見えない君と恋をする。

きーち

文字の大きさ
4 / 12

4

しおりを挟む
「行こう」
思い立ったが吉日。早速、行くのは今週の土曜日にしようと思う。逢えなかったら…………日曜日も私は行ってしまうかもしれない。このままではこれからの休日が今週、来週、再来週と潰れてしまうが、今の愛奈は、逆に「逢えない想像」があまり出来なかった。男と会い、発展していくという漫画のような展開を妄想しては首を横に振って脳内で再生されていた映像をかき消す。頭について離れない。脳裏にこびりついてぬぐい去ることもできない。あの、男が私を掴んで離さない。私の脳に噛み付いて離れない。また、わたしも。彼という偶像に噛み付いて離れない。



そして、いつもの2倍の速さで土曜日が来た。土曜日が近づくにつれてたぶん鼓動もはやくなっていたと思う。あの感覚は私しか知らない。
幸先の良さを示すかのように、空は晴れていた。もちろん、天候と運命は直接的には結びつかないけれど。正直、晴れも雨もオーライだ。晴れなら街中での遭遇率は上がるだろうし、雨なら、雨宿りの場所が同じだとかいう確率もなくはない。しかし、雨はどうしても気が沈む。それは仕方のないことだ。今日は晴れている。
そして今日は同じ、あの日を辿る。ただ、違うのは…………あの男を事前に知っていること。行く目的が今の私には明確にあること。それは、その男に会うこと。ただついていっただけのあの日とは違う。
逢えるだろうか。それは未来の自分しか知らない。
敢えて愛奈は、あの日と同じパジャマで寝て、同じ時間にアラームを鳴らした。起きたのはその時間ではないが。起きられはしなかった。皮肉にも今日の瞼は頑固で、起き上がろうとしなかった。全く迷惑な話だ。
さて、脳に漂うモヤをかき消した。緊張しているな。
まだ、起きてはいたが身体は横たわったままであった。もちろんベッドの上で。
「そろそろ起きるかな」
1つ、寝返りを打った。ベッドが、キシキシっと音を立てて、「早く布団から出ろ」と言った。「わかってるよぉ」と愛奈は返し、やっとの事でベッドを降り、一階へ降りた。
歯を磨こうと洗面所に向かう。すると、洗面所の鏡にメデューサがうつっているではないか。
「こりゃぁひどい」

勢いよく洗面所から出た愛奈は、髪をなびかせていた。黒く、艶のある。平安時代の女ほど長くはないが肩を過ぎるほどには長い髪である。
あの日は………何分発の電車だっけ。家を出ていたのはおそらく11時ぐらいだったはずだ。
11時になると、あの日と同じ服装で家を出た。あの日よりも晴れている。今日は本当に晴れすぎている。1つだけ、雲が浮かんでいる。小さな、小さなだ円形の雲。広い、この大空にぽつんと1人いるものだから、迷子みたいだ。窓から見る限り、は。視野の外には家族が追ってきているかもしれない。
時計を見ると、まだ9時だった。まだ2時間もある。もう身支度はできていた。横になれば、時間は早く過ぎるだろう。しかしまたメデューサと化す可能性が高いな。寝癖め。
寝るのは駄目、、となると、ソファに座ってネットサーフィンしかないか。きっと、今日の波は大荒れだぞ。すでに大まかな情勢に関してはニュースから知り得た。連続通り魔殺人に、政府の隠蔽、某芸能人の不倫、そして結婚、おめでた。
この世界は静寂を知らない。しかし、永遠と騒がしい世界といった点では、この世界も無常といえるかもしれない。
スマホでブラウザを開いた。スクロールしているうちに、1つの記事が目に留まった。
【的中率99.8%!! 気になるアノヒトとの運命診断】
愛奈はスクロールする指を止めた。指はそれに吸い寄せられた。すると、なにやら手順とやらを表示してある。

1.まず、自分の生年月日・血液型・名前のイニシャルを入力

2. 同様にして、相手様の情報の入力をする

これだけだった。あとは、「診断する」のボタンを押すだけだ。
しかしここで、当然愛奈は気づいた。あの男のことなんて微塵も知らない。せっかく、「的中率98.8%」なのに。というか、もし相手と自分が不適合だった場合も的中するのならそれはたまったものではない。一体私はなにをしているのやら、とブラウザを閉じた。しかしその直後には「これで正常なのだ」と気づいた。そりゃ、気になるだろう。恋する乙女なら。
そろそろ行く時間だ。腕時計をはめると、さっきリビングの時計でも確認した現在の時刻をまた腕時計でも確認した。まだ10数秒しか経っていなかった。そして、何となく、愛奈は腕時計のベゼルをキリキリと回した。行こう。
それにしても暑いな。風は生温い。太陽の主張が実に激しい。歩きながら空を見た。愛奈の上には一片の雲も無い。遠くの方に、1つだけ小さな雲がある。朝見た迷子の雲だった。空全体を見渡す限り、あの迷子が親と会うのはまだまだ先になりそうだ。
「あの雲と、私。どちらが先に会えるか競争だ」

電車に乗り込むと、あの日よりも人が格段に少なかった。席は空いていたが、何となくで補助席に座った。何となく。何故だかこっちの方が落ち着く。椅子は硬い。
愛奈は今あの日を辿っている。流れ行く景色を車窓越しに眺めた。窓には自分も映っていて、とても邪魔だった。個人的には、田舎ののどかさの中よりもこういうビルの立ち並ぶ街を通る方が好きだ。
もう少しで、お目当ての駅に到着する。あと2駅。
あと1駅。
到着すると、颯爽と"あの場所"へ向かった。その時の歩く速度は人生最高を記録していた。歩いていると、行列が見えた。よし、と愛奈はその列に加わった。あの日の位置と殆ど同じ。男を待つ。
数十分が過ぎた頃、まだ来たばかりにもかかわらず諦めモードに差し掛かった。
もう……来ない気がした。来ないであろう人を待つのが、悲しく、虚しい事だと今頃気づき、そっと愛奈は列を離れた。
しかし帰るには早すぎた。街をぶらぶらしていよう。愛奈はしばらく歩いた。その時の歩く速度は、人生で2番目に遅かった。1番は、中学校にて、マラソン大会の帰り道だ。
すると、大きな交差点を前にした。信号は赤で、大勢の人が信号機のそばに群がっていた。そして、向かい側の信号機にはこちら側の倍は人が過密していた。暑い。信号機が青に変わると、陸上のクラウチングスタートの様に皆一斉に飛び出した。数名、というか殆ど全員フライングで失格だが。交差点の真ん中で人波に揉まれる。何だこれ。横断歩道1つ渡るのにこんなに苦労なければならないなんて。やっとの事で渡りきると、疲れたのか愛奈の歩くスピードはさらに落ちようとしていた。すると、猛烈なスピードで誰かが走ってくるのが耳で聞こえた。もう少しでまた信号の色が変わろうとしていたところだったらしい。愛奈は何となく、想像をしていたが案の定「その走ってきた誰か」とぶつかった。衝撃でショルダーバッグが開き、不運にも中の物が数個飛び出した。ケータイの画面が割れた。
「す、すいません!」
あぁ、男か。まぁあの速度は女では出せないだろうなと足音を振り返って思った。腹は立つが怒る気にもならない。今の私に災難下すとか、どんな奴だよ、全くもう。
顔くらい見てやるか。

「っっ」
男の顔をみた時、時が止まった。
これは、前読んだ恋愛小説にあった表現だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~

つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。 それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。 第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。 ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。 そんな中での義兄の裏切り。 愛する女性がいる? その相手と結婚したい? 何を仰っているのでしょうか? 混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。 「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...