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第1章――4 【 連続殺人事件/吸血鬼の警鐘 】
第36話 マーガレット
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「うーん。今日はどのクエストを受けよっか。たまには討伐じゃなくて捕獲系のクエストを受けるのも面白そうだよね」
「ふあぁ。貴方の好きにしなさいな」
ギルドにて。立掛け版に張り出されたクエストと睨めっこしている最中のことだった。
「ねえちょっと、そこのお二人さん」
「あ、すいません。邪魔でしたよね」
「どけって意味で声を掛けたんじゃないわよ」
「?」
不意にツインテールが特徴的な女性に声を掛けられた僕たち。
ギルドにいるということは同じ冒険者の人か。見れば防具や腰には細剣が携えられているし、その見解で間違いないだろう。
「ええと、僕らに何か用かな?」
「もちろんあるわ」
女性は首肯すると、己の胸に手を当てて自己紹介した。
「私の名前はマーガレット」
「マーガレットさん」
「さん、なんて堅苦しい呼び方はしなくていいわよ。気軽にマーガレットでいいわ」
「それじゃあ、マーガレット」
呼び捨てで名前を呼ぶとマーガレットは「よろしい」と満足げに笑みを浮かべた、どうやらフレンドリーな人っぽい。
次は僕たちが名乗る番、と口を開こうとすると、マーガレットは「待った」と手を突き出して、
「名乗らなくても貴方たちのことはもう知ってるわ。センリとリリス、よね」
「うわすごい。なんで知ってるの?」
同じギルドのメンバーとはいえ、僕たちとマーガレットとは初対面のはずだ。驚く僕にマーガレットは腕を組んで答えた。
「このギルドで活動していれば嫌でも貴方たちの名前を聞くわよ。最近、数々の討伐クエストをこなしている異色のコンビがいるってね」
「それが僕たちってこと?」
「他に誰がいるのよ!」
マーガレットはリリスに向かってビシッと指を差し、
「特にアナタはね。魔族の吸血鬼が一人の人間に固執してるって、ギルドだけじゃなくてこの町でも噂になってるわよ」
「それが何よ。確かに私たちが特定の人間と行動を共にするのは珍妙がられるけど、おかしいことではないでしょ。私とセンリは旅のパートナーなんだから」
そう言ってリリスはマーガレットに見せつけるように僕を抱きしめてきた。
「ちょっとリリス⁉ ここで抱き着くのは止めてよ」
「いいじゃない減るもんじゃないし」
「それを公衆の場でやられると、物凄く周囲の視線を集めるんだよ……」
特に男性の比率が高いこのギルド内では嫉妬の視線で射殺されるなるほど睨まれる。痛い。男性陣の嫉妬の視線が。……なんかすいません。
「ぐぬぬ! こんな色欲まみれの連中が強いなんてありえない⁉ ……本当に貴方たちが人食いブラッディ・ポーラを倒したのか疑心になるわ」
「もちろん倒したわよ。センリがね」
「トドメを差したのはリリスでしょ」
猜疑心を向けてくるマーガレットはリリスの言葉を聞くと、僕を見つめてきて、
「……ふぅん。吸血鬼の方じゃなくて、貴方がねぇ」
「あ、あはは。信じられないよねぇ」
「信じてないって訳じゃないけど、こんなひょろひょろな見た目な奴がとは思ってるわ」
それを信じてないって言うんだよなぁ。
じぃ、と僕を見つめてくるマーガレットに微苦笑を浮かべていると、リリスが彼女の態度に苛立ちを覚えたのかムッとした顔になった。
「センリは着やせする子なのよ。脱いだら結構筋肉あるんだから。なんなら今脱がせて見せてあげましょうか」
「なに勝手に脱がそうとしてるのさ⁉」
人の服に手を掛けたリリスを慌てて止める。不服気なリリスにめっと叱っていると、マーガレットが呆れた風に肩を落としていた。
「べつにひょろひょろだろうが筋肉質だろうがそのことに興味はないわよ。私が興味あるのは貴方たちの冒険者としての腕前。その為に声を掛けたの」
「というと?」
マーガレットの言葉にはて、と小首を傾げる僕とリリス。そんな僕たちに彼女は挑戦的な眦を向けて告げた。
「お二人さん。今日は私とパーティーを組まない?」
*****
「へえ! センリ、貴方見た目のわりに強いのね!」
「あ、あはは。僕ってそんなに弱そうに見えるかな?」
というわけで現在、僕とリリスはギルドで出会った女剣士のマーガレットと臨時のパーティを組み、共にクエストをこなしていた。
ちなみに今回受けたクエストは湖畔に出没しているアーマーダイルという鰐とよく似た魔物の討伐だ。
湖畔の生態系を崩すほどの暴食性と釣り人を襲う凶暴性が危惧されこれまで何度か討伐が行われたらしいが、個体数が増すばかりで徐々に手が付けられなくなっていったそうだ。
そんな湖畔の厄介者たちなら、討伐数なんかでお互いの実力を測るのには申し分ないとマーガレットが提案し、僕とリリスは報酬の高さから二つ返事で承認した。
「それにしても、アナタは戦闘に一度も参加しないのね」
「戦闘は基本的にセンリに一任してるのよ。私は見守り役~」
マーガレットは奥の方で座っているリリスを睨むと、リリスはふあぁ、と欠伸を掻きながらそう答えた。その返答にマーガレットはムッとする。
「貴方はそれでいいの? 自分ばっか魔物と戦って」
「うん。というか僕がそれを望んでるから」
「はぁ?」
マーガレットが理解不能と首を捻った。僕は暇になって小石を積み始める一人遊びを始めたリリスを見つめながら続けた。
「僕とリリスが討伐メインのクエストを受けてるのは、稼ぐのが目的じゃなくて、僕が強くなりたいからなんだ。リリスが戦わないのは僕を見守ってくれてるからで、もしもリリスが一緒に戦ってたら、そもそも僕が戦う必要すらないからね」
「……だからリリスは戦闘に出てこないと」
マーガレットは観察するように僕とリリスを見やり、
「なるほど。どうりで貴方たちを見た時に違和感を覚えた訳だわ。センリの方は防具や武器をしっかり着用してるのに、リリスの方はほぼ丸腰なの不思議だったのよ」
「あ、リリスが防具してないのは単純に重苦しいっていうのが理由で、戦闘とは無関係だよ。武器はこの剣を交互に使ってるけど、リリスは素手でも僕より強いから」
「理由がしょうもなかった⁉ たくっ。これだから魔族は腹が立つのよ」
当然ながら人間と魔族とでは生まれ持った能力に格差がある。マーガレットはその現実に不愉快そうに鼻を鳴らした。
それからマーガレットは辟易とした風にため息を落とすと、
「色々とツッコミたい所はあるけど、貴方とリリスが他のパーティーとは異質だってことは理解できたわ」
「僕たちって変わってるの?」
「超変わってるわよ! まず吸血鬼が人間とペアで行動してることが異常なんだから!」
「それ色んな人たちから言われるんだよねぇ。吸血鬼は気難しいって口を揃えて言うんだけど、リリスって普通の女の子と変わらないよ?」
「いや。私たちが魔物と戦ってるのに悠長に日向ぼっこできてる時点で普通ではない」
僕の言葉にマーガレットがすかさず突っ込んできた。言われれば確かに変かも。でもこのスタンスにすっかり慣れてしまった僕としては、もうこれが当たり前になってるしなぁ。それにリリスが出てくると今度は僕の出番必要なくなるし。
「吸血鬼の、それも女性の吸血鬼と一緒に行動できてそんな上手くいってるの、きっとこの世界で貴方だけよ? よく吸血鬼と一緒にいて生きてられるわね」
「えへへ。なんだか照れるな」
「私はドン引いてるわ。……ひょっとしてコイツの方が実は大物だったりしない?」
何故か最後は呆れられて、僕ははて、と小首を傾げた。
「なんかもう貴方たちは全てが例外過ぎて考えるのも疲れたわ。さっさとクエストを終わらせて帰りましょ」
「あはは。なんかごめんね?」
マーガレットの重いため息は、僕とリリスの異質さを如実に表していた。
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「あ、すいません。邪魔でしたよね」
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「?」
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「ええと、僕らに何か用かな?」
「もちろんあるわ」
女性は首肯すると、己の胸に手を当てて自己紹介した。
「私の名前はマーガレット」
「マーガレットさん」
「さん、なんて堅苦しい呼び方はしなくていいわよ。気軽にマーガレットでいいわ」
「それじゃあ、マーガレット」
呼び捨てで名前を呼ぶとマーガレットは「よろしい」と満足げに笑みを浮かべた、どうやらフレンドリーな人っぽい。
次は僕たちが名乗る番、と口を開こうとすると、マーガレットは「待った」と手を突き出して、
「名乗らなくても貴方たちのことはもう知ってるわ。センリとリリス、よね」
「うわすごい。なんで知ってるの?」
同じギルドのメンバーとはいえ、僕たちとマーガレットとは初対面のはずだ。驚く僕にマーガレットは腕を組んで答えた。
「このギルドで活動していれば嫌でも貴方たちの名前を聞くわよ。最近、数々の討伐クエストをこなしている異色のコンビがいるってね」
「それが僕たちってこと?」
「他に誰がいるのよ!」
マーガレットはリリスに向かってビシッと指を差し、
「特にアナタはね。魔族の吸血鬼が一人の人間に固執してるって、ギルドだけじゃなくてこの町でも噂になってるわよ」
「それが何よ。確かに私たちが特定の人間と行動を共にするのは珍妙がられるけど、おかしいことではないでしょ。私とセンリは旅のパートナーなんだから」
そう言ってリリスはマーガレットに見せつけるように僕を抱きしめてきた。
「ちょっとリリス⁉ ここで抱き着くのは止めてよ」
「いいじゃない減るもんじゃないし」
「それを公衆の場でやられると、物凄く周囲の視線を集めるんだよ……」
特に男性の比率が高いこのギルド内では嫉妬の視線で射殺されるなるほど睨まれる。痛い。男性陣の嫉妬の視線が。……なんかすいません。
「ぐぬぬ! こんな色欲まみれの連中が強いなんてありえない⁉ ……本当に貴方たちが人食いブラッディ・ポーラを倒したのか疑心になるわ」
「もちろん倒したわよ。センリがね」
「トドメを差したのはリリスでしょ」
猜疑心を向けてくるマーガレットはリリスの言葉を聞くと、僕を見つめてきて、
「……ふぅん。吸血鬼の方じゃなくて、貴方がねぇ」
「あ、あはは。信じられないよねぇ」
「信じてないって訳じゃないけど、こんなひょろひょろな見た目な奴がとは思ってるわ」
それを信じてないって言うんだよなぁ。
じぃ、と僕を見つめてくるマーガレットに微苦笑を浮かべていると、リリスが彼女の態度に苛立ちを覚えたのかムッとした顔になった。
「センリは着やせする子なのよ。脱いだら結構筋肉あるんだから。なんなら今脱がせて見せてあげましょうか」
「なに勝手に脱がそうとしてるのさ⁉」
人の服に手を掛けたリリスを慌てて止める。不服気なリリスにめっと叱っていると、マーガレットが呆れた風に肩を落としていた。
「べつにひょろひょろだろうが筋肉質だろうがそのことに興味はないわよ。私が興味あるのは貴方たちの冒険者としての腕前。その為に声を掛けたの」
「というと?」
マーガレットの言葉にはて、と小首を傾げる僕とリリス。そんな僕たちに彼女は挑戦的な眦を向けて告げた。
「お二人さん。今日は私とパーティーを組まない?」
*****
「へえ! センリ、貴方見た目のわりに強いのね!」
「あ、あはは。僕ってそんなに弱そうに見えるかな?」
というわけで現在、僕とリリスはギルドで出会った女剣士のマーガレットと臨時のパーティを組み、共にクエストをこなしていた。
ちなみに今回受けたクエストは湖畔に出没しているアーマーダイルという鰐とよく似た魔物の討伐だ。
湖畔の生態系を崩すほどの暴食性と釣り人を襲う凶暴性が危惧されこれまで何度か討伐が行われたらしいが、個体数が増すばかりで徐々に手が付けられなくなっていったそうだ。
そんな湖畔の厄介者たちなら、討伐数なんかでお互いの実力を測るのには申し分ないとマーガレットが提案し、僕とリリスは報酬の高さから二つ返事で承認した。
「それにしても、アナタは戦闘に一度も参加しないのね」
「戦闘は基本的にセンリに一任してるのよ。私は見守り役~」
マーガレットは奥の方で座っているリリスを睨むと、リリスはふあぁ、と欠伸を掻きながらそう答えた。その返答にマーガレットはムッとする。
「貴方はそれでいいの? 自分ばっか魔物と戦って」
「うん。というか僕がそれを望んでるから」
「はぁ?」
マーガレットが理解不能と首を捻った。僕は暇になって小石を積み始める一人遊びを始めたリリスを見つめながら続けた。
「僕とリリスが討伐メインのクエストを受けてるのは、稼ぐのが目的じゃなくて、僕が強くなりたいからなんだ。リリスが戦わないのは僕を見守ってくれてるからで、もしもリリスが一緒に戦ってたら、そもそも僕が戦う必要すらないからね」
「……だからリリスは戦闘に出てこないと」
マーガレットは観察するように僕とリリスを見やり、
「なるほど。どうりで貴方たちを見た時に違和感を覚えた訳だわ。センリの方は防具や武器をしっかり着用してるのに、リリスの方はほぼ丸腰なの不思議だったのよ」
「あ、リリスが防具してないのは単純に重苦しいっていうのが理由で、戦闘とは無関係だよ。武器はこの剣を交互に使ってるけど、リリスは素手でも僕より強いから」
「理由がしょうもなかった⁉ たくっ。これだから魔族は腹が立つのよ」
当然ながら人間と魔族とでは生まれ持った能力に格差がある。マーガレットはその現実に不愉快そうに鼻を鳴らした。
それからマーガレットは辟易とした風にため息を落とすと、
「色々とツッコミたい所はあるけど、貴方とリリスが他のパーティーとは異質だってことは理解できたわ」
「僕たちって変わってるの?」
「超変わってるわよ! まず吸血鬼が人間とペアで行動してることが異常なんだから!」
「それ色んな人たちから言われるんだよねぇ。吸血鬼は気難しいって口を揃えて言うんだけど、リリスって普通の女の子と変わらないよ?」
「いや。私たちが魔物と戦ってるのに悠長に日向ぼっこできてる時点で普通ではない」
僕の言葉にマーガレットがすかさず突っ込んできた。言われれば確かに変かも。でもこのスタンスにすっかり慣れてしまった僕としては、もうこれが当たり前になってるしなぁ。それにリリスが出てくると今度は僕の出番必要なくなるし。
「吸血鬼の、それも女性の吸血鬼と一緒に行動できてそんな上手くいってるの、きっとこの世界で貴方だけよ? よく吸血鬼と一緒にいて生きてられるわね」
「えへへ。なんだか照れるな」
「私はドン引いてるわ。……ひょっとしてコイツの方が実は大物だったりしない?」
何故か最後は呆れられて、僕ははて、と小首を傾げた。
「なんかもう貴方たちは全てが例外過ぎて考えるのも疲れたわ。さっさとクエストを終わらせて帰りましょ」
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