憧れの異世界で極楽至上のハーレムを

ゆのや@1作品書籍化!!(予定)

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第1章――3 【 修業の日々/吸血鬼の悦楽 】

第32話 復讐の化身

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――そこはとある町の酒場。

「少し訊ねたいことがある」

 顔が半分以上隠れるほど深いローブを被った男は、昼間から酒をあおる中年の男に目を付けると席にも座らず唐突にそう言った。

 不躾ぶしつけに声を掛けられた中年の男は露骨に岩層に眉間の皺を深め、ぐいっと酒を呷ると乱暴にグラスをテーブルに置いた。

「……んだテメェ。いきなり」
「もちろん質問に答えてくれたら報酬は払おう」

 中年の男が放つ険吞な空気に瞬時に周囲がピリッとしたが、ローブの男はそんなことは気にも留めずに淡々と話を進める。

 ローブの男はポケットから布袋を取り出すと、テーブルに投げ出すように中身を出した。

 布袋の中身は硬貨だった。額は、中年男性が「ほぉ」と思わずうなるほどには積まれていた。

「どうだ。受ける気になったか」
「質問に答えるだけでこんなに貰えるなら確かには破格だが、だが内容次第になるな」
「返答次第なら更に弾んでやる」

 ローブの男の言葉に中年男性の目の色が変わる。

 中年男性は頬杖をつくと、ローブの男に隣に座るよう促すがそれは首を横に振られた。中年男性は少し拗ねた風に鼻息を吐きつつ、

「いいだろう。俺に何が聞きたい?」
「この女を見なかったか」
「女?」
「そうだ」

 怪訝に眉を顰める中年男性の前にかざされたのは一枚の似顔絵だった。

「なんだってこの女を探してんだ?」
「それに答える道理はない。アンタはただこれを見て、ただ俺の質問に答えろ」

 中年男性はローブの男のあまりに高圧的な態度に眉根を寄せたが、それでも質問に答えるだけでこの酒代だけでなく数日分の酒代が手に入るなら、と上がりかけた手を抑えた。

「さっさと答えろ」
「……はぁ」

 中年男性は気を改めて、突き出された似顔絵と睨めっこする。

 まず見て特徴的だったのが赤髪。となるとローブの捜し人は人間じゃなく魔族か。紙を染めている線もあるが、目も同じ赤色で描かれているからほぼ魔族で確定だろう。

 顔はかなり若いし美しく描かれている。おそらく年齢は十代か二十代……、

「言っておくがコイツは見た目と年齢は合わないぞ。少なからず百年は生きている」

 エスパーかよ、と中年男性は頬を引きつった。

 しかし絵でここまで美しく描かれている女性と出会っているならすぐに思い出しそうなものだ。なんせここは男の溜まり場で、そのオッサン臭が充満する場所に自分は毎日通っているのだから。そんな場所に似顔絵の女が来たなら、日々女に飢えている雄共が下半身の懐刀をギンギンにさせてその女に迫ることだろう。当然、自分もその内の一人だ。

 ここ最近はそんな地獄絵図はこの酒場で起きてないな、と中年男性は一人頷くと、ローブの男に返答した。

「悪いがこの酒場でこの女は見たことはねぇ……」
「……そうか」

 ――いや。ちょっと待って。

 この酒場じゃなければどうだったか。

 そういえばいつだったか。このローブの男の容姿にそっくりな人物が自分の前に訊ねに来たような。

『ちょっと訊きたいことがあるんだけど。ここからシエルレントへ向かう馬車はあるかしら?』
「――っ!」

 それは中年男性にとって雷に打たれたような衝撃だった。点と点が線で繋がったような、酔いも吹き飛ばすほどの衝撃。

 そんな快感は中年男性にとって生まれて初めての経験で、それはさながら自分が名探偵にでもなった快感エクスタシーを与えた。

 そしてその快感は、一ヵ月以上も前の、ほんのわずかな光景を鮮明に思い出させるまでに至らせた。

「ちょっと待ちな。アンタが探してる奴かは分からないが、その似顔絵と同じ髪色の女なら会ったかもしれない」
「っ⁉ 本当か⁉」

 それまで機械のように冷徹だったローブの男が初めて感情なるものを覗かせた。それに中年男性は驚きながらも、しかし今までにない高揚感に背中を押されるように「あぁ」と頷いた。

「だがもう念押しで言うが、その女がはたしてアンタが探してる奴じゃないかもしれねぇ」
「何でもいい。とにかく情報が欲しいんだ」

 中年男性は「必死だな」と一つ息を吐くと、

「前に一度、アンタと格好がよく似た奴に声を掛けられてな。フードを目深に被っていて顔は見えなかったが、髪が赤かった。そんで声からして女だった」
「声を掛けられたということは、そいつの何か話したな?」
「あぁ。ある町に行く方法を聞かれたよ」
「その町は?」

 顔は見えない。けれどローブの男の声音がわらにもすがるほどなのは伝わってくる。

 中年男性は胸にわずかな嫌な予感を覚える。しかしその先を促したのは追加の硬貨でもローブの男の必至さに心を打たれたからでもなく、ただ名探偵の気分から抜け出せない高揚感だった。

「――シエルレント、だ」
「……シエルレント」

 その言葉を男が復唱した時、見えるはずのないローブの奥底に隠れた男の双眸が煮え滾る紅蓮のように燃えたのを中年男性は感じ取って、そして底知れない恐怖に思わず全身が震えた。

「助かった。これは追加の報酬だ」
「おい待てアンタ! その女を捜し出して、いったいどうする気だ?」

 ローブを翻して男が酒場から出て行こうとする直前、中年男性は咄嗟にそう問いかけた。その投げた問に、ローブの男は振り返ることもなく、

「お前がそれを知る道理はない」

 最後の問いかけへの答えは、男の拒絶で強制的に幕を切られた。

 *****

 それは、復讐の化身。

 全てを捨ててでもただ一人を殺す。そのために選んだのは、修羅の道。

 この身を焦がすほどの憎悪に身を焼かれ続けて、膨れ上がる殺意に意識が狂っていく。既に、己が正気か正気じゃないのかも区別がつかなくなっている。

 尽きぬ憎悪と怨嗟と憤怒に呑まれた身体はただ一つの目的の為に動いている。

「待っていろ。赤髪の吸血鬼――リリス!」

 青年を突き動かすドス黒い感情に呼応するように、腰に携えた剣は、怪しく光りを放った――。
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