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Ignorance is bliss.
6-3
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「おはよう」「オッハー」「はよー」「ハロー」
学校に登校し、自分の教室まで到着すると、そんな色んな朝の挨拶があちらこちらから聞こえてくる。
普段は気にも留めないそれらの挨拶だが、こうやって聞いてみると本当に色んな形があるのだなと思ってしまう。
教室内はすでにクラスの半分以上の人数が見られ、それぞれ談笑談話や睡眠に読書と各々がSHRの時間まで自由に過ごしている。
「ハロハロー。ハローキィちゃん」
席に着くと、そう言って馴れ馴れしく挨拶をしてくる男の声が聞こえてきた。
俺はそいつが言った自分の呼び名にピクリと反応して、一瞬固まる。
「……」
「あれれ、なんで返事してくんないの、キィちゃん。お眠むなの?」
「……いや、今の呼ばれ方が嫌だった」
「それまたなんで?」
「……口がない白猫キャラを思い出したから」
俺の言葉に、クラスメイトである黒髪ロングの倫太郎はきょとんとした顔を見せる。そして、俺が言ったキャラが何なのかを思い浮かべることができたのか、「……ぷっ、あはははは」と吹き出すように笑い始めた。
「そういうこと。ハローキ◯ィちゃんね。一瞬何言ってるのか全然分かんなかったよ。だって、あんなキュートなキャラとキィちゃんってどうやったって結びつかないもん。まさに真反対って言えるじゃん」
「真反対じゃなくて正反対な」
未だにあははと笑う倫太郎を見ながら、そんなに面白いことなのかと俺は疑問に思う。
すると倫太郎の後ろから、茶髪ロングの女子と黒髪ボブの女子が近づいてきた。
「なになに~、なに笑ってんの?」
「あっ、佐倉ちゃんに水原ちゃん。それがさぁ――」
倫太郎は先ほどの話を二人に説明し始め、それを聞いた二人は俺のことを一度見てから倫太郎と同じく笑い出す。茶髪ロングの女子――佐倉綾子は周りの視線も気にせず大きく、黒髪ボブの女子――水原ゆりかは口を手で抑えて上品に。
「あはははは、それはそうだわ。この目つきの酷い八切からあのキャラクターを連想するとか、無理にもほどがあるわよ。ねぇ、ゆりか」
「ふふ、そうだね。でも八切くんとキ◯ィーちゃんが似てるっていうのは、少し分かるかもしれないかな」
「えぇ、どこが?」
「えっとね、キテ◯ーちゃんって口がないのは覚えてるかな?」
水原の問いかけに佐倉はキャラの顔を思い出すように「……うん、覚えてる」と答える中、「あれ? ×口がなかったっけ?」と倫太郎が首を傾げる。
俺も頭の中でキャラの顔を思い出してみるが、あのキャラに×口なんかなかった。倫太郎は一体、何と間違えているのやら。
「……それってミッ◯ィーじゃない?」
「どんなキャラだっけ?」
「……これだよ」
スマホで調べて出した画像を見せる水原。その画像には、×口を付けた白いうさぎのようなキャラが写っていた。
「あぁそういえばいたね、こんなキャラ。どっちも白いからごっちゃになっちゃってた」
「全然似てないだろ」
「えぇ、全然似てるよ」
「なにが全然なん?」
倫太郎の後ろから男の声がしたと思うと、ひょっこりとその声の主が顔を出してきた。
茶髪セミロングで倫太郎より背が低いその男子――相馬一雄が輪の中に入ってくると、皆が親しげに軽い挨拶を返して受け入れる。
「それで、なにが全然なん?」
「いやさぁ、キテ◯ーとミッフ◯ーってキャラが似てるから似てるか似てないかって話。かずちゃんはどう思う? 似てると思う? 似てないと思う?」
「………………うーん」
やけに長い思考を見せる一雄に「かずちゃん?」と倫太郎が声を掛ける。
「……あー、うん。……似てるんじゃない、似てると思う! そっくりだよね!」
「だよねだよね!」
あれだけ悩んでおいてやけにはっきりと言う一雄を俺は訝しむが、倫太郎は気にした様子を見せず自分と同じ意見だということに嬉し顔だ。加えて、俺に向かって何故かドヤ顔を見せてくる。
「なんだよ?」
「なんでも~」
「……」
その何故か勝ち誇ったような顔と態度を見せる倫太郎に、俺はイラッとする。
自分の意見が肯定されたことを嬉しく思うのは分かるが、煽るような態度を俺に向けてくる意味が分からない。喧嘩でも売っているのだろうか。
売られた喧嘩は買わずに済ますのが利口な生き方だ。喧嘩を売られることなんてほとんどない俺だが、その考えから喧嘩を売られたとしても買うことはほとんどない。喧嘩なんて面倒なもので、労力だけ使って得になることなんてほとんどない。あえて得になることと言えば、勝った方が勝利の悦を楽しめるというだけか、あらかじめ両者で決めていたなんらかの権利や物を勝った方が手に入れることができるというだけだ。
別に俺は勝利の悦を楽しみたいとは思わないし、そもそも倫太郎が喧嘩を売ってきたわけでもない。だがこのまま倫太郎を気分の良いままにしておくのは、なんか癪であった。
だから、俺は訊かないでおこうと思っていたことを訊くことにした。まるで何かを隠しているかのように、ぎこちない態度を見せるそいつに。
「……なぁ、一雄。どの辺が似てると思ったんだ? 教えてくれよ」
「え!? ……え、えーと……色、とか?」
正にギクリと言った言葉がぴったりな反応を見せた一雄が、視線を彷徨わせながら考える素ぶりを見せた後に答えた。その声はさっきのはっきりとした物言いとは程遠く、疑問系で答えているところからも自信のなさがありありと感じられる。
確かにあのキャラ達の色は似ている。というか全く同じの真っ白だ。間違った答えを言ったわけでもないのに、不安でいっぱいという顔になったいる一雄。俺はそんな一雄を追い詰めるように、「どんな色だったけ?」と続けて聞いてみる。
「えー……と、ね…………」
特に暑くもないのにダラダラと汗をかき始め、無言になっていく一雄。その様子に一同は眉をひそめ、そして察したように呆れ顔に変わっていく。そんな中で始めに口を開いたのは、佐倉だった。
「相馬、あんた実はキ◯ィもミッ◯ィーも知らないんじゃないでしょうね?」
「……」
「別に怒ったりしないから、正直に言いなさいよ」
「…………はい、本当はどっちも知らないです。……ごめんなさい」
佐倉の言葉でようやく観念したように一雄が白状した。
「まったく、知らないなら知らないって言えばいいじゃない。なんで知ってるフリなんかするのよ?」
「いや、みんなが知ってるのに自分だけ知らないのって、なんか恥ずかしいと思って」
「そんなの気にしなくていいのに。誰も知らないことを責めたり、笑ったりしないよ」
「そうよ。逆に隠されると騙されてるみたいで腹がたつわ。次やったら、罰として全員にジュース奢りだからね。分かった?」
「……はい」
素直な態度を見せる一雄に、佐倉もそれ以上は何も言わないで済ませる。少し可哀想に見えなくもない光景だが、知ったかぶりをした一雄が悪いのだから自業自得というものだ。
学校に登校し、自分の教室まで到着すると、そんな色んな朝の挨拶があちらこちらから聞こえてくる。
普段は気にも留めないそれらの挨拶だが、こうやって聞いてみると本当に色んな形があるのだなと思ってしまう。
教室内はすでにクラスの半分以上の人数が見られ、それぞれ談笑談話や睡眠に読書と各々がSHRの時間まで自由に過ごしている。
「ハロハロー。ハローキィちゃん」
席に着くと、そう言って馴れ馴れしく挨拶をしてくる男の声が聞こえてきた。
俺はそいつが言った自分の呼び名にピクリと反応して、一瞬固まる。
「……」
「あれれ、なんで返事してくんないの、キィちゃん。お眠むなの?」
「……いや、今の呼ばれ方が嫌だった」
「それまたなんで?」
「……口がない白猫キャラを思い出したから」
俺の言葉に、クラスメイトである黒髪ロングの倫太郎はきょとんとした顔を見せる。そして、俺が言ったキャラが何なのかを思い浮かべることができたのか、「……ぷっ、あはははは」と吹き出すように笑い始めた。
「そういうこと。ハローキ◯ィちゃんね。一瞬何言ってるのか全然分かんなかったよ。だって、あんなキュートなキャラとキィちゃんってどうやったって結びつかないもん。まさに真反対って言えるじゃん」
「真反対じゃなくて正反対な」
未だにあははと笑う倫太郎を見ながら、そんなに面白いことなのかと俺は疑問に思う。
すると倫太郎の後ろから、茶髪ロングの女子と黒髪ボブの女子が近づいてきた。
「なになに~、なに笑ってんの?」
「あっ、佐倉ちゃんに水原ちゃん。それがさぁ――」
倫太郎は先ほどの話を二人に説明し始め、それを聞いた二人は俺のことを一度見てから倫太郎と同じく笑い出す。茶髪ロングの女子――佐倉綾子は周りの視線も気にせず大きく、黒髪ボブの女子――水原ゆりかは口を手で抑えて上品に。
「あはははは、それはそうだわ。この目つきの酷い八切からあのキャラクターを連想するとか、無理にもほどがあるわよ。ねぇ、ゆりか」
「ふふ、そうだね。でも八切くんとキ◯ィーちゃんが似てるっていうのは、少し分かるかもしれないかな」
「えぇ、どこが?」
「えっとね、キテ◯ーちゃんって口がないのは覚えてるかな?」
水原の問いかけに佐倉はキャラの顔を思い出すように「……うん、覚えてる」と答える中、「あれ? ×口がなかったっけ?」と倫太郎が首を傾げる。
俺も頭の中でキャラの顔を思い出してみるが、あのキャラに×口なんかなかった。倫太郎は一体、何と間違えているのやら。
「……それってミッ◯ィーじゃない?」
「どんなキャラだっけ?」
「……これだよ」
スマホで調べて出した画像を見せる水原。その画像には、×口を付けた白いうさぎのようなキャラが写っていた。
「あぁそういえばいたね、こんなキャラ。どっちも白いからごっちゃになっちゃってた」
「全然似てないだろ」
「えぇ、全然似てるよ」
「なにが全然なん?」
倫太郎の後ろから男の声がしたと思うと、ひょっこりとその声の主が顔を出してきた。
茶髪セミロングで倫太郎より背が低いその男子――相馬一雄が輪の中に入ってくると、皆が親しげに軽い挨拶を返して受け入れる。
「それで、なにが全然なん?」
「いやさぁ、キテ◯ーとミッフ◯ーってキャラが似てるから似てるか似てないかって話。かずちゃんはどう思う? 似てると思う? 似てないと思う?」
「………………うーん」
やけに長い思考を見せる一雄に「かずちゃん?」と倫太郎が声を掛ける。
「……あー、うん。……似てるんじゃない、似てると思う! そっくりだよね!」
「だよねだよね!」
あれだけ悩んでおいてやけにはっきりと言う一雄を俺は訝しむが、倫太郎は気にした様子を見せず自分と同じ意見だということに嬉し顔だ。加えて、俺に向かって何故かドヤ顔を見せてくる。
「なんだよ?」
「なんでも~」
「……」
その何故か勝ち誇ったような顔と態度を見せる倫太郎に、俺はイラッとする。
自分の意見が肯定されたことを嬉しく思うのは分かるが、煽るような態度を俺に向けてくる意味が分からない。喧嘩でも売っているのだろうか。
売られた喧嘩は買わずに済ますのが利口な生き方だ。喧嘩を売られることなんてほとんどない俺だが、その考えから喧嘩を売られたとしても買うことはほとんどない。喧嘩なんて面倒なもので、労力だけ使って得になることなんてほとんどない。あえて得になることと言えば、勝った方が勝利の悦を楽しめるというだけか、あらかじめ両者で決めていたなんらかの権利や物を勝った方が手に入れることができるというだけだ。
別に俺は勝利の悦を楽しみたいとは思わないし、そもそも倫太郎が喧嘩を売ってきたわけでもない。だがこのまま倫太郎を気分の良いままにしておくのは、なんか癪であった。
だから、俺は訊かないでおこうと思っていたことを訊くことにした。まるで何かを隠しているかのように、ぎこちない態度を見せるそいつに。
「……なぁ、一雄。どの辺が似てると思ったんだ? 教えてくれよ」
「え!? ……え、えーと……色、とか?」
正にギクリと言った言葉がぴったりな反応を見せた一雄が、視線を彷徨わせながら考える素ぶりを見せた後に答えた。その声はさっきのはっきりとした物言いとは程遠く、疑問系で答えているところからも自信のなさがありありと感じられる。
確かにあのキャラ達の色は似ている。というか全く同じの真っ白だ。間違った答えを言ったわけでもないのに、不安でいっぱいという顔になったいる一雄。俺はそんな一雄を追い詰めるように、「どんな色だったけ?」と続けて聞いてみる。
「えー……と、ね…………」
特に暑くもないのにダラダラと汗をかき始め、無言になっていく一雄。その様子に一同は眉をひそめ、そして察したように呆れ顔に変わっていく。そんな中で始めに口を開いたのは、佐倉だった。
「相馬、あんた実はキ◯ィもミッ◯ィーも知らないんじゃないでしょうね?」
「……」
「別に怒ったりしないから、正直に言いなさいよ」
「…………はい、本当はどっちも知らないです。……ごめんなさい」
佐倉の言葉でようやく観念したように一雄が白状した。
「まったく、知らないなら知らないって言えばいいじゃない。なんで知ってるフリなんかするのよ?」
「いや、みんなが知ってるのに自分だけ知らないのって、なんか恥ずかしいと思って」
「そんなの気にしなくていいのに。誰も知らないことを責めたり、笑ったりしないよ」
「そうよ。逆に隠されると騙されてるみたいで腹がたつわ。次やったら、罰として全員にジュース奢りだからね。分かった?」
「……はい」
素直な態度を見せる一雄に、佐倉もそれ以上は何も言わないで済ませる。少し可哀想に見えなくもない光景だが、知ったかぶりをした一雄が悪いのだから自業自得というものだ。
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