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岳鶯ルート 金軍撃退戦
衝突
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背に金軍の騎馬隊の圧力を受けながら悠々と味方の陣に向かっていく。すると、楊再雲が率いる五百の騎兵が味方の陣から飛び出してくる。敵騎兵部隊を粉砕するため最高の時期を見計らっていたのだろう。先ずは味方強弩隊の一斉射を受けての突撃と言うわけだ。
「楊再雲! 任せたぞ!」
「応!」
目線と声だけで合図を交わしたのとちょうど同じ頃、敵騎兵部隊が味方強弩隊の射程に入り牛憲の指揮の下一斉射が行われる。敵の勢いを削ぎ、突入を助けるために左翼側を狙っている。そして、数秒の後には敵に矢は降り注いでいく。それにより多少の悲鳴が上がるが、所詮これで倒せたのは十やそこらだろう。
……だが、
「ハァ!」
楊再雲が敵舞台に出来た綻びを凄まじい破壊力で広げていく。それはまるで川の鼓を切った後の濁流の様に、一息に敵部隊を飲み込んでいく。
「なんと凄まじい」
「孫承宗殿、それよりも金軍はどうなっている。ヌルハチに動きは無いか?」
兵と同じ様に楊再雲の武に見入って興奮する孫承宗に一つ釘を刺すようにして言う。所詮、六万の大軍の中の千騎など取るに足らない。あれはあくまで兵を鼓舞するために行っている演技に近いものだ。何故なら、楊再雲の部隊は古くからの俺の隊の者達で構成された精鋭中の精鋭。三万近くの歩兵たちは彼等の十分の一の力も持たない。つまり、俺達がどれだけ強かろうが、三万の歩兵たちは全く強くなったわけではないのだ。だが同時に、そう勘違いすることで兵は恐怖を忘れ、ようやく戦えるようになるだろう。
「敵は……ゆ、ゆっくりと全軍を押し進めてきています!」
「そうか」
孫承宗は恐らく挑発に乗って後続でも騎兵部隊が飛び出してくると思っていたのだろう。
「孫承宗殿、貴方はまだ若い。恐らく戦場に立ったのはほんの数度なのではないか?」
「は、はい」
「では覚えておくと良い。敵を侮るなかれ。我々の方が歴史・文明において優っていようと、戦場ではなんの役にも立たん。野蛮人と言われる者の方が強くあることもしばしばある。そして、それは単純な強さだけではない。時に俯瞰しているのではないかと疑うほどに戦場を見切り、裏を突いてくる者がいる。あのヌルハチがどうかは知らんが、指揮官は熱に浮かされてはいけない」
「……すいません」
そう言いながら、孫承宗がとった行動は反省ではなく敵軍を注視することだった。
「そうだ。それで良い。常に戦場全体を見渡せ」
正直に言えば今の官僚組である孫承宗に期待などしていなかった。だが、彼はどうやら優秀な部類のようだ。……これは得難い人材だ。
「飛将軍。ですが、ヌルハチは我が子を殺され、更には捕らえられて何故平然と兵を勧められるのでしょう?」
「我らにとって望ましい理由は奴が子を何とも思っていないこと。望ましくないのは奴が予想以上に王であると言うこと」
もしも感情を押し殺して王たる姿に徹することが出来る者であるなら、それは奴がただの異民族の主なのではなく、明の皇帝に代わろうとしていると言う事だ。
「我らの敵の大きさを知るにはちょうど良い試金石だ」
「飛将軍、敵軍は厚みを持ったまま足並みを乱さずに進軍しています!」
確かに金軍の歩兵たちはゆっくりと草原を進んで来ている。
……だが、
「孫承宗殿、歩兵に惑わされるな。一際上空に舞い上がる土埃が移動している。騎兵部隊が両翼に展開していると言う事だ。例の兵器の準備を、両翼に展開させろ……いよいよ本番だ」
「楊再雲! 任せたぞ!」
「応!」
目線と声だけで合図を交わしたのとちょうど同じ頃、敵騎兵部隊が味方強弩隊の射程に入り牛憲の指揮の下一斉射が行われる。敵の勢いを削ぎ、突入を助けるために左翼側を狙っている。そして、数秒の後には敵に矢は降り注いでいく。それにより多少の悲鳴が上がるが、所詮これで倒せたのは十やそこらだろう。
……だが、
「ハァ!」
楊再雲が敵舞台に出来た綻びを凄まじい破壊力で広げていく。それはまるで川の鼓を切った後の濁流の様に、一息に敵部隊を飲み込んでいく。
「なんと凄まじい」
「孫承宗殿、それよりも金軍はどうなっている。ヌルハチに動きは無いか?」
兵と同じ様に楊再雲の武に見入って興奮する孫承宗に一つ釘を刺すようにして言う。所詮、六万の大軍の中の千騎など取るに足らない。あれはあくまで兵を鼓舞するために行っている演技に近いものだ。何故なら、楊再雲の部隊は古くからの俺の隊の者達で構成された精鋭中の精鋭。三万近くの歩兵たちは彼等の十分の一の力も持たない。つまり、俺達がどれだけ強かろうが、三万の歩兵たちは全く強くなったわけではないのだ。だが同時に、そう勘違いすることで兵は恐怖を忘れ、ようやく戦えるようになるだろう。
「敵は……ゆ、ゆっくりと全軍を押し進めてきています!」
「そうか」
孫承宗は恐らく挑発に乗って後続でも騎兵部隊が飛び出してくると思っていたのだろう。
「孫承宗殿、貴方はまだ若い。恐らく戦場に立ったのはほんの数度なのではないか?」
「は、はい」
「では覚えておくと良い。敵を侮るなかれ。我々の方が歴史・文明において優っていようと、戦場ではなんの役にも立たん。野蛮人と言われる者の方が強くあることもしばしばある。そして、それは単純な強さだけではない。時に俯瞰しているのではないかと疑うほどに戦場を見切り、裏を突いてくる者がいる。あのヌルハチがどうかは知らんが、指揮官は熱に浮かされてはいけない」
「……すいません」
そう言いながら、孫承宗がとった行動は反省ではなく敵軍を注視することだった。
「そうだ。それで良い。常に戦場全体を見渡せ」
正直に言えば今の官僚組である孫承宗に期待などしていなかった。だが、彼はどうやら優秀な部類のようだ。……これは得難い人材だ。
「飛将軍。ですが、ヌルハチは我が子を殺され、更には捕らえられて何故平然と兵を勧められるのでしょう?」
「我らにとって望ましい理由は奴が子を何とも思っていないこと。望ましくないのは奴が予想以上に王であると言うこと」
もしも感情を押し殺して王たる姿に徹することが出来る者であるなら、それは奴がただの異民族の主なのではなく、明の皇帝に代わろうとしていると言う事だ。
「我らの敵の大きさを知るにはちょうど良い試金石だ」
「飛将軍、敵軍は厚みを持ったまま足並みを乱さずに進軍しています!」
確かに金軍の歩兵たちはゆっくりと草原を進んで来ている。
……だが、
「孫承宗殿、歩兵に惑わされるな。一際上空に舞い上がる土埃が移動している。騎兵部隊が両翼に展開していると言う事だ。例の兵器の準備を、両翼に展開させろ……いよいよ本番だ」
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