関白の息子!

アイム

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岳鶯ルート 金軍撃退戦

急襲

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 槍を握る腕が重い。長年鍛錬に鍛錬を重ねてきた俺ですらもう限界は近いと言う事だろう。

「づあ!」

 呼吸を乱しながら、敵兵の腹に槍を突き刺す。……が、急所を外してしまったがためにまだ動いている。

「ぬあっ!」

 両翼より攻めあがった俺達の隊はもはや当初の勢いを失くし、敵軍による反撃を受けようとしている。恐らく、味方の兵の数は二万程度に減っているだろう。一般的な戦闘では三割が死ねば戦闘不能に陥る。それが未だ曲がりなりにも戦えているのは、敵を倒せていると言う勘違いのお陰だ。敵はその勢いをそのまま受けずに、いなしながら包囲陣形へと移っていった。そしてそれも完成し、此処から始まるのは一方的な殺戮。

「……囲まれましたな」

「ああ、その分多くの敵を引き付けられたと言うわけだ」
 
 既に例の粉は宙には舞っていない。敵騎兵の混乱も収まり、今残っているのは本来の力量差の上に敵に包囲され、なお兵力が劣っていると言う現実。

「だが、我が最強の一撃はこれで成る」

 正に、その言葉を証明するかのように俺達の進行方向、ヌルハチの本陣の方向で歓声が上がる。

「高布なら必ずヌルハチをとる」

 此処からでは敵兵が邪魔で、おまけに粉対策で騎乗もしていないために見ることは出来ない。だが、絶対の信頼を寄せる高布であれば――

 ドドドドドド

――その時、戦場にまるで雪崩が起きたような轟音が響く。いや、これは多数の破裂音。高布の部隊にそのような備えはない。……つまり、

「まさか、烏砲、か?」

 通常烏砲部隊は最前線に配置し、先制攻撃に用いられる。だが、今回は両軍共にそれを行わなかった。我が軍はその数を揃えられず効果的な運用が難しいと考えたためだが、金軍は騎馬に頼っているためだと考えていた。

「……飛将軍、まさか高布殿は」

「……いや、確かに出鼻は挫かれたようだが、未だ部隊は敵本陣への突撃を続けているようだ」

 だが、恐らくは大きな被害を受けているだろう。つまり、今のままではヌルハチまで辿り着くか怪しくなったと言う事だ。もしも、ヌルハチが悠然と本陣を下げれば、それだけで届かなくなってしまうかもしれない。

「今、俺達に出来ることは、ヌルハチの思考を鈍らせることだけだ」

 そう、俺はヌルハチのことは高布に任せたのだ。今出来ることなど、目の前の敵を屠り、ヌルハチに左右から威圧を与えることだけ。

 スゥ~

大きく、大きく息を吸う。周囲の兵達は俺の一挙手一投足に注目している。次に俺が何を言うのか、何をしようとしているのか。

「気炎万丈! 大明国の勇敢な兵士に告げる! 此処が貴様らの英雄となる場所だ! 存分に暴れろ! 存分に殺せ! 我々は最強である! 続けい!!」

『おお!』

 槍を高く掲げ、ただただ檄を飛ばし昂揚をはかるのみ、全くもって無能な指揮官だとは思う。だが、今はこれが最善と信じ戦うのみ。そうして、満身創痍の大明国の兵士達は俺の指揮によって死地へと足を踏み入れていくのだ。敵に斬り込みながら、そう考えて一人自嘲してしまう。

「ぬああぁあ!」

 それでも、俺は高布を信じている。あいつならきっと、ヌルハチを殺る。
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