関白の息子!

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千姫ルート 上海要塞防衛戦3

交渉3(エロ度☆☆☆☆☆)

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「井頼! 早く皇后様を!」

 乗って来た馬を指し示す信繁の一喝で井頼も我に返る。

 馬は千姫が騎乗してきたものと井頼のものの2頭いれど、いざ逃げる時には千姫と井頼が相乗りをすることは予め打ち合わせてあった。
 いくら武家の生まれと言っても、千姫は姫君としてしか扱われてきていないので早駆けなど出来ないからだ。
 そして、信繁達護衛はその具足の重さから二人駆けには向かない。
 よって、具足を装着しない井頼か通訳しか、その任はこなせなかったのだ。
 その2人の選択肢も馬術の差で井頼に落ち着いた。

「グッ、皇后様、お早く!」

 未だ敗北感から冷静な判断が難しいながらも、井頼は今とるべき行動を取る。
 三十六計逃げるにしかず。



 ・・・・・・が、井頼の放った皇后様と言う言葉ですら、居勝にとっては新しい情報であった。

「皇后? ・・・・・・ほう」

 それが真実か、いや、今嘘を言う理由も余裕もないだろう。
 だとすれば、捕獲すればいかようにも使い様がある。
 同時に、何故倭軍がそのような身分の者をわざわざ危険な戦地に赴かせたのか、その理由が分からなかった。

 ニヤリと口の端を吊り上げ、居勝はこの戦の勝利が近づいたことと、さらにその先まで考える。

「尋常ではない。と、すれば倭国でなにかあったか?」

 どちらにしても、それは憶測でしかない。

「捕まえれば分か――」

 だが、この時居勝にとって意外な事態が起きる。

「将軍!!」

 自分が長年育ててきた中でも精鋭中の精鋭。
 もっとも精強な7人を連れてきたと言うのに、赤い甲冑の護衛・真田信繁は居勝が思考にふけるほんのわずかの合間に2人を切り殺していたのだ。

「なんとっ!?」

 居勝と信繁の目が合う。

 多くの文官がそうであるように、居勝は決して武勇を誇る将ではない。
 いや、そもそもが戦のほとんどない明における強者など、倭の精強な兵に太刀打ちできなかったのだ。

 居勝は、次は己が殺されるものと身構えたが、信繁は先に脱出した千姫達を追うように、騎馬に乗り駆け去っていく。

「・・・・・・ふん、間に合うものか」

 居勝が吐き捨てるように言った通り、既にここより3町、城門より2町の地点まで駆けている。
 そして、左右から門に迫る騎馬隊もそのわずかに後ろ。
 その距離の差はたったの四半町(約25m)ほど。

「万一捕まえられずとも、門の中に部隊が入る。後はそこから拡げて終わりだ!」

 居勝が指揮しなくても、既に西門を攻撃するために明軍は全軍が動き出している。
 進安に門を攻めると言った居勝は、早くもその陥落に王手をかけていた。



「ぐ、このままでは門を取られます!」

 己の馬術を限界まで駆使して井頼が駆ける。
 だが、軽いとは言っても千姫を乗せての二人駆け、助走もついていたこともあり敵の方が明らかに早い。
 その差は少しずつ縮まっている。

「城からの銃撃は!?」

 ・・・・・・いや、そもそも命中率の低い銃の使用は井頼自身が禁止していた。
 どんどんと千姫に近づく敵兵を狙えば、流れ弾が千姫に当たるかもしれない。
 唯一発砲を許している命中率の高い孫六の新式銃も、これだけ揺れ動く馬上を狙うのはやはり危険だ。

 護衛の兵たちは馬が無いので、置いてきてしまった。
 唯一、信繁が単騎で追ってきているが、敵は合わせれば400騎はいそうだ。
 そもそも信繁はまだ騎乗したばかりで走り始めてもいない。

「くそ! くそ! くそぉ!」

 先の事を考えて相手の情報をなどと、今この時が見えていなかった。
 いや、敵のことを知ろうと言いつつ、自分の考えの中に敵を当てはめていた。
 すなわち侮っていたのだ。
 それは敵がこちらに対してい抱いていると思っていた感情。

 そんな井頼に懐に収まっている千姫が叫ぶ。

「今は城内に入ることだけを考えてください!」

 それほどに今は危うい事態なのだ。
 悔恨や反省は後ですればいい。

「グッ、ははっ!」

 たしかに、今は千姫の言う通りだ。
 黄海の時もそうだったが、千姫は周りの雰囲気に流されず的確な指示をする。

 そうこうしているうちに後は堀を渡した橋と、そのすぐ後の門を潜るのみ。
 そうすれば味方の陣に入る。
 自分たちのために開かれたままの門を通れば・・・・・・。

「敵は中で討たねば!」

 だが、どうする?
 城門周りの兵は皆、鉄砲を装備している。
 一人として刀槍を持っている者はいない。
 銃剣は装着できているのだろうか。
 銃は離れた距離では無類の強さを誇るが、近づかれてしまえば間合いの長い突きを一発限りしか放てない武器となる。
 精鋭400騎を相手にしようにも敵本隊も近づいているのだから、少数の兵で相手をするしかない。
 ・・・・・・いや、そもそも城の中まで追われて、果たして千姫を守ることができるだろうか。

 あとは、基次に頼るしかない。

「南無三!」

 もはや運を天に任せるのみ。
 軍を預かる参謀としての完全なる敗北であった。

 そして、橋を駆け抜け、まさに城門に到達しようと言うその時。
井頼は信じられないものを見た。
 
 ただ一騎の騎馬武者が城門から出てきたのだ。

「なっ!?」

 騎兵はそのままに驚く井頼たちの横をすり抜ける。
 そして、1馬身と離れない距離まで迫っていた明の騎兵を槍で一突きにし、間髪入れずに続く後続の騎兵達の前に立ち塞がる。

 明の2騎目と3騎目が、その騎兵の両横から大刀を振り上げ、駆け抜けざまに斬り捨てようとする。
 しかし、その騎兵は一切避けようともせず、ピッと言うあまりにも軽い音と共に槍を横薙ぎにする。
 常人には槍を抜いたところも、振るったところも見えはしなかった。

 だが、その軽い音がもたらした結果は信じがたいもので、明の騎兵2騎の首から上を胴体と切り離してみせた。
 更に後ろの明兵は神速の突きで顔を刺され、逆側に回りこもうとした兵は槍の石突の一撃で肺を潰され落馬する。



「喝ッ!!!!!!!」



 大喝一声。
 未だ400騎近くが迫る明の精鋭騎馬隊に対し、その騎兵は戦場全体が震えるほどの咆哮を放つ。

 そのあまりの気迫に、本能からなのか戦のために鍛えているはずの騎兵の馬たちが一斉に嘶き、足を止めてしまう。

「・・・・・・これよりこの門を通らんとする者は我が成敗する。命の惜しくない者からかかって参られい!」

 明兵だけではない。
 本来ならば敵に銃撃を加えるべき日本軍の兵たちですら、その男の一挙手一投足に見入っていた。
 今、このときはこのおとこのためにある。

 花実兼備の老将、本多平八郎忠勝が戦場に復帰した瞬間だった。


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