57 / 111
ゴミ女の深夜バイト
4-11
しおりを挟む
私は別段急ぐこともなく、いつもと変わらない速度で歩きながら、ゴロゴロゴロとキャスターを回して道路を歩いて行く。次はあの十字路を左に向かったら真っ直ぐ進むだけだと思いながら歩いていると、後ろから誰かに肩を掴まれた。
私は特にビックリすることもなく立ち止まって後ろを向くと、金髪の男の人が私の肩を掴んでこちらを見ていた。
誰? と思っていると、目つきが鋭い男の人が「来い」と一言だけ発して私が元来た道を歩き出す。私はなんとなく付いていくと、初対面の男の人は突き当たりを左に曲がって足を止め、塀の角に張り付いて「隠れろ」と言ってくる。いったい何から隠れればいいのか分からないが、私は聞き覚えのある声を発する男の人の隣に立って隠れることにする。
男の人は私達が元いた道をこっそり見ている。私も男の人の下からその道を見ていると、先の十字路の左――私が先ほど曲がろうと思っていた道――から懐中電灯で道を照らしながら二名の警察官が歩いて出て来た。
あのまま私が左に曲がって入れば、私は確実にあの二人の警察官に補導されていただろう。二人の警察官はそのまま真っ直ぐ――私たちから見た右――の道を進んでいき、姿を消していった。
「……行ったか」
男の人は壁から離れて隠れるのをやめると、一言「行くぞ」と私に言って歩き出す。しかし、私は付いていかない。
私が立ち止まっていると、男の人はそれに気付いって「どうした?」と聞いてくる。
「……知らない人には付いて行っちゃいけない」
子供の頃に、私は孤児院の大人にそう学んだ。さっきはそのことをうっかり忘れてしまい、なんとなくで男の人に付いて行ってしまったが、二度目はない。
私の言葉に、男の人は「はぁ?」と素っ頓狂な声を出す。
「知らないもなにも、さっき会って話しただろうが」
「……?」
私は首を傾げて思い出そうとするが、目の前の男の人と自分が会話したという記憶が全くなかった。
この人は何を言っているんだろう?
そう思っていると、唐突に思い出す。彼の声に聞き覚えがあることに。
「……ヘルプの人?」
「分かってなかったのかよ」
「あの時は暗闇で顔は見えてなかった」
「……そうか」
ヘルプの人はそのあと何も言わずに、ただ私のことを見てきた。多分、私の言葉を待っているのだろう。付いて来るのか付いて来ないのかの答えを待っているのだと思う。
だけど、その前に聞いておきたいことがあった。
「なんで隠れたの?」
その質問に、男の人は質問の意味が分からないと言った感じで眉根を寄せる。
「別にやましいことなんてないのに、隠れる意味が分からない」
「……本気で言ってんのか?」
「ん? ゴミを運んでいるだけなんだから何を気にかける必要がある?」
「……」
「ん?」
私は男の反応に首を傾げた。
何か可笑しなことでも言ったか……、いや言ってない。
自分の言葉を思い出して何も変なことを言ってないことを確かめた私は、相手の言葉を待つ。少しの間沈黙が続くが、相手の顔を見ても何を考えているのか読めない。
「……こんな夜中に歩いていたら間違いなく補導されていただろうが」
「でもちゃんとお仕事だと説明すれば納得してくれるはず」
「……納得してもらう必要ねぇだろ」
「……」
「お前の仕事は他人に納得してもらうことなのか? 違うだろ。わざわざ踏まなくてもいい尻尾踏むより、スムーズに仕事を終えた方がいいだろ。違うか?」
「……違くない」
「だったら、当たらず障らず事なかれに済ませておけよ。仕事の邪魔をされたくなかったらな」
「……分かった」
私は男の人の言葉に納得して頷いた。
男の人の言う通りだ。私は誰かに納得してもらうために、お仕事をしているわけではない。
それに『ゴミをゴミ箱に』のこのお仕事は、私にとって大事なものだ。邪魔されたくないし、邪魔して欲しくもない。これからはそのことに気を付けてお仕事をしようと、私は思った。
男の人が今度は何も言わずに歩き出し、私も何も言わずにゴミ箱を持って、彼の後ろを付いて行った。
十字路までくると、男の人は確かめるようにチラリと右の通路を見た後に左の通路に歩を進める。
私も釣られてチラリと右の通路を見てみるが、そちらには歩いて行ったはずの警察官はいなかった。多分、他の道に入って行ったのだろう。私は特に気にかけることもなく、男の人の後に続いた。
それから、私と男の人は一言も話さずに目的地に向かう。しかし、その道のりはガラガラガラと転がるゴミ箱のキャスター音で静けさはない。
いつも聞いている音、特に気にならない音。それなのに今だけは、その音が少し五月蝿いと私は感じた。
私は特にビックリすることもなく立ち止まって後ろを向くと、金髪の男の人が私の肩を掴んでこちらを見ていた。
誰? と思っていると、目つきが鋭い男の人が「来い」と一言だけ発して私が元来た道を歩き出す。私はなんとなく付いていくと、初対面の男の人は突き当たりを左に曲がって足を止め、塀の角に張り付いて「隠れろ」と言ってくる。いったい何から隠れればいいのか分からないが、私は聞き覚えのある声を発する男の人の隣に立って隠れることにする。
男の人は私達が元いた道をこっそり見ている。私も男の人の下からその道を見ていると、先の十字路の左――私が先ほど曲がろうと思っていた道――から懐中電灯で道を照らしながら二名の警察官が歩いて出て来た。
あのまま私が左に曲がって入れば、私は確実にあの二人の警察官に補導されていただろう。二人の警察官はそのまま真っ直ぐ――私たちから見た右――の道を進んでいき、姿を消していった。
「……行ったか」
男の人は壁から離れて隠れるのをやめると、一言「行くぞ」と私に言って歩き出す。しかし、私は付いていかない。
私が立ち止まっていると、男の人はそれに気付いって「どうした?」と聞いてくる。
「……知らない人には付いて行っちゃいけない」
子供の頃に、私は孤児院の大人にそう学んだ。さっきはそのことをうっかり忘れてしまい、なんとなくで男の人に付いて行ってしまったが、二度目はない。
私の言葉に、男の人は「はぁ?」と素っ頓狂な声を出す。
「知らないもなにも、さっき会って話しただろうが」
「……?」
私は首を傾げて思い出そうとするが、目の前の男の人と自分が会話したという記憶が全くなかった。
この人は何を言っているんだろう?
そう思っていると、唐突に思い出す。彼の声に聞き覚えがあることに。
「……ヘルプの人?」
「分かってなかったのかよ」
「あの時は暗闇で顔は見えてなかった」
「……そうか」
ヘルプの人はそのあと何も言わずに、ただ私のことを見てきた。多分、私の言葉を待っているのだろう。付いて来るのか付いて来ないのかの答えを待っているのだと思う。
だけど、その前に聞いておきたいことがあった。
「なんで隠れたの?」
その質問に、男の人は質問の意味が分からないと言った感じで眉根を寄せる。
「別にやましいことなんてないのに、隠れる意味が分からない」
「……本気で言ってんのか?」
「ん? ゴミを運んでいるだけなんだから何を気にかける必要がある?」
「……」
「ん?」
私は男の反応に首を傾げた。
何か可笑しなことでも言ったか……、いや言ってない。
自分の言葉を思い出して何も変なことを言ってないことを確かめた私は、相手の言葉を待つ。少しの間沈黙が続くが、相手の顔を見ても何を考えているのか読めない。
「……こんな夜中に歩いていたら間違いなく補導されていただろうが」
「でもちゃんとお仕事だと説明すれば納得してくれるはず」
「……納得してもらう必要ねぇだろ」
「……」
「お前の仕事は他人に納得してもらうことなのか? 違うだろ。わざわざ踏まなくてもいい尻尾踏むより、スムーズに仕事を終えた方がいいだろ。違うか?」
「……違くない」
「だったら、当たらず障らず事なかれに済ませておけよ。仕事の邪魔をされたくなかったらな」
「……分かった」
私は男の人の言葉に納得して頷いた。
男の人の言う通りだ。私は誰かに納得してもらうために、お仕事をしているわけではない。
それに『ゴミをゴミ箱に』のこのお仕事は、私にとって大事なものだ。邪魔されたくないし、邪魔して欲しくもない。これからはそのことに気を付けてお仕事をしようと、私は思った。
男の人が今度は何も言わずに歩き出し、私も何も言わずにゴミ箱を持って、彼の後ろを付いて行った。
十字路までくると、男の人は確かめるようにチラリと右の通路を見た後に左の通路に歩を進める。
私も釣られてチラリと右の通路を見てみるが、そちらには歩いて行ったはずの警察官はいなかった。多分、他の道に入って行ったのだろう。私は特に気にかけることもなく、男の人の後に続いた。
それから、私と男の人は一言も話さずに目的地に向かう。しかし、その道のりはガラガラガラと転がるゴミ箱のキャスター音で静けさはない。
いつも聞いている音、特に気にならない音。それなのに今だけは、その音が少し五月蝿いと私は感じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる