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秋の鍋
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パキンという家鳴の音で目が覚めた。
瞬きをして、意識を戻す。
こたつに入ったまま、寝てしまっていたようだ。
固まった身体を座椅子から起こして、正面を見る。
「あー、しまった…」
こたつの天板の上にはパソコンのディスプレイが2台。
流れるのは西郡大尊(にしごおり ひろと)がほぼ毎日、ログインしているオンラインRPGの、BGM。
街の中で、所属するギルドのメンバーとチャットをしているうちに寝落ちたらしい。
チャット欄の会話はすでに流れ、個人あてのログには『寝た? 時間あったら、ダンジョンよろ』と、旧友からチャットが飛んで来ていた。
時計を見れば、寝落ちていたのは3、40分ほどらしい。
大尊は「んんー」と伸びをして、投げ出されていたコントローラーを天板に置く。
時刻はお昼の3時を回ったあたり。
翔太朗からメッセージが来ていたことを思い出し、スマホを開く。
買い物終わった。迎えに来てくれないか?
と、メッセージが来ていたのが、30分ほど前。
ふむ、と外を見れば細い雨が降っている。
庭のモミジがしっとりと濡れて、赤や黄色の落ち葉が鮮やかだ。
正直、暖房の効いた屋内から、どんより薄暗くて、寒い外へ出るのはおっくうだったが、大尊は現在地を訪ねてみる。
少々時間は経ったが、まだ駅にいるにしろ、タクシーかバスを拾ったにしろ、どちらにしても、とっちらかった部屋の雑誌くらいは拾っておくかと思ったのだ。
正座に座り直して、ゲームのチャット欄に、ログアウトする旨を打ちこんでいく。
休みとはいえ、昼間にけっこうな人数がログインしていた。
それぞれから『またねー』と飛んでくる。
旧友には一言あやまって、ログアウトする。
BGMが途絶えて、遠くにうっすらと雷の音が聞こえた。
どうやら、雨はやむらしい。
郊外の庭付き一軒家に、大尊は姉と猫とで住んでいた。
父の転勤に付き合って、両親は3年前からなんと、赤道にいる。
長い年月をかけて建設が進められていた、軌道エレベーターがいよいよ運航を開始するらしい。
その技術者として、亜熱帯の南国の海の上、巨大人口浮島にいるという訳だ。
こう寒くなって来ると、若干うらやましくはある。
暑いのも寒いのも苦手だが、冬は特に家から出たくない。
もう少し言うならこたつと一緒になりたい、一生添い遂げたい。
まあ、そんなことを言おうものなら姉の容赦ない、蹴りが飛んでくるのだが。
暴力反対。
さてと、と大尊は立ち上がり、寝癖の付いた黒髪をわしゃわしゃとかきまわすと、柔らかく垂れ下がった目尻を、やんわりと上げてみた。
送ったはずのメッセージが揺らいでいる。
ぱちんと瞬きをして、画面を袖でこすってみたが変わらない。
水面に、文字を落としたらこうなるだろうか。
ちゃぷんと揺れて、大尊が送った『今、どこ?』というメッセージが画面に沈んで、消えた。
チリンと鈴の音。
足元に視線を落とすと、ぎゅーっと前足を伸ばして、大きくあくびをする我が家の猫。
真っ白な毛並みに、赤いチェックの首輪を付けて、眠そうな金色の目で、大尊を見上げた。
こたつから出たばかりのほっこほこの毛並み。
眠いのだろうが、とろんとした目がうろんな様子に見えた。
ふっくらとした白猫は、名前を白玉と言った。
猫を見て、外を見て、もう一度スマホに視線を落とした。
メッセージ本文はなく、送信時間だけが、不自然に残っている。
「…あぁ――」
嫌な予感がする。
あの友人は本当に、ほんっとうにびっくりするぐらいに、不思議体質で、ド天然なのだ。
昔からそうだ。
再会に間があいて、大尊もうっかりしていた。
「やばい奴か、これ?」
くわりともう一度、大きなあくびを白玉がした。
瞬きをして、意識を戻す。
こたつに入ったまま、寝てしまっていたようだ。
固まった身体を座椅子から起こして、正面を見る。
「あー、しまった…」
こたつの天板の上にはパソコンのディスプレイが2台。
流れるのは西郡大尊(にしごおり ひろと)がほぼ毎日、ログインしているオンラインRPGの、BGM。
街の中で、所属するギルドのメンバーとチャットをしているうちに寝落ちたらしい。
チャット欄の会話はすでに流れ、個人あてのログには『寝た? 時間あったら、ダンジョンよろ』と、旧友からチャットが飛んで来ていた。
時計を見れば、寝落ちていたのは3、40分ほどらしい。
大尊は「んんー」と伸びをして、投げ出されていたコントローラーを天板に置く。
時刻はお昼の3時を回ったあたり。
翔太朗からメッセージが来ていたことを思い出し、スマホを開く。
買い物終わった。迎えに来てくれないか?
と、メッセージが来ていたのが、30分ほど前。
ふむ、と外を見れば細い雨が降っている。
庭のモミジがしっとりと濡れて、赤や黄色の落ち葉が鮮やかだ。
正直、暖房の効いた屋内から、どんより薄暗くて、寒い外へ出るのはおっくうだったが、大尊は現在地を訪ねてみる。
少々時間は経ったが、まだ駅にいるにしろ、タクシーかバスを拾ったにしろ、どちらにしても、とっちらかった部屋の雑誌くらいは拾っておくかと思ったのだ。
正座に座り直して、ゲームのチャット欄に、ログアウトする旨を打ちこんでいく。
休みとはいえ、昼間にけっこうな人数がログインしていた。
それぞれから『またねー』と飛んでくる。
旧友には一言あやまって、ログアウトする。
BGMが途絶えて、遠くにうっすらと雷の音が聞こえた。
どうやら、雨はやむらしい。
郊外の庭付き一軒家に、大尊は姉と猫とで住んでいた。
父の転勤に付き合って、両親は3年前からなんと、赤道にいる。
長い年月をかけて建設が進められていた、軌道エレベーターがいよいよ運航を開始するらしい。
その技術者として、亜熱帯の南国の海の上、巨大人口浮島にいるという訳だ。
こう寒くなって来ると、若干うらやましくはある。
暑いのも寒いのも苦手だが、冬は特に家から出たくない。
もう少し言うならこたつと一緒になりたい、一生添い遂げたい。
まあ、そんなことを言おうものなら姉の容赦ない、蹴りが飛んでくるのだが。
暴力反対。
さてと、と大尊は立ち上がり、寝癖の付いた黒髪をわしゃわしゃとかきまわすと、柔らかく垂れ下がった目尻を、やんわりと上げてみた。
送ったはずのメッセージが揺らいでいる。
ぱちんと瞬きをして、画面を袖でこすってみたが変わらない。
水面に、文字を落としたらこうなるだろうか。
ちゃぷんと揺れて、大尊が送った『今、どこ?』というメッセージが画面に沈んで、消えた。
チリンと鈴の音。
足元に視線を落とすと、ぎゅーっと前足を伸ばして、大きくあくびをする我が家の猫。
真っ白な毛並みに、赤いチェックの首輪を付けて、眠そうな金色の目で、大尊を見上げた。
こたつから出たばかりのほっこほこの毛並み。
眠いのだろうが、とろんとした目がうろんな様子に見えた。
ふっくらとした白猫は、名前を白玉と言った。
猫を見て、外を見て、もう一度スマホに視線を落とした。
メッセージ本文はなく、送信時間だけが、不自然に残っている。
「…あぁ――」
嫌な予感がする。
あの友人は本当に、ほんっとうにびっくりするぐらいに、不思議体質で、ド天然なのだ。
昔からそうだ。
再会に間があいて、大尊もうっかりしていた。
「やばい奴か、これ?」
くわりともう一度、大きなあくびを白玉がした。
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