【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―

夢鴉

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一章 厄介な後輩

三話 課題

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 甘利と一緒に飯を食うようになって、早くも三週間が過ぎた。
 既に恒例となりつつある写真部の部室で、俺は今日も甘利と弁当を広げている。
 甘利の弁当は相変わらず重箱のように大きく、時折こぶし大のおにぎりが付いてきている。甘利曰く「朝に三つ、部活前に一つ、部活終わりに二つ食うんです」とのこと。もちろん昼は別にご飯があり、夕食もまた別にあるらしい。
(ここまで来ると燃費が悪いってだけじゃない気がしてくるんだけど……)
 おふくろさん、毎朝用意大変そうだな。

「どうしたんですか、春先輩」
「ん? あー、いや。何でも。ていうか今日はハンバーグなんだな」
「? はい」

「ピーマンの肉詰めもありますよ」と見せられる。手のひらサイズのハンバーグが二つ入っているのに、更にピーマンの肉詰めが五個詰め込まれている。他にも卵焼きや野菜など、副菜も手を抜いていない。

「こ、これ、全部食うのか?」
「はい」
「食える、のか?」
「? まあ」

「足りない時もありますけど」と返され、俺は明確な格差を感じざるを得なかった。
(俺なんか、二段弁当で腹いっぱいなのに……)
 片手で持てるくらいの、小さな弁当。……いや、普通のサイズなのだが、甘利のを見ているとどうしても小さく見えてしまう。

「そんなに食って大丈夫なのか?」
「はい。寧ろ最近体重が落ちて来たので、太らないと」
「お前それ……絶対女子の前で言うなよ」
「?」

 必死にダイエットしている女子が今の言葉を聞いたら、確実に怒り狂うだろう。
(俺はまだ死にたくない)
 内心祈るように手を組んで、俺は弁当を食べ進める。俺が食べ終わるのと同時に、甘利も食べ終わる。

「ごちそうさまでした」
「……お前、弁当飲んでんの?」
「? いえ、ちゃんと噛んでますよ」

(嘘つけ。俺の二倍、三倍食っておいて、俺と同じに終わるわけがないだろ)
 それともなにか。マジックでも見せられているのか、俺は。どんな高等マジックだ。

「そういえば、クラスの女子からクッキー貰ったんですけど、春先輩も食べませんか?」
「は?」

 甘利がポケットからラッピングされた袋を取り出す。
 可愛くラッピングされたそれは、どう見ても本命だ。

「いや、それ俺が食べちゃダメなものだろ」
「? どうしてですか?」
「いや、どうしても何も……」

(女子がせっかくお前の為に作ったのに)
 そう言いかけたところで甘利が「四時間目、調理実習だったんです」と呟いた。

「俺も作りました」
「お前も?」
「少し焦げちゃったんで、春先輩には上げられないですけど」

 甘利は懐からもう一つの袋を取り出す。
 綺麗にラッピングされた一つ目とは違い、クラフト紙に入っているだけのクッキーは、彼の言う通り周りが少し黒くなってしまっている。

「俺のより女子からの方がいいと思うので」
「いや、それは女子に対して失礼だろ。いいよ、お前が作ったので」
「えっ」

 甘利の手が止まる。「何だよ、くれねーの?」と首を傾げれば「い、いえ」とぎこちなく袋を俺の手に乗せた。
 袋の口を開けば、ふわりといい匂いがする。バニラと、バターの匂いが美味しそうだ。ガサゴソと中からクッキーを取り出す。小さく丸いクッキーはどこか歪で、少しだけ面白かった。
(意外と不器用なんだな)
 まあ、形なんてどうせ食ったら変わんねーけど。

「いただきまーす」
「ど、どうぞ」

 口に放り込む。サクッと砕けたクッキーは、思っているよりは悪くなかった。
(結構美味いじゃん)
 確かに少し苦い所もあるが、それが気にならないくらいには美味しい。
(これが女子からだったらもっと美味いんだろうなぁ)

 もぐもぐと咀嚼をしていれば、ふと甘利と目が合った。じっと見つめて来る視線に「……何」と問えば「い、いえ」と視線を逸らされた。

「なんだよ。そんなに見るなよな。食べづらいだろ」
「あ、はい。すみません」

 ぱくっともう一つ口に放り込む。
 サクサクとした触感。甘すぎない味は、食後のおやつには丁度いい。

「あ、あの、春先輩」
「? なんだよ。返して欲しいの? もう半分ねーけど」
「あ、いえ。それは良いんです。寧ろ持って帰ってもらっても……」
「そ? ラッキー。じゃもらうな」
「は、はい」

 ぎこちない甘利がコクコクと頷く。何か言いたげなのはわかるが、何を言いたいのかが全くわからない。
 聞いてやったほうがいいのか? と悩んでいれば、チャイムの音が響いた。同時にスマホが音を立てる。画面を見れば、夏生からだった。内容を見た俺は慌てて立ち上がる。

「やっべ。俺次移動だった!」
「あ、春先輩」
「悪いな、甘利! ここの鍵閉めといてくれ! あと、クッキーありがとな! 美味かった!」
「!」
「んじゃ!」

 俺は甘利に鍵を投げ渡し、ダッシュで教室を後にする。
 先生に見つからないように廊下を走っていた俺は、その頃。甘利が顔を真っ赤にして写真部の机に突っ伏していたことは、一切知らなかった。




「え? 課題?」
「そうだよ。みんな頑張ってねぇ~」

 あっけらかんとして笑う顧問の先生に、俺は頬がひくりと引き攣る。眼鏡をかけた優男である彼――西田先生は、写真部顧問の先生だ。若いのにカメラに興味があるとかで、すごい数のカメラを持っている……らしい。
(つーか何で今更課題なんか出すんだよ)
 配られたプリントを見ながら、俺はため息を吐き出す。この上なく面倒くさい。

 俺の入っている写真部はほとんどが幽霊部員で、いつも集まるのは二人か三人くらいだ。
 それがどうしたことか、この日は珍しく部長以外の部員が集まったのだ。もはや奇跡にも近い現象に人一倍感動したのは、西田先生だった。

「こうしてみんなが集まったのは奇跡です! こうしちゃいられない! 課題を出しましょう! そうしましょう!」……そういってできた地獄に、俺たちはみんな遠い目をするしかなかった。
 俺たちの抵抗も虚しく、一人盛り上がった西田先生の行動は早かった。逃げる間もなくプリントを作ってきた先生は、嬉しそうに紙を配り――

「みんなの思う『梅雨』を存分に見せてください!」

 と叫んだのだ。
(……めんどくさ)
 声に出さなかったことを、誰か褒めて欲しい。

 ――結果、二週間後に写真を提出することになってしまったのだ。しかも二枚も。

「めんどくせー」
「春先輩、だらしないですよ」
「うっせ。少しくらいいいだろー」

 椅子の背もたれを前にして、上体を前にだらんとだらける。
 外は快晴。梅雨を撮るとはいえ、ここまで快晴だと撮れるものも限られてくる。
(梅雨なら梅雨らしくしとけよなー)

「つーかお前、今日おにぎりの量多くね? 増やしたのかよ?」
「あ、いえ。今日は午前中に食べるのが出来なかったので、残ってるだけです」
「あ。もしかして寝たとか?」
「……」
「図星か」

 だんまりを決め込む甘利に、俺は吹きだす。誤魔化すならもっとちゃんとすればいいのに。
「サボりとかいけないんだー」と揶揄えば「サボりじゃないです」とむっとされた。頬が僅かに赤いのは、揶揄われて恥ずかしいからだろうか。

「へぇー。お前、結構真面目なんだなー」
「普通ですよ。春先輩がチャラいんじゃないですか?」
「ざんねーん。これでもちゃんとやってんだよ」

「出席率だけはガチでいいから」ピースをして甘利に突き出す。チョキチョキとハサミのように指先を動かせば、「何ですか、その動き」と甘利が吹き出した。その表情に少し笑ってしまう。甘利の能面のような表情が俺の前だと結構動くことに、俺は密かに優越感を持っていた。
(まあ、普段は能面だけど)
 ちらりと甘利を見る。大口をあけて飯を食うこいつは、もういつもの顔に戻っていた。

「まあ、梅雨の奴は適当に撮るとしてー……問題は卒業制作だよなぁ」
「卒業制作?」
「そ」

 俺は頷く。
 この学校は基本三年生は受験に専念できるように、文化部は文化祭のある九月まで、運動部はそれぞれの大会を最後に退部することになっている。つまり、文化部である写真部は九月で引退になる。
 今は六月。
(あと三カ月しかない)

「……撮りたいものとかないんですか?」
「んー、何か納得するものを撮りたいとは思ってるけど、これって決まってるわけじゃないんだよなぁ」
「そう、なんですか」

 甘利が視線を下げる。
 なんでお前が落ち込んでるんだよ。

「春先輩」
「んー?」
「卒業制作、俺を撮ってくれませんか!?」
「はあっ?」

 何言ってんだ、こいつ。
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