年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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 水族館を出た葉一は、バス停へと歩いていく茉歩の姿を見つけた。トボトボと歩いている彼女の後ろ姿は、彼が見知った頼りがいのある背中ではなかった。

「茉歩姉」
「……葉ちゃん?」

 葉一が声をかけると、茉歩は驚いたようだった。

「バス停過ぎてるけど、歩いて帰るつもり?」
「あの人は? 一人残してきたの?」

 茉歩の視線は葉一の背後に注がれている。彼女が優しい心の持ち主なのは、よく知っているが思わずため息が出てしまう。

「あの人はちゃんと送り迎えしてくれる人も付いてる。心配ないよ」
「でも」
「俺は今日、茉歩姉とデートに来てる。なのに、何で他の女のとこに行かなきゃなんだ」

 少し怒りを滲ませた葉一の言葉に茉歩がたじろぐ。視線を彷徨わせる茉歩は困り顔だ。その顔を見て、葉一は唇を噛む。
 こんな顔をさせたかった訳ではない。今日は彼女を楽しませたかっただけなのに。

「……とにかく、ここから一人で帰すわけにはいかないから、車戻ろう」

 失敗だ。結局、茉歩の中では自分は恋愛対象外。今日のデートも断りきれなかっただけなのだ。彼女のことが好きだからこそ、これ以上、彼女に無理はさせたくない。だったら弟みたいな幼馴染の関係の方がよっぽどマシだ。
 葉一は踵を返し、彼女がついて来れるよう歩幅を合わせながら駐車場の方へと歩き出した。

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