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ユリアとの気まずい雰囲気は続いた。
ユリアに指摘した3連符の部分はすぐに直して弾いてくれた。
今日も合奏の練習が終わり、アルバートとヴァイオリンソナタを合わせているとき。
アルバートが私に言った。
「今度、ソナタじゃなくてコンチェルトやろうと思ってんだよね。またシャーロットにピアノ伴奏頼みたい」
「どのコンチェルトをやろうと思ってるの? ピアノ伴奏版の楽譜持ってないわよ」
「シベリウスのコンチェルトなんだけどね。最近はまってるんだよ」
私はそれを聞いたとき、はっと思いついた。
ユリアなら持っているかもしれない!
ユリアはきっとこういうときのためにヴァイオリンの楽譜を持ってきていたんだ。ユリアと仲直りできるならしたいと思っていたし、このチャンスを逃す手はなかった。
「ユリアが持ってるかも!」
「ん? ユリアはフルートじゃないか。持ってるわけないじゃん」
「ユリア~! シベリウスのヴァイオリンコンチェルトの譜面持ってるかしら?」
私は音楽室の端にいるユリアに手を振って声をかけた。
そのとき、ユリアとアルバートの目が初めて合った。合ってしまったのだ。
ユリアは突然私に話しかけられてびっくりしていた。
しばらく戸惑っていたけど、リュックの中から楽譜を出すと、私に渡してくれた。
アルバートは驚きすぎて目を丸くした。
「なんでユリアがシベリウス持ってんの!? めちゃくちゃ助かる! ユリアもシベリウス好きなの?」
ユリアはアルバートとせっかく合っていた目をそらし、私が持つシベリウスの楽譜を見つめている。
「う、うん、まあね……。シベリウス好きだから持ってた」
「シベリウスいい曲多いよな! 写させてもらっていい?」
「もしよかったら、気が済むまで貸してあげる」
「ええー! ユリアって太っ腹! いやあ、てっきりシャーロットと仲が悪いのかとか思ってたけど、勘違いだった。二人は仲が良いんだね。ユリアがシベリウス好きなのを知ってたんだろ? なあシャーロット?」
「そ、そうね! ユリアとは予備学校も一緒だったし! 学院に入ってから音楽をすごく勉強してて、シベリウスも好きって言ってたから!」
私は何を口からでまかせ言っているんだろう……。ユリアがシベリウスを好きなのかどうか知らないし、ユリアが好きって言ったからいちおう合わせてみただけ……。
ユリアはまたすぐに私たちから離れ、フルートの練習をした。いつもは練習をしながらちらちらアルバートを見るのに、今日はもうアルバートを見ることはなかった。
帰り道、アルバートの様子になんとなく違和感があった。無口な感じで、考えごとをしながら歩いているかのような。普段はそんなタイプじゃないのに。
「アルバート、どうかした? 体調でも悪いの?」
「いや、別に! 元気だよ! 元気すぎるくらいだわ!」
「じゃあなんで何もしゃべらないのよ」
「あぁ、わりいな。その……ユリア、シベリウス好きなんだなって。初めて知ったから」
アルバートは私との会話で初めて女の子の話をした。
(まずい、アルバートの心がユリアに……)
私はそう直感すると、急にあの”助け舟”を後悔し始めた。
「ユリアがシベリウス好きなの、意外?」
私は話を続けた。
アルバートは少し考えながら、
「うーん。ユリアってフルートだし、今まであまり接点がなかったから、よくわかんねえ。でも、シベリウス好きなんだなぁって」
「だから、それが何なのよ! 別にユリアがシベリウス好きでもいいでしょ!」
「ああもうわかったわかった! ユリアの話はなしにするって!」
「なによ……別にいいのに……」
(ユリアの話が嫌なんじゃなくて……。アルバート、あなたが初めて女の子の話を口にするから、胸さわぎがするんじゃないの)
「私今日、髪をおろしてるんだ」
「ん? あ、そうか。大体結んでるもんな」
「そうよ、気づいたら言ってほしい」
「……? おう……わかった」
私とアルバートはそのあと、何も話さずに帰った。
ユリアに指摘した3連符の部分はすぐに直して弾いてくれた。
今日も合奏の練習が終わり、アルバートとヴァイオリンソナタを合わせているとき。
アルバートが私に言った。
「今度、ソナタじゃなくてコンチェルトやろうと思ってんだよね。またシャーロットにピアノ伴奏頼みたい」
「どのコンチェルトをやろうと思ってるの? ピアノ伴奏版の楽譜持ってないわよ」
「シベリウスのコンチェルトなんだけどね。最近はまってるんだよ」
私はそれを聞いたとき、はっと思いついた。
ユリアなら持っているかもしれない!
ユリアはきっとこういうときのためにヴァイオリンの楽譜を持ってきていたんだ。ユリアと仲直りできるならしたいと思っていたし、このチャンスを逃す手はなかった。
「ユリアが持ってるかも!」
「ん? ユリアはフルートじゃないか。持ってるわけないじゃん」
「ユリア~! シベリウスのヴァイオリンコンチェルトの譜面持ってるかしら?」
私は音楽室の端にいるユリアに手を振って声をかけた。
そのとき、ユリアとアルバートの目が初めて合った。合ってしまったのだ。
ユリアは突然私に話しかけられてびっくりしていた。
しばらく戸惑っていたけど、リュックの中から楽譜を出すと、私に渡してくれた。
アルバートは驚きすぎて目を丸くした。
「なんでユリアがシベリウス持ってんの!? めちゃくちゃ助かる! ユリアもシベリウス好きなの?」
ユリアはアルバートとせっかく合っていた目をそらし、私が持つシベリウスの楽譜を見つめている。
「う、うん、まあね……。シベリウス好きだから持ってた」
「シベリウスいい曲多いよな! 写させてもらっていい?」
「もしよかったら、気が済むまで貸してあげる」
「ええー! ユリアって太っ腹! いやあ、てっきりシャーロットと仲が悪いのかとか思ってたけど、勘違いだった。二人は仲が良いんだね。ユリアがシベリウス好きなのを知ってたんだろ? なあシャーロット?」
「そ、そうね! ユリアとは予備学校も一緒だったし! 学院に入ってから音楽をすごく勉強してて、シベリウスも好きって言ってたから!」
私は何を口からでまかせ言っているんだろう……。ユリアがシベリウスを好きなのかどうか知らないし、ユリアが好きって言ったからいちおう合わせてみただけ……。
ユリアはまたすぐに私たちから離れ、フルートの練習をした。いつもは練習をしながらちらちらアルバートを見るのに、今日はもうアルバートを見ることはなかった。
帰り道、アルバートの様子になんとなく違和感があった。無口な感じで、考えごとをしながら歩いているかのような。普段はそんなタイプじゃないのに。
「アルバート、どうかした? 体調でも悪いの?」
「いや、別に! 元気だよ! 元気すぎるくらいだわ!」
「じゃあなんで何もしゃべらないのよ」
「あぁ、わりいな。その……ユリア、シベリウス好きなんだなって。初めて知ったから」
アルバートは私との会話で初めて女の子の話をした。
(まずい、アルバートの心がユリアに……)
私はそう直感すると、急にあの”助け舟”を後悔し始めた。
「ユリアがシベリウス好きなの、意外?」
私は話を続けた。
アルバートは少し考えながら、
「うーん。ユリアってフルートだし、今まであまり接点がなかったから、よくわかんねえ。でも、シベリウス好きなんだなぁって」
「だから、それが何なのよ! 別にユリアがシベリウス好きでもいいでしょ!」
「ああもうわかったわかった! ユリアの話はなしにするって!」
「なによ……別にいいのに……」
(ユリアの話が嫌なんじゃなくて……。アルバート、あなたが初めて女の子の話を口にするから、胸さわぎがするんじゃないの)
「私今日、髪をおろしてるんだ」
「ん? あ、そうか。大体結んでるもんな」
「そうよ、気づいたら言ってほしい」
「……? おう……わかった」
私とアルバートはそのあと、何も話さずに帰った。
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