見えない君と恋をする。

きーち

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「ねぇー、お母さーん」
「何、どうしたの」
「今度ね、あの・・・今度ね・・・えっと・・・」
「何、何なの。スマホばっかり触ってないで服を畳むの手伝ってくれないかしら」
「あのね、男の人が来るの」
「何処に」
「家に」
「誰の」
「いや、此処だよ」
「男って、友達?」
「うーん、何と言いますか・・・」
「彼氏・・・まさかね」
その、まさかだった。
岬と付き合って、三ヶ月ほど経った頃だった。季節は、秋から冬へと少しずつ移り変わっていた。木は丸裸、そして時に真っ白が街をくるむ。肌を刺すような寒さに人々は寄り添う。隣で白い吐息がのぼる。その「隣」がいれば、寒ささえ感じない。かじかんだ手は握り合って温めれば良い。人は「隣」の大切さに気づいていく。冬は、多分そんな季節だ。
岬とは時々会っていた。そして、毎夜毎晩のように電話で会話をした。
友達にも、岬のことは話した。美嘉にそれを話した時のあの顔が忘れられない。
美嘉の一言目は「嘘つけ」だったもの。そう簡単には信じられなかったのかもしれない。無理もない。私だって、もし美嘉に同じ事を言われたら信じない。「嘘つけ」と言うだろう。美嘉はその日、結局一日中信じてくれなかった。翌朝になると、しつこい私を面倒がるように、「わかった、わかったよ」と言った。本当のところ、まだ信じてくれていないみたいだ。
そして、同じく母も愛菜を信じない。
「なんで、あんたが」
「ちょっと、それどういう意味よ」
確かに、これまで"そういう話"の1つや2つしたことがなかった。だから信じないのも無理ないか…。別に「信じろ」って言ってるわけじゃないんだけどなぁ。
うーん、。
「まぁ、どちらにしろ"その人"が家に来るのならその時に分かる話だわ」
やはり、母は信じていない!
愛菜も「そーだね」と一言返した。これ以上反論するのも面倒だった。明日岬が此処に来るのだから、その時に真実は明らかになる……。
そして、明日に胸躍らせながら寝床についた。
ああ、楽しみだ。好きな人と、同じ部屋で2人きり。……………何をするものなのだろう?。ト、トランプでもする?、それか、ゲームか?。急に不安になってきた!。もしや、"アレ"だったりするのか………?。愛菜の中では"イケナイコト"のあれやこれやが雲隠れを繰り返していた。いやいやいやそれはない。いやまてよ………。相手は…大人!。オトナの世界、少し気になるかも。
こんな心配は必要か、否か。分からないが、ずっと考えた。そして、いつしか眠りについていた。

午前11時、愛菜はやっと目を覚ました。予定では3時間前には起きているはずだった。12時には岬が来るのだ。
「部屋の片付けもしてない!」
髪もボサボサだ。
もっと、余裕を持って岬を迎えられるようにしたかったのに。
母は、買い物に出かけていて、家にはいない。そのうち帰ってくるだろう。
愛菜はまずは寝巻きから"それなりの服装"へと着替えを済ませた。
「えーっと、次にすることは………」
それを考えるのに数分使った。そして、自室になんとなくで芳香剤を置いた。部屋一面に広がっていく、花々の可憐な香が、愛菜を花園に落とし込んだ。
部屋は思ったより散らかってはいなかったが、微妙なホコリすら気になった愛菜は掃除機をサッとかけた。これで、いつでも岬を迎え入れられる。
何をして、待っていようか。取り敢えずソファに腰掛ける。なんだか、眠たくなってきた。本当に、今日は太陽が元気で、カーテンの隙間から差し込む光一筋は温もりを部屋全体へ行き渡らせた。こんなに暖かいと、眠たくなるな………。あー、寝そう………………。


[プルルル、プルルル]
携帯の着信音が鳴る。それと同時に目が覚めた。携帯を取る前に、時刻を確認した。あれから1、2時間経っていた。やはり私は寝ていたか。ということは、もう岬が来る時間ではないか。最寄りに到着したら岬から連絡が来るんだった。そうか、電話をかけてきたのは岬か。急いで出なくては。
電話に出ると、岬が最寄りに今着いたところだと言った。愛菜は今すぐ向かうと言って、電話を切った。
緊張してきた………………岬と会う時はいつもそうだ。3ヶ月経った今でも、心は"出会ったあの日"とそう変わらない。
愛菜は家を出た。駅が見えると、高身長の彼が遠くを見ていた。何をみているんだろう、と愛菜は視線の方を見てみたが、特に何の特徴もない、家の塀だった。
「何見てるの」
愛菜は駆け寄って、聞いてみた。
「---------------------」
岬の声は突如として狂った。その声の波長は、聞いたことのないほど乱れていた。誰の声だ……。
「え?、岬、岬だよね?」
「何言ってんの。早く連れて行ってよ、案内、お願いしまーす」
いつもの岬の声だ。何だったんだろう、あれ。ホラー映画でもみていたかのようだった。
そして愛菜が、自宅へと一歩踏み出した時、頭がズキンと痛んだ。膝から崩れ落ちるほどに。
「大丈夫、愛菜?」
「うん……寝不足かな。フラついちゃった」
「楽しみで眠れなかったとかだったりしてな」
「そうかも」
愛菜に笑顔が戻った。
2人は愛菜の家へと向かった。
ものの数分で到着すると、愛菜は鍵を開け、自室へと岬を案内した。まだ、母は帰っていなかった。
「綺麗な部屋だなぁ」
「でも、女の子っぽくないでしょ」
「いや、シンプルでいい部屋だと僕は思うね」
愛菜は少し良い気分になると、自身のアルバムを広げて見せた。
岬に幼少期の愛菜を見つけさせると、瞬時に愛菜を当ててみせた。それもすべての写真の。顔の選別すらしづらい、集合写真でさえも。
「凄い、全問正解!何でこんなに分かるの!?」
「さぁ、何でだろう。自分でも不思議に思うよ」
楽しい、楽しいなぁ。ただアルバムを見ているだけで、こんなにも楽しい。
2人はその後もアルバムを見て盛り上がった。



「ただいまー」
母は買い物を終え、帰って来た。「重いわぁ」と言って、パンパンのスーパーの袋を玄関で下ろした。何やら、2階の方から愛菜の楽しそうに話す声が聞こえる。「お、本当に来たのかしら」と、例の"彼"を見るのが楽しみになった。
しかし、母には妙に引っかかることがあった。
「あら・・・?、彼、裸足で来たのかしら?」
玄関の何処にも、"見慣れない靴"が見当たらないのだ。
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