ヒロイン王子は負けたくない!

マツヲ。

文字の大きさ
24 / 25

Ep.24 このヒロイン候補が腹黒すぎる

しおりを挟む
 オーガというモンスターはその防御力の高さが特筆すべき特徴で、ちょっとくらいの魔法はすべてはじき返してしまうし、物理攻撃にしたって、ちょっとずつしか通らない。
 ……それにたぶん、痛覚もちょっと鈍い。

 だからなのだろうか、多少の攻撃を受けたくらいでは決してひるまない。
 それでいてHPは大量にあるからいつまでもこちらに立ち向かってくるという、初心者が討伐に苦戦する最初の壁のような存在というか、ひとことであらわすなら『初心者泣かせのモンスター』だった。

 ……まぁ、その分倒したときにもらえる経験値はなかなかおいしいことになっているからこそ、ゲームでは経験値稼ぎのために、あえてモンスターを誘き寄せるアイテムを使いながらこのダンジョンを周回するなんてこともあったんだけど。
 でもその作戦は失敗すると、パーティーが全滅する危険もあった。

 それは、この場所に高確率で眠りの状態異常をもたらすモンスターもいっしょに出現するからだった。
 それこそ眠りをくらって眠りこけてはオーガにタコ殴りにされ、そして目覚めて回復をしたところですぐにまた眠らされ、また何度か殴られてピンチになったころにようやく目を覚ますという。

 だから回復はギリギリ間に合うけれど、またすぐに眠らされてしまえばどうしようもなく……という永遠ループにハマってしまう恐れもあるのがポイントだ。
 この場合、こちらの回復役のキャラクターのMPが切れたところで全滅コースまっしぐらというわけなんだけど。

 なんだかイヤな予感がよぎりそうになることに、目の前にはその眠気を誘う甘い息を吐いてくる毛むくじゃらのモンスターが、オーガといっしょに出現していた。
 口にしたら言霊となって悪いことが起きてしまいそうな気もするから、絶対に口にしはしないのだけど。

「てやっ!」
「ギャッ!!」
 ジェイクが剣をふるえば、どういうわけか空振り気味になり、オーガのすねに当たる。
 その瞬間、さすがのオーガも痛みを感じたんだろうか、手にしたこん棒を取り落としてしゃがみ込んでいた。

 これはひょっとして、オーガへの『会心の一撃』ってやつか!?
 ゲーム画面では味気ない文字でしかあらわされないものが、こうして現実のものとして再現されるとか、臨場感満点なんてもんじゃない。

 ───あぁ、本当にオレは今、あのゲームの世界に生きてるんだ……!!

 そう思ったらなんだか急にワクワクしてきてしまって、ゲームのなかでのお約束だったをすっかり忘れていた。
 オーガといっしょに出る毛むくじゃらのモンスターの甘い息の攻撃は、ふだんなら効かないこともあるというのに、『オーガに会心の一撃をあたえた直後、その攻撃をした人物に向かって放たれたものだけは必ず効く』というその法則を。

「ぷぉ~~ん」
「なっ?!なんだ、こ、れ……?」
 気の抜けそうな鳴き声とともに毛むくじゃらのモンスターから甘い息がジェイクに向かって吹きかけられ、それを思いっきり吸ってしまったジェイクはその場でよろける。

「ジェイク!」
 もしかしてこれも、ゲームのなかではただ眠ってしまうだけで済んでいたけれど、現実問題として倒れ込み方を失敗すれば、ダメージを受けたりすることもあるんじゃないだろうか?

 いや、だっていくら防具をつけていたところで、これが現実なら無防備に転倒するだけでも、打ち所が悪くて死ぬことだって有り得るわけで。
 そう思ったら不安が込みあげてきて、つい意識をそちらへ向けてしまった。

 その瞬間。
 ボフッと音を立て、粉の入った袋がオレの肩口に向かって投げつけられた。

「ゲホッ、なんだよ、これっ!?」
 わずかに狙いをはずし背中にあたったそれは、その瞬間に袋の口を縛るひもが外れて、オレの全身を覆うようになかに入っていた粉が舞いあがる。

 ツンと酸味の利いたフレッシュな柑橘系の果実と、それでいて腐りかけの甘ったるい南国系の果実のようなニオイが強烈に鼻の奥まで突き抜けてきて、思わずむせてしまったけれど。

 ───いや、マジでなんなんだよ、コレ!?
 ……ていうか、今これをオレに向かって投げてきたのって、背後からだったよな?
 それってつまり───犯人はオレよりも後ろにいたノアってことになるんじゃないのか??

 オレの知るかぎりこんな形状の、パーティーメンバーにたいして使うアイテムなんてないはずなのに。
 かといって、粉状のアイテムといえばモンスター相手にデバフをかける目的で使う『眠り蝶の鱗粉』か『しびれくらげの粉末』なのだけど、眠気に襲われるでもなくしびれがあるわけでもない以上、それらではないのだろう。

「ノア?いったいこれは……」
「グルルァァアア!!!」
 たずねようと後ろをふりかえったとたん、いつものがやってきた。

 そう、オレがもっぱら『ヒロイン属性の呪い』と呼んでいるが。
 カクンとひざの力が抜け、手から落ちた武器は地面に転がり、乾いた音を立てる。
 そして直前に聞いた叫び声の主は、目の前にいたオーガだった。

「えっ?……ぐぅっ!?」
 こちらに飛びかかってきたオーガに、そのいきおいのままに地面に押し倒され、息がつまる。
 野球のグローブのような大きな手で肩を押さえつけられてしまえば、それ以上逃げ出すことなんてできなかった。

 こちらを見下ろすオーガの目には、当然のように理性なんてなくて、ランランと輝くそれにはむしろこちらを食らいつくそうという欲があふれ出て見えた。
 こちらのあたまごと飲み込んでしまえそうな大きな口からは、よだれがこぼれ落ちていて、舌なめずりをしている様子に恐怖をおぼえる。

 いやこれ、ピンチもピンチ、大ピンチってヤツじゃないだろうか?!
 このままかじりつかれでもしたら、さすがにオレも無事ではいられないどころか、一撃死の可能性だってあるんだぞ!?
 それくらい、オーガの乱杭歯はするどくて立派に見える。

 そうだ、モンスターの食欲を刺激しているみたいってことは、まさかこれは───さっきオレが思い出していた『モンスターを誘き寄せるアイテム』なのかもしれない。
 ゲーム内の道具屋で受ける説明では、『モンスターの好物の匂いをさせている』とか言われていたような気もするけど。
 そう思って顔の横に落ちている茶色の小袋を見れば、たしかにゲーム画面の小さなドット絵で見たそれと酷似していた。

 でも、そんなことより。
 ノアの戦闘判断力は、いったいぜんたいどうなってるんだよ!?
 ふつうこの場面では、モンスターを誘き寄せるアイテムなんて使う必要ないだろ?!

 追い払うために投げたとしたら、味方の背中にあたっている時点で、ずいぶんと見当ちがいなところに投げているとしか言いようがない。
 だけど。

「あなたが悪いのよ!あたしがせっかく一芝居打って強そうな男を引っかけようとしたのに、全部それを台なしにしたじゃない!!」
「え……まさか、それって……」
 顔を真っ赤にしてかんしゃくを起こすノアに、ようやく話がつながっていく。

「そうよ!あたしはあの酒場で鑑定の魔法を使いながら、ずっと強い人を探してたんだから!ようやく『神託の勇者』なんて強そうな肩書のイケメンがあらわれたと思ったのに、あの人あたしことなんて全然見てくれないし、ずっとあなたのことばっかり気にしてるんだものっ!!」
 そしてノアは、さらにオレにたいする怒りをぶつけてくる。

「~~っ、だいたい村じゃあたしがいちばんかわいかったのよ!?それなのにあなたが来たとたん、あの酔っ払いの男まであたしのことなんかより、あなたのほうが美人だとか言うんだもん!!ゆるせるわけないじゃない!!」
 ……やっぱりあの酔漢の発言は、ノアの地雷を踏み抜いていたようだ。

「勇者をたらし込んで、あたしの悲願のためにも、絶対に魔王を倒して仇をとってもらわなきゃいけないのに!!だけどあなたがいたら、うまくいくものもいかなくなるのなら……手段なんて選んでられないの!お願い、ここでオーガに食われて死んでちょうだい!!」
 それは、思った以上に純粋なオレへの殺意だった。

 ───マジか。
 最初に浮かんできたのは、そんなアホみたいなことだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

美形令息の犬はご主人様を救いたい

BL
シエノークは美しき侯爵令息ルスランの忠実なしもべであり、犬だった。ルスランを盲信し、王家に叛逆するルスランを支え、ルスランが王家の騎士に斬られて命を落とすまで傍にいた。その後、シエノークもまた命を落とし、──ベッドの上で目を覚ました。9歳に戻ったシエノークはご主人様であるルスランの破滅を防ぐことを決意する。/美形令息×美形令息の犬

処理中です...