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吉良弁護士事務所(2)

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「あの、弁護士って人の権利を守るんじゃないんですか?俺、これでも法学部の学生なんですけど。」
「そうなのかね。人の権利を擁護する弁護士にあるまじき、と言いたいのだね。」
 吉良はコーヒーをすすった。
「君は最近のニュースで扱われる外国人会長の不正告発をどう思う?彼の母国ではクーデターだなんだと言われているが。」
「業績はどうあれ、脱税などの不正をしていれば罰せられるべきと思いますが。」
「そう、何者であれ法を犯せば罰せられるべき。破滅させる、と言った相手はヤクザでね。まぁたたけばそれなりに埃の出る体というやつなのだよ。」
「それなら警察に任せておけば。」
「最終的には警察に任せるさ。ただね、警察だって遊んでいるわけじゃない。ヤクザの行動などを監視し、隙あらば摘発せんとしている。彼は巧妙に立ち回り摘発を逃れているんだ。私としては、明確な証拠を警察に提供することで彼に、刑務所に行っていただこうと思っている。」
「そのためにあたしが組事務所に侵入したんだけど、失敗したのさ。」
「ちょっと待って下さい。侵入って非合法じゃないですか。」
「そうなるね。」
「あっさり認められても。」
「言っただろう。叩けばホコリが出ると。銃火器なんてホコリが出るようなのを見過ごすことはできない。」
「失礼ですが、拳銃は対象のヤクザ以外も持っているのでは。」
「言い方が悪かったかな。銃、具体的にはサブマシンガンや自動小銃の類だ。他に手榴弾とかもあるかもしれん。」
「手榴弾って……。」
「暴力団が隠し持っていたロケットランチャーが摘発されたケースもあるぞ。」
「戦争でもやるんでしょうか?」
「そこまではやらないと思うがね。」
「でも、なんで吉良先生は、この件に関わろうとするのですか?」
「正義感だ。」
「正義感ですか?」
「そうだ、放置しておけばそういった強力な火器による犯罪などが起こるかもしれん。それに警察がうまく対応できるか。そうでなくとも犯罪が起これば被害者が出る。死者も出るかもしれん。それを未然に防ぎたい。君にそんな想いはないのだろうが。」
「そんなことはありません!」
 反射的に白野は怒鳴っていた。
「ならば、協力してくれないかね。」
「えっ。」
 吉良の静かな言葉に白野は、黙ってしまった。
「君の超能力は蔵良君から聞いた。調査において有効な超能力だと思う。どうだろう。」
「ヤクザ相手の調査ですか?」
「君に危険が及ばぬよう配慮する。場合によっては、私がガードしよう。」
「はぁ。」
 ガードするって、悪いけど、若い俺の方が喧嘩強いと思うんだけど。格闘技の達人だったりするのか?
「白野君、悪いが後ろの銅像を持ち上げてもらえるか。」
「いいですけど。」
 白野は言われるまま、席を立って後ろの片隅に置かれている銅像に近寄った。
 自分よりわずかに高い銅像を抱えると持ち上げるべく力を入れるが、微動だにしない。
 しばらく頑張ってみたが、全く動かせないまま銅像から離れた。
「無理だろうね。私の前にここを借りていた人が置いていった銅像だ。動かすには数人がかりだね。」
 そう言いながら吉良は、銅像に近寄った。
 銅像のあごの下に指を差し入れると、指を少しだけ曲げた。
 曲げた分だけ、銅像は浮き上がった。
「黒江さん、吉良先生ひょっとして。」
「うん、吉良先生、全身が青い光に包まれているよ。」
「私の超能力、なんと呼ぶかは知らんが、とてつもない力を出す。」
 そこにゴルフクラブを持った蔵良が来た。
「白野君、ゴルフクラブで私を殴ってもらえるか。」
「えっ。」
「大丈夫だよ。思いっきりやりな。」
 蔵良に押しつけられるように渡されたゴルフクラブを白野は、バットのように振って左腕を殴った。
 ゴルフクラブは折れ曲がった。
 吉良を見ると表情に変化はない。痛みを感じていないようだ。
「痛みはないのですか?」
「ない。子供に殴られたような感じだね。感触はあるが痛みはない。自慢じゃないが、拳銃で撃たれてもなんともなかった。」
「本当ですか?」
「服に穴は空いたがね。」
 体そのものを強化するだけで、付属する衣服などは強化しないらしい。
「どうかね?私を信じて協力してもらえないか。」
 口調は静かだった。圧迫するのでなく、丁重に頼んでいる。
「わかりました。どれだけできるかわかりませんが、協力します。」
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