歩美ちゃんは勝ちたい

秋谷イル

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中学生編

大塚家vs夏休み(6)

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 翌朝。
「おはよう、あゆゆ」
「おはよう、友美」
 いつもよりちょっぴりお寝坊さんだった友美に、いつもよりだいぶ早起きした私が挨拶。今日の朝ごはんは私も手伝ったよ。
「友樹も起きたね~、おはよー」
「おあよ……」
 この子はまだ眠そうだ。
「友美、友樹、今日は何する日か覚えてる?」
「なんだっけ?」
「うみ……」
 おっ、友樹は寝ぼけてても覚えてたね。弟の発言を聞いた友美の目もぱっちり開く。
「海!」
「そう、今日は海だよ!」



「あっつい!」
 本日は一週間ぶりの真夏日。今年は曇りが多かったけど良い日にちょうど晴れてくれたなあ。
 真っ青というか、日差しが強すぎてもう感覚的には真っ白に近い空の下、午前中なのに早くも多くの海水浴客がごった返している。考えることは同じか。こういうの芋洗いって言うんだっけ? なんで芋を洗うことに喩えたんだろ? 後で調べてみよ。
「友美、着替えるから来なさい」
「はーい」
「我等も行くか」
「はい」
 というわけで男女に別れて更衣室へ。
「うわ、誰!?」
 いつもの魔女スタイルからごく普通の白いビキニに着替えただけで美樹ねえの違和感がすごい。
「美樹ちゃん、相変わらずスタイルいいわね」
「麻由美ちゃんこそ、なんかこう……そそられるわ。流石は人妻」
 花柄のワンピースタイプを着たママをじろじろ眺める美樹ねえ。うわ変態だ。
「いや、あなたも人妻でしょ」
「私はどう?」
 買ってもらったばかりの新しい水着に着替えた私は、ママと美樹ねえに評価を求める。
 途端、二人は苦笑い。
「うん……」
「らしいとは思う」
「でも、女の子らしさは足りないのよねえ」
「競泳水着って……ねえ?」
「速そうじゃん!」
「歩美、そういうのを基準にして選ぶのは男子かアスリートだけよ……」
 やれやれと肩をすくめる美樹ねえ。いや、私だって本当はそんなことわかってるんだよ。ただ、どうしても二人みたいな水着には踏み切れないというか……。
 そこへイルカがプリントされた水色の水着をきた友美も話しかけてきた。
「あゆゆ! 友美のは?」
「かわいい」
「かわいい」
「かわいい。流石、私の娘」
 満場一致で褒め称えた。



「友樹もかわいい」
「うにゅう」
 更衣室を出て再会した従弟を躊躇なく抱きしめる。
 大きくなったらセクハラとか言われそうだし、今のうちに!
 あ、そうそう、
「美樹ねえ、物は相談なんだけど」
「あげないってば」
 くそう……私は悔しがりつつ父さんの立てたパラソルの下へ入り、すやすや眠っている弟と妹を見つめた。
「いいよ、うちにも正道と柔がいるもん……」
「起こすでないぞ」
 父さんはビニールシートの上に重石のごとくどっかり腰を下ろす。
 その姿を見た私は首を傾げた。
「ふんどしじゃないの?」
「毎年同じことを訊くでない」
 そうだっけ? 普段和装だから海パンなんか履いてるとやっぱりおかしく見える。兄妹揃って違和感の塊。
「あなた、二人は私が見てますから泳いできたらどうですか?」
 ママもビニールシートの上に座る。でも父さんは首を横に振った。
「いや、ここは俺が守ろう」
 頑として動きそうにない。
 ママに耳打ちする私。
「もしかして、父さんってカナヅチ?」
「そんなことないわ。あの人は高校時代に『神住の大戦艦』と呼ばれていたのよ? 泳ぐのは得意」
「よくわかんないけど、なんか父さんっぽいあだ名なのはわかる」
「ちなみに吉竹さんは『爽やかエロガッパ』だったわ」
「その情報はいらない」
 私達がうだうだ話してる間にも、友美と友樹は美樹ねえと友にいに見守られ浅瀬で遊び始めていた。昨日あんなことがあったからか、二人ともいつもより子供達の動きに細心の注意を払ってる感じで、何かあるたびに手を差し出し──
 瞬間、私とママはピンとくる。
「あなた……」
「父さん……柔と正道が心配なだけでしょ?」
「……」
 やっぱりだ。この人、いつもの心配性が昨日のことを聞いて悪化しただけだよ。
「歩美、遊んで来なさい。ここは私とお父さんで見てるから」
「そうする」
 ああなったらしばらくは正道と柔から離れたがらない。友美達の方へ走りつつ一度だけ振り返る私。
 双子を挟んで座るうちの両親。なんかこう……アンバランスな狛犬って感じだね。



「お~、上手だね友美」
 泳ぎ方を教えようかと言ったら、泳げるという答えが返ってきた。というわけで見せてもらうことにしたところ、たしかに誰の手も借りずに泳いでいる。
「ぷあっ」
「ちゃんと息継ぎもできるんだ」
 ほんとすごいなこの子。
 一方、弟の友樹はというと……。
「友樹、ほら、パパがだっこしてあげるからおいで」
「やあああああああ!」
「やーじゃないでしょ、まだ波打ち際よ。怖くないから踏み込んでみなさい」
「こわい! こわいっ!」
「うーん、友美は自分から海に入ってって、むしろこちらが慌てたもんだったのに」
「姉弟でこんなに性格が違うのも珍しいわ」
 そうだね、美樹ねえと父さんも性格はけっこう似てるよね。
 しかし、あの調子じゃ友樹が泳げるようになるのは当面先のことだろうな。
「あーもう、ならママがだっこしてあげるから。ほら行くわよ」
「ぎゃああああああああああああああん!」
 強引に海の上へ連れ出された友樹は、大泣きして周りの人達をびっくりさせた。



「あゆゆ、あゆゆ……」
「あはは……」
 自分を泳がせようとするパパとママに警戒心を抱いた友樹は、代わりに私にくっついてくるようになった。
 お昼、海の家のお座敷でランチ。待ち時間が長かったので、すでに二時近い。お腹ぺこぺこ。
「お弁当でも持ってきた方が良かったかしらね?」
「しかし、こういう場所で食うのも醍醐味の一つだろう」
「たしかに。あ、お義兄さん胡椒取ってもらえますか」
「うむ」
「ありがとうございます」
 父さんと友にいはラーメン。私とママと美樹ねえは焼きそば。友美はたこ焼き。友樹は皆からちょっとずつ分けてもらって食べる。正道と柔はさっき待ってる間にママが更衣室で授乳した。
「友樹、焼きそば食べる?」
 こくん。
「はい」
 ちゅるちゅる。
「……」
 かわいい。
「まだあるよ、食べる?」
 こくん。ちゅるちゅる。
 ちゅるちゅる。
 もぐもぐ。
 ちゅるちゅる。
「お前、自分の分が無くなるぞ」
「はっ!?」
 すでに三分の一が友樹のお腹の中に。危ないところだった。
「友樹、相変わらずよく食べるね」
「そうね、さっき大泣きしたから余計にお腹空いてるでしょうし」
「へえ、泣くとお腹空くんだ」
「歩美もそうだったわね」
「そうなの?」
 自分じゃ覚えてないな。ママの言葉に首を傾げていると、左腕をくいくい引っ張られた。
「あーん」
「……しかたないなあ」
 この可愛さには抗えない。結局私は自分の焼きそばの半分以上を雛みたいに口を開けて待つ友樹に献上した。
 かわいそうだと言って友美がたこ焼きを二個あ~んして食べさせてくれたからトータルではプラスだね!



 お昼ごはんの後も一時間ほど遊んで、友樹が遊び疲れて眠ってしまったので帰ることになった。
 友美も眠いのか目をこすってる。
「友美、その手でこすっちゃ駄目だよ砂が入っちゃう。あそこのシャワーで砂を落としてからにしようね」
「うん……」
「くくく、歩美がいると楽できるわ。兄さん、歩美ちょうだい」
「やらん」
 どっかで聞いたような会話。父さんと美樹ねえの間で火花が散る。
 混雑してるのでシャワーも当然順番待ち。その間、私は奇妙な光景を見つけた。
「なんだあれ?」
「あそこだけ人だかりができてるわね」
「みんな写真を撮ってるし、サンドアートでもあるんじゃない?」
「サンドアート?」
「砂で像を作ったりすることよ。ほら、よくお城を作ったりするでしょ。あれの豪華版」
「なるほど」
「あゆゆ、友美もおしろ作りたい」
「今日はもう帰るから、明日公園に遊びに行ったら作ろうか」
「それでいいよ」
 お許しが出た。
「帰ったらあゆゆとお風呂入る」
「そういえば結局まだだったね」
 銭湯でなら一緒に浸かったけど。
「友樹も一緒に入れてあげて。多分、今日は私と友くんだと怖がるわ」
「あはは、了解」
 うちのお風呂は泳げるほど広くないけど、友樹ならたしかに泳がされるかもって怖がりそうだ。
 とにもかくにも私達は海を満喫して帰った。



 夕暮れ時、俺はようやく正気に戻った。
「いつのまに、こんな時間に……」
 昼に遊びに来てから今までずっと座禅を組んでしまっていたらしい。
 一緒に来た友人達が、そんな俺に気付いて駆け寄って来る。
「戻ったか木村」
「ああ」
「なんかもう慣れたよ、お前のその奇行にも……」
「すまなかったな」
 耐性をつけるべく日々努力はしているのだが、今日のあれは衝撃が強すぎた。
(まさか歩美も来ていたとは……)
「少し泳いでくか? お前、まだ海にすら入ってないじゃん」
「いや、暗くなってきたから帰ろう。それに俺も十分すぎるほど海を満喫した」

 あの姿 目に焼き付けし 夏の海

「そういや大塚も来てたな」
「あいつ、海で競泳水着なんか着てたぜ」
「相変わらず色気ねえよな」
「お前らやっぱ泳ぐぞ。あの島まで」
「何言ってんだ木村!?」
「うるせえ! 根性叩き直してやる!」
 あと審美眼もな!

 ──後日、海外のニュースサイトに俺の写真が載ってると学校で話題になった。
 夏の海で身じろぎもせず座禅を続けていた姿を外国から来た人達が珍しがって撮影したらしい。全然気付かなかった。
 以来、俺のあだ名は記事のタイトルから引用して“ブッダボーイ”になってしまった。
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