婚約破棄から始まる嘘と本気の恋

フェレット

文字の大きさ
10 / 19

10話 迫る王室行事

しおりを挟む
 王宮の廊下を歩くアリアの足音が、広い空間に静かに響いていた。
その背筋は凛と伸び、淡い紫色のドレスが優雅になびいている。
彼女の隣にはレオンが控えめに歩いており、互いに言葉を交わさずとも、自然と歩調が合っていた。

「王室行事まで、あと数日ですわね。」

 アリアが視線を前に向けたまま口を開く。
その声には、冷静さとわずかな緊張が滲んでいた。レオンは短く頷きながら答える。

「ええ。ミラナ・エヴァンズが何を発表するつもりなのか、いまだに確かな情報は掴めていません。ただ、王室にとって重要な意味を持つ可能性が高いでしょう。」

 二人は、王宮の奥にある控えの間に入る。
そこでは、シュタインベルク家とヴァレンシア家の情報網を駆使して集めた書簡や資料が整理されていた。
アリアは机の上に置かれた書類を手に取り、その内容に目を通す。

「王子の婚約発表だけなら、これほど慎重に動く必要はありませんわ。」

 アリアは眉を寄せながら書類を見つめる。
そこには、エヴァンズ家と関わりのある貴族たちの名前が列挙されていた。
その多くが、最近王室の内政に影響を与え始めている人物たちだった。

「エヴァンズ家の動きが、ただの財政的な安定を目指しているだけであれば、これほど広範囲に影響を及ぼす必要はありませんわね。」

「確かに。彼らの目的は、財政の安定だけではなく、シュタインベルク家や他の有力貴族に影響力を及ぼすことにあるのかもしれません。」

 レオンは冷静に答えながら、手元の書類を閉じる。
その瞳には、慎重に状況を見極めようとする鋭さが宿っていた。

「王子の協力がある以上、彼女たちの行動には限界がないように思えます。」

 アリアは静かに椅子に腰掛け、手元の紅茶を持ち上げる。
その仕草には気品があったが、その瞳の奥には焦りが隠れていた。

「では、私たちがすべきことは何か。」

 レオンがその問いを投げかけると、アリアは少しだけ目を閉じて考え込む。

「まず、行事当日にどのような発表があるのかを予測する必要がありますわ。そして、その発表がどのような影響を及ぼすのかを考えるべきです。そのためには……」

「私たちも、あの場で目立つ必要がありますね。」

 レオンの言葉に、アリアは目を開けて彼を見た。
その瞳には驚きと共に、彼の意図を理解しようとする光が宿っていた。

「目立つ、ですか?」

「ええ。彼女の動きを抑えるためには、私たちの存在感を強めることが有効です。彼女が王室内で影響力を持つのなら、それを上回る存在感を示す必要があります。」

 アリアは静かに頷き、その提案を受け入れる。
彼女の瞳には、徐々に冷静な光が戻りつつあった。

「確かに、それが最善の策かもしれませんわね。王室行事では、私たちが婚約者としてどれほど強固な絆を持っているかを示す必要があるでしょう。」

「そのためには、準備が必要です。特に、貴女の持つカリスマ性を最大限に活かす形で。」

 レオンの言葉に、アリアは微笑みを浮かべた。
その微笑みには、どこか挑戦的な色が混ざっていた。

「私にできることは限られていますわ。でも、貴方がそう言うのなら、全力でお応えします。」

 その言葉に、レオンもまた静かに微笑んだ。
それは冷静さを保ちながらも、どこか信頼を感じさせる表情だった。

 その後、二人は王室行事に向けた準備について詳細を詰めていった。
アリアが描く未来図と、レオンの冷静な分析が交わる中、二人の間には自然な連帯感が生まれていた。
控えの間を包む静かな空気の中で、アリアはふと胸の奥に小さな感情の揺れを感じた。
それは、まだ言葉にするには幼い感覚だったが、確かに存在していた。

「偽りの婚約者、ですのに……。」

 心の中で呟いたその言葉に、アリアはほんの僅かに唇を引き結んだ。
 自分の心に芽生えた感情を無視するように、彼女は視線を再び手元の書類に戻した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

契約通り婚約破棄いたしましょう。

satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、 『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。  ・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合  ・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合  ・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合  ・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合    』 です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。 相手が身内だろうとも契約は契約です。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

聖女の身代わりとして捨てられた私は、隣国の魔王閣下に拾われて溺愛される

紅葉山参
恋愛
アステリア王国の伯爵令嬢レティシアは、生まれながらに強大な魔力を持つ双子の姉・エルヴィラの「影」として生きてきた。美しい金髪と魔力を持つ姉は「聖女」として崇められ、地味な茶髪で魔力を持たないレティシアは、家族からも使用人からも蔑まれ、姉の身代わりとして汚れ仕事を押し付けられていた。 ある日、国境付近の森に強力な魔物が出現する。国王は聖女の派遣を命じるが、死を恐れたエルヴィラは、レティシアに聖女の服を着せ、身代わりとして森へ置き去りにした。 「お前のような無能が、最後に国の役に立てるのだから光栄に思いなさい」 父の冷酷な言葉を最後に、レティシアは深い森の闇に沈む。 死を覚悟した彼女の前に現れたのは、隣国・ノクティス帝国の皇帝、ヴォルデレードだった。彼は漆黒の翼を持ち、「魔王」と恐れられる存在。しかし、彼は震えるレティシアを抱き上げ、驚くほど優しい声で囁いた。 「ようやく見つけた。私の魂を繋ぎ止める、唯一の光……。もう二度と、君を離さない」 彼はレティシアが「無能」ではなく、実は姉を上回る浄化の力を、姉に吸い取られ続けていたことに気づく。帝国へと連れ帰られた彼女は、これまで受けたことのないほどの溺愛を彼から受けることになる。一方、本物の聖女(レティシア)を失ったアステリア王国は、急速に衰退を始め……。

処理中です...