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死の直前には走馬燈が見えるらしい。
祖母曰く、走馬燈というのは灯篭のようなものだとか。
実際どんな物かは知らないけれど、ドラマやアニメを見ていれば“さいごのさいご、生きてきた全ての記憶を見る現象”の例えとして使われている事くらいは、幼い僕にもぼんやり理解できた。
ある時、アニメのキャラクターがこう言った。
「人間の一生分の鼓動の回数は決まっているそうだよ。
ねぇ、こんなにドキドキしたら、あっという間に一生が終わっちゃわないかな」
胸のドキドキに限りがあると知った時のひらめき。
祖母にとびついた僕は、その大発見を教えてあげた。
「あのね、カメラだ!」
「カメラ?」
「あのね、ドキドキの数、決まってるんだって!
そんで、さいご、思い出が見えるんでしょ?
きっとね、たぶんね、ドキドキはシャッターなんだよ!
一回ドキってするたびに写真とるんだよ!
それ以上とれなくなったら、アルバムにして見せてくれるの!」
それこそが走馬燈と呼ばれるものだ。走馬燈はアルバムなのだ。
すごい!気が付いたのはきっと世界で僕ひとりだ!
そうやって胸をはる小さな僕を、祖母は心底楽しそうな顔で撫でてくれた。
「そうかー。人間はカメラだったのかぁ。そいつは愉快だね。
この小さなカメラにはどんな素敵な写真がつまっているんだろうね?」
もちろんキラキラドキドキな写真がつまっているにきまっていた。
何しろ、テレビ、犬、ごはん、おやつ、ゲーム!
僕の写真をおばあちゃんに見せてあげられたらいいのに!
…思い返すと、僕もなかなか可愛い事を考える子供だったんだな。
さて、今になって何故こんな事を思い返すのかといえば
今まさに走馬燈見ているからだ。
誤解なきよう。僕は健康だし、事故にあって危機的状況ってわけでもない。
ついでに言えば、現在どういうわけだか頭に広がり続ける走馬燈は、
一切僕の記憶にない景色ばかりだ。
直前まで昼寝をしていたので、最初はただの夢だと思って目覚めを待っていた。
知らない夫婦、鏡に映る知らない女の子、どんどん時が流れて、何度も何度も出てくる男性。
ああ、ああ、見覚えがある、随分若いが間違いなく祖父だ。
成程何度も出てくるわけだ。会う度ドキドキ余分にシャッターを鳴らすのだから。
そんなに連写して心臓は痛くならないのかな、なぁ、ばあちゃん。
待て、何故僕は祖母のアルバムを見ている?
「ばあちゃん」
まとわりつく夢のようなそれをむりやり払い、跳ね起き病院へ急ぐ。
ギリギリ最後の鼓動の瞬間には間に合ったようで、眠りにつく祖母を家族みんなで見送った。
泣きじゃくったところですべては忙しなく進む。親族があつまり葬儀の準備。
(比喩ではなく本当の意味での)アルバムから引き抜かれた写真は、
綺麗な花で額縁を作るように鮮やかに飾られた。
ようやく落ち着きを取り戻しはじめた頃、祖母の人生のアルバムは、再び僕の夢にあらわれた。
律義にも、前回に無理矢理中断したあたりからのスタート。
結婚式、母が生まれ、引っ越したり、旅行に行ったり、そうして母の結婚、僕が生まれて小さな手を伸ばす。
ああそうか。思い出した。
「この小さなカメラにはどんな素敵な写真がつまっているんだろうね?」
「おばあちゃんのカメラもいっぱいとってるでしょ?すごい写真いっぱいあるかな?」
「そりゃああるよ~今も目の前のかわいこさんを撮影中だよ」
「見たい!」
「そうだね、婆ちゃんはリアルタイムでたっぷり楽しむから、アルバムはきみにあげようね」
「ほんとに?ぜんぶ?」
「最後のシャッターひと押しぶんくらい、土産にくれれば充分さ」
有言実行にも程がある。
最後のシャッター、冥途の土産のひと押し分。
その瞬間に立ち会えて、ああ、まったく光栄だった。
祖母曰く、走馬燈というのは灯篭のようなものだとか。
実際どんな物かは知らないけれど、ドラマやアニメを見ていれば“さいごのさいご、生きてきた全ての記憶を見る現象”の例えとして使われている事くらいは、幼い僕にもぼんやり理解できた。
ある時、アニメのキャラクターがこう言った。
「人間の一生分の鼓動の回数は決まっているそうだよ。
ねぇ、こんなにドキドキしたら、あっという間に一生が終わっちゃわないかな」
胸のドキドキに限りがあると知った時のひらめき。
祖母にとびついた僕は、その大発見を教えてあげた。
「あのね、カメラだ!」
「カメラ?」
「あのね、ドキドキの数、決まってるんだって!
そんで、さいご、思い出が見えるんでしょ?
きっとね、たぶんね、ドキドキはシャッターなんだよ!
一回ドキってするたびに写真とるんだよ!
それ以上とれなくなったら、アルバムにして見せてくれるの!」
それこそが走馬燈と呼ばれるものだ。走馬燈はアルバムなのだ。
すごい!気が付いたのはきっと世界で僕ひとりだ!
そうやって胸をはる小さな僕を、祖母は心底楽しそうな顔で撫でてくれた。
「そうかー。人間はカメラだったのかぁ。そいつは愉快だね。
この小さなカメラにはどんな素敵な写真がつまっているんだろうね?」
もちろんキラキラドキドキな写真がつまっているにきまっていた。
何しろ、テレビ、犬、ごはん、おやつ、ゲーム!
僕の写真をおばあちゃんに見せてあげられたらいいのに!
…思い返すと、僕もなかなか可愛い事を考える子供だったんだな。
さて、今になって何故こんな事を思い返すのかといえば
今まさに走馬燈見ているからだ。
誤解なきよう。僕は健康だし、事故にあって危機的状況ってわけでもない。
ついでに言えば、現在どういうわけだか頭に広がり続ける走馬燈は、
一切僕の記憶にない景色ばかりだ。
直前まで昼寝をしていたので、最初はただの夢だと思って目覚めを待っていた。
知らない夫婦、鏡に映る知らない女の子、どんどん時が流れて、何度も何度も出てくる男性。
ああ、ああ、見覚えがある、随分若いが間違いなく祖父だ。
成程何度も出てくるわけだ。会う度ドキドキ余分にシャッターを鳴らすのだから。
そんなに連写して心臓は痛くならないのかな、なぁ、ばあちゃん。
待て、何故僕は祖母のアルバムを見ている?
「ばあちゃん」
まとわりつく夢のようなそれをむりやり払い、跳ね起き病院へ急ぐ。
ギリギリ最後の鼓動の瞬間には間に合ったようで、眠りにつく祖母を家族みんなで見送った。
泣きじゃくったところですべては忙しなく進む。親族があつまり葬儀の準備。
(比喩ではなく本当の意味での)アルバムから引き抜かれた写真は、
綺麗な花で額縁を作るように鮮やかに飾られた。
ようやく落ち着きを取り戻しはじめた頃、祖母の人生のアルバムは、再び僕の夢にあらわれた。
律義にも、前回に無理矢理中断したあたりからのスタート。
結婚式、母が生まれ、引っ越したり、旅行に行ったり、そうして母の結婚、僕が生まれて小さな手を伸ばす。
ああそうか。思い出した。
「この小さなカメラにはどんな素敵な写真がつまっているんだろうね?」
「おばあちゃんのカメラもいっぱいとってるでしょ?すごい写真いっぱいあるかな?」
「そりゃああるよ~今も目の前のかわいこさんを撮影中だよ」
「見たい!」
「そうだね、婆ちゃんはリアルタイムでたっぷり楽しむから、アルバムはきみにあげようね」
「ほんとに?ぜんぶ?」
「最後のシャッターひと押しぶんくらい、土産にくれれば充分さ」
有言実行にも程がある。
最後のシャッター、冥途の土産のひと押し分。
その瞬間に立ち会えて、ああ、まったく光栄だった。
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