憧れの異世界で極楽至上のハーレムを

ゆのや@1作品書籍化!!(予定)

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第1章――6 【 ニュースタイル/吸血鬼と双剣 】

第58話 旅の目的

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きょろきょろと周囲を見渡して、目的の人物を探すも今朝は彼の姿はなく、僕が目に見えて落ち込んだ。

「ベルクトさん。今日も来てないなぁ」

 僕が怪我を負って入院する前によく剣の稽古をつけてくれていた彼は、最後に会った日から一度も会えていない。

 もしかしたら僕が入院中に次の町へ向かってしまったのだろうか。そう思惟していると、不意に後ろから草葉を踏む音が聞こえて。

「その後ろ姿。やっぱりセンリだったか」
「っ! ベルクトさん!」

 どうやらその考えは杞憂だったようで、振り向くとそこには穏やかな笑みを浮かべる青年、ベルクトさんが「久しぶり」と手を振った。

 僕は駆け足で彼の元に駆け寄ると、

「お久しぶりです!」
「相変わらず、キミは朝から元気だな……子犬みたいだ」

 久しぶりの再会に喜び合う僕とベルクトさん。どちらかというと、僕の方が喜んでいてベルクトさんは少し困った顔をしていた。

「よかったぁ。僕が入院中に、もう別の町に移動しちゃったんじゃないかって思ってました」
「入院?」
「あ、実はちょっと怪我をしちゃって」
「そうだったのか。ここに居るってことは、怪我はもう治ったのか?」
「はいっ! バッチリです!」

 僕は「それに」、と右手に握る木剣をベルクトさんの前に掲げると、ニカッと白い歯を魅せて、

「退院してからは、前よりも身体の調子が良くなった気がするんです!」
「ほぉ。なら早速、俺が確かめてやろうか」
「はいっ。是非お願いします!」

 僕の宣言に興味を惹かれたように双眸を細めたベルクトさん。

 そうして、僕とベルクトさんは久々の再会の印に、互いの手に握る木剣を交わし合った。

 *****

「驚いたな。しばらく会ってなかった間に、随分と強くなってる」
「えへへ。自分でもそうだなって自覚はあったんですけど、やっぱり他の人にそう言ってもらえると自信がつきます!」

 あれから三十分ほどが経過し、今は近くの給水場まで移動して小休憩を取っていた。

「前も攻撃を捌く能力は高かったが、それに更に磨きが掛かっているような気がした」
「僕の剣の師匠も同じことを言ってくれました」
「この短期間で何かコツでも掴んだのか?」
「コツ……そうですね。一回本気で死ぬかもしれない戦いをしてから、自分の中の直感が凄く冴えわたるようになったような、危機感知が発達したと言えばいいのか、上手く言葉には表しづらいんですけど、とにかく相手の攻撃が前よりよく見える・・・・ようになったんです!」
「……そうか。キミの成長速度には感嘆を覚えるのに。何故だろうか、とても愉快に思えるのは」

 不思議な気分だと、そう呟いたベルクトさんの顔はまるで弟を想う兄のように見えて。

 ……あぁ。だからなのか。僕がこの人に褒められて、心の奥底が温かくなる感覚を覚えて。

 きっと僕に兄がいたのならこんな感じなんだろうな。そんな想像に無意識に頬を緩くしていると、

「づあ⁉」
「ベルクトさん⁉」

 突然、頭痛に襲われたように頭を抑えたベルクトさん。

 慌ててベルクトさんの肩を掴むと、彼は先ほどの穏やかな表情から一変して苦痛に顔を歪ませていた。

「大丈夫ですか⁉」
「はぁ、はぁ、はぁ……あぁ。すまない。少し頭痛が走っただけだ」
「もしかして、体調悪かったんですか?」
「心配しなくていい。慢性的なやつだ。時々、こうなる。こっちに来てからは、だいぶ落ち着いていたんだが……また最近な」

 そう言われても、慢性的という不穏な言葉を聞いてしまっては余計に無理だ。

「病院には?」
「…………行っている。処方薬も、ちゃんと貰っている」

 僕の問いかけに間があったのは、僕の気のせいではない。それに、答える時にわずかだが躊躇ためらいが見えた。

 どうして嘘を吐いているのか、その理由は分からないけれど、

「自宅まで送ります」
「余計な心配は無用だ。一人で歩ける」
「でも、どんどん顔色が」
「キミは関係のないことだ!」
「っ⁉」

 それまで兄のように慕っていた彼からの突き放した態度に、思わず僕は瞠目した。

 そのまま硬直した僕に、ベルクトさんは構わず拒絶を重ねた。

「俺のことは、気にしなくていい。俺に、構わなくていい。俺は、誰に手を差し伸ばされようと、その手を握ることはない」
「なんで、そんな、拒絶するみたいな」
「……それが、俺だ」

 そう答えたベルクトさんの瞳は、まるで一切の光もない深い暗闇のように見えた。

 そこにはもう兄のような優しさと強さはもう影すらも見えなくて。

 僕に見えたのはただ、孤独で暗闇の中で生きる、悲しい人に見えてしまった。

 彼のその面影はいつか見た、孤独を語った時のリリスと似重なって、

「どうしてベルクトさんは、旅をしてるんですか」

 だからなのか、そんな質問がぽろりと、無意識に口からこぼれたのは。

 ベルクトさんは表情を険しくしたまま、しばらく沈黙してから、やがて呟くように小さく答えた。

「……探しているヤツがいるんだ」
「それじゃあベルクトさんは、その人を見つけるために旅を?」
「あぁ」

 少し落ち着いたのか、ベルクトさんは顔を俯かせたまま小さく頷いて、

「この町に、ソイツがいるかもしれないという話を聞いて、それでこの町に来たんだ」
「……その人って」
「人じゃない。魔族だ」

 そして次の瞬間。彼が放った一言に、僕の時が止まった。

「俺が探してるのは赤髪と赤目の吸血鬼。俺から全てを奪った――悪魔の女だ」
「――ぇ」

 名前はなくとも挙げられた特徴だけで瞬時に解った。赤髪赤目の吸血鬼――リリスだ。

 なんで、どうしてベルクトさんが、リリスを探してるんだ。

 衝撃と困惑に愕然がくぜんとしたまま硬直する僕。そんな僕には目もくれず、ベルクトさんは憎悪のはらんだ声で言った。

「俺の両親を、故郷を焼いたヤツは絶対に許さない。ヤツだけは、俺が何がなんでも見つけて、そして必ずこの手で――」
「……その人を見つけて。その手で、どうするんですか」
「――――」

 僕の追及に、ベルクトさんは答えない。しかし彼から感じる只ならぬ威圧だけで、そこから先の言葉は容易に察することができる。

「キミは、この町にはもう長くいるんだろう。さっき上げた特徴の魔族をこの町で見かけたことはあるか?」
「……ないです」
「本当にか?」
「あったとしても、言えません」
「何故だ」
「ベルクトさんがしようとしてることを考えたら、誰だって答えませんよ」

 そうでなくとも。その人は僕にとってかけがえのない存在なんだ。二人の間にどんな因縁があろうとも、僕は彼女を裏切るような真似はしない。たとえどんな嘘を吐いてでも。

「……口を滑らせ過ぎたな」

 吐き捨てるようにそう呟いたベルクトさんは、ゆっくりと立ち上がった。

「それじゃあな。センリ」

 そして去ろうとする彼の背中に、僕はギリッと奥歯を噛むと、

「ベルクトさん!」
「…………」
「その魔族が、本当に貴方から全てを奪ったんですか?」
「…………」
「もしかしたら何かの勘違いじゃ。ちゃんと、その魔族と話し合うべきなんじゃないんですか!」
「…………」
「復讐なんて、絶対に間違ってます!」

 僕の悲痛の叫びに、ベルクトさんは一瞥だけくれて、

「平和の中で生きてたお前に、俺の憎しみなど分かりはしない」

 わずかに見えた彼の顔は、苦痛と怨悪、そして憤怒が綯い交ぜになって歪んでいて。

「……リリス。キミはいったい、何をしたんだ」

 一人残された僕の声は、吹く生温い風に乗って、そして誰に届くこともなく虚空へと消えた――。
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