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ディーラーの表情が、わずかに引きつります。
どうするかな?
あらあらディーラーさん、考えこんじゃって。
考えなくてもいいはずなのにね。
ディーラーは、ジャネスと目くばせしてからサイコロを振ります。
「2!2!4!10の偶数です!」
「なんでだよ!ここは5のゾロ目の流れだろうがっ!」
「ははは、サイコロの出目は神の御意志ですから。」
怒鳴るバジリオ君のお父さんをディーラーがなだめます。
「ちっ、あんたのせいだぜ。あんたがオレに乗っかかってくるから。」
あらあら八つ当たりの矛先が私にまで。
「どうしてくれんだよ。」
「ごめんなさ~い。でもアタシも損してるから、許してぇ~。」
そう、もちろん私の賭けた金貨はジャネスのものになってます。
「あんたはいいよな。来たばっかで、しかも金はまだあるんだからよ。」
「それなら貸しましょうか?」
そう言って金貨を5枚、差し出します。
「き、金貨かよ。」
さすがにこの反応は予想してなかったのでしょう。
バジリオ君のお父さんの顔が、驚きのものに変わります。
「勝って返せばいいんですよ。私はジャネス親分と違って利子は取りませんから。」
「お、おぅ。」
「ただし、銀貨に崩して使ったりしないで下さいね。」
計算がめんどくさくなりますから。
「そんなことできねえよ。ここにゃ、銀貨はそんなにねえんだ。」
やっぱり。
ジャネスの言葉は、予想通りでした。ふふふ。
賭場を開いて金を稼ぐ。
それは終着点ではなく、稼いだ金を再度動かさねばなりません。
それをわからぬジャネスではないはず。
わからねば、オビエスとかいう親分を負かすだけの軍資金を調達できないのですから。
運転資金としての現金はあるでしょうが、私が持ち込んだ金貨を両替できるような量の銀貨は無い、と断言できます。
「なんでもいい、金があれば勝負できるんだ。」
バジリオ君のお父さん、私からひったくるように金貨を受け取ります。
「なんだよ、嬢ちゃん。オレにも貸せよ。」
「いいですよ。何枚借ります?」
「えっ?」
即答にびっくりするくらいなら、言わないで欲しいな。
軽い気持ちの冗談なんでしょうけど。
「まだ、金貨はありますから。皆さんも借ります?」
そう言って周囲を見回します。
「貸してくれんのかい!?」
「えぇ、まだ金貨はたくさんありますから。」
箱の中の金貨を指し示します。
「なら、俺も5枚。」
「オイラも。」
「こっちにも回してくれ!」
「はいはい、慌てなくても大丈夫ですよ。千枚もありますからね。」
そう言って金貨を卓上に積み上げます。
おぉ、という声が賭場に満ちます。
こういう演出って大事なのよね。
金はあるんやって演出。
みんな、こぞって借りにきてくれます。
ふふ、これで計画も順調にすすみます。
「名前言って下さいね。証文はこっちで作りますから。」
そう言って名前を聞きながら金貨を渡します。
証文は、ウルファやエルゼがちゃんと名前を聞いて作成してくれます。
ちなみにイシドラは、今は待機。
多分、後で死ぬほど働いてもらうはずので。
この予想外れて欲しいけど、多分望み薄。
そんなことを考えていると、つい卓を見つめてしまいます。
「おい、誰か帰った連中も呼んでこいよ。金が無利子で借りれるっていやあ、皆くるぜ。」
それはありがたいこと。
帰った人がいるのをどうするか。
それが問題だったのですが、あっさり解決しちゃいました。
「おいおい、嬢ちゃん、いいのかい?」
ジャネスの言葉で、意識が賭場に戻りました。
「何がです?」
「何がってなぁ……。」
言いたいことはわかってますよ。
貸すのは簡単だけど、どうやって取り立てるかでしょ?
強盗に簡単に踏み切れるような人たちだもんね。
心配ご無用。
「ところで、今借りた金、必ずや返済してもらう。」
ウーゴさんが立ち上がり、賭場を見回し、マスクを外します。
「このウーゴ・タラバンテが、この嬢ちゃんの記録をもとにお前らを追う。逃げられると思わんことだ。」
なっ……という驚きの言葉が賭場に満ちます。
「ウーゴ親分さんよ、何を考えているんで?」
「大した考えなんざねえよ。嬢ちゃんに頼まれただけだ。貸した金の取立をな。」
「なんだ、俺のシマ荒らすつもりかい?」
「お前に仁義を通した上で取り立てる手などいくらでもある。例えばお前に代理人になってもらうとかな。」
「それならいい。名の知れたウーゴ親分だ。さぞ報酬を弾んで下さると期待させてもらうぜ。」
「条件は、その時話をしよう。それより。」
そう言って、ジャネスをにらみつけます。
「ギャンブルでの支払いの責任、免れると思うな。どれ程になろうが払えよ。そちらも取り立てさせてもらう。逃げ隠れできると思うな。」
「へっ、ジャネス一家をなめないでもらいたいね。逃げも隠れもしねえよ。必要ねえからな。」
二人は、しばしにらみ合います。
「お話終わりました?ギャンブルを再開して欲しいんですけど。」
ディーラーも、親分同士の対決に固まってしまって。
皆も早くサイコロを振って欲しいんですけど、親分同士のガンの飛ばしあいに声を出せないでいました。
全く、ギャンブルしたいくせに、意気地がない。
「すまねえ、おい、サイコロ振んな。」
ジャネスの言葉で、ディーラーもサイコロをカップに入れます。
賭け自体は、皆、それぞれ賭けています。
私以外は。
「嬢ちゃん、賭けねえのかい?」
「見を再開します。」
新しくお金が入った状況で、どうディーラーが動くか。
ジャネス自身がどうするか、ちょっと読めません。
まず、この場に配られた金貨を博打で巻き上げるとみて間違いないでしょうけど、確信が持てません。
私を警戒して、賭場を閉める可能性だってあります。もう遅いから、と言って。
警戒せずとも、人間疲労します。
客はともかく、働く人間の疲労はどうしようもない。
それを考慮してジャネスが賭場を閉めると言い出すか。
目の前の金貨をかっさらうチャンスを逃すとは考えられませんから、多分営業を継続すると思うんですけど。
ただバジリオ君。
私の予想が正しければ、すでに相当疲労しているはず。
交代の要員なんているはずもないのですから。
早く助けてあげたいけど……。
私は、金貨の並ぶ卓をにらみつけます。
どうするかな?
あらあらディーラーさん、考えこんじゃって。
考えなくてもいいはずなのにね。
ディーラーは、ジャネスと目くばせしてからサイコロを振ります。
「2!2!4!10の偶数です!」
「なんでだよ!ここは5のゾロ目の流れだろうがっ!」
「ははは、サイコロの出目は神の御意志ですから。」
怒鳴るバジリオ君のお父さんをディーラーがなだめます。
「ちっ、あんたのせいだぜ。あんたがオレに乗っかかってくるから。」
あらあら八つ当たりの矛先が私にまで。
「どうしてくれんだよ。」
「ごめんなさ~い。でもアタシも損してるから、許してぇ~。」
そう、もちろん私の賭けた金貨はジャネスのものになってます。
「あんたはいいよな。来たばっかで、しかも金はまだあるんだからよ。」
「それなら貸しましょうか?」
そう言って金貨を5枚、差し出します。
「き、金貨かよ。」
さすがにこの反応は予想してなかったのでしょう。
バジリオ君のお父さんの顔が、驚きのものに変わります。
「勝って返せばいいんですよ。私はジャネス親分と違って利子は取りませんから。」
「お、おぅ。」
「ただし、銀貨に崩して使ったりしないで下さいね。」
計算がめんどくさくなりますから。
「そんなことできねえよ。ここにゃ、銀貨はそんなにねえんだ。」
やっぱり。
ジャネスの言葉は、予想通りでした。ふふふ。
賭場を開いて金を稼ぐ。
それは終着点ではなく、稼いだ金を再度動かさねばなりません。
それをわからぬジャネスではないはず。
わからねば、オビエスとかいう親分を負かすだけの軍資金を調達できないのですから。
運転資金としての現金はあるでしょうが、私が持ち込んだ金貨を両替できるような量の銀貨は無い、と断言できます。
「なんでもいい、金があれば勝負できるんだ。」
バジリオ君のお父さん、私からひったくるように金貨を受け取ります。
「なんだよ、嬢ちゃん。オレにも貸せよ。」
「いいですよ。何枚借ります?」
「えっ?」
即答にびっくりするくらいなら、言わないで欲しいな。
軽い気持ちの冗談なんでしょうけど。
「まだ、金貨はありますから。皆さんも借ります?」
そう言って周囲を見回します。
「貸してくれんのかい!?」
「えぇ、まだ金貨はたくさんありますから。」
箱の中の金貨を指し示します。
「なら、俺も5枚。」
「オイラも。」
「こっちにも回してくれ!」
「はいはい、慌てなくても大丈夫ですよ。千枚もありますからね。」
そう言って金貨を卓上に積み上げます。
おぉ、という声が賭場に満ちます。
こういう演出って大事なのよね。
金はあるんやって演出。
みんな、こぞって借りにきてくれます。
ふふ、これで計画も順調にすすみます。
「名前言って下さいね。証文はこっちで作りますから。」
そう言って名前を聞きながら金貨を渡します。
証文は、ウルファやエルゼがちゃんと名前を聞いて作成してくれます。
ちなみにイシドラは、今は待機。
多分、後で死ぬほど働いてもらうはずので。
この予想外れて欲しいけど、多分望み薄。
そんなことを考えていると、つい卓を見つめてしまいます。
「おい、誰か帰った連中も呼んでこいよ。金が無利子で借りれるっていやあ、皆くるぜ。」
それはありがたいこと。
帰った人がいるのをどうするか。
それが問題だったのですが、あっさり解決しちゃいました。
「おいおい、嬢ちゃん、いいのかい?」
ジャネスの言葉で、意識が賭場に戻りました。
「何がです?」
「何がってなぁ……。」
言いたいことはわかってますよ。
貸すのは簡単だけど、どうやって取り立てるかでしょ?
強盗に簡単に踏み切れるような人たちだもんね。
心配ご無用。
「ところで、今借りた金、必ずや返済してもらう。」
ウーゴさんが立ち上がり、賭場を見回し、マスクを外します。
「このウーゴ・タラバンテが、この嬢ちゃんの記録をもとにお前らを追う。逃げられると思わんことだ。」
なっ……という驚きの言葉が賭場に満ちます。
「ウーゴ親分さんよ、何を考えているんで?」
「大した考えなんざねえよ。嬢ちゃんに頼まれただけだ。貸した金の取立をな。」
「なんだ、俺のシマ荒らすつもりかい?」
「お前に仁義を通した上で取り立てる手などいくらでもある。例えばお前に代理人になってもらうとかな。」
「それならいい。名の知れたウーゴ親分だ。さぞ報酬を弾んで下さると期待させてもらうぜ。」
「条件は、その時話をしよう。それより。」
そう言って、ジャネスをにらみつけます。
「ギャンブルでの支払いの責任、免れると思うな。どれ程になろうが払えよ。そちらも取り立てさせてもらう。逃げ隠れできると思うな。」
「へっ、ジャネス一家をなめないでもらいたいね。逃げも隠れもしねえよ。必要ねえからな。」
二人は、しばしにらみ合います。
「お話終わりました?ギャンブルを再開して欲しいんですけど。」
ディーラーも、親分同士の対決に固まってしまって。
皆も早くサイコロを振って欲しいんですけど、親分同士のガンの飛ばしあいに声を出せないでいました。
全く、ギャンブルしたいくせに、意気地がない。
「すまねえ、おい、サイコロ振んな。」
ジャネスの言葉で、ディーラーもサイコロをカップに入れます。
賭け自体は、皆、それぞれ賭けています。
私以外は。
「嬢ちゃん、賭けねえのかい?」
「見を再開します。」
新しくお金が入った状況で、どうディーラーが動くか。
ジャネス自身がどうするか、ちょっと読めません。
まず、この場に配られた金貨を博打で巻き上げるとみて間違いないでしょうけど、確信が持てません。
私を警戒して、賭場を閉める可能性だってあります。もう遅いから、と言って。
警戒せずとも、人間疲労します。
客はともかく、働く人間の疲労はどうしようもない。
それを考慮してジャネスが賭場を閉めると言い出すか。
目の前の金貨をかっさらうチャンスを逃すとは考えられませんから、多分営業を継続すると思うんですけど。
ただバジリオ君。
私の予想が正しければ、すでに相当疲労しているはず。
交代の要員なんているはずもないのですから。
早く助けてあげたいけど……。
私は、金貨の並ぶ卓をにらみつけます。
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