××男と異常女共

シイタ

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Ignorance is bliss.

6-20

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〇『DIARY』〇 sight : ???


 ――パタン。

 と部屋のドアを閉めた私は、専用の鍵を取り出してそれを鍵穴に差し込んだ。そしてゆっくりと、宝箱に鍵を閉めるように鍵を回す。
 大事な大事な部屋だから。私にとってとても大切な部屋だから。鍵を開ける時も閉める時も私はいつもこうやって、ゆっくりと鍵を掛ける。
 カチャ、という音と共に施錠されるドア。
 私は鍵をポケットに仕舞うと、自室に向かって歩き出した。

 自室にも他の部屋にも鍵は付いているが、それは元からドアに付いているもので基本的に内側からしか施錠できない。
 あの部屋だけが専用の鍵が必要であり、外側から鍵を掛けられるようになっている。
 なぜあそこだけかと思うかもしれないが、単に私がそういう風に作り変えたというだけだ。
 さっきも言った通り、大切で大事な宝箱のような部屋だから。誰かが勝手に踏み入らないように、部屋の中が荒らされないように、私は鍵を取り付けた。
 家には私一人しか住んでいないし、訪問してくる人間もほとんどいないため、そんなことをする必要はないと言えばないのだが、世の中何が起きるか分からない。
 何もない無防備なドア一つよりも、鍵の一つでも付いたドアの方が安心できるというものだ。

 自室に行き着き中に入ると、私は机の前に置かれている椅子に座り、引き出しから一つの冊子を取り出した。
 『DIARY』という英語の文字タイトルが刻まれている表紙。その文字の通り、取り出した冊子は日々の出来事を記録をする日記だ。
 私は毎日の出来事をこれに書き留めては、その日その日に何があったのかを思い出せるようにしている。
 人は大事なことさえも忘れてしまう生き物だ。
 私はそれが嫌で、日記をつけることを決めこれまで書き続けてきた。
 今まで二冊の日記を埋め、手に持っている日記はこれで三冊目だ。

 自室にある窓を覗けば、外はもう暗く夜の帳が下りている。
 家の中の暗さからそれは分かっていたが、また随分と自分はあの部屋に長く居座っていたようだ。
 いつものこととは言え、自分でも呆れてしまう。
 日記をパラパラと開いていき目的のページで止め、今日の出来事を思い出してみる。
 朝ベットから起きたところから今まで、何をして何を見て何を聞いたのかを。
 特段変わった出来事はなかった。だが書く量はそこそこある。
 目に入ってきたもの、聞こえてきた音、舌に感じた味、鼻に通った匂い、ものに触れた感覚、抱いた感情、行なった行動、それを行った時の時間、口に入れた飲食物、訪れた場所、すれ違った人間。
 思い出せる限りはどんな小さなことでも書き出していく。もちろん適当に書き出しているわけではなく、時系列はしっかりとだ。

 ふと、今日の出来事を書き出すのも終盤に差し掛かったところで、あることを思い出して筆を止める。
 それは部屋に入る前にテレビで見ていたニュース。××××という女性が二週間前から行方不明になっているというものだったのだが、その時テレビに映し出されていた××××の顔写真についてだ。
 あの顔写真を思い出してみて、思うことがあった。
 それは、あの女性の顔写真の写りが悪すぎるのではないかということだ。
 実際の顔は、もう少し綺麗なもの。美人とは言えなくても、綺麗とは言える人物
 私はその××××とは家族でも友人でもなければ知り合いでもないけれど、顔見知りではある。
 たった一回会っただけ、もう二度と会うことはない顔見知りだ。
 だって××××は、もうこの世にはいないから。

 ××××は、私が殺してしまった。

 別に××××に恨みや辛みがあったわけじゃない。まず、一回会っただけの相手に恨みや辛みもないだろう。
 ただの偶然。夜道を歩いていたら、出会ったのが彼女だったというだけだ。
 だから、狙う相手はいつも決まっていない。
 決まっているのはいつも場所だけで、そこで偶然出会った人間を私は狙っているのだ。
 夜道とあって子供に出会うことはなく、大学生や社会人などの二十歳はたちを超えた人間ばかり。
 たまには高校生ぐらいの若い子を狙いたいが、夜は物騒な時間帯だけに未成年の人間はあまり見ることができない。
 夜道を歩く未成年がゼロではないはずだが、多分私の運が悪い所為だろう。
 また、場所が指定されているからというのもあるかもしれない。
 
 そういえば、私が殺した人間はニュースで『神残し』という怪事件にあったということになっていた。
 怪事件の概要は、行方不明となった者が大量の血だけを残して消えるというもの。
 確かに私はその場に大量の血を残しているが、それと同時に殺した人間の死体もそのまま残して去っている。
 何処かに持ち去ったりは一度もしたことがない。
 なのに死体があるはずの場所には死体がなく、残した大量の血だけが残っている。
 一体、あの死体はどこに行ったというのか。
 誰かが持ち去っているのか、野犬にでも喰われたのか、本当に神隠しにでも遭ったのか。
 死体が神隠しに遭うなんて聞いたこともないけれど、聞いたことがないだけで実際に起こっていたりはしているかもしれない。
 まあ、あったとしても神隠しに遭っては話を伝えることはできないし、そもそも死体は喋ることができない。聞いたことないのが当然の結果だ。
 それに神隠しなんてものが本当にあるかどうかも疑わしい。それこそ神のみぞ知るである。
 
 死体が消えた理由として神隠しはないとしよう。そして、野犬に喰われたというのも骨や肉片の喰い残しがあったという話を聞かないところ、それもないだろう。
 としたら、残る理由は誰かが持ち去っているということ。
 全く知らない第三者が持ち去っているという可能性もあるが、私は死体を持ち去っているかもしれない人間の心当たりが一人いた。
 。あの男が死体を回収しているのかもしれない。

 ピロン♪

 机に置いといたスマホがバイブの振動と共に鳴った。
 手に取って確かめてれば一通のメールが届いており、差出人はちょうど今思い浮かべていた相手である。
 口元が緩むのを抑えられない。
 メールの内容は確認しなくても想像でき、いつもと変わらない文面なのだろう。
 その予想通り、メールの内容は日付と時間帯。そして、何処かの位置情報。
 日付は明日、時間帯は深夜、位置情報の場所は足を運んだこともないところ。
 笑みを浮かべたまま私は日記帳を閉じて引き出しに片付けると、ゆっくりと立ち上がり思う。
 
 早く明日になって欲しい、と。
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