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大戦1
戦時体制
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慶長16年(1611年)正月
例年と同様に、ただし今年は大阪に諸大名達が集まってくる。元日からの宴会、そして、二日の新年の挨拶。どれも何時も通り。
「陛下、明けましておめでとうございます」
皆が声を揃え、この後は三成が貢物を読み上げようと巻物を開く。
「三成。今回は読み上げなくていい。それより皆に明との戦の情報を伝えたい」
師走の間に遠く離れた明の地での大きな出来事。それは、この日本においても大きな意味を持つものである。
「先ずは良い報告から。皇后の率いる我が軍が南京を陥落せしめた」
ザワザワと場が騒がしくなる。お千からの南京攻略の報は正に昨日届いた。当然それは飛び上がるほど嬉しいもの。そして、これによりお千を皇后から降ろそうと言う動きも完全になくなるはずである。
「同時に徳川家の赦免を求めて来た。ゆえに俺は恩賞の代わりにこれを当てることとした。もしも文句のある者がいればこの場で申し出よ」
ゆったりと見回せば、当然誰もが押し黙る。
「・・・・・・しかし、残念ながら悪い報告もある」
お千からの報告と時を同じくして届いた、明の北にいる長政からの報告。もともと金軍に協力し瀋陽を破るために派遣したのだが、瀋陽攻略後は率いた朝鮮軍を撤退させるために瀋陽に残っていたのだ。
「瀋陽より西進した金軍が明軍との決戦に敗北した」
瀋陽攻略までが長政の援軍の目的だったので、それ以降の戦闘には参加せず朝鮮軍に被害はない。だが、金軍は北京攻略のために意気揚々と向かった大軍のほとんどを壊滅させられ、完全に西進作戦が頓挫してしまった。
「それも、明は守城戦で勝ったのではない。野戦であのヌルハチから勝利を収めた。それも、半分以下の兵力で、だ」
正史では、ヌルハチはその圧倒的なまでの野戦の強さでついには大帝国清の基礎を作った男。それを破るのは例え兵数で優っていても困難。
「はっきり言おう、兵の練度で優る金軍を破ることが出来たと言う事は、明軍は今までの様な弱兵ではなくなったと言う事だ。これからは数が頼みの敵ではない。真の強敵との戦いになる」
同時に北京の密偵達からの報告。岳鶯と言う将軍によるクーデターの成功。これが意味するところは大きい。
「本年より、明を完全に征服するまで、国家総動員での戦に入る事を宣言する。皆、何時命令されても直ぐに対応できるように戦支度に余念なきように!」
「ははっ!」
もしも反論があるとすれば、むしろこれから。
「そして、敵の動きに迅速に対応しやすくするため、今後は俺が全て決定を下すことにする」
それはつまり、五大老との協議により決定を決める今までの協議制から、独裁制に変更すると言う事。
「へ、陛下!?」
三成が素っ頓狂な声を上げる。
この話自体を知っているのは五大老のみ、それも午前中に初めて話した程度。もちろん五大老も当初は驚いていた。
「先にも言ったが、これは意思決定を速めるためだ。同時に不退転の決意を示すためにも俺は南京に移ることにする。五大老には国内の安定を任せる。これは既に五大老からも承認を受けている決定事項だ」
これからは一手でも対応が遅れれば敗れかねない戦いに入る。意思決定の速さはそれだけで大きな強みになる。
「これから読み上げる者は明にて我が軍を率いてもらう。日の本に残る者も、明に行く者を支えるために全力を尽くせ」
「お待ちください! 五大老との協議の上で決定せよと言うのは、亡き太閤殿下の遺言ですぞ!」
三成が皆を代表して声を上げる。こうして俺に対して抗議するのは本当に勇気のいること。そう言った意味で三成は戦国を生きた猛将にも負けない。まぁ、馬鹿真面目なだけとも言えるが。
「確かにそうだ。だが、それも幼い俺を支えるための話。まだ俺を幼いと侮る者がいるならこの場で申し出よ」
まぁ、そう言われて手を上げる者がいるはずもない。それは三成も同様。
「秀次叔父上。しばらくは此処大阪に移り日ノ本の指揮を」
当然、俺が明の地に赴くなら、五大老筆頭である秀次叔父上がこの日ノ本の総帥代行にな――
「お待ちくだされ」
ところが、その秀次叔父上からストップがかかる。
「明の地には某が参ります。陛下はこの日ノ本に留まっていただきたく」
「・・・・・・何故だ?」
「皇后様が戻って来られるなら、陛下は先にするべきことがあるはずです」
確かに白寿達はいるが、正妻の子を跡継ぎにすると決めている以上、跡継ぎがいないと言うのが現状だ。秀次叔父上はそれをまず解決しろと言っているのだ。
「秀次叔父上、いや、秀次。俺は不退転の覚悟と言ったはずだ。皇后も母上も側室も全員連れて行く」
福岡にですら全員は連れて行かなかった。これがどういうことか、それは此処にいる者であれば分かるだろう。
「一時的、いや、明を征服するまでは南京を帝都とする。それだけの覚悟で臨まなければ足元をすくわれる。今までの勝利は全て忘れろ。相手は常に日ノ本の師であった明だ。慢心は禁物だ。だが、俺の不在を狙う者もまたいるはず。だからこそ秀次には残ってもらう」
そこで一息呼吸を整える。
「獲るぞ、大国・明を!」
「応!」
久しぶりの大戦の予感に諸将の意気も上がっていた。
例年と同様に、ただし今年は大阪に諸大名達が集まってくる。元日からの宴会、そして、二日の新年の挨拶。どれも何時も通り。
「陛下、明けましておめでとうございます」
皆が声を揃え、この後は三成が貢物を読み上げようと巻物を開く。
「三成。今回は読み上げなくていい。それより皆に明との戦の情報を伝えたい」
師走の間に遠く離れた明の地での大きな出来事。それは、この日本においても大きな意味を持つものである。
「先ずは良い報告から。皇后の率いる我が軍が南京を陥落せしめた」
ザワザワと場が騒がしくなる。お千からの南京攻略の報は正に昨日届いた。当然それは飛び上がるほど嬉しいもの。そして、これによりお千を皇后から降ろそうと言う動きも完全になくなるはずである。
「同時に徳川家の赦免を求めて来た。ゆえに俺は恩賞の代わりにこれを当てることとした。もしも文句のある者がいればこの場で申し出よ」
ゆったりと見回せば、当然誰もが押し黙る。
「・・・・・・しかし、残念ながら悪い報告もある」
お千からの報告と時を同じくして届いた、明の北にいる長政からの報告。もともと金軍に協力し瀋陽を破るために派遣したのだが、瀋陽攻略後は率いた朝鮮軍を撤退させるために瀋陽に残っていたのだ。
「瀋陽より西進した金軍が明軍との決戦に敗北した」
瀋陽攻略までが長政の援軍の目的だったので、それ以降の戦闘には参加せず朝鮮軍に被害はない。だが、金軍は北京攻略のために意気揚々と向かった大軍のほとんどを壊滅させられ、完全に西進作戦が頓挫してしまった。
「それも、明は守城戦で勝ったのではない。野戦であのヌルハチから勝利を収めた。それも、半分以下の兵力で、だ」
正史では、ヌルハチはその圧倒的なまでの野戦の強さでついには大帝国清の基礎を作った男。それを破るのは例え兵数で優っていても困難。
「はっきり言おう、兵の練度で優る金軍を破ることが出来たと言う事は、明軍は今までの様な弱兵ではなくなったと言う事だ。これからは数が頼みの敵ではない。真の強敵との戦いになる」
同時に北京の密偵達からの報告。岳鶯と言う将軍によるクーデターの成功。これが意味するところは大きい。
「本年より、明を完全に征服するまで、国家総動員での戦に入る事を宣言する。皆、何時命令されても直ぐに対応できるように戦支度に余念なきように!」
「ははっ!」
もしも反論があるとすれば、むしろこれから。
「そして、敵の動きに迅速に対応しやすくするため、今後は俺が全て決定を下すことにする」
それはつまり、五大老との協議により決定を決める今までの協議制から、独裁制に変更すると言う事。
「へ、陛下!?」
三成が素っ頓狂な声を上げる。
この話自体を知っているのは五大老のみ、それも午前中に初めて話した程度。もちろん五大老も当初は驚いていた。
「先にも言ったが、これは意思決定を速めるためだ。同時に不退転の決意を示すためにも俺は南京に移ることにする。五大老には国内の安定を任せる。これは既に五大老からも承認を受けている決定事項だ」
これからは一手でも対応が遅れれば敗れかねない戦いに入る。意思決定の速さはそれだけで大きな強みになる。
「これから読み上げる者は明にて我が軍を率いてもらう。日の本に残る者も、明に行く者を支えるために全力を尽くせ」
「お待ちください! 五大老との協議の上で決定せよと言うのは、亡き太閤殿下の遺言ですぞ!」
三成が皆を代表して声を上げる。こうして俺に対して抗議するのは本当に勇気のいること。そう言った意味で三成は戦国を生きた猛将にも負けない。まぁ、馬鹿真面目なだけとも言えるが。
「確かにそうだ。だが、それも幼い俺を支えるための話。まだ俺を幼いと侮る者がいるならこの場で申し出よ」
まぁ、そう言われて手を上げる者がいるはずもない。それは三成も同様。
「秀次叔父上。しばらくは此処大阪に移り日ノ本の指揮を」
当然、俺が明の地に赴くなら、五大老筆頭である秀次叔父上がこの日ノ本の総帥代行にな――
「お待ちくだされ」
ところが、その秀次叔父上からストップがかかる。
「明の地には某が参ります。陛下はこの日ノ本に留まっていただきたく」
「・・・・・・何故だ?」
「皇后様が戻って来られるなら、陛下は先にするべきことがあるはずです」
確かに白寿達はいるが、正妻の子を跡継ぎにすると決めている以上、跡継ぎがいないと言うのが現状だ。秀次叔父上はそれをまず解決しろと言っているのだ。
「秀次叔父上、いや、秀次。俺は不退転の覚悟と言ったはずだ。皇后も母上も側室も全員連れて行く」
福岡にですら全員は連れて行かなかった。これがどういうことか、それは此処にいる者であれば分かるだろう。
「一時的、いや、明を征服するまでは南京を帝都とする。それだけの覚悟で臨まなければ足元をすくわれる。今までの勝利は全て忘れろ。相手は常に日ノ本の師であった明だ。慢心は禁物だ。だが、俺の不在を狙う者もまたいるはず。だからこそ秀次には残ってもらう」
そこで一息呼吸を整える。
「獲るぞ、大国・明を!」
「応!」
久しぶりの大戦の予感に諸将の意気も上がっていた。
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