××男と異常女共

シイタ

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ゴミ女の深夜バイト

4-23

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「いいよ、別に」

「え……」

「別に減るもんじゃないし」

 私は予想外の呆気ない答えに驚いて、思考が止まってしまった。
 私はお願いが断られると思っていた。それか、ばっさりと断られなくても遠回しに断る感じを見せてくると思っていた。
 だけど、どちらでもなかった。男の子は何でもないと言った感じに、私のお願いを承諾してきた。
 だから、私は固まってしまった。

 本当に、本当に見せてもらっても良いのだろうか。

 自分からお願いをしておいて、二の足を踏んでしまう。

「……君達はその箱の中に何が入ってるのかを、分かって言っているのかい?」

「そうだけど」

 確認のために聞いてみるが、どうやらヤケになっている訳でもないようだ。ということは、箱の中は見られてもなんともないような、大したことないものなのだろうか。そうなると、一気に興味がなくなってくる。

「んじゃ、ちょっとこっちきて。おじさん」

 男の子がゴミ箱を持って、この場から離れるように歩き出した。

「ここじゃあ、ダメなのかい?」

「中身知ってんの俺だけだから。そいつには見られないようにしたいの」

「そうなのかい?」

 私は女の子に確かめるように聞くと、無言で頷いて応えてくれる。そういえば、河川敷で話を聞いた時も思ったけど、あまり喋らない子だったなと私は思い出した。
 私は言う通りにして、男の子について行く。男の子が足を止め、着いた場所は歩いて一〇歩。先ほどの位置から、ちょっと離れた程度のところだった。
 
「ここでいいのかい?」

「あぁ。あいつに見られなきゃ、それでいいんで」

 男の子は女の子の方を見る。多分、見られていないか、見られる位置にいないか、を確かめるためだと思う。私も視線に釣られて女の子の方を見ると、女の子はこちらを見てはいるが、箱の中が見えるような位置にはいなかった。

「言っとくけど、見た後にあいつに中身を教えないでくれよ。聞かれても」

「それはもちろんだが。何故あの子には教えないんだい? いつも一緒に運んでいるのだろう」

「中身を見れば分かるよ。多分、あんたも納得すると思うし」

 そう言って、男の子はゴミ箱の蓋に手を掛けた。

 ……やっとだ、やっと見れる。

 私の心臓の鼓動が徐々に大きくなっていく。……ドクン、ドクン、ドクン、ドクンッ、と男の子の方にまで聞こえてしまうのではないかと思うぐらいに。
 私はゴミ箱を凝視しながら、ゴクリと唾を飲み込んで蓋が開くのを待つ。その待つ時間が、異様に長く感じてしまう。

 ……早く開けてくれっ!

 口には出さないで私は男の子に訴える。
 そんな私の訴えが伝わったのか、

 パカッ

 という軽い音ともに、蓋がゆっくりと口を開けた。
 蓋が開き切り、箱の中に私は目を集中する。
 
「……これは」

 まったく予想だにしなかった箱の中身に、私は思わず声を漏らした。
 私が気になって気になって仕方がなかった、その箱の中身は――

「……アダルト雑誌……の山」

 だった。

「あんま声出すなよ。聞こえんだろ」

「……っ、ああ、すまない」

 私は男の子の声で惚けていた頭が元に戻る。しかし、完全には戻らず頭の動きはまだ鈍い感じだ。
 まさか、ゴミ箱の中身がコンビニなどにある大量のアダルト雑誌だったなんて。私は期待をひどく裏切られた気分で、目がくらむようだった。

「欲しかったらあげるけど。全部は無理でも一冊ぐらいならバレないと思うし」

「い、いや、いい。いらない。必要ない」

「あっそ」

 私が惚けてアダルト本を見ていたのが、この男の子には喉から手が出るほど私がそれを欲しがっているように見えたのだろうか。そうだったのなら、めちゃくちゃ恥ずかしい。私は恥ずかしいことを隠すように、手のひらで顔を覆った。

「そんで、もういいの? 俺らもさっさと運んでさっさと家に帰りたいんだけど」

「ああ、もういいよ。見せてくれて、ありがとう。よかったら運ぶところまで送っていくが?」

「いらない。ていうか、中身見せたってバレたら何言われるか分かんねぇし」

 男の子は開いたゴミ箱の蓋を閉めて、女の子がいるところまでゴミ箱を押して歩き出した。
 
「それもそうか」

 私は見送るように男の子と女の子が合流するのを眺める。すると、ある一点に私の目は注目した。

「ま、待ってくれ!」

 ピタリ、と男の子の足が止まった。

「……まだなんかよう?」

 男の子が顔だけこちらに向けて、鬱陶しそうな感じで私のことを見てくる。
 私は小走りで近づいて、子供達の目の前まで行く。

「すまないが、こっちの箱の中も見せてはくれないかい?」

 私は女の子が持っているゴミ箱を見て、お願いした。

「はぁ? さっきこっちの見せたじゃん。そっちの中身も同じだってのに。なんでまた?」

「いや、こっちの箱の中も気になってしまってね」

 そう言って私は、私の目が注目した一点を見る。そこは女の子の持つゴミ箱のキャスター近く、その場所には赤い何かが付着していた。
 よく見ると、それはまだ乾き切っていないように見える何か。その赤い何かが、私にはのように見えた。

「……そこにある赤い跡、それが目に入ってね」

「……」

 男の子は私の言葉を聞いて、私が指差した場所を見て、口をつぐむ。そして、

 ――突然、空気が変わったような気がした。
 
 何処か静かで、重苦しく、ピリピリとした雰囲気が息を詰まらせる。私の背中に冷や汗が流れた。

 なんだ、これは……。

 初めて襲う感覚に、私は戸惑い深く唾を飲み込んだ。

「……姶良、ちょっと後ろ向いてろ」

「……分かった」

 女の子は男の子の言葉を聞いて素直に従い、後ろを向く。男の子はそれを確認すると、私にこちらに近づくよう無言で手招きをしてきた。
 私も黙って従い、男の子にゆっくりと近づいた。

「……見せるのはもういいけど。こっちも時間ないし、あいつには見られたくないから、手短にな」

「わ、分かった」

 男の子がゴミ箱に手を掛けた。
 急に変わったこの雰囲気、間違いなくこの箱には、さっきとは違う何かがある。私の長年培ってきた、雑誌記者としての勘がそう訴えていた。
 心臓の鼓動が強く鳴る。一度目の状況とはまた違う緊張感。二度目である今の状況は、興奮と恐怖が混ざり合ったような感じだ。
 私はその不安定な感情を抑えるように、前のめりになって箱に顔を近づける。
 
 パカリ

 一度目とはほんの少し違う音がして、蓋が開いた。その中身は――

「なっ!?」

「ご愁傷様」

 男の子のその言葉とともに、バチチチチチチという音がした。そして、首筋に鋭い痛みが走り、私は意識を手放した。
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