ヒロイン王子は負けたくない!

マツヲ。

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Ep.25 ヒロイン属性は対モンスターにも有効デス

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 地面に押し倒されたオレの肩を押さえつけるオーガは、だらしなく開いた口のはしから、ダラダラとよだれを垂らしている。
 こんな歯で噛みつかれたら、それだけで致命傷になるじゃねーか!

 どうする?!
 どうやったら命が助かるだろうか?
 必死で考えようにも、のどもとまでせりあがってくる恐怖に、あたまがうまく働いてくれそうにない。

 頼みの綱のはずのジェイクは、残念ながら毛むくじゃらのモンスターの吐いた甘い息によって眠りに落ち、無防備に地面に転がっている。
 しかもオレ自身、『ヒロイン属性の呪い』とも言うべきナゾの現象が起きているせいで、うまく力が入らずにロクな抵抗すらできていなかった。

「ヒッ……!」
 オーガがおもむろに顔を近づけてきて、匂いをかがれたと思ったら、つづけてベロリと大きな舌でほっぺたを舐められる。
 その生あたたかくベチャベチャとした触感に、一気に鳥肌が立った。

 そもそもゲーム画面にあらわれるオーガは、肩に丸太のような棍棒を担いでいたから、本来の攻撃方法はその武器の振り下ろしだとか、そういったものなのだろうけれど。
 いつの間に手放したのか、オレの上にまたがるオーガの手にはなにもにぎられてはいない。

 でもこんな体勢、いつのど笛を食い千切られてもおかしくはないわけで。
 言うなれば確実に詰んだ状態だった。
 そんなの、はっきり言って怖い以外のなにものでもないだろうが!

 ここから抜け出すために攻撃をしようにも、オレがさっき取り落としてしまった細身の剣は、困ったことにいくら手をのばしても届きそうにない位置に転がっているし、ならば手段は魔法による攻撃しかないのだけど、今のオレのレベルでは、あいにくとオーガにたいして有効なほどに強いものはおぼえていなかった。

「クソッ、離せよこのバカ力野郎が!!」
 口では威勢よくオーガを罵倒したところで、鼻息の荒いオーガはあいかわらずダラダラとよだれを垂らしながら、ピチャピチャと音を立ててオレの首もとを舐めているままだ。

「~~~っ!!」
 どうしよう、さっきから肌の上をぬるぬると勝手に動きまわる舌の感触が気持ち悪すぎるんだが……!?

 本来ならゲームのなかでの描写では、オーガには人を喰らうなんて嗜好はなかったはずなのに……!
 だから、こんなふうにまるで味見をするかのように舐めまわされる理由なんて、思いつかないのだけど。

 それにオレを見下ろしているオーガの目には、さっきからふしぎと嫌悪感をおぼえずにはいられないというか、なんだかやたらとイヤラシイ目つきをしているように思えてならなくて。
 まるで、いつかの宿屋でオレを押し倒してきた男たちのように……。

 ゾワッ!
 それに思い至った瞬間、一気にふるえが走った。

 ───そうだ、この目はあまりにも似ているんだ───オレにたいして、欲情してきた男たちの目に。

「や、ヤメ……っ!」
 ただでさえ同性の野郎どもに襲われて辟易していたっていうのに、ここに来てさらにモンスターからも襲われるとか冗談じゃない!!

「ホホホ、いい表情するじゃない!あんたのその絶望にゆがむ顔が見たかったのよ!そのままモンスターに喰われてしまえばいいんだわ!!」
「ノア!?」
 高笑いとともにこちらを見下ろしてくるノアに、おどろきが隠せない。

 薄々、ノアから嫌われているのだろうなとは感じていた。
 昨日の酒場での一件だって、オレがいたせいでかなりゲームのなかでのイベントとは異なる展開になってしまったわけだし。

 もしノアがゲームのとおりにジェイクに一目惚れしていたのなら、なおさら酔漢に絡まれていたヒロインのはずのノアより、オレのほうをジェイクが優先して心配していたなんて面白くはなかっただろうし。
 だけどまさか、ここまでの直接的な憎悪を募らせているなんて!

 そんなふうにノアに気を取られていたら、オーガによって押さえつけていた肩からその重みがなくなったと思った次の瞬間。
 オーガの大きな手は、オレの装備していた防具へとのばされ、そして……。

 メリ、ビリィッ!!
 金属製のハーフプレートが無理やりはぎ取られ、さらには勢い余って下に着ていたシャツまでもが破られる。

「っ!~~っくぅっ……」
 クソ、なんつーバカ力だよ!!
 一瞬にして息が詰まり、ハーフプレートを固定していた革のベルトが皮膚に食い込んだ痛みに、ジワリと目尻に涙が浮かぶ。

 ベロリッ
 その結果、無防備にさらされることになった胸もとに直接、オーガの大きな舌が這わされる。
 しかもそのまま、何度もチロチロとすぼめられた舌先が胸もとをくすぐっていく。

「や、めろっ、バカ野郎!!」
 こちらを見下ろしながらオーガは、満足げにのどを鳴らすと、今にもニチャアという音がしそうなほどに歯をむき出しにして笑う。
 その顔に浮かぶのは、どこからどう見ても欲情しきった表情でしかなかった。

 ゾワゾワゾワ……!
 それを目にしたとたん、たとえようもない不快感がせり上がり、さらには明らかに盛りあがりはじめたオーガの股間が視界に入ってきて、もはやシャレにならないピンチに陥っていることを自覚せざるを得なかった。

「ヒッ……!!」
 ウソだろ、冗談だよな?!
 なにが悲しくて、モンスターにまでサカられなきゃなんないんだよ!!

 ピチャピチャと音を立てて胸もとを舐めまわすオーガは、鼻息も荒く何度もその立派すぎる下腹部をこちらの腹に押しつけてくる。
 そしてジャマになっているオレの腰まわりの防具に気づくと、今度はそれを力任せにはぎ取った。

「やめろっ!オレ相手にサカるんじゃねぇ!!」
 言ったところで、そもそも言葉が通じる相手でもない。
 当然のように制止になんてなるはずもなく、その圧倒的なパワーにたいしてロクな抵抗なんてできやしなかった。

 オレだって、男なのに……!!
 たぶん本来なら、ノアがオレにぶつけてきたアイテムは、モンスターが好むニオイを発するものとはいえ、食べ物的な意味であって、決してで好むものではなかったはずだろう……?

 どう考えてもバグっているとしか思えないこの世界では、オレ相手の場合にかぎりオス型のモンスターの食欲は、性欲に置き換えられて作用するらしかった。
 こんな深刻なバグが生じてんだ、今すぐ修正パッチをリリースしろよ、バカ!!
 思わずその理不尽さに、だれとも言えない相手に呪いの言葉を吐く。

 オーガの腰に巻かれた布を押し上げて存在を主張しているは肌と同じく緑色で、ゴツゴツとした太い血管が幾すじも浮かび上がり、非常にグロテスクな見た目をしていた。
 たぶん、オレの足の付根からみぞおちくらいまでの長さがあるし、太さだってこちらの太ももよりも太い。
 
 ……うん、無理!!
 絶対に無理だからっ!!
 そんな凶悪なサイズ、とてもじゃないけど人間のからだで受け入れるとかあり得ないし!!

「ヤダ、まさかオーガにまで欲情されるなんてあんたどれだけ……いいえ、いっそのことそのままキズモノにされて、ジェイクに捨てられちゃえばいいんだわ!オホホ!!」
 さすがのノアも想定外の動きをするオーガのおかしさに気づいたんだろう、オレを見てふたたび高笑いをする。

「ふざけんなよ!だれがコイツなんかに……っ!!」
 口では文句を言ったところで、たしかに実際問題として今のオレではオーガの拘束から逃れるすべはない。

 瀬戸際でオーガの知能が低すぎるおかげか、まだ服の上からこすりつけられるだけで済んでいるのが不幸中の幸いと言うべきか。
 そうでなければ、内臓破裂で死亡事故すら起きかねない。

 とはいえ、ノアが助けてくれるはずがないとは思っていても、この状況のヤバさには変わりはないわけで。
 あたまのなかでは、さっきからガンガンと警鐘が鳴り響いている。

「ウフフ、あたしが直接手を下すまでもないわ!あんたなんて、そのままオーガに犯されて壊れちゃえばいいのよ!その隙にあたしはジェイクを助けて、そして愛し合うふたりは、魔王討伐のためのパーティーを組むのよ!」
 もはや妄想を語るノアは、悪役キャラと見分けがつかなくなっていた。

 けれどその直後からとおり、甘い息を吐く毛むくじゃらのモンスターを相手に得意の風魔法を放ち、難なく倒していく。
 さっきまでの水魔法の乱発がウソのような、鮮やかなお手並みだ。
 まさかあの酷い有り様は、演技だったとでも言うのだろうか?

「あんたさえいなくなれば、この先ジェイクのとなりで彼を支えられるのは、このあたしになるんだわ!」
 いまだに眠りのなかにいるジェイクのそばでふんぞり返ると、腕を組んで勝ち誇る。

「ハッ、とんだ猫かぶりじゃねーか!おまえみたいな女に、ジェイクはだまされないからな?!」
 そうは言いつつも、ジェイクのお人好しぶりなら、十分だまされてしまいそうな気もしなくはないのだけど。

 その疑念をふりはらい、キッとノアを睨みつける。
 どう考えても圧倒的にピンチな状態ではあるのだけど、一周まわって恐怖を感じるどころか今や、さっきから利己的な主張ばかりをくりかえすノアにたいする怒りのほうが強くわきあがってきていた。
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