××男と異常女共

シイタ

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ゴミ女の深夜バイト

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 私は別段急ぐこともなく、いつもと変わらない速度で歩きながら、ゴロゴロゴロとキャスターを回して道路を歩いて行く。次はあの十字路を左に向かったら真っ直ぐ進むだけだと思いながら歩いていると、後ろから誰かに肩を掴まれた。
 私は特にビックリすることもなく立ち止まって後ろを向くと、の男の人が私の肩を掴んでこちらを見ていた。
 誰? と思っていると、男の人が「来い」と一言だけ発して私が元来た道を歩き出す。私はなんとなく付いていくと、の男の人は突き当たりを左に曲がって足を止め、塀の角に張り付いて「隠れろ」と言ってくる。いったい何から隠れればいいのか分からないが、私はを発する男の人の隣に立って隠れることにする。
 男の人は私達が元いた道をこっそり見ている。私も男の人の下からその道を見ていると、先の十字路の左――私が先ほど曲がろうと思っていた道――から懐中電灯で道を照らしながら二名の警察官が歩いて出て来た。
 あのまま私が左に曲がって入れば、私は確実にあの二人の警察官に補導されていただろう。二人の警察官はそのまま真っ直ぐ――私たちから見た右――の道を進んでいき、姿を消していった。

「……行ったか」

 男の人は壁から離れて隠れるのをやめると、一言「行くぞ」と私に言って歩き出す。しかし、私は付いていかない。
 私が立ち止まっていると、男の人はそれに気付いって「どうした?」と聞いてくる。

「……知らない人には付いて行っちゃいけない」

 子供の頃に、私は孤児院の大人にそう学んだ。さっきはそのことをうっかり忘れてしまい、なんとなくで男の人に付いて行ってしまったが、二度目はない。
 私の言葉に、男の人は「はぁ?」と素っ頓狂な声を出す。

「知らないもなにも、さっき会って話しただろうが」

「……?」

 私は首を傾げて思い出そうとするが、目の前の男の人と自分が会話したという記憶が全くなかった。

 この人は何を言っているんだろう?

 そう思っていると、唐突に思い出す。彼の声に聞き覚えがあることに。

「……ヘルプの人?」

「分かってなかったのかよ」

「あの時は暗闇で顔は見えてなかった」

「……そうか」

 ヘルプの人はそのあと何も言わずに、ただ私のことを見てきた。多分、私の言葉を待っているのだろう。付いて来るのか付いて来ないのかの答えを待っているのだと思う。
 だけど、その前に聞いておきたいことがあった。

「なんで隠れたの?」

 その質問に、男の人は質問の意味が分からないと言った感じで眉根を寄せる。
 
「別にことなんてないのに、隠れる意味が分からない」

「……本気で言ってんのか?」

「ん? ゴミを運んでいるだけなんだから何を気にかける必要がある?」
 
「……」

「ん?」

 私は男の反応に首を傾げた。

 何か可笑しなことでも言ったか……、いや言ってない。

 自分の言葉を思い出して何も変なことを言ってないことを確かめた私は、相手の言葉を待つ。少しの間沈黙が続くが、相手の顔を見ても何を考えているのか読めない。

「……こんな夜中に歩いていたら間違いなく補導されていただろうが」

「でもちゃんとお仕事バイトだと説明すれば納得してくれるはず」

「……納得してもらう必要ねぇだろ」

「……」

「お前の仕事は他人に納得してもらうことなのか? 違うだろ。わざわざ踏まなくてもいい尻尾踏むより、スムーズに仕事を終えた方がいいだろ。違うか?」

「……違くない」

「だったら、当たらず障らず事なかれに済ませておけよ。仕事の邪魔をされたくなかったらな」

「……分かった」

 私は男の人の言葉に納得して頷いた。
 男の人の言う通りだ。私は誰かに納得してもらうために、お仕事をしているわけではない。
 それに『ゴミをゴミ箱に』のこのお仕事は、私にとって大事なものだ。邪魔されたくないし、邪魔して欲しくもない。これからはそのことに気を付けてお仕事をしようと、私は思った。

 男の人が今度は何も言わずに歩き出し、私も何も言わずにゴミ箱を持って、彼の後ろを付いて行った。
 十字路までくると、男の人は確かめるようにチラリと右の通路を見た後に左の通路に歩を進める。
 私も釣られてチラリと右の通路を見てみるが、そちらには歩いて行ったはずの警察官はいなかった。多分、他の道に入って行ったのだろう。私は特に気にかけることもなく、男の人の後に続いた。
 それから、私と男の人は一言も話さずに目的地に向かう。しかし、その道のりはガラガラガラと転がるゴミ箱のキャスター音で静けさはない。
 いつも聞いている音、特に気にならない音。それなのに今だけは、その音が少し五月蝿うるさいと私は感じた。
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