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高校生編
娘と卒業と旅立ちと(3)
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あ、また生徒会の思い出。やっぱり勇花さんの出番が多いな、会長だもんね。怖がりで見た目の凛々しさに反し運動も勉強もへっぽこ。歴代で最も頼りない生徒会長と言われていたこの人。
でも、その分だけ周りが頑張っちゃうんで、生徒会は歴代最強と称されている。色んなトラブルを解決して来たからこそでもあるんだろう。普通は生徒会に最強なんて形容詞を使わない。
原因は多分、私の重力。迷い犬以外にも本当に色んな厄介事を引き寄せちゃったな。
七不思議ツアーでは座敷童に出会い、遠く大阪で起きた神隠し事件を解決。しかもその直後、入学前の調査で鏡矢家が見落とした“背表紙が無い本”は千里ちゃんを大変な目に遭わせ、雫さんの手により消し去られた。
あの事件の時、結局すぐに座敷童と再会して、それからちょくちょく顔を合わせている。副会長になって以来、生徒会室にある神棚へのお供えも欠かしたことは無い。
私と美浜さんは運動部に助っ人を頼まれることも多かった。野球部対ソフトボール部の対決で敵味方に別れちゃった時はどうしようかと思ったね。澤さんが上手いこと調停してくれたおかげで解決した。
あっ、でも美浜さんと決着を付けられなかったのは悔しいな。いつか別の競技でもいいから再戦したい。同じ女子で私とあれだけ戦える人には初めて出会った。体育祭では三年連続で味方だったんだよね。
ああ、それにしても本当に勇花さんと前会長には苦労させられたなあ。ことあるごとに二人で歌って踊って注目を集めちゃうんだもん。
そのくせ先生にお説教されても当人達は全然堪えないんだ。前会長は馬耳東風だし勇花さんは少しの間だけ落ち込んですぐに復活する。あの不屈ならぬ不死身のメンタルだけは見習いたい。
勇花さんと言えばさ、弟の勇馬君はさおちゃんと上手くいってるみたい。さおちゃんがこんなに長く交際を続けるのは初めてだし、ひょっとしたらひょっとするかも?
さおちゃんと勇花さんが義理の姉妹になったら面白いし嬉しいな。
長く交際してると言えば鼓拍ちゃんと音海君も。中学の時、同時に私に告白して来た後、何故か意気投合して付き合うことになった二人。去年の秋の生徒会選挙ではそんな二人が争った末、見事音海君が当選。鼓拍ちゃんは副会長になった。
でも敗戦後、惜しかったねって励ましたら鼓拍ちゃん、計算通りだって返したよ。
『私、そもそもあゆゆ先輩と同じ副会長になりたかったので!』
カップルで会長と副会長を狙うに当たり、生徒会の活動に私情を持ち込むと思われないよう全力で戦ったのだそうだ。
正直びっくりした。中学で出会った頃のイメージをずっと引きずってたけど、二人ともちゃんと成長してるんだなって、あの時になってようやく気付いた。
カップルのイベントと言えばバレンタイン。今年も去年に続いて大騒ぎだった。みんなすっかり私の妨害に夢中。今回は木村にも連絡が入れられていて、よりドラマチックな演出を施される羽目に。来年はきっと音海君と鼓拍ちゃんでやるんだろう。だって恒例行事にするつもり満々だったもの。
とはいえ学外の人達に迷惑をかけるのは問題なので、来年からは校内に限定すべきだと提案しといた。先生達も私達や前会長の代ですっかりお祭り騒ぎに慣れきっていて、多少のことになら目を瞑ってくれるそうだし。
おっと、もう少しかな……この夢の出口らしきものが見えて来た。白い光の渦。思い出を振り返るたび現れた皆が、私に向かって語りかける。
「歩美よ、楽しい三年間だったようだな」
「友達もたくさんできたわね」
「いよいよ次の段階、準備はOK?」
「頑張ってね歩美ちゃん」
「私も頑張るからね、歩美姉ちゃん」
「ぼくも」
「なんかあったらすぐ戻って来なさい」
「ばあちゃん達はいつでも大歓迎だよ」
「今度暮らす家はオレらの家に近いってな」
「いつでも頼ってね歩美」
「私と雨道君も近くで見守ってる」
「はっはっはっ、私もな」
「こっちに戻って来たら、うちの店にも寄っておくれ」
「ドーナツくらいならオマケしてやんよ」
「サラ、お客さんには愛想良くだ」
「髪を切る時ゃうちにな!」
「さみしくなるねえ」
「すぐにアタシが孫の顔を見せてやるって!」
「何言ってんだ小梅!? あっ、違いますお義父さん。俺はまだ──」
「あれ?」
私はふと、何かを思い出しそうになって立ち止まる。きょとんとする皆。
どうしてだろ、まだ大切な誰かを忘れているような……?
最近知り合った葵さんや穀雨君の姿もあるのに。
「妾達のことかえ?」
「あっ」
そうだ、この人達だ。どうして今まで忘れていたんだろう?
「だいじょうぶ、ぼくたちはいつも近くにいるよ」
「我等はこの先も鏡矢と共に」
「ご安心を」
「さあ、進みなさい」
あの五人が私の前に立ち、斬雷さんの指先は白い光の渦を示す。渦の向こうからは聞き覚えのある声がした。
【起きて】
……やっぱり、夢はいつか醒めるんだ。そして私は、現実の私は三年間過ごした学校を去り、十八年間生まれ育った街からも離れる。
寂しい。辛い。不安で怖くて、悲しい。
それでも、だとしても──
「負けるもんか」
「その意気」
背中を押される。誰の手かはわかっていた。
振り返るとやっぱり父さんとママの間にパパが立っている。
みんな手を振ったりはしない。そうだよ、これはお別れだけど、そうじゃない。ほんの一時、何年か離れるだけ。
だから私も手を振らず、拳を握って突き上げる。
「いってきます!」
そして一人、渦の中へ飛び込んだ。
「おはよう」
「……おはよう」
目の前には座敷童の顔。ここは生徒会室。
そして思い出す。夢の中の私は嘘をついていた。まだ終わっていないと自分自身を騙し、現実から目を逸らさせた。
でも、もう終わったんだ。卒業室は昨日。
今日は日曜で先生に頼んで特別に入らせてもらった。生徒会室に忘れ物をしたって嘘をついて。
先生はすぐに行っちゃった。なんだかんだ言って信用してもらってたんだな。それとも私の真意に気付いていて、気を利かせてくれたのか。
三年間過ごした学校が恋しくなり、ここまで来て、机に突っ伏して泣いてる間にいつのまにか眠ってしまっていたようだ。我ながら子供みたい。
これで本当に、この場所とはお別れ。
そして目の前の彼女とも。
「もう来ないのかと思っていたわ」
「ごめん、もう会えないかもと思って……怖くて……」
卒業式当日には会いに来られなかった。
彼女は笑って許してくれる。
「そうね、本来ならもうそうなっていてもおかしくないわ。私はね、子供にしか見えない見てくれの、子供にしか見えない妖怪なのよ」
「うん、知ってる……」
雫さんに教えてもらった。座敷童は大人には見ることができない妖。だから自分と時雨さんにも見つけられなかったのだろうと。
「あなたはもう高校を卒業した。法的にも大人と認められる年齢。もちろん、それだけで本当に大人になるわけじゃない。けれど、そういう儀式を一つずつ積み重ねて大人であることを自覚していくうち、やがては本当の大人になる」
そしていつか私が見えなくなる。
彼女は、そう続けた。
「寂しいね……」
これまで何度、そんな出会いと別れを繰り返して来たの?
座敷童は頭を振った。私の同情を、明確に間違っていると否定する。
「寂しがるのはそっちだけ。私はずっと覚えている。貴女達が忘れてしまってもこっちはけっして忘れない。だから安心なさい。どちらか一方でも覚えていれば、縁は完全に切れないもの」
「私だって忘れないよ」
忘れられるはずない。中学の時、あんな怖い目に遭ったのに、それでも全ての霊や妖怪が悪いものじゃないって思えたのは鈴蘭さんと時雨さん、そしてこの子のおかげ。
私の“重力”は、これからもきっと色々なものを呼び寄せる。
でも、座敷童に出会えたおかげで怖くはない。
立ち上がって彼女に近付いた。
抱きしめて囁く。
「ありがとう。後輩達のこともよろしく」
「任せなさい。私がいる限り、この学校で不幸なことは起こらない。貴女がいた間だって結局誰も悲しい想いはしなかったでしょ」
「うん……」
彼女は私の髪を指で梳き、それから一言付け加える。
「たまには、鏡矢の子に関わるのも悪くないわ」
「そんなに怖がらないで」
苦笑する私。雫さんと時雨さんだって敵じゃないよ。何度もそう言ってるのに結局最後まで信じてくれなかったな。
まあ、私とはずっと友達。
それでいっか。
でも、その分だけ周りが頑張っちゃうんで、生徒会は歴代最強と称されている。色んなトラブルを解決して来たからこそでもあるんだろう。普通は生徒会に最強なんて形容詞を使わない。
原因は多分、私の重力。迷い犬以外にも本当に色んな厄介事を引き寄せちゃったな。
七不思議ツアーでは座敷童に出会い、遠く大阪で起きた神隠し事件を解決。しかもその直後、入学前の調査で鏡矢家が見落とした“背表紙が無い本”は千里ちゃんを大変な目に遭わせ、雫さんの手により消し去られた。
あの事件の時、結局すぐに座敷童と再会して、それからちょくちょく顔を合わせている。副会長になって以来、生徒会室にある神棚へのお供えも欠かしたことは無い。
私と美浜さんは運動部に助っ人を頼まれることも多かった。野球部対ソフトボール部の対決で敵味方に別れちゃった時はどうしようかと思ったね。澤さんが上手いこと調停してくれたおかげで解決した。
あっ、でも美浜さんと決着を付けられなかったのは悔しいな。いつか別の競技でもいいから再戦したい。同じ女子で私とあれだけ戦える人には初めて出会った。体育祭では三年連続で味方だったんだよね。
ああ、それにしても本当に勇花さんと前会長には苦労させられたなあ。ことあるごとに二人で歌って踊って注目を集めちゃうんだもん。
そのくせ先生にお説教されても当人達は全然堪えないんだ。前会長は馬耳東風だし勇花さんは少しの間だけ落ち込んですぐに復活する。あの不屈ならぬ不死身のメンタルだけは見習いたい。
勇花さんと言えばさ、弟の勇馬君はさおちゃんと上手くいってるみたい。さおちゃんがこんなに長く交際を続けるのは初めてだし、ひょっとしたらひょっとするかも?
さおちゃんと勇花さんが義理の姉妹になったら面白いし嬉しいな。
長く交際してると言えば鼓拍ちゃんと音海君も。中学の時、同時に私に告白して来た後、何故か意気投合して付き合うことになった二人。去年の秋の生徒会選挙ではそんな二人が争った末、見事音海君が当選。鼓拍ちゃんは副会長になった。
でも敗戦後、惜しかったねって励ましたら鼓拍ちゃん、計算通りだって返したよ。
『私、そもそもあゆゆ先輩と同じ副会長になりたかったので!』
カップルで会長と副会長を狙うに当たり、生徒会の活動に私情を持ち込むと思われないよう全力で戦ったのだそうだ。
正直びっくりした。中学で出会った頃のイメージをずっと引きずってたけど、二人ともちゃんと成長してるんだなって、あの時になってようやく気付いた。
カップルのイベントと言えばバレンタイン。今年も去年に続いて大騒ぎだった。みんなすっかり私の妨害に夢中。今回は木村にも連絡が入れられていて、よりドラマチックな演出を施される羽目に。来年はきっと音海君と鼓拍ちゃんでやるんだろう。だって恒例行事にするつもり満々だったもの。
とはいえ学外の人達に迷惑をかけるのは問題なので、来年からは校内に限定すべきだと提案しといた。先生達も私達や前会長の代ですっかりお祭り騒ぎに慣れきっていて、多少のことになら目を瞑ってくれるそうだし。
おっと、もう少しかな……この夢の出口らしきものが見えて来た。白い光の渦。思い出を振り返るたび現れた皆が、私に向かって語りかける。
「歩美よ、楽しい三年間だったようだな」
「友達もたくさんできたわね」
「いよいよ次の段階、準備はOK?」
「頑張ってね歩美ちゃん」
「私も頑張るからね、歩美姉ちゃん」
「ぼくも」
「なんかあったらすぐ戻って来なさい」
「ばあちゃん達はいつでも大歓迎だよ」
「今度暮らす家はオレらの家に近いってな」
「いつでも頼ってね歩美」
「私と雨道君も近くで見守ってる」
「はっはっはっ、私もな」
「こっちに戻って来たら、うちの店にも寄っておくれ」
「ドーナツくらいならオマケしてやんよ」
「サラ、お客さんには愛想良くだ」
「髪を切る時ゃうちにな!」
「さみしくなるねえ」
「すぐにアタシが孫の顔を見せてやるって!」
「何言ってんだ小梅!? あっ、違いますお義父さん。俺はまだ──」
「あれ?」
私はふと、何かを思い出しそうになって立ち止まる。きょとんとする皆。
どうしてだろ、まだ大切な誰かを忘れているような……?
最近知り合った葵さんや穀雨君の姿もあるのに。
「妾達のことかえ?」
「あっ」
そうだ、この人達だ。どうして今まで忘れていたんだろう?
「だいじょうぶ、ぼくたちはいつも近くにいるよ」
「我等はこの先も鏡矢と共に」
「ご安心を」
「さあ、進みなさい」
あの五人が私の前に立ち、斬雷さんの指先は白い光の渦を示す。渦の向こうからは聞き覚えのある声がした。
【起きて】
……やっぱり、夢はいつか醒めるんだ。そして私は、現実の私は三年間過ごした学校を去り、十八年間生まれ育った街からも離れる。
寂しい。辛い。不安で怖くて、悲しい。
それでも、だとしても──
「負けるもんか」
「その意気」
背中を押される。誰の手かはわかっていた。
振り返るとやっぱり父さんとママの間にパパが立っている。
みんな手を振ったりはしない。そうだよ、これはお別れだけど、そうじゃない。ほんの一時、何年か離れるだけ。
だから私も手を振らず、拳を握って突き上げる。
「いってきます!」
そして一人、渦の中へ飛び込んだ。
「おはよう」
「……おはよう」
目の前には座敷童の顔。ここは生徒会室。
そして思い出す。夢の中の私は嘘をついていた。まだ終わっていないと自分自身を騙し、現実から目を逸らさせた。
でも、もう終わったんだ。卒業室は昨日。
今日は日曜で先生に頼んで特別に入らせてもらった。生徒会室に忘れ物をしたって嘘をついて。
先生はすぐに行っちゃった。なんだかんだ言って信用してもらってたんだな。それとも私の真意に気付いていて、気を利かせてくれたのか。
三年間過ごした学校が恋しくなり、ここまで来て、机に突っ伏して泣いてる間にいつのまにか眠ってしまっていたようだ。我ながら子供みたい。
これで本当に、この場所とはお別れ。
そして目の前の彼女とも。
「もう来ないのかと思っていたわ」
「ごめん、もう会えないかもと思って……怖くて……」
卒業式当日には会いに来られなかった。
彼女は笑って許してくれる。
「そうね、本来ならもうそうなっていてもおかしくないわ。私はね、子供にしか見えない見てくれの、子供にしか見えない妖怪なのよ」
「うん、知ってる……」
雫さんに教えてもらった。座敷童は大人には見ることができない妖。だから自分と時雨さんにも見つけられなかったのだろうと。
「あなたはもう高校を卒業した。法的にも大人と認められる年齢。もちろん、それだけで本当に大人になるわけじゃない。けれど、そういう儀式を一つずつ積み重ねて大人であることを自覚していくうち、やがては本当の大人になる」
そしていつか私が見えなくなる。
彼女は、そう続けた。
「寂しいね……」
これまで何度、そんな出会いと別れを繰り返して来たの?
座敷童は頭を振った。私の同情を、明確に間違っていると否定する。
「寂しがるのはそっちだけ。私はずっと覚えている。貴女達が忘れてしまってもこっちはけっして忘れない。だから安心なさい。どちらか一方でも覚えていれば、縁は完全に切れないもの」
「私だって忘れないよ」
忘れられるはずない。中学の時、あんな怖い目に遭ったのに、それでも全ての霊や妖怪が悪いものじゃないって思えたのは鈴蘭さんと時雨さん、そしてこの子のおかげ。
私の“重力”は、これからもきっと色々なものを呼び寄せる。
でも、座敷童に出会えたおかげで怖くはない。
立ち上がって彼女に近付いた。
抱きしめて囁く。
「ありがとう。後輩達のこともよろしく」
「任せなさい。私がいる限り、この学校で不幸なことは起こらない。貴女がいた間だって結局誰も悲しい想いはしなかったでしょ」
「うん……」
彼女は私の髪を指で梳き、それから一言付け加える。
「たまには、鏡矢の子に関わるのも悪くないわ」
「そんなに怖がらないで」
苦笑する私。雫さんと時雨さんだって敵じゃないよ。何度もそう言ってるのに結局最後まで信じてくれなかったな。
まあ、私とはずっと友達。
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