前世の記憶を思い出したのは、攻略対象と結婚してしまった後でした【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)

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お決まりの揉め事です



 ダンスタイム。  
 最初の1曲は、セイランと私。

 彼の手を取って、舞踏の輪に入る。

「……婚約者、いないと聞きましたが?」

「父が死んで、すぐ婚約解消したんだ。父が勝手に決めた婚約者だ。元々好きじゃなかった」

 なんと、まあ我が儘な……。
 元婚約者アルネ側は、私がセイランを略奪したと思ってるんだろうか。

「ここまでマズい状況なら、早く言ってくれれば良かったのに」

「すまない。ただ……4月に結婚したいと申し出たのに、8月と……」

 ──年末にリュミエール先王が崩御して、私が婚姻無効になったのが2月。  
 4月に結婚? 無理に決まってるでしょう。

 まったく、この子は……。

「前側妃殿下を、パーレノン国の子爵辺りに下賜しましょう。  
 国内に置いておくと、ろくなことがありませんね」

 ルヴァンは西隣。  
 パーレノンは東隣。  
 王姉ピアラがルヴァンに嫁ぐなら、その母ピーノは反対側へ。

「確かに、そうだ。姉がルヴァンに嫁ぐのだから、ピーノ様はパーレノンの方がいい」

「パーレノンの大使と話して、1週間以内に決めましょう」

「そんなに早く?」

「早いわけないでしょう! むしろ遅いのですよ。今まで何してたんです?」

「っ、わかった。ダンスが終わり次第、大使と話そう」

 セイランの手に、わずかに力がこもる。  
 私はため息をつきながら、ステップを踏んだ。

 ──王妃の仕事は、踊ることじゃない。  
 この国を、整えること。  
 そのためなら、舞踏会の最中でも、政を進めてみせる。



 条件は明確だった。  
 力も野心も持たない人物。
 かといって格式や歴史がなければ、王家の体面が立たない。  
 その条件に合う低位貴族を──と頼んだところ、パーレノン大使は6人の候補を挙げてくれた。

「では陛下、隠密を使って素行調査を。問題がなければ、下賜しましょう」

「……わかった」

 セイランが頷き、パーティー会場の脇にある控え室での会談を終えた。



 広間を出て、私は小さく息を吐いた。

「……疲れたかい?」

 セイランが、私の顔を覗き込む。

「アウェイだもの」

 苦笑しながら答えると、彼は少しだけ眉をひそめた。

「王族の控え室まで連れていくから、横になるといい。  
 パーティーはもう終盤だ。少ししたら締めるから、寝てても構わない」

「……では、お言葉に甘えて」



 王族の控え室は、静かで、重厚なカーテンが外の喧騒を遮っていた。  

 私はソファに身を預け、目を閉じる。

 ──ほんの少しだけ、休もう。  
 そう思った矢先。

 扉が開く音。  
 ヒールの音が、3つ。

 目を開けると、そこには──

 王姉ピアラ。  
 リオンの妻ローラ。  
 そして、セイランの元婚約者アルネ。

 3人とも、私を睨みつけていた。

 あらあら。  
 これはまた、ベタな展開。

「お疲れのようね」

 ピアラが、艶やかな黒髪を揺らしながら、私を見下ろして言った。  
 赤い瞳が、まるで獲物を値踏みするように細められている。

 私はゆっくりと顔を上げた。  

「見てお分かりなら、気を使っていただけないかしら?  
 気の利かない方達ですのね」

「なっ……!」

 ピンクブロンドを束ねたローラが、前に出て声を荒げる。

「王姉殿下に、何という口のききかたを!」

「それを言うなら、あなたの方でしょう?  
 私がいつ、あなたに話す許可を出した?」

 ローラの顔が引きつる。  
 エメラルドの瞳が揺れ、視線が泳ぐ。

「私が許可したのよ」

 ピアラが、すかさず庇うように言った。

「殿下は私ではありません。越権行為です」

「越権も何も、私は王姉よ!」

 これ、カイザーと同じ種類の人ね。

「私はアストリア公爵家の直系で、元王太子妃。そして、現王の婚約者ですが」

「っだけど、王族じゃないじゃない!」

「それが何ですか?」

「私に楯突くんじゃないと言っているのよ!」

 ピアラは黒髪を振り乱して怒鳴る。

「絡んできておいて、何を言ってるんですかね。  
 この件は母国にも、陛下にも報告しますよ」

「嫁に来る立場で、ピアラ様に刃向かうなんて信じられない!」

 アルネが叫び、手にしていたワイングラスを振り上げ──

 ──ばしゃっ。

 赤い液体が、私のドレスに飛び散った。  
 シルクの胸元に、血のような痕が広がる。

 私は一瞬だけ目を伏せ、そして静かに声を上げた。

「衛兵!」

 扉が開き、廊下から兵たちが雪崩れ込んでくる。  
 その瞬間、3人の顔色が変わった。

「この者を、貴族牢ではなく“凶悪犯用の牢”に入れなさい」

「なっ……なんですって?! そんなこと、私が許さないわ!」

 ピアラが叫ぶ。

「そう。なら、いいわ。“貴族牢”で。  
 ──その代わり、“打首”よ」

「っ……!」

 空気が凍りつく。

「そんな……ワインかけたくらいで……!」

 アルネが震える声で狼狽する。

「かけた相手は、平民じゃないのよ。……バカなの?」

「打首になんて、私がさせないから。平気よ」

 ピアラが、私を睨み返す。

 私はゆっくりと立ち上がり、濡れたドレスの裾を整えた。  
 3人を順に見据える。

「どうでしょうね。──やってみてはいかがかしら?」

 3人は、たじろいだ。  
 私の一言で、空気が一変したことに、ようやく気づいたのだろう。

 衛兵がアルネに手をかけようとした、その瞬間──

「ここで身分が1番高いのは私よ! アルネは牢に入れないわ!」

 ピアラ殿下が、鋭く叫び、衛兵の前に立ちはだかった。

 そこへ扉が開き──



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