××男と異常女共

シイタ

文字の大きさ
92 / 111
Ignorance is bliss.

6-3

しおりを挟む
「おはよう」「オッハー」「はよー」「ハロー」

 学校に登校し、自分の教室まで到着すると、そんな色んな朝の挨拶があちらこちらから聞こえてくる。
 普段は気にも留めないそれらの挨拶だが、こうやって聞いてみると本当に色んな形があるのだなと思ってしまう。
 教室内はすでにクラスの半分以上の人数が見られ、それぞれ談笑談話や睡眠に読書と各々がSHRショートホームルームの時間まで自由に過ごしている。

「ハロハロー。ハローキィちゃん」

 席に着くと、そう言って馴れ馴れしく挨拶をしてくる男の声が聞こえてきた。
 俺はそいつが言った自分の呼び名にピクリと反応して、一瞬固まる。

「……」

「あれれ、なんで返事してくんないの、キィちゃん。お眠むなの?」

「……いや、今の呼ばれ方が嫌だった」

「それまたなんで?」

「……口がない白猫キャラを思い出したから」

 俺の言葉に、クラスメイトである黒髪ロングの倫太郎はきょとんとした顔を見せる。そして、俺が言ったキャラが何なのかを思い浮かべることができたのか、「……ぷっ、あはははは」と吹き出すように笑い始めた。

「そういうこと。ハローキ◯ィちゃんね。一瞬何言ってるのか全然分かんなかったよ。だって、あんなキュートなキャラとキィちゃんってどうやったって結びつかないもん。まさに反対って言えるじゃん」

反対じゃなくて反対な」

 未だにあははと笑う倫太郎を見ながら、そんなに面白いことなのかと俺は疑問に思う。
 すると倫太郎の後ろから、茶髪ロングの女子と黒髪ボブの女子が近づいてきた。

「なになに~、なに笑ってんの?」

「あっ、佐倉ちゃんに水原ちゃん。それがさぁ――」

 倫太郎は先ほどの話を二人に説明し始め、それを聞いた二人は俺のことを一度見てから倫太郎と同じく笑い出す。茶髪ロングの女子――佐倉さくた綾子あやこは周りの視線も気にせず大きく、黒髪ボブの女子――水原みずはらゆりかは口を手で抑えて上品に。

「あはははは、それはそうだわ。この目つきの酷い八切からあのキャラクターを連想するとか、無理にもほどがあるわよ。ねぇ、ゆりか」

「ふふ、そうだね。でも八切くんとキ◯ィーちゃんが似てるっていうのは、少し分かるかもしれないかな」

「えぇ、どこが?」

「えっとね、キテ◯ーちゃんって口がないのは覚えてるかな?」

 水原の問いかけに佐倉はキャラの顔を思い出すように「……うん、覚えてる」と答える中、「あれ? ×バッテン口がなかったっけ?」と倫太郎が首を傾げる。
 俺も頭の中でキャラの顔を思い出してみるが、あのキャラに×バッテン口なんかなかった。倫太郎は一体、何と間違えているのやら。

「……それってミッ◯ィーじゃない?」

「どんなキャラだっけ?」

「……これだよ」

 スマホで調べて出した画像を見せる水原。その画像には、×バッテン口を付けた白いうさぎのようなキャラが写っていた。

「あぁそういえばいたね、こんなキャラ。どっちも白いからごっちゃになっちゃってた」

「全然似てないだろ」

「えぇ、似てるよ」

「なにが全然なん?」

 倫太郎の後ろから男の声がしたと思うと、ひょっこりとその声の主が顔を出してきた。
 茶髪セミロングで倫太郎より背が低いその男子――相馬そうま一雄かずおが輪の中に入ってくると、皆が親しげに軽い挨拶を返して受け入れる。

「それで、なにが全然なん?」

「いやさぁ、キテ◯ーとミッフ◯ーってキャラが似てるから似てるか似てないかって話。かずちゃんはどう思う? 似てると思う? 似てないと思う?」

「………………うーん」

 やけに長い思考を見せる一雄に「かずちゃん?」と倫太郎が声を掛ける。
 
「……あー、うん。……似てるんじゃない、似てると思う! そっくりだよね!」

「だよねだよね!」

 あれだけ悩んでおいてやけにはっきりと言う一雄を俺は訝しむが、倫太郎は気にした様子を見せず自分と同じ意見だということに嬉し顔だ。加えて、俺に向かって何故かドヤ顔を見せてくる。
 
「なんだよ?」

「なんでも~」

「……」

 その何故か勝ち誇ったような顔と態度を見せる倫太郎に、俺はイラッとする。
 自分の意見が肯定されたことを嬉しく思うのは分かるが、煽るような態度を俺に向けてくる意味が分からない。喧嘩でも売っているのだろうか。
 売られた喧嘩は買わずに済ますのが利口な生き方だ。喧嘩を売られることなんてほとんどない俺だが、その考えから喧嘩を売られたとしても買うことはほとんどない。喧嘩なんて面倒なもので、労力だけ使って得になることなんてほとんどない。あえて得になることと言えば、勝った方が勝利の悦を楽しめるというだけか、あらかじめ両者で決めていたなんらかの権利や物を勝った方が手に入れることができるというだけだ。
 別に俺は勝利の悦を楽しみたいとは思わないし、そもそも倫太郎が喧嘩を売ってきたわけでもない。だがこのまま倫太郎を気分の良いままにしておくのは、なんか癪であった。
 だから、俺は訊かないでおこうと思っていたことを訊くことにした。まるで何かを隠しているかのように、ぎこちない態度を見せるそいつに。
 
「……なぁ、一雄。どの辺が似てると思ったんだ? 教えてくれよ」

「え!? ……え、えーと……色、とか?」

 正にギクリと言った言葉がぴったりな反応を見せた一雄が、視線を彷徨わせながら考える素ぶりを見せた後に答えた。その声はさっきのはっきりとした物言いとは程遠く、疑問系で答えているところからも自信のなさがありありと感じられる。
 確かにあのキャラ達の色は似ている。というか全く同じの真っ白だ。間違った答えを言ったわけでもないのに、不安でいっぱいという顔になったいる一雄。俺はそんな一雄を追い詰めるように、「どんな色だったけ?」と続けて聞いてみる。

「えー……と、ね…………」
 
 特に暑くもないのにダラダラと汗をかき始め、無言になっていく一雄。その様子に一同は眉をひそめ、そして察したように呆れ顔に変わっていく。そんな中で始めに口を開いたのは、佐倉だった。

「相馬、あんた実はキ◯ィもミッ◯ィーも知らないんじゃないでしょうね?」

「……」

「別に怒ったりしないから、正直に言いなさいよ」

「…………はい、本当はどっちも知らないです。……ごめんなさい」

 佐倉の言葉でようやく観念したように一雄が白状した。

「まったく、知らないなら知らないって言えばいいじゃない。なんで知ってるフリなんかするのよ?」

「いや、みんなが知ってるのに自分だけ知らないのって、なんか恥ずかしいと思って」

「そんなの気にしなくていいのに。誰も知らないことを責めたり、笑ったりしないよ」

「そうよ。逆に隠されると騙されてるみたいで腹がたつわ。次やったら、罰として全員にジュース奢りだからね。分かった?」

「……はい」

 素直な態度を見せる一雄に、佐倉もそれ以上は何も言わないで済ませる。少し可哀想に見えなくもない光景だが、知ったかぶりをした一雄が悪いのだから自業自得というものだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...