2 / 3
悪役と令嬢の熱情
しおりを挟む
その令嬢は愛らしく、笑みは温かく、物腰も柔らかく、
何より心優しい娘であった。
ある時私が「感動作だ」と映画をおすすめしたところ、
彼女は翌日にヒッヒとむせび泣きながら
「ありがとうございますうう、素晴らしい作品でしたぁ」
と、なんとか聞き取れるあやしい呂律で感想を興奮ぎみに語った。
うんうん、主人公が逆境にも負けずにひたむきに夢に向かう姿!
さぞかし涙腺を刺激されただろう…!
という私の予想は大きく外れ、
「特にあの悪役の女性が素晴らしく…!」
なんて言うものだから驚いた。
こんな“イイトコの可愛らしいお嬢さん”のテンプレみたいな彼女が。
悪逆非道キャラに大興奮。
そのギャップにぽかんとしたままの私に彼女は言うのだ。
「私、女優になります。あんなに素敵で格好良くて凛々しくて麗しい、素晴らしい悪の華を演じられるような!」
……こういう良い子程、悪そうな人に憧れを持ったりするのかもしれない。
あるいは一時のテンションで盛り上がっているだけかもしれない。どんなジャンルもハマリ立てがテンションの旬。
そのうち飽きると思いきや、彼女はあれこれレッスン通いを増やし、オーディションを受けまくり、ついに本当に女優デビューを果たすことになる。
彼女が受けたオーディションは軒並み非道な役であった。
同情の余地があるような境遇が明かされるわけでも、後に好敵手になる役でもない。ガチモンのド悪党の役である。
彼女にそんな役が似合うものかと思っていたが甘かった。彼女だからこそ非道な悪党をやらせると輝いたのだ。
彼女は誰が見ても愛らしく、笑みは温かく、物腰はやわらかく、優しそうだった。
正気を疑うような恐ろしいセリフが、いつもと同じあの姿から、いつもと同じあの声で、いつもと変わらぬ調子で吐息のように吐き出されると
脳が誤作動を起こしたように冷たくなって、一瞬、時が止まるのだ。
かくして令嬢の評判は「新人女優は悪役令嬢!」等という見出しでネットニュースを駆け巡った。
彼女がデビューしたドラマは視聴率も良く、ついには劇場版にまで。
試写会の舞台挨拶にて、ヒロイン、ヒロインの恋人役に続いて
彼女がコメントを求められた時の事を、私は今でもよく覚えている。
「普段のお姿を見ていると、役とは全然違うタイプで…
あ、雰囲気はこのまんまなんですけど、出てくる言葉も態度も
ご本人とのギャップが凄いですよねー!舞台裏ではホントに優しくて…!
オーディションでは、どうしても悪役がやりたいと熱烈志願なさったそうですが、
それはまたどうして…」
彼女は、ええと、と少し頭の中で言葉を整理してから話し出した。
「友人に勧められた映画で、黒幕の女性に心を奪われたんです。
悪逆非道で同情の余地もない人物ながら、美しく、凛々しく、
言動の醜さまでもが気高く見えました。
その魅力は“何を捨ててもどんな手段でも得たいものがある”という
一点から来ているのだと感じます。
例え“なんとなく”で罪を犯した役ですら、
私には“好きな事を好きなようにする自由の為”と解釈できてしまいました。
私にはできません。
大切な人達を失う事になるかもしれません。
けれど彼女達には、何を捨てても得たい一点があるのです。
私にはできないのではなく、
そうまでして得たい一点が無かったのかもしれません。
真っ当に生きられて幸いな事だと思いますが、
人生の何もかもを糧にしてまでも執着するような何かを、
そんな熱量を私も味わったつもりになりたかったんです。」
その後、出演作が増えるにつれて彼女の役の幅も広がったが
私はやはり、悪として君臨する彼女の登場作品にこそ一番惹かれた。
非道であればあるほどに、彼女は内心、恋する乙女のごとく
熱烈に渦巻く何かしらの執着を疑似体験できているのだろうか。
彼女が心底惚れたという、あの映画の悪役へとたどり着くほどの熱情を。
何より心優しい娘であった。
ある時私が「感動作だ」と映画をおすすめしたところ、
彼女は翌日にヒッヒとむせび泣きながら
「ありがとうございますうう、素晴らしい作品でしたぁ」
と、なんとか聞き取れるあやしい呂律で感想を興奮ぎみに語った。
うんうん、主人公が逆境にも負けずにひたむきに夢に向かう姿!
さぞかし涙腺を刺激されただろう…!
という私の予想は大きく外れ、
「特にあの悪役の女性が素晴らしく…!」
なんて言うものだから驚いた。
こんな“イイトコの可愛らしいお嬢さん”のテンプレみたいな彼女が。
悪逆非道キャラに大興奮。
そのギャップにぽかんとしたままの私に彼女は言うのだ。
「私、女優になります。あんなに素敵で格好良くて凛々しくて麗しい、素晴らしい悪の華を演じられるような!」
……こういう良い子程、悪そうな人に憧れを持ったりするのかもしれない。
あるいは一時のテンションで盛り上がっているだけかもしれない。どんなジャンルもハマリ立てがテンションの旬。
そのうち飽きると思いきや、彼女はあれこれレッスン通いを増やし、オーディションを受けまくり、ついに本当に女優デビューを果たすことになる。
彼女が受けたオーディションは軒並み非道な役であった。
同情の余地があるような境遇が明かされるわけでも、後に好敵手になる役でもない。ガチモンのド悪党の役である。
彼女にそんな役が似合うものかと思っていたが甘かった。彼女だからこそ非道な悪党をやらせると輝いたのだ。
彼女は誰が見ても愛らしく、笑みは温かく、物腰はやわらかく、優しそうだった。
正気を疑うような恐ろしいセリフが、いつもと同じあの姿から、いつもと同じあの声で、いつもと変わらぬ調子で吐息のように吐き出されると
脳が誤作動を起こしたように冷たくなって、一瞬、時が止まるのだ。
かくして令嬢の評判は「新人女優は悪役令嬢!」等という見出しでネットニュースを駆け巡った。
彼女がデビューしたドラマは視聴率も良く、ついには劇場版にまで。
試写会の舞台挨拶にて、ヒロイン、ヒロインの恋人役に続いて
彼女がコメントを求められた時の事を、私は今でもよく覚えている。
「普段のお姿を見ていると、役とは全然違うタイプで…
あ、雰囲気はこのまんまなんですけど、出てくる言葉も態度も
ご本人とのギャップが凄いですよねー!舞台裏ではホントに優しくて…!
オーディションでは、どうしても悪役がやりたいと熱烈志願なさったそうですが、
それはまたどうして…」
彼女は、ええと、と少し頭の中で言葉を整理してから話し出した。
「友人に勧められた映画で、黒幕の女性に心を奪われたんです。
悪逆非道で同情の余地もない人物ながら、美しく、凛々しく、
言動の醜さまでもが気高く見えました。
その魅力は“何を捨ててもどんな手段でも得たいものがある”という
一点から来ているのだと感じます。
例え“なんとなく”で罪を犯した役ですら、
私には“好きな事を好きなようにする自由の為”と解釈できてしまいました。
私にはできません。
大切な人達を失う事になるかもしれません。
けれど彼女達には、何を捨てても得たい一点があるのです。
私にはできないのではなく、
そうまでして得たい一点が無かったのかもしれません。
真っ当に生きられて幸いな事だと思いますが、
人生の何もかもを糧にしてまでも執着するような何かを、
そんな熱量を私も味わったつもりになりたかったんです。」
その後、出演作が増えるにつれて彼女の役の幅も広がったが
私はやはり、悪として君臨する彼女の登場作品にこそ一番惹かれた。
非道であればあるほどに、彼女は内心、恋する乙女のごとく
熱烈に渦巻く何かしらの執着を疑似体験できているのだろうか。
彼女が心底惚れたという、あの映画の悪役へとたどり着くほどの熱情を。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる