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勇者の威を借るクソジジイと僕
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魔王があらわれ魔族が全国で暴れまわった時代があったという。
魔王を倒せるのは「勇者の血」を受け継ぐ人間だけだそうだ。
魔王とやらを倒したのがひい爺様で、その息子である爺様からは
耳にタコができるほどにひい爺様の武勇伝を聞かされたものだった。
さて、爺様も母親も僕も当然勇者の血筋であるわけだが 僕ら世代にもなると魔王がなんたらなどというのは既に遠い昔話の域であった。
当然自覚も何もなく、母親はスーパーのタイムセールに行くような普通の主婦だし、僕も学校で赤点と戦う平凡な学生でしかないというのが正直なところである。
しかし爺様は違った。自分は勇者の血筋なんだぞとあちこちで言いふらしては、年齢も考えずナンパを繰り返すクソジジイ。いや、随分優しい言い方をしてしまった。最低の万年発情浮気男なのである。
口説き文句はこう。
「勇者の子孫を生む気はないかい?」
ちなみに今は亡き婆様も口説かれた一人だ。
輝かしい勇者の称号をナンパ目的に使われたんじゃ、ひい爺様も死後の世界で頭をかかえているに違いない。
タチの悪い事に爺様は金を持っていた。魔王から世界を救った勇者の家なら、そりゃあ世界中からアレコレたんまりと貰えた事だろう。
女癖の悪いクソエロ男が財力を手にしたら、どんな悪行を重ねるか想像するまでもない。
あちこち同時進行で女達を口説き手を付け何人も孕ませた最低男ながら、その生活をある程度保障する事により不満をおさえつけたのである。金で無理矢理解決したわけだ。こんなのサスペンスなら真っ先に殺されている。
僕は爺様に
「いつか刺されるだろうね。
むしろまだ爺様の背中に一本の包丁すら見当たらない事が不思議だよ」
と吐き捨てた事がある。 すると爺様は
「ああ、かまわんさ。美女に刺されるなら本望だ。
ただし俺が種付けできない体になってからなら」
と、きたもんだ。
心底あきれたものである。
そうして、ほとんど爺様一人の力により、僕はとんでもない数の親戚をもつ身となったのだ。
ある年の秋「魔王復活の兆しあり」とのニュース速報が音楽番組を妨害した。
へぇ、魔王って本当にいたのか。どうも実感がわかないままにぼんやりしていたところ、爺様から呼び出しがかかったのだ。
まさか僕に「さぁ孫よ!おまえが勇者だ!魔王を倒しに行くのだ!」なんて言うつもりじゃないだろうな…?
身構える僕に爺様は言いはなった。
「そこの病院いくぞ。皆集まってるから」
病院…病院?
え、誰か怪我したの?
魔王の襲撃でも受けたの?
勇者の血族根絶やしにしてやんぞ、みたいな事?
先程ぼんやり流し見ていたニュース速報が急に重くのしかかり、嫌な想像を僕の頭に植え付けては血の気を奪っていく。
怯えてふるえる手を爺様にひっぱられ病院へ行ってみると そこはほとんど僕の親戚で埋め尽くされて貸し切り状態になっていた。
まるで健康診断だ。行列の先で次々に採血を受けていく親戚たち。
「爺様、これは何の検査なの?何か勇者の適正を見ているの?」
わけがわからず爺様に問いかけると
「魔王を倒せるのは勇者の血だって言っただろう」
と、あきれた顔で返された。
血。つまり子孫が戦えという意味ではなく。
血そのものをぶっかけろと? それでこの採血イベント?
集まった大量の血により対魔王兵器が作られ、
大きな被害は出ぬままに騒動は収まった。
それを見届けてから、爺様はぽっくりと逝ってしまった。
遺品整理中、爺様の古い日記帳を見つけた。
爺様が幼い頃に起きた魔王騒動。
当時の数少ない血族達は魔王を溶かすため己の血の全てを差し出したのだという。
当然その中には爺様の父親、ひい爺様がいた。
ひい爺様は魔王に向けて血を吹き出し、とどめを刺しながら死んだのだという。
“誰に怨まれても生きていける。最低な男になろうとも生きていける。
けれど、親族が、子供たちが、さらにその子供たちだって、血を抜かれて死ぬ事だけは耐えられない。”
そこに書かれている通り。僕の知る爺様は最低な男であった。
女癖は悪く、おそらく無数の怨みの視線に刺されながらも図太く生きて来た爺様であった。
生涯爺様を超えるクソ男には会えそうもないし、そんなクソ男がいてほしくもない。
けれど爺様の苦悩のひとさじ分くらいは、僕にも味わえる気がした。
あれ程までに
「恥知らずのクソジジイめ。どれほどの人数を泣かせてきたんだ。いなくなればいいのに」
と思わずにいられなかった軽蔑対象が、
いざいなくなったら、妙に静かで、時々、本当にごく稀にだけど、
たまらなくなる瞬間がある。
爺様はそれを、どれだけの時間味わったのだろう。
ひとさじ分と言わず、例えば僕が爺様と同じだけのものを味わい続けたとしたら、
僕は爺様のように最低な手段をとらずにいられただろうか。
あるいは、多くの女を泣かせ、それを取り巻く男たちも泣かせるような
最低な悪党ジジイになり下がる覚悟を決める事ができただろうか。
怯えるままに、何かに追い立てられるように子供を増やし、孫を増やし、血をふやし、そうして僕は血をふきだして死ぬ事もなく、注射一本分の採血だけを終えた。
病院での満足そうなクソジジイの顔が思い出されて仕方がない。
ああ、満足してぽっくりだ。最後まで結構なご身分だったなクソジジイ。
魔王を倒せるのは「勇者の血」を受け継ぐ人間だけだそうだ。
魔王とやらを倒したのがひい爺様で、その息子である爺様からは
耳にタコができるほどにひい爺様の武勇伝を聞かされたものだった。
さて、爺様も母親も僕も当然勇者の血筋であるわけだが 僕ら世代にもなると魔王がなんたらなどというのは既に遠い昔話の域であった。
当然自覚も何もなく、母親はスーパーのタイムセールに行くような普通の主婦だし、僕も学校で赤点と戦う平凡な学生でしかないというのが正直なところである。
しかし爺様は違った。自分は勇者の血筋なんだぞとあちこちで言いふらしては、年齢も考えずナンパを繰り返すクソジジイ。いや、随分優しい言い方をしてしまった。最低の万年発情浮気男なのである。
口説き文句はこう。
「勇者の子孫を生む気はないかい?」
ちなみに今は亡き婆様も口説かれた一人だ。
輝かしい勇者の称号をナンパ目的に使われたんじゃ、ひい爺様も死後の世界で頭をかかえているに違いない。
タチの悪い事に爺様は金を持っていた。魔王から世界を救った勇者の家なら、そりゃあ世界中からアレコレたんまりと貰えた事だろう。
女癖の悪いクソエロ男が財力を手にしたら、どんな悪行を重ねるか想像するまでもない。
あちこち同時進行で女達を口説き手を付け何人も孕ませた最低男ながら、その生活をある程度保障する事により不満をおさえつけたのである。金で無理矢理解決したわけだ。こんなのサスペンスなら真っ先に殺されている。
僕は爺様に
「いつか刺されるだろうね。
むしろまだ爺様の背中に一本の包丁すら見当たらない事が不思議だよ」
と吐き捨てた事がある。 すると爺様は
「ああ、かまわんさ。美女に刺されるなら本望だ。
ただし俺が種付けできない体になってからなら」
と、きたもんだ。
心底あきれたものである。
そうして、ほとんど爺様一人の力により、僕はとんでもない数の親戚をもつ身となったのだ。
ある年の秋「魔王復活の兆しあり」とのニュース速報が音楽番組を妨害した。
へぇ、魔王って本当にいたのか。どうも実感がわかないままにぼんやりしていたところ、爺様から呼び出しがかかったのだ。
まさか僕に「さぁ孫よ!おまえが勇者だ!魔王を倒しに行くのだ!」なんて言うつもりじゃないだろうな…?
身構える僕に爺様は言いはなった。
「そこの病院いくぞ。皆集まってるから」
病院…病院?
え、誰か怪我したの?
魔王の襲撃でも受けたの?
勇者の血族根絶やしにしてやんぞ、みたいな事?
先程ぼんやり流し見ていたニュース速報が急に重くのしかかり、嫌な想像を僕の頭に植え付けては血の気を奪っていく。
怯えてふるえる手を爺様にひっぱられ病院へ行ってみると そこはほとんど僕の親戚で埋め尽くされて貸し切り状態になっていた。
まるで健康診断だ。行列の先で次々に採血を受けていく親戚たち。
「爺様、これは何の検査なの?何か勇者の適正を見ているの?」
わけがわからず爺様に問いかけると
「魔王を倒せるのは勇者の血だって言っただろう」
と、あきれた顔で返された。
血。つまり子孫が戦えという意味ではなく。
血そのものをぶっかけろと? それでこの採血イベント?
集まった大量の血により対魔王兵器が作られ、
大きな被害は出ぬままに騒動は収まった。
それを見届けてから、爺様はぽっくりと逝ってしまった。
遺品整理中、爺様の古い日記帳を見つけた。
爺様が幼い頃に起きた魔王騒動。
当時の数少ない血族達は魔王を溶かすため己の血の全てを差し出したのだという。
当然その中には爺様の父親、ひい爺様がいた。
ひい爺様は魔王に向けて血を吹き出し、とどめを刺しながら死んだのだという。
“誰に怨まれても生きていける。最低な男になろうとも生きていける。
けれど、親族が、子供たちが、さらにその子供たちだって、血を抜かれて死ぬ事だけは耐えられない。”
そこに書かれている通り。僕の知る爺様は最低な男であった。
女癖は悪く、おそらく無数の怨みの視線に刺されながらも図太く生きて来た爺様であった。
生涯爺様を超えるクソ男には会えそうもないし、そんなクソ男がいてほしくもない。
けれど爺様の苦悩のひとさじ分くらいは、僕にも味わえる気がした。
あれ程までに
「恥知らずのクソジジイめ。どれほどの人数を泣かせてきたんだ。いなくなればいいのに」
と思わずにいられなかった軽蔑対象が、
いざいなくなったら、妙に静かで、時々、本当にごく稀にだけど、
たまらなくなる瞬間がある。
爺様はそれを、どれだけの時間味わったのだろう。
ひとさじ分と言わず、例えば僕が爺様と同じだけのものを味わい続けたとしたら、
僕は爺様のように最低な手段をとらずにいられただろうか。
あるいは、多くの女を泣かせ、それを取り巻く男たちも泣かせるような
最低な悪党ジジイになり下がる覚悟を決める事ができただろうか。
怯えるままに、何かに追い立てられるように子供を増やし、孫を増やし、血をふやし、そうして僕は血をふきだして死ぬ事もなく、注射一本分の採血だけを終えた。
病院での満足そうなクソジジイの顔が思い出されて仕方がない。
ああ、満足してぽっくりだ。最後まで結構なご身分だったなクソジジイ。
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