シャム猫

大器晩成らしい

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森羅の場合4

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本人から苦手だと聴いてはいたが、思っていた以上。

湖箔はかなりの怖がりだ。

初め、遠慮がちに服を掴んでいるだけだったが、驚きの声や叫び声が聞こえる中、徐々に触れる範囲が広くなり、一つ目のチェックポイントに着く頃には、背中にぴったりと張り付いていた。

正直、そこまで怖がる意味は解からないが、これはこれで、役得なのだろう。


教室の中に入ると、端にある机の上に、口の端や額から血を流して、やけにリアルな作りの生首と判子等が置かれていた。

他には何も無いようだ。

正直、しょぼいと思わなくも無い。

机の所に行き、所定の場所に判を押し、元の位置に判子を戻したら、人形と思っていた生首の目と口が開き、いきなり〝うわぁあああ〟って叫び声を上げた。

それとほぼ同時に、湖箔が叫び声を上げながら、ぎゅっと抱きついてきて驚いた。

背中から抱きつかれるなんて初めての事で、思わずビクッとしてしまった。

背中に感じる温かさや重さ、お腹にまわされた腕を見て、何とも言えない気持ちになる。

〝森羅、ごめん。絶対歩き辛いよね?〟と訊かれたが、そんな事、全く気にもならなかった。



ここが最後だ。

今、プールを前にして、湖箔の歩みがピタッと止まってしまった。

どうしたものか・・・

俺にはダイレクトに、湖箔からの振動が伝わってきている。

傍目にも判る位、ガクガクと震えていて、無理矢理引き摺って行くのは、可哀相すぎる。

「いや、だめでしょ」

俺だけ行って、さっさと判を押して来るかと、提案をしてみたが、即行で疾風から否定が。

だが、湖箔自身、歩けそうにないと認めている以上、どうにもならないと思うが?



結果、疾風が湖箔を運んで行く事に。

疾風に、おんぶと抱っこ、どっちにするか訊かれ、湖箔は、

「・・・・・・抱っこ」

潤んだ目で、恥ずかしそうに疾風を見上げ、手を伸ばした。


湖箔の身体が俺から離れ、背中から温もりが消えていく。

・・・何だろう。

はっきりとはしないが、寂しいという感情以外のものも、俺の中にあるように感じた。









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