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渋谷(2)

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 2階から道行く人たちを見下ろす黒江の目は真剣だった。
「なんで、自分に超能力があるのか、何のために。使えるようになってから毎日考えてきました。考えても答えは出ないし、親にも先生にも友達にも相談できない。」
「相談できないのは確かだよな。」
 白野も『Mark2eyeball』に目覚めたころ、幼さゆえに考えなく親や友達に超能力のことを言った。無論、おかしい子と言われ、言ってはバカにされると思うようになり黙るようになった。
 東京に出発する前日も、幼少期おかしなことをいう子だったと言われた。
「黙っているのってつらくなかったですか?」
「いや、ほらライダーとかさ、普通の人には正体明かさないことだってあるじゃん。俺の超能力も同じでいつか理解する人が現れると思ってたから、まぁ我慢できた。」
「特撮番組の意外な効能ですね。」
「うん、特撮を卒業するころには、慣れたのかな、人の役に立てればいい。それを知られなくても自己満足でいいと思えるようになった。」
「それは、本当に偉いと思うんです。普通人間他者に認められたいと思うものですよ。」
「まぁ、ささやかながら超能力で役に立って感謝されたりしたからね。『Mark2eyeball』で家具の隙間に落ちてて、みんながないない言ってた物を探し出すとか、本当にささやかだけど。」
「そういうのも大事なんでしょうね。私の『時間停止』は、何の役に立つんだろうと思いますもの。」
「すごい能力だと思うんだけど。」
「使いどころが難しいんですよ。これは高等部の時ですが、私が横断歩道渡り終わった時後ろを歩いてた小学生が、交差点を猛スピードで曲がったダンプにはねられたことがあるんです。」
 黒江はフラペチーノのストローに口を付けた。
「その子は助かりませんでした。」
「黒江さんが悪いわけじゃない。」
「はい。ですが、はねられた子は私の目の前に飛んできたんです。とっさに『時間停止』かけましたけど、間に合わず、その子が地面にたたきつけられバウンドした瞬間で止まっただけでした。」
 白野は何も言えず、コーヒーに口を付けた。
「もし、はねられる直前に『時間停止』できればその子を動かして助けられたと思います。」
「黒江さん、そういうことは抱え込まない方がいいと思うよ。」
「はい。でも白野さんも理解してほしいんです。意外と『時間停止』は使いどころが難しいって。そして人の役に立つかわからないんです。」
「わかった。」
 バトル向けの能力と羨んだことに対する言葉だと白野は理解していた。
「自分のために使ったことはもちろんあります。新宿駅で風俗で働きませんかって声をかけられた時ですね。『時間停止』で止めたおかげで簡単に逃げられましたから。」
 重くなった雰囲気を変えたくなったのだろう。黒江は、話を変えてきた。
「黒江さん、カワイイから。」
「嫌なものは嫌ですよ。あの駅で迷っていた時だからなおさらでした。」
「黒江さんも迷ったんだ。俺も迷った。」
「あそこは、大きいですよね。人は多いから歩くだけで大変でした。」
「荷物も重いし。」
「しつこい人でした。『時間停止』が解除された時の間抜けな顔を遠目で見て笑っちゃいました。」
 もうちょっと話を変えるか。白野はそう思って質問した。
「ところでさ、黒江さんはどうやって超能力を使えるようになったの?」
「どうやってですか?はい、あれは中等部の時でした。」
「ちょっと待って、さっきから高等部中等部だって。」
「中学から私立の中高一貫の女子校だったんです。で中等部の1年の時ゲーテのファウストの朗読劇をすることになりまして。」
「あれって無茶苦茶長くない?」
「はい、だからクラスみんなのリレーで。私が最後を担当しました。」
「それで。」
「練習の時派手に転倒してしまって。もうスカート全開になっちゃって下着丸見え状態。しかも男の先生の前で、恥ずかしくて、『本当に時間よ止まれ!』って思ったら止まりました。」
「へぇ。」
 下着丸見えかぁ。
「今、その場に居合わせたかったとか思ってません?」
「い、いや。」
 黒江の目がジト目になっている。ヤバイ。
「おっぱいだの下着だのに反応するのですね、。」
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