1916年帆装巡洋艦「ゼーアドラー」出撃す

久保 倫

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開幕

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「ゼーアドラーブルグへようこそ!」
 救世軍のステージの上手にスポットライトが当てられる。
 そこには観客にとって見慣れたドイツ海軍の軍服を着用した男が立っていた。
「ここは南太平洋最後のドイツ領。私は、ゼーアドラーブルグの総督にして、皇帝陛下の忠良なる伯爵、フェリックス・フォン・ルックナー。」

 ルックナーと名乗った男は、両手を広げながら口上を述べる。

「さて、私が総督を勤めますゼーアドラーブルグの街並みをご覧いただきましょう。」
 ルックナーは、歩みを進める。
「ここは、善良なる領民の住宅街。」
 ルックナーは、幕に張りつけられている大小の廃材を用いた小屋の合間を右手で指し示す。
「この辺りがブロードウェイ。こちらがペンシルヴェニア・アヴェニュー。ここら辺がパワリー通り。」
 更に歩みを進める。
「街の中心は、私、ルックナーの白亜の邸宅。」
 白いキャンパス地のテントにスポットライトが当たる。
「いかがです。伯爵家に相応しい邸宅でしょう。」
 そして下手に移動していく。
「そして、忠実なる我が臣下たちの邸宅。」
 幕の下手側に張り付けられているやはり廃材を使った小屋を指し示す。
「この中には、教会だってございます。ここからは見えませんが、海岸には無線局だってございます。ゼーアドラーブルグは、絶海の孤島ではありますが、世界の情勢に耳を傾けているのでございます。」

 ルックナーは、舞台の中心に移動する。
 移動したルックナーの背後に、何かが落下し、大きな音を立てる。
 ルックナーは、振り返って拾い上げる。

「ここもドイツ領。本国ライン河畔の人々が英仏の夜間空襲に悩まされているのと同様、ここゼーアドラーブルグも空襲に悩まされております。ココナッツ爆弾ではありますが、当たれば死亡するのに変わりありません。」

 そう言いながら、ルックナーはココナッツの模型に口をつける。

「イケる。中のココナッツミルクは貴重な水分です。」

 そして、模型を投げ捨てる。

「ココナッツ林の中に住まねばいい?そう、我々もそう思った、海岸に寝ようと思った。だが、今は戦時下。西部戦線同様、海岸ではカニが大挙して夜襲を仕掛けてくる。ゆっくり眠れないので、林の中に邸宅を構えるのです。」

 ルックナーは、舞台の中心で腕組みする。

「さて、我が忠実なる臣下と、善良なる領民たちを招きましょう。」

 ルックナーの台詞に応じ、舞台の上手から船員たちが整列する。
 下手からも、軍服を着用した男達が並ぶ。

「私の右におりますは、我が忠実なる部下達。左におりますは我が善良なる領民達。彼らは私を。」

 ルックナーは、右手を広げる。
 右の下手側に並ぶ男達が口を揃えて言う。


「皇帝陛下の海賊!」


 ルックナーは、左手を広げる。


「海の悪魔!」


 上手側の船員たちが口を揃える。

「はは、両極端な呼ばれようです。かくのごとく呼ばれる私がいかにしてこの地の総督になったか。これより語らせていただきましょう。ご静聴賜りますようよろしくお願いいたします。」
 ルックナーは、恭しく一礼する。
 照明が消され舞台は暗転する。
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