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さっき見つけた寝室で休もう
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「え、実の父親にそんなことを言われたんですか?」
母さんが泣かされていたシーンが、フラッシュバックのように蘇る。
この体ではない。もう焼却されて骨だけになったであろう、前の体に刻み込まれた後悔や痛みが全身を襲ってきた。汗が浮かび上がって息が乱れる。手は細かく震えていて体温が急速に下がったように感じる。
急に視界が真っ暗になってしまい抱きしめていた手を離すと、力が抜けてしまって、すとんと地面に座ってしまう。
「イオちゃん!?」
珍しく慌てた様子でアグラエルさんが抱きかかえてくれた。
その優しさがクソ親父の幻想から解放してくれる。
僕はアイツを殺して全てを終わらせたんだ。
母さんや僕は解放されて自由に生きる権利を手に入れた。過去に囚われてはいけない。頭を振って気持ちを切り替える。
「大丈夫……です……ちょっと驚いただけですから」
「顔が真っ白だよ? さっき寝室を見つけたから、そこで休もう」
「いえ。そんなこと……ない」
「ワガママを言わない。顔色が良くなるまで、お姉さんの言うことを聞きなさい」
少し怒っているみたいだけど、それが心配しているからこそというのはわかる。
こんなところで意地を張っても意味はないので、アグラエルさんの言葉に従うと決めた。
「わかりました。そうします」
「良い子だね」
頭を撫でながら運ばれると、廊下に戻って寝室へ入る。誰も使ったことがない真っ白なシーツつの上に置かれてしまった。
鍛冶場の主はメヌさんなんだけど、僕が初めて遣っても良いのかな。
「さっきの話なんだけど」
無駄なことを考えていたらアグラエルさんが、思い詰めたような表情で僕を見ていた。
「父親に酷いことを言われたけど、レベッタたちやイオちゃんと出会って私にも価値があるんだって思うようになれている。もう大丈夫だし、これからも妻として支えるから安心して」
前半はすごく良いことを言っていた気がするけど、後半……特に妻という部分に引っかかる。僕たち、結婚してないよね!?
「妻ってどいうことですか?」
「一緒に住んでいるんだから、イオちゃんは旦那さんで、私は妻になる。当たり前じゃないか」
ええッ!! 当たり前なの!? 違う気がするんだけど……って、僕の常識で測ってはダメだ。
ドラゴニュートだとそういう文化なのかもしれない。とりあえずは納得するとしよう。他に聞くことがある。
「酷い言葉を克服したと言ってましたが、だったらどうして男の姿になった僕を見ると隠れちゃうんですか?」
「それは……どうだな……」
珍しく言い淀んでいる。ここで早く話せと催促するのは悪手だろう。心の準備が整うまでじっと待つべきだ。
目を見て待っていると、しばらくしてアグラエルさんが再び口を動かした。
「……あれはだな。その…………イオちゃんがな…………イケメンすぎて……近寄りがたいんだ」
恥ずかしいのか手で顔を隠してしまった。
あれ? 父親に酷いことを言われたトラウマによって男を見ると怖くなるじゃないの?
今は僕が格好よすぎるから目が合わせられないとか、そういうのだったの?
「それじゃなんで庭にいたとき、父親の話をしたんですか」
「最初に隠れてしまったときの説明をしようと思ったんだ。その後に今は問題ないと伝えようとして……」
「僕が調子悪くなったから言えなかった。そういうことですか?」
「うん。それで間違ってない」
父親に酷いことを言われて男性恐怖症になった女性はいなかったのか。
でも良かったとは思わない。寂しい思いをしたのは間違いないし、心は大いに傷ついたはずだ。
いくら時間がかかってもいいので癒えてくれると良いなと思うし、そのためなら協力は惜しまないつもりだ。
「だっら男の顔に慣れてくれれば良いんですね」
指輪を外して男の姿に戻る。
「僕を見てください」
アグラエルさんが顔から手を離した。
顔が真っ赤になって後ろに下がろうとするので、手を掴む。
「逃げちゃ駄目です。慣れてください」
力を入れて引っ張ると、彼女は抵抗しなかった。ベッドの上に倒れ込む。
体を抱きしめるとお互いの顔が近くに来た。あと少し前に出たら接触しそうなぐらい。息づかい、体温、体の感触や匂いまでもダイレクトに伝わってくる。
「イイイイイイイイオオオ????」
興奮のあまり名前すら呼べなくなってしまったアグラエルさんの背中を優しく叩く。
「僕は何もしませんから。落ち着いてください」
その後は黙ったまま。一定のリズムで手を動かしている。こういうときは静かにしているのが良いのだ。
しばらくして冷静になったのか、アグラエルさんの顔色は元に戻る。
「私の旦那様がここまでしてくれたんだ。ついにその時が来たんだね。覚悟を決めなきゃ」
ろれつが回っていないようで、何を言っているのか正確には聞き取れなかったけど、きっと男に慣れようと必死に頑張っ……て、え? 何しているの?
急にアグラエルさんが動き出すと、僕は仰向けになって腹の上に座られてしまった。馬乗り状態だ。しかも服に手をかけていて脱ごうとしている。どういう状況!?
「さあ! 一緒に熱い昼を過ごし――」
「素材の確認が終わった。魔道具を作りたいから協力して」
片手に鍛冶をするためのハンマーを持ったメヌさんが入ってきた。
僕たちの姿を見て感情がすとんと落ちた顔になる。
「抜け駆けは死罪……」
ハンマーを振り上げると飛びかかってきた。
その後はアグラエルさんとの取っ組み合いが始まってしまい、自由になった僕は避難してしばらく様子を見たけど、争いが止まる気配はなかったので頑張って仲裁する。
事情を説明した上で、二人の頬にキスすることで何とか納得してもらえた。
大きな事故にならなくて本当に良かった。
母さんが泣かされていたシーンが、フラッシュバックのように蘇る。
この体ではない。もう焼却されて骨だけになったであろう、前の体に刻み込まれた後悔や痛みが全身を襲ってきた。汗が浮かび上がって息が乱れる。手は細かく震えていて体温が急速に下がったように感じる。
急に視界が真っ暗になってしまい抱きしめていた手を離すと、力が抜けてしまって、すとんと地面に座ってしまう。
「イオちゃん!?」
珍しく慌てた様子でアグラエルさんが抱きかかえてくれた。
その優しさがクソ親父の幻想から解放してくれる。
僕はアイツを殺して全てを終わらせたんだ。
母さんや僕は解放されて自由に生きる権利を手に入れた。過去に囚われてはいけない。頭を振って気持ちを切り替える。
「大丈夫……です……ちょっと驚いただけですから」
「顔が真っ白だよ? さっき寝室を見つけたから、そこで休もう」
「いえ。そんなこと……ない」
「ワガママを言わない。顔色が良くなるまで、お姉さんの言うことを聞きなさい」
少し怒っているみたいだけど、それが心配しているからこそというのはわかる。
こんなところで意地を張っても意味はないので、アグラエルさんの言葉に従うと決めた。
「わかりました。そうします」
「良い子だね」
頭を撫でながら運ばれると、廊下に戻って寝室へ入る。誰も使ったことがない真っ白なシーツつの上に置かれてしまった。
鍛冶場の主はメヌさんなんだけど、僕が初めて遣っても良いのかな。
「さっきの話なんだけど」
無駄なことを考えていたらアグラエルさんが、思い詰めたような表情で僕を見ていた。
「父親に酷いことを言われたけど、レベッタたちやイオちゃんと出会って私にも価値があるんだって思うようになれている。もう大丈夫だし、これからも妻として支えるから安心して」
前半はすごく良いことを言っていた気がするけど、後半……特に妻という部分に引っかかる。僕たち、結婚してないよね!?
「妻ってどいうことですか?」
「一緒に住んでいるんだから、イオちゃんは旦那さんで、私は妻になる。当たり前じゃないか」
ええッ!! 当たり前なの!? 違う気がするんだけど……って、僕の常識で測ってはダメだ。
ドラゴニュートだとそういう文化なのかもしれない。とりあえずは納得するとしよう。他に聞くことがある。
「酷い言葉を克服したと言ってましたが、だったらどうして男の姿になった僕を見ると隠れちゃうんですか?」
「それは……どうだな……」
珍しく言い淀んでいる。ここで早く話せと催促するのは悪手だろう。心の準備が整うまでじっと待つべきだ。
目を見て待っていると、しばらくしてアグラエルさんが再び口を動かした。
「……あれはだな。その…………イオちゃんがな…………イケメンすぎて……近寄りがたいんだ」
恥ずかしいのか手で顔を隠してしまった。
あれ? 父親に酷いことを言われたトラウマによって男を見ると怖くなるじゃないの?
今は僕が格好よすぎるから目が合わせられないとか、そういうのだったの?
「それじゃなんで庭にいたとき、父親の話をしたんですか」
「最初に隠れてしまったときの説明をしようと思ったんだ。その後に今は問題ないと伝えようとして……」
「僕が調子悪くなったから言えなかった。そういうことですか?」
「うん。それで間違ってない」
父親に酷いことを言われて男性恐怖症になった女性はいなかったのか。
でも良かったとは思わない。寂しい思いをしたのは間違いないし、心は大いに傷ついたはずだ。
いくら時間がかかってもいいので癒えてくれると良いなと思うし、そのためなら協力は惜しまないつもりだ。
「だっら男の顔に慣れてくれれば良いんですね」
指輪を外して男の姿に戻る。
「僕を見てください」
アグラエルさんが顔から手を離した。
顔が真っ赤になって後ろに下がろうとするので、手を掴む。
「逃げちゃ駄目です。慣れてください」
力を入れて引っ張ると、彼女は抵抗しなかった。ベッドの上に倒れ込む。
体を抱きしめるとお互いの顔が近くに来た。あと少し前に出たら接触しそうなぐらい。息づかい、体温、体の感触や匂いまでもダイレクトに伝わってくる。
「イイイイイイイイオオオ????」
興奮のあまり名前すら呼べなくなってしまったアグラエルさんの背中を優しく叩く。
「僕は何もしませんから。落ち着いてください」
その後は黙ったまま。一定のリズムで手を動かしている。こういうときは静かにしているのが良いのだ。
しばらくして冷静になったのか、アグラエルさんの顔色は元に戻る。
「私の旦那様がここまでしてくれたんだ。ついにその時が来たんだね。覚悟を決めなきゃ」
ろれつが回っていないようで、何を言っているのか正確には聞き取れなかったけど、きっと男に慣れようと必死に頑張っ……て、え? 何しているの?
急にアグラエルさんが動き出すと、僕は仰向けになって腹の上に座られてしまった。馬乗り状態だ。しかも服に手をかけていて脱ごうとしている。どういう状況!?
「さあ! 一緒に熱い昼を過ごし――」
「素材の確認が終わった。魔道具を作りたいから協力して」
片手に鍛冶をするためのハンマーを持ったメヌさんが入ってきた。
僕たちの姿を見て感情がすとんと落ちた顔になる。
「抜け駆けは死罪……」
ハンマーを振り上げると飛びかかってきた。
その後はアグラエルさんとの取っ組み合いが始まってしまい、自由になった僕は避難してしばらく様子を見たけど、争いが止まる気配はなかったので頑張って仲裁する。
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