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私は最初、夫の冗談か何かかと思った。
リーゼという女性は平民の人のよう。”カフェ”で働いていたと夫は言った。「働いていた」ということは、過去形だろうか。夫がこの家にリーゼを住まわせるためにやめさせたのか? いや、そもそも、夫がそんなごくありふれた平民を好きになるはずはない。夫は日常的に王族や貴族の貴婦人たちを目にしている。”カフェ”で働くとは――王都でいうなら――男性が食事する隣で水やお酒をついであげる仕事のことだ。正直なところ、平民の中でもあまり高級な仕事とは言えない……。
私は使用人に指示を出して、リーゼに部屋を与えた。
朝、夫は私に何の説明もなく仕事へ出かけた。
何か一言くらい、リーゼについて言ってくれたらよかったのに。
まるで私を、絶対に夫の言うことをきく機械だとでも思っているのだろうか。悪びれた様子も、申し訳無さそうな様子もない。私がリーゼの世話をして当然かのよう。もやもやした気持ちが拭えなかった。
ひとまず、私はリーゼと話すことにした。
リーゼの部屋をノックし、中へ入る。
「おはよう。昨日はよく眠れたかしら? あらためまして、フィリップの妻のカリーナです。あなたの名前はリーゼ、っていうのよね」
「そうだけど……何か用事? おばさん」
……はあ? おばさんですって?
初対面の私に向かって。常識がない。
「おはようございます」そして「昨晩は泊めていただきありがとうございました」でしょう?
でも……大人げない態度を取ってはいけないわ。
「用事というわけではないけど……リーゼは一晩泊まっただけで、今日は家に帰るのよね?」
「昨日の夜の話聞いてなかったの? おばさん耳大丈夫? これからわたしはこの家でフィリップ様と暮らすんだよ」
リーゼは私のことをウザそうに見つめながらこう言うと、鏡の前で髪をとき始めた。足を組みながらおならをし、自分で持ってきた化粧道具を散乱させた。昨晩、夫の後ろで控えめな感じで立っていたのは、演技だったようね。この家で暮らす? 私たち夫婦の歴史を知らないからそんなことが言えるのね。この小娘。ここまでの生活をするのにどれだけの苦労があったか。小娘に簡単に奪えるほど夫婦の絆はもろくないのよ。
夫はリーゼのなにがいいと思ったのか……。リーゼに対しても嫌な気持ちになるけど、夫も信じらない。男の前では猫をかぶり、女の前ではふざけた態度をとる女を、夫はいい歳して見抜けないの?
リーゼは化粧を途中でやめて、私に体を向けた。
「おばさん、さっさと部屋から出ていってくれる? 化粧に集中できないんだけど? なんだったらこの家から消えてくれてもいいよ。あっははははは!」
私は人生で初めてと言っていいほど、心の底から怒りがこみ上げてくるのだった。
リーゼという女性は平民の人のよう。”カフェ”で働いていたと夫は言った。「働いていた」ということは、過去形だろうか。夫がこの家にリーゼを住まわせるためにやめさせたのか? いや、そもそも、夫がそんなごくありふれた平民を好きになるはずはない。夫は日常的に王族や貴族の貴婦人たちを目にしている。”カフェ”で働くとは――王都でいうなら――男性が食事する隣で水やお酒をついであげる仕事のことだ。正直なところ、平民の中でもあまり高級な仕事とは言えない……。
私は使用人に指示を出して、リーゼに部屋を与えた。
朝、夫は私に何の説明もなく仕事へ出かけた。
何か一言くらい、リーゼについて言ってくれたらよかったのに。
まるで私を、絶対に夫の言うことをきく機械だとでも思っているのだろうか。悪びれた様子も、申し訳無さそうな様子もない。私がリーゼの世話をして当然かのよう。もやもやした気持ちが拭えなかった。
ひとまず、私はリーゼと話すことにした。
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「そうだけど……何か用事? おばさん」
……はあ? おばさんですって?
初対面の私に向かって。常識がない。
「おはようございます」そして「昨晩は泊めていただきありがとうございました」でしょう?
でも……大人げない態度を取ってはいけないわ。
「用事というわけではないけど……リーゼは一晩泊まっただけで、今日は家に帰るのよね?」
「昨日の夜の話聞いてなかったの? おばさん耳大丈夫? これからわたしはこの家でフィリップ様と暮らすんだよ」
リーゼは私のことをウザそうに見つめながらこう言うと、鏡の前で髪をとき始めた。足を組みながらおならをし、自分で持ってきた化粧道具を散乱させた。昨晩、夫の後ろで控えめな感じで立っていたのは、演技だったようね。この家で暮らす? 私たち夫婦の歴史を知らないからそんなことが言えるのね。この小娘。ここまでの生活をするのにどれだけの苦労があったか。小娘に簡単に奪えるほど夫婦の絆はもろくないのよ。
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リーゼは化粧を途中でやめて、私に体を向けた。
「おばさん、さっさと部屋から出ていってくれる? 化粧に集中できないんだけど? なんだったらこの家から消えてくれてもいいよ。あっははははは!」
私は人生で初めてと言っていいほど、心の底から怒りがこみ上げてくるのだった。
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