよ」
「はいっ!」
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