前世の記憶を思い出したのは、攻略対象と結婚してしまった後でした【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)

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拒否拒否



 アルカの部下達が、口々にカイザーを批難する。

「なぜ俺が嫌われなきゃならないんだ! 理不尽だろう!」

 カイザーの怒鳴り声が、寝室に響いた。  

 私は布団の端を握りしめたまま、顔を上げる。  

 騎士たちは顔を見合わせ、誰から言うかを目で押し付け合った末──

「学生時代、全国民が知るほど堂々と浮気し、“真実の愛”とのたまって妃殿下をないがしろにしたではありませんか。
 それで、なぜ好かれると思うのです?」

 隊長が仕方なく、言い聞かせるようにいう。

「王族は側室を持つものだから浮気ではない!」

 カイザーの声は、どこか子どものように拗ねていた。

「それは“正妻を敬う”という前提があってこそでしょう」 
「妃殿下を蔑ろにしておいて、義務だけは果たさせようとするとは…」 
「妃殿下は“王子の側室”ではありません。正妃です」  

 配下の棋士達が、またしても掩護射撃する。

 私はゆっくりと起き上がり、冷ややかに言った。

「そもそも側室を持てるのは、正室と貴族院の承認あってのことです。  
 それに、余程の旨味か才能がないと、男爵令嬢は側室になれません」

「ぐぬぬ……!」

 カイザーは唇を噛み、視線を泳がせた。

「しかも、結婚式でエスコートしなかったから、妃殿下は階段から落ちたのではないですか?」  

 アルカの部下が追い打ちをかける。

「それは、こいつの不注意だろう!」

「では、殿下もドレスを着てヒールを履いてください。ベールとティアラもね」
 私の言葉に、カイザーは黙り込んだ。
「とにかく、もう同じ空気を吸うのも嫌なので、出ていってください」

「そんなに俺が嫌いか」

「嫌いというレベルを通り越して、恨んでるし、憎んでますよ」

 カイザーの顔が、歪んだ。

「……そんなに、俺がジャネットといるのが嫌だったら言えば良かったではないか。  
 お前は何も言わなかっただろ」

 私より先に、声を上げたのはアルカだった。

「言う言わない以前に、浮気しないのが当たり前です」

「だから王族は浮気ではないと言ってるだろう!」

 その瞬間、部屋の空気が一斉に沈んだ。  
 私も含め、全員が同時にため息をついた。

「……とにかく、今宵はお引き取りください」  

 隊長が冷たく告げた、そのときだった。

 カイザーが私の腕を掴み、ぐっと抱き上げた。

「何を──!」  

 騎士達が叫ぶ。

「夫婦の寝室で寝る。これ以上は口出し無用」

 私は驚きに目を見開いた。  
 けれど、彼はそのまま私を抱え、寝室の扉へと向かう。

「なっ、なりません!」  

 アルカが声を上げた。

「何もしない。話すだけだ。
 夫婦の寝室には入るな──命令だ」

 扉が閉まる音が、重く響いた。  
 私はカイザーの腕の中で、静かに目を細めた。

 ──話すだけ?  
 この期に及んで?  

 カイザーは私を抱えたまま寝室へ入り、ベッドの端にそっと降ろした。  

 私は無意識に身を引き、顔をひきつらせる。  

「おかしいではないか」

 低く、苛立ちを含んだ声。  
 私は視線を合わせず、淡々と返す。

「何がです?」

「今まで、文句ひとつ言わずに全て従ってきただろう?
 他に男ができたのか」

 あまりの言葉に、私はぽかんと口を開けた。

「……何を。私が不貞を働いたと?」

「俺と離婚したいのは、そういうことだろう?」

 呆れを通り越して、乾いた笑いがこみ上げる。

「ですから、何度も申し上げているでしょう。  
 死にかけて、これまでしてきた我慢が無駄だったと気づいたからです」

「無駄ではない。王子妃になれたではないか」

「それは父が勝手に決めたことで、私の希望ではありません」

 彼は苛立ちを隠さず、声を荒げた。

「何が気に入らないんだ。言ってみろ」

 私は彼をまっすぐに見つめ、はっきりと告げた。

「あなたの存在のすべて、何もかもです」

 カイザーの顔が引きつる。  
 けれど、私はもう、遠慮も容赦もするつもりはなかった。

「……それでは話し合いにならない」

「私は、殿下と“わかり合う”つもりがありません」

 沈黙が落ちる。  
 彼はしばらく黙っていたが、やがて低く呟いた。

「お前がどれだけ騒ごうと、一方的に離婚はできないんだぞ」

 私はそっぽを向いた。  

「……3年経っても子供ができなければ、離婚してやる」

 その言葉に、私は思わず彼を見た。  
 驚きと、呆れと、そして冷たい怒りが胸に広がる。

 ──不妊になったという診断を、まだ信じていないのか。  
 それとも、信じたくないだけか。

 そもそも今の私が彼と寝室を共にするはずないのに、どうして……?

「…………考えさせてください」

 私はそう言い残し、寝室を出た。  
 彼は追ってこなかった。

 続き扉から私の部屋に入ると、そこには護衛の騎士たちが立っていた。  

 私は小さく頷いた。  
 彼らも、静かに頷き返した。

 ──私はもう、ひとりではない。  



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