好きになっても、いいですか?

鈴屋埜猫

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西畑澄江の場合

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 西畑澄江にしはたすみえは、緊張していた。それは、あるミッションを親友二人に伝授されていることが原因だった。

「……おぅ」

 俯いていたせいで、待ち合わせ場所に先に来ていた人物に気付くのが遅れる。慌てて顔を上げた澄江は、目の前の人物を見てフリーズする。
 神社の入り口で片足に体重をかけて立つ宮下元晴みやしたもとはるは、注がれる澄江の視線に居心地悪そうに頭を掻いた。

「なんだよ」

「ううん、ごめん……」

 謝りながら、澄江は両手で顔を覆う。
 幼馴染みの二人は昔からよくこうして出掛けていた。それは夏祭りもしかりで、私服なんて見飽きている。
 だが、恋人同士になったからなのか、いつもならTシャツ短パンで来ていた元晴が甚平姿だったので驚いたのだ。しかも、トキメキまでプラスされて、顔がにやけてしまう。

「行くぞ」

 元晴に腕を捕まれ、澄江は引っ張られるままに歩き出す。すると頭上からボソリと聞こえるか聞こえないかの音量で、元晴の呟く声が聞こえた。

「浴衣姿、いいな」

「え?」

 聞き返そうとした澄江は、見上げた元晴の耳が赤いことに気付く。ぶっきらぼうながら恋人として意識してくれているらしいことが分かり、それ以上追求するのはやめた。

「何か食うか?」

「うーん、りんご飴かな」

 そう言って屋台の一角を指差すと、澄江の腕を放した元晴はおもむろに財布を取り出した。

「え? いいよ、元晴っ」

 屋台のおじさんにお金を渡す元晴の姿に、澄江は慌てた。しかし、澄江に財布を取り出す間も与えずりんご飴を持たせると、空いている方の手を掴み、元晴はまた歩き出す。

「いいから、食え」

 冗談混じりに奢ってとせがみ、文句を言われながら奢ってもらうことはあった。しかし、それはお互い様で逆のパターンもあるため、こうして相手から進んで奢ってもらうのは初めてだった。
 澄江は嬉しく思いながらも手にしたりんご飴を見やる。赤々とした光沢のあるそれはまだ袋の中にあり、外そうにも反対の手は元晴と繋がれている。食べたい気持ちはあったがそれよりも手を繋いでいたくて、澄江は黙って元晴の後に従った。

「あれ? 元晴じゃん」

 前方から聞こえた声に、元晴は掴んでいた澄江の手を離す。そのことに寂しさを感じる澄江だったが、わらわらと寄ってきた男子の同級生集団に圧倒されてしまった。

「なんだよ、デートか?」

「悪いかよ」

 声をかけてきた男子の一人が元晴を羽交い締めにする。二人を囲むように集まった五人の男子は、小学校が一緒だった面々。だからお互い知った仲なのだが、久しぶりに会ったこともあり澄江は落ち着かない気持ちになる。

「西畑だよな? 浴衣姿か、可愛いじゃん」

「何だよ、お前らそういう関係なわけ?」

「……あーもう、うるせぇな。ほっとけ!」

 からかう男子の言葉を遮り、羽交い締めにする一人から逃れた元晴は、澄江を見て固まった。

「っ、お前ら触んなっ!」

 男子に囲まれ動けない澄江を抱き寄せ、元晴は同級生たちを睨み付ける。そのあまりの剣幕に黙りこくった同級生を放置し、元晴は澄江の肩を抱くとその場を後にした。
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